COLORS




七番隊が隊員の半数近くを率いて虚退治の遠征に出たのは一週間ほど前のことであった。

もともと3、4日ほどを予定していたのだが、存外に虚の数が多く、倒しても倒してもきりがないという状況に陥っていた。

すでに当初の予定を過ぎているため、補給も底をつきかけ怪我人も続出しており、それは上位席官とて例外ではなく。

このまま引き返せば、虚は再び勢力を盛り返し、今までの苦労は水の泡になるのは必定。

かといって無理をすれば逆にこちらが全滅しかねない。

状況打破のため、隊長の狛村は増援部隊と四番隊の上級救護班の派遣を総隊長に要請。

それに伴い四番隊隊長の卯の花烈のもとに救護班の出動命令が下り、副隊長の勇音が隊員を率いて至急現地へ向かうことになったのである。











第5話*碧の螺旋-1-







勇音たちが七番隊の任地に到着したのは、狛村より要請があった日の翌々日のことであった。

到着するやいなや、勇音は七番隊の隊士から現在の状況について簡単な説明を受けると、すぐさま配下の死神たちに治療や炊き出し、補給物資の受け渡しと搬入等の指示を出し、それらが済むと、主に重傷者の治療を開始した。

勇音は医療に関する知識もそうだが、霊圧による治療スピードも配下の死神達とは一線を画するほど群を抜いている。

またその力強く暖かい霊圧が、人を安心させるような優しい笑顔が怪我人を癒す。

仕事中の勇音は普段の大人しそうな雰囲気はなりを顰め、患者にも隊員たちにとって凛々しく頼もしい副隊長なのだ。


「虎徹副隊長、だいたい終わりましたね……」


そう声をかけられて、勇音はそのとき初めて辺りが薄暗くなり始めていることに気づいた。


「そうね、こっちもひと休みしましょうか。花太郎、悪いけど各班の班長に指示しておいて。私は狛村隊長のところへ現状の報告をしに行って来るから」

「えー?! 副隊長も少しお休みされてから狛村隊長のところへ行かれても……」

「先にしておきたいの。それに私なら全然平気。じゃあ頼んだわね」


勇音は後のことを花太郎に任せると、怪我人が収容されている野営地を出た。

肌にあたる空気は冷たく、空はもうほんのり紫がかっている。日が落ちるのも後わずかであろう。


(ここへ到着したのが昼過ぎ頃だから、それから5時間近く仕事に没頭していたということになるのね……)


隊長の卯ノ花抜きでの遠征は勇音にとって久しぶりだった。

いつもは皆の先頭に立つのは隊長の卯ノ花で、勇音はその補佐役に専念していれば良かったし、卯ノ花の判断に間違いがあるはずはない―――そんな安心感と信頼があった。

しかし今回は卯ノ花に代わり自分が皆に指示を出さなければならない。

もし間違った判断をしてしまったら…そんな不安が勇音の心の片隅につきまとうが、それを周囲に悟られてはならない。上役の不安は下の者に容易に伝染するからだ。

いつでも冷静に、毅然としていなければならない。

それが上に立つ者の宿命とはいえ、そんな緊張感の中で仕事をするのは慣れないし、自分には向かないと勇音は思う。

四番隊に入隊したときから卯ノ花に憧れていた勇音は、彼女ようになりたいと、少しでも近づきたいと願い、ひたすらがんばった甲斐あって今の地位まで登りつめたものの、未だに"隊長"である卯ノ花と"副隊長"である自分との間にはまだまだ距離があることをこんなとき否応なく実感してしまう。


それにしても、疲れたなぁ……。


両手を上げて、勇音がうーんと背伸びをしていると、不意に後ろからポン、と肩を叩かれた。


「ごくろうさん」


勇音が驚いて振り返ると、ニッと笑う射場鉄左衛門の姿があった。

見知った顔に張り詰めていた勇音の気も少し緩められて、ニコリと射場に笑いかけた。


「お疲れ様です。物資の搬入は終わられたんですか?」

「おかげさんで。思ったより早う来てくれたけぇ助かった。そっちはどんな具合じゃ?」

「ええ、こちらも一区切りついたところです。…あの、これから狛村隊長にご報告に伺おうと思っていたんですが、よろしいですか?」

射場は案内しようと頷くと、二人連れ立って、ここから少し離れた狛村がいる野営地へと歩き出した。


「それで、怪我人はどんな様子じゃ?」

「思ったより重傷者が多いですね。応急処置は済ませましたが…できれば彼らだけでも先に瀞霊廷に戻った方が賢明かもしれません」

「それで、増援部隊はどうなっとる? 一緒には来とらんようじゃが…」

「私たちが出立するときは、どの隊もすぐに遠征に出られる状況ではなかったのではっきりとはわかりませんが、状況からするとおそらく六番隊か十番隊になるかと」

「六番隊か十番隊、か……」

勇音の返答に射場は難しい顔をして、うむと唸った。

「…実は、増援が来よったら、七番隊(わしら)は一旦引くよう隊長に進言するつもりでおるんじゃ。増援の数にもよるが、万が一隊長不在でも阿散井か松本が来よるんなら任せても大丈夫かもしれんのぅ」

確かに射場の言うとおり、阿散井恋次と松本乱菊の両名ともに戦闘力も指揮官としての能力も他を抜きん出ている。

でも……

「射場さんは……"七番隊"としてはそれでいいんですか…?」


護廷十三隊は各隊の間では優劣の差はないとされているがそれは建前にすぎず、あげた手柄如何によって隊に与えられる恩賞はもちろん与えられる任務をはじめ、その他さまざまな面で格差が生じるのはいわば公然の事実だ。

例えば、十一番隊が最強の戦闘部隊として護廷十三隊の中で大きな顔をしているのも、とどのつまり上げた手柄の数が一番多いからなのだ。

ここで七番隊が引くということは、手柄は自動的に増援に来た隊のものになることを指すこととなり、大局的に考えればこの場は撤退するのがベストだと頭ではわかってはいても、今後の隊の優劣を左右しかねないとなれば、おいそれと決断できることではない。

勇音が射場に訊いたのはそういう意味だ。


射場は腕組みをして長い溜息をつく。

「…そりゃあ、あともう一押しでなんとかなりそうな状況で引くのは正直のところ悔しいけんど、目先の手柄ばっかり考えとってもな。いい加減、ウチの隊員の疲労も緊張もピークに達しとる。このままここで無理に踏ん張っとってもいい結果が出るとは思えん」


悔しそうに、それでもキッパリと断言するのを聞いて、勇音は無意識のうちにまじまじと射場の顔を見つめていた。

てっきり射場も一角と同じくどちらかと言えば好戦的なタイプと思っていたから、撤退を進言するという彼の言葉はかなり意外だった。

現在の状況を冷静に分析し判断できるクールな一面は、荒っぽそうで何事も力押しという射場に対する勇音のイメージとは随分かけ離れていて。


「…どうかしたかの?」


勇音の視線に気づいたのか、射場が声をかけてきたので、勇音は驚いてぶんぶんと首を横に振った。


「あっ……/// いえっ!! なんでもありません!!!」


勇音の慌てように射場はいささか不思議そうな表情になったが、それもつかの間、


「……ところで虎徹副隊長。ちょっと頼まれてくれんじゃろうか…?」


と、急に神妙な顔つきになって声をひそめた。


「…?」と首をかしげる勇音に、射場はこそりと耳打ちした。







20080406up

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