COLORS






そこにいたのは一人の女だった。









第7話*碧の螺旋-3-







すらりとした長身に、体のラインが出るピッタリとした青色の長い服。気の強そうな金の瞳とストレートの長い髪。

しかし、何より目を引くのは頭の上の獣の耳と、襟巻きにちょうど良さそうなふさふさとした大きな尻尾だ。それも一本だけではなく、数本。

赤い唇は不機嫌そうに結ばれており、威圧的な雰囲気をかもし出しながら射場と勇音を腕組みをしたまま見下ろしている。

声をかけられるまで、射場は彼女の気配を全く感じなかった。まさに突然降って沸いたというか、そんな表現がピッタリだった。

明らかな異形の者の登場に、射場は勇音をかばうように身構え、誰何しようと口を開きかけたが、


「凍雲…どうしたの?」


勇音の呆けたようなつぶやき声に、射場は「え」と驚いて勇音の顔を見る。

しかし、女は勇音ののん気そうな声色にカチンときたのか、いきなり怒鳴りつけた。


「どうしたのじゃないわよ、このバカっ!! 全くもう、信じられない。あの技を使うなんて。しかもこんなヤツのために!!」


金色の瞳で忌々しそうに射場をにらみつけながら、凍雲は早口でまくしたてる。


「凍雲、やめて。そんな言い方、射場さんに失礼でしょう?!」

「失礼?ハッ、自分のヘマで怪我して手前勝手な理由で傷を悪化させたようなヤツじゃないの。あんたがここまでする価値がこいつにあるっていうの?」

「あるから使ったのよ。私は四番隊の副隊長としてこれが最善だと判断したの」


珍しく強い口調で反論する勇音に、凍雲は一瞬驚いたような顔をしたが、呆れたように大きく息をつくと、スッと身をかがめてごく自然にぎゅっと勇音を抱きしめた。


「親子そろって同じこと言うなんて、ホント、イヤになっちゃうわ」

「凍雲…?」

「ねぇ、あたしはあんたの守り手なのよ。もしあんたに何かあったら太一朗に申し訳が立たないし、あんな情けない思いをするのはたくさんなのよ」

「凍雲は今は私の斬魄刀なんだから、父さんのことまで気にしなくていいのに」

「そうはいかないわ。あたしがあんたの斬魄刀であることはあたしの意思だけど、約束は約束よ。ホントに無茶ばっかりして」

凍雲が勇音の額を人差し指で軽く突付くと、二人はくすくすと笑いあう。

「うん。でも大丈夫だよ。凍雲も居てくれるし……あの、えっと、その、心配かけてごめんね」

「別に謝らなくてもいいわよ。けど全部自分一人でなんとかしようとする癖、いい加減直しなさいよ」

「うん…」


勇音は素直に頷くと、凍雲にもたれかかった。凍雲はそんな勇音を愛しい眼で見つめながら、背中をさする。

斬魄刀とその主人というよりは、手のかかる妹をたしなめる世話やきの姉のようなやり取りだな、と射場は二人の様子を傍らで眺めながらそんなことを思っていた。


それにしても。

斬魄刀に宿るモノの正体は精霊だったり妖魔だったり、かつては人であったものだったりと、それこそ千差万別だ。

そのことは射場も知識として頭の中にあったし、他人の斬魄刀の具象化した姿を何度か見たことはあった。

そもそも斬魄刀は戦うことが生来の性分であり、それ以外のことは頭にないものなのに、目の前の斬魄刀は外見も反応もやたらと人間くさい。



「もう、行かなきゃ…」

「ちょっと待ちなさいよ。まだ霊圧が完全に戻ってないじゃないの!」

「だって早く行かないと日が暮れちゃう。ごめんなさい、射場さん。ご心配かけましてすみませんでした」

「いや。無理せんほうがええ。もうちょっとぐらい休んどってもかまわんけぇ」

そう射場は勇音を気遣ったが、勇音は静かに微笑むと首を横に振った。

「私もあちらを花太郎…いえ、部下に任せきりなので様子が気になりますし、早く戻らないと。本当にもう……」

平気ですから、と続けようとしたが、勇音は次の言葉を紡ぐことができなかった。

首筋に受けた鋭い衝撃―――勇音の瞳が大きく開かれたが、それも一瞬のことで、小さなうめき声とともにその瞳は再び閉じられた。力が抜けてぐったりとした勇音が凍雲の腕の中へと崩れ落ちる。

「…ごめんね。もう少しおやすみ、勇音」

凍雲はきゅっと勇音を抱きしめると、なんともいえない顔をしている射場に向かってにっこりと微笑んだ。

「勇音なら大丈夫よ。霊圧がある程度回復すれば自然と目を覚ますから。時間がないからあんたの隊長がいるところまで歩きながら話しましょ。もちろん勇音はあんたが運んでくれるわよね?」

「…手刀で虎徹副隊長の気を失わせたくせに、よぅそがいなことが言えるもんじゃのぅ……」

「あら、わかっちゃった? でもこうでもしないと勇音は自分ひとりでがんばっちゃうんだから仕方がないわ。手段はどうあれ主人を守るのが斬魄刀の役目なんだからこのくらい当然よ」

射場の嫌味にも当の凍雲は悪びれるどころか開き直って言い放つ。

「だいたい勇音がこんなふうになったのは誰のせいかわかってるの? いいから早くして」

それを言われると、射場は返す言葉がない。

いくら休ませるためとはいえ、いささか無茶というか乱暴なことをするものだと内心呆れながらも、射場は黙って勇音を背負い立ち上がると、先を促す凍雲の後から歩き始めた。

勇音は射場が思っていたよりもずっと軽くて柔らかくて。香水か髪の毛の匂いなのか、時折鼻腔をふわりとくすぐる柑橘系の香りがくすぐったくて、今更ながら女の子なんだなぁと実感してしまう自分がなにやらおかしかった。






名前だけですが、オリジナルキャラその2・虎徹姉妹の父登場。今後もさらに色々捏造しまくりです。わはははは(爆)

20081221up

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