とんとんとんとん……… 音がする。 これは、包丁の音。 そして、かすかに匂うのは……味噌汁のにおい。 第3話*紅い華-前編- 子供の頃は、いつもこうやって目が覚めていた。 一人暮らしの自分にはひどくなつかしい。 オフクロか……? いつの間に田舎から出てきてたんじゃろう……。 あのババァ、出て来るんなら来るで、一言連絡せぇや、全く。 目を閉じたまま、布団の中でゴロゴロながら、心の中でぶつぶつやっていると、目の前の障子が開く気配。 入ってきた光がまぶしくて、思わず目を眇めると、視界に入ったのは自分の母親ではない、女。 「あ、射場さん。おはようございます。…もしかして、起こしちゃいました?」 「!!!……お、お前は……」 驚いて飛び起きる射場に、勇音はふわりと笑いかける。 「もう少しで朝ご飯できますから。なるべく早く居間に来てくださいね」 「……はぁ……」 戸惑いを隠せない射場をよそに、勇音は居間と洗面所の場所を教えると、障子を閉めた。 勇音の足音が遠ざかるのを聞きながら、射場の頭は混乱していた。 ……どうなっとるんじゃ?? あれは確か、四番隊副隊長の虎徹勇音。 自分は彼女とほとんど口を聞いたこともなければ、ましてや親しい間柄ではない。 でも、先ほどの。 あれではまるで。 嫁さんみたいじゃー……!!! 「/////!!!」 自分の想像に、柄にもなく頭と頬が熱くなるのを感じ、それを否定するかのようにぶんぶんと左右に頭を振る。 「アホかーーー!!一体わしゃ何考えとるんじゃ!!! …………とりあえず、顔でも洗おうかの」 両手で頬を軽くはたいて気合を入れると、射場は勢い良く立ち上がった。 ■■■■■ ■■■■■ 「申し訳ないッ!!!!!」 部屋に入った途端、開口一番で土下座する射場に勇音はきょとんとした表情で目を丸くする。 射場は思い出したのだ。 昨日もいつものように十一番隊の斑目一角と酒を飲みながら剣を打ち合って。 それが一段落つくと、今度はいきつけの飲み屋でさんざん飲んで騒いで帰宅途中に酔いつぶれたのを勇音に助けられた―――のを。 「夕べはえらい迷惑をかけてしもうて、すまんかった。本当に申し訳ない」 「いいんですよ。気になさらないで下さい。困った時はお互い様ですから」 それよりどうぞ、と勇音は射場に朝食を勧めた。 卵焼きに焼き魚、そして、常備菜のほうれん草のおひたしやら南瓜の煮物やらがちゃぶ台の上にずらっと並んでいる。 思わず「うまそうじゃのぅ…」と唾を飲み込む射場に、勇音はクスクスと笑みをもらす。 「これ、ホントにわしが食ってしまってもええんか?」 「ありあわせで作ったものと、あとは残り物ばかりで、ちょっと恥ずかしいんですけど……」 「なんか申し訳ないのぅ。泊めてもらった上にキズの手当てまでしてもろうて」 一角との打ち合いはお遊び半分の本気半分。 剣を合わせるうちに、テンションは否応なく上がっていく。 そうなるとお互いに本気の割合の方が多くなり、なんとしてでも相手を打ち負かしたいという欲求の方が強くなる。 酒も入るので、なおさら歯止めがきかず、そうなれば、当然無傷ではいられない。 射場や一角ほどの高い霊圧の持ち主であれば、多少の怪我くらいならばほんの数日で自然治癒してしまうため、今まで四番隊の世話になったことはない。 昨日も一角とさんざんやりあった結果、切傷、擦り傷に打ち身等々、とにかく体中キズだらけだったはずなのだが、それらがきれいに治っており、痛みも全く感じない。 それどころか、身体が軽いというか…調子が良くなったような気さえする。 死神のもつ霊圧は主に戦闘用。 唯一四番隊の死神のみ治癒能力が備わっていることも知ってはいる。 だが、それを実際身をもって体験し目の当たりにすると、ただ単純に感心するばかりである。 さすが、四番隊副隊長の名は伊達じゃないっつーことじゃの…… 今日の勇音は死覇装ではなく、淡いグリーン地に飛び柄の小紋を着ている。 今の彼女の、どこかおっとりとしたやわらかい雰囲気はとてもじゃないが"死神"には見えない。 瀞霊廷内で死覇装姿の勇音を何度も見かけたことがあるはずなのに、コレといった印象はなく今までついぞ気にかけたこともなかった。 女は服装一つでこんなに変わるものなのかと、射場は内心舌を巻いた。 凪:2話目アップですvvv 鉄:にしても、やっと会話成立かいな…遅すぎるのぅ。 凪:すんません。前置き長くて!! 鉄:ホンマじゃのう。こんなんで大丈夫なんか? 凪:う〜……多分。 鉄:…………。 凪:でもちゃんと最終的にはラブラブになる予定ですから!! 鉄:予定かいっ?! 20070228up back / 戻る / next |