COLORS






「…これって…………」

「どんなもんかのぅ?」

「どんなもんって……こんなに腫れあがってるじゃないですか!!」











第6話*碧の螺旋-2-







先ほど射場が勇音に耳打ちした内容というのは「肩を痛めたようなので皆に内緒でちょっと診てくれないか」ということだった。

できれば他の隊員たちに知られたくないということで、狛村が常駐している野営地の途中にある人気のない小高い丘に連れられて来たのだが、実際に射場が負傷したという左肩の傷を見て、勇音は愕然となった。

思わず声を失う勇音の様子に、射場は首だけを動かして勇音を見上げた。

「あー…そんなにひどいんか? わしからはよぅ見えんけぇ、あまりわからんのんじゃが」

がっくりと肩を落とす勇音とは対照的に射場は豪快に笑ってみせる。

「最初はたいしたことないと思うてほっといたら、どんどん腫れるわ痛くなるわで、そのうち肩より腕が上がらんようになってきて、さすがにこりゃなんとかせんと…」


「……射場さんっ!!!」


「は、はいっ?!」


先ほどとはうって変わっての鋭い勇音の口調に言葉を遮られ、ふと気がつけば、勇音が怖い顔をして自分を睨んでいた。

「隊員たちは隊長・副隊長が自分達の背中を守ってくださっているという安心感があるからこそ前線で心置きなく戦えるんですよ!!
私たちが到着したとき、どうしてすぐに 言って下さらなかったんですか? こんなになるまでほっとくなんて。
そりゃあ、卯ノ花隊長比べたら私なんて全然頼りないですけど……っ」

勇音は瞳を潤ませながら悔しそうにきゅっと唇をかみしめた。泣きそうになりながらも、勇音は射場から目線を外さない。

その強い視線に耐えられなくなったのは射場の方が先だった。小さく息を吐き、バツが悪そうに頭を掻いた。

「…ただでさえ怪我人が続出しとるこんな状況で、副隊長が負傷しとるなんて知れたらそれこそ隊員たちの士気にもかかわるし、不安を煽りかねんじゃろぅ?
幸い利き腕じゃない方じゃし、ちょっとぐらいの怪我なら、動かしとるうちになんとかなると思うて騙し騙しきとったんじゃが……」

「……騙せなくなった、ってことですか?」

「そういうことじゃの」

「…………」

そりゃあ負傷の程度の差こそあれ、いちいち大げさに騒がれても困るけど、何も言わないというのもそれはそれで困ったものだ。

あ、そういえば、射場さんって元・十一番隊だっけ……



『はぁ?怪我なんてするヤツはなぁ、弱ぇから怪我するんだよ。ほっとけ!!』



いつぞや、支援要請に向かった先で十一番隊隊長の更木剣八に怒鳴られたことを勇音は思い出した。

やはり射場にもそういう考えが染み付いてしまっているのだろうか……。

だけどその反面、自分の配下の死神たちに心配をかけたくないという射場の気持ちも手にとるようにわかるだけに、勇音は半ば諦めたように溜息をついた。


「ほんでも黙っとったのは悪かった。別に虎徹副隊長が頼りにならんとかそういうことじゃないんじゃ。それどころか、今日来てくれたんが虎徹副隊長で良かったと思うとる」

「え?」

「他のヤツにはこんなこと、今さら格好悪くてよぅ言えんかったけぇ」


照れくさそうに呟く射場に勇音の瞳が大きく見開いた。

互いの視線が自然と絡み合い、不意に勇音の胸がドキリと鳴った。


……あれ?

なんで私、赤くなってるの??…………



突然の身体の変化に戸惑いながらも、真っ赤になった顔を射場に見られないように、勇音は慌てて射場の背後に回った。

…もう……落ち着け、落ち着け、私………


勇音は胸に手を当てて、射場に気づかれないよう小さく深呼吸した。



さて、どうするか……。

この腫れ具合からすると、単なる打ち身ではなくてもしかしたらヒビが入っているかもしれない。



時間をかければ勇音一人でもある程度までの治療は可能だが、いつ虚が襲ってくるかわからない遠征地においては何事も急を要する。

勇音は意を決したように俯いていた顔を上げ、すっと立ち上がった。


「…射場さん、私が何をやっても絶対に動かないで下さいね」

「ん?……おぅ、わかった」


真剣な表情で念を押す勇音に、射場は神妙な顔で頷いた。

勇音は射場のすぐ脇に寄り、静かに目を閉じると霊圧を少しずつ上昇させていった。

さっきまでのどこか頼りなげな雰囲気はなりを潜め、まるで別人のような勇音の凛々しい表情に射場は目を見張る。


「煌け…凍雲!」


始解の文言を静かに唱えると、勇音は鞘から斬魄刀をゆっくりと引き抜いた。

すると、目が眩みそうな金色の光をまとった、小太刀ほどの長さの刀身が現れる。

勇音はふぅーっと長く息をつくと、


「はぁ―――――ッ!!!!!」


気合ととともに、勇音は刀身を射場の患部へ突き刺した。

最初はさすがの射場も驚いたが、突き刺さった部分からは不思議と痛みはない。それどころか、刀身が自分の身体に入り込んでいくとともに、なにやら暖かい力がとめどなく流れ込んでくる。

自分を暖かく包むような感覚に戸惑いはあったものの、その心地よさに射場は目を閉じて身を委ねた。


ぱぁん……


不意に何かが破裂するかのような音が聞こえて、射場が目を開けると、小さな光の粒がキラキラとあたりに散らばるのが見えた。

「…いかがですか? ちょっと動かしてもらえませんか?」


勇音の声に目の前の幻想的な光景に目を奪われていた射場は、はっと顔を上げる。

元の形に戻った斬魄刀を鞘に戻しながら、半ば呆然となっている射場に勇音はにこりと笑いかけた。


「あ、ああ……わかった」


射場は肘を上げて、恐る恐る肩を軽く回してみると、すぐさまその表情が驚きに変わる。先ほどまでの痛みが嘘のように消えていた。


「こりゃあ驚いた!! 全然痛うなくなった。さすがじゃのぅ」

「そんなこと、ないです。でも良かった……」

射場の賛辞に照れくさそうに呟くと、勇音は身体の力が抜けたかのように、その場に座り込んでしまった。

下を向き胸に手を当てて苦しげに大きく息を吐いている。


「どがいしたんじゃ、虎徹副隊長?!」

「あ………。すいません」

「…この能力って私の方にも多少の負荷がかかるんです。……でも、ホントに大丈夫ですから」

「すまん……わしのせいでムリさせてしもうたんじゃな……」

申し訳なさそうに謝る射場に勇音はニコリと笑いかけた。

「少し休めば大丈夫ですから気にしないで下さい。四番隊の死神の霊圧には治癒作用がありますから、他の人よりも回復は早いんです。それに、これが私の仕事ですから……」


「なーにが私の仕事よ。ばっかじゃないの?! かっこつけてんじゃないわよ!!」


突然降って湧いた甲高い声に二人が驚いてその方に視線を向けた。







色々捏造しまくり……こんな調子で続きます(汗)

20080406up

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