一日エロ東方

 

二〇〇八年 四月七日
(風神録・秋静葉)

 


『春色ソルジャー』

 

 

 秋静葉が野原に倒れているリリーホワイトを見つけたのは、春も盛んな四月半ばのことである。
 紅葉の神様が隆盛を極める季節はとうに過ぎ去り、そんじょそこらに発生している妖怪や妖精と大差ないやる気のもとにだらだらと過ごしている。その精神は冬の忘れ物として名高いレティ・ホワイトロックと酷似しており、レティも今はどこかの洞窟にてぼんやりと食っちゃ寝食っちゃ寝の生活を送っていることは想像に難くない。
 こうしてたまに散歩するのも同じで、その最中、タチの悪いのに絡まれないように注意を払う。だが力を殺がれているといえども八百万の神々の一柱であるから、そこいらの妖精に引けを取ることはない。なので、静葉がとことことリリーホワイトに近付いたのも、暇潰しや好奇心の観点から見ても致し方ないところであった。
「……すー」
 見晴らしのよい原っぱに、胎児のように丸まって寝転がっている。白を基調とした服は、よく見ればところどころが焦げて破れて煤けていた。そのわりにすーすーと心地よさそうな寝息を立てているのだから、妖精の呑気さも侮れないものがある。
「……春、告精……」
 ぽつり、と呟く。
 木陰からリリーホワイトを眺めているのは、万が一、彼女に気付かれると面倒だから。
 秋の名を冠している静葉は、紅葉の神、ひいては秋の神である。だからといって、他の四季を司る神や妖怪、妖精と折り合いが悪いわけでもない。ただ、なんとなく気まずいだけだ。
 あっ、ごめんなさい、秋さんは調子悪いのに、私ったらなんか調子よくてうふふみたいな。
 被害妄想である。
「だる……」
 気だるげに漏らす言葉は、普段から物静かな彼女にしても幾分か物憂げである。頬がこけたり髪が乱れたりといった様子はないが、試練の冬を越えた静葉になりふりを構っていられる余裕はなかった。のそのそと、冬眠明けの熊を思わせる動きでもって、静葉はリリーホワイトに接近する。理由などない、もしあるとすれば、そこにリリーホワイトが寝ていたから――ということになるだろう。
「はる……はるが、なんぼのもんじゃ……」
 ついつい口調も荒くなる。
 そよそよとそよぐ春風に吹かれても、リリーホワイトは目覚めることなく、静葉が我に返ることもない。事態は切迫しながらも漸進を続け、来たるべき最後の瞬間を粛々と迎え入れるだろう。
 それが運命というものだ。
「でも……なんでこんなにぼろぼろなんだろ……」
 春告精の傍らにしゃがみこみ、人差し指で柔らかそうなほっぺたをつつく。実際柔らかく、弾力のある肌はしかし、若干の煤が付着していた。指先についた汚れの匂いを嗅いで、そこに弾幕らしき火薬の香りを感じ取ったとき。
「ん……、ん」
「あ……」
 ぱちくり、と、リリーホワイトのどんぐり眼が露になる。
 相対する妖精と神様のうち、動揺していたのはむしろ神様の方で、妖精は比較的落ち着いていた。退くか攻めるか、いずれかを選択しなければという強迫観念に苛まれていた静葉は、微動だにせずこちらを見つめている妖精に、少なからず戦慄を覚えた。
「え……、な、なに?」
「じぃ……」
 たじろぐ。
 疲弊しているはずなのに、瞳は異様にぎらぎらしている。熱心に静葉の瞳を覗きこむその姿は、単なる観察を超えたところにある値踏みを思わせるものだった。
 金と褐色の視線が交差する。
 意味のある言葉を告げたのは、リリーホワイトが最初だった。
「……あなたも、そうなの?」
 真剣に、何事かを問う。
 その真意を計りかねて、静葉は口を噤む。そうして声を失ったあとで、リリーホワイトが何故こういう格好をしているのか、その原因を鑑み、不意に思いついてしまった。
 不埒だと思いながら、妖精の下半身を見やる。
 そこに、あるべき生地は当たらなかった。
 半裸である。
「……あ」
 不幸中の幸いか、乱暴にむしりとられた様子はないけれど、だからといって事態が反転するわけでもない。哀れむべきか、慰めるべきかを逡巡し、リリーホワイトの瞳にたぎっている眼差しの意味を追究しようとした。
「そうなんだ」
 けれども、それより先に、リリーホワイトは世界の清濁を併せ呑むかのような決意に満ちた表情で、納得したように頷いていた。
 どきりとする。
 不覚にも、妖精に相応しくない淫靡さを感じ取ってしまった。
 あるいは、これ以上ないくらい、妖精には相応しい表情なのかもしれないけれど。
「――なら」
 紫電一閃という単語が、ここしばらく頭に閃いたことはなかった。だらだらしていた生活を悔やむ。だが時は既に遅きに失し、リリーホワイトがかざした両手を拒むことはできない。
 不意に、妖精の叫びを聞く。
「あなたにも味わってもらうんだからー!」
 どうして、彼女は笑っているんだろうか。愉しそうに。
 轟然と押し寄せる弾幕の海に埋もれながら、静葉は漠然とそんなことを考えた。

 

 

 目が覚めると、リリーが静葉の服を脱がし始めていた。
 手が早い。
「あ、あの……」
 鼻息が荒い妖精に声をかけるのは躊躇われたが、そうしないわけにもいかない。服のボタンを外す作業に没頭している妖精は、静葉の声に視線を上げ、おはようとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「お目覚めですね」
「いや、お目覚めですけど……あなた、一体何を」
 言わなくても、言われなくてもわかりきっていることだろうに、聞かずにはいられなかった。遁走しようにも身体は満足に動かず、その理由を鑑みると、弾幕はもとよりリリーが覆いかぶさるように圧し掛かっているのがひとつ大きな要因ではなかろうかと思う。
 だから荒いって。鼻息。
「うふふふ……かわいいですね、神さまも……」
「そ、それはどうも……」
 感謝するところじゃないような気もするが、後の祭りだ。
 その間も、リリーは丁寧にボタンを外していく。少しずつ露になっていく素肌の上を、生暖かい春風が通り抜ける。もうちょっと季節が早かったら、風邪をひいていたところである。危ない危ない。
 そんなことはどうでもいいのである。
「ちょ、だから――ひゅくッ!」
「あは、ここが弱いんだー」
 言って、リリーは静葉のへそをそっと撫でる。そのたびに静葉の身体は懲りることなくびくびくと鳴動し、静葉はその抑え切れない反射に翻弄されていた。自分の身体なのに、自分の思うようにいかない。撫でられれば身体がひゅんとなる。他に具体的な表現が見当たらないくらい、ひゅんとする。
 恥ずかしい言葉を使うのなら。
「感じてるんだ」
「……そんな」
「うふ、照れなくてもいいよー」
 だから近い。
 何を思ってか、おおよそ想像がついてしまうから困ったものだが、静葉の上半身をはだけさせたリリーは、嫌がる静葉を無視してほっぺたやらおでこやらにキスの雨を降らしていた。あたかも犬や猫がそこかしこに匂いをつけるように、親愛とも習性とも言い難い接触が続く。
 秋静葉、神様なのにされるがまま。
 非常にウブであった。
「こんな……んくぅ、外なのに……」
「ふふ、だぁれも来ないからねー。だから、安心して」
 できるわけがなかった。
 リリーは懸命に拒む静葉の唇を難なく奪い、慣れた調子で舌を滑り込ませる。ちゅぷちゅぱと鳴り響く水音を口の中で聞き、他人の舌のぬめりと微熱を感じる。口の中は既にいっぱいで、逃げる場所もないくせにあちらこちらへと逃げ惑う。それでもリリーの舌は静葉の舌に追いすがり、肉厚な舌がナメクジの交尾のように絡み合う。
 たとえちょっと悪かった。
「ぷちゅ……、ん、はぁ……あは、神さま、かわいいかおしてる……」
「……静葉」
 ん、とリリーが近い距離で小首を傾げる。両腕を抑えられ、太ももに体重を掛けられているのに、もはや抵抗する気は失せている。静葉は、静かに上下する自身の胸部を意識しながら、言いかけた言葉の続きを漏らした。
「なまえ……ちゃんと、静葉って名前、あるから……」
「……しずは」
 こくりと頷く。きっと、自分の顔は真っ赤になっているに違いない。
 リリーは満面の笑みを浮かべ、何の前触れもなく、露になった静葉の乳首を摘まんだ。両方。
「――んぎぅぅッ!?」
 ぐりぃ、と音がするくらい、リリーは思い切り乳首をねじる。これには快感がどうのこうの言っている余裕などあるはずもなく、静葉は衝撃が収まり次第涙目でリリーに訴えた。
「ぃ、痛いよ! なにするの、もう!」
「ぎゅい」
「ひにゃあぁッ!?」
 なおもリリーは乳首をつねる。これはもう明らかに静葉の反応を愉しんでいるがゆえの反抗であるため、静葉も反応せずに堪えようとしているのだが、だからといってどうにかできるほど静葉の肉体はクールじゃなかった。むしろ火照りまくっている。
「はぁ、はぁ……」
「ああもう、かわいいなあ……」
 リリーは恍惚に達している。静葉を見る目は完全に性的で、切っ掛けさえあれば獣のように貪り尽くすこともやむなしといった風情である。子種を植えつけられるかどうかがひとつ大きな鍵となるが、春の申し子たるリリーならば、あるいは――。
「しずは、しずはぁ」
「な、なによぉ……もう、あんまり、ひどいことしちゃヤだよ……」
 目尻にうっすらと涙を溜め、静葉はリリーに懇願する。
 リリーはうふふと笑いながら、溜まった涙をぺろっと舐め取る。またそこが静葉の性感帯に触れたらしく、彼女の頭がびくっと動く。何かと敏感に過ぎる。
 ぜぇはぁと荒い吐息を漏らす静葉は、リリーが既に裸身を曝していることに気付いた。あちこちに何故か火傷したような痕が残っているのが気にかかるが、肌と肌とを重ね合うことに何の支障もない。帽子は、真っ先に脱いでもいいはずなのに、何故か脱がない。
「じゃ、ご開帳ー」
「あ、ぅ……」
 抵抗する間もなく、紅いスカートがずり下げられる。お互いがすっぽんぽんに近い状況であるのに、不思議と寒さは感じない。これも春告精の恩恵かと感謝したくもなるが、そもそもリリーがいなければこのような状況に陥りもしなかったはずで、なかなか判断の難しいところである。
 けれども静葉にいささかなりとも考える余地が与えられることはない。リリーはことあるごとに感じまくる静葉にご執心であり、静葉自身もとんと味わったこともない感覚に呑みこまれる一方だった。
 和姦にも等しい相互理解の果て、リリーは、静葉のつるつるした割れ目を人差し指で撫でる。
「――――ッ!」
 瞬間、静葉に衝撃走る……!
 金色に光る髪が乱れ、静葉の背中が弓のように反り返った。手のひらには余らない胸が、激しい動きにつられてそれでも多少は鳴動する。静葉の反応に面食らっていたリリーも、自身の反応に驚いて赤面している静葉を見て、これは弄り甲斐があるぞとほくそ笑んだ。
「ふ、うふふふ……」
「あわわ……」
 白リリーである。
 いやリリーのホワイトだから白で合ってるのか。ややこしい。
「さあ……はじめましょうか……」
「まだ、はじまってなかったの……?」
 静葉は震撼した。
 そもそも、何故自分が妖精相手に物理的なセクハラを受けているのか、その根本がわからない。尋ねたところで答えてくれるかどうかは判然としないけれど、このまま何の抵抗もなく犯し尽くされて子種を注ぎこまれるのも忍びない。というか注ぎこめないとは思うが、もし本当に可能だったら困る。どうしよう、神様と妖精のハーフなんて斬新すぎる……。
「ね、ねぇ……どうして、そんなにねちっこいの……?」
「ん、こういうの、きらい?」
「そういうんじゃない……けど」
 致命的なことを口走った気もするけれど、言葉に詰まったら負けだ。
「なんで、私が襲われてるのかなあ……と」
「それは……しずはがかわいいから、ていう理由じゃ、だめ?」
「ぅく……」
 二の句が告げなくなる。だが、無理やりにでも続けなければならない。
「で、でも、さっき、焦げてたし……なにかあったのかな、て」
「やさしいんだね、静葉は……」
「いや、そんなんじゃ……ない、けど」
 声に力がないのは、否定するのも悪いと気がしたからだ。ここは、リリーの言葉を素直に受け取った方が良いと思った。けれどもリリーは静葉の言葉を待たず、その身体に浅く刻まれた身の上を語り始める。半裸で。
「これは……私と魔法使いの、長年にわたる闘いの歴史なのよ……」
 なんとなくわかった。
 リリーは拳を握り締め、誇らしげに熱弁を披露する。
「炸裂するブレイジングスターに、成す術もなく翻弄されるわたし……」
「……ナス?」
私の仲間もついでに犯されちゃって、もう、前科何犯なのかわかりゃしない……」
「やだ……みんなして、犯すとか犯さないとか……女の子なのに……」
「そうだよね……ちなみに、これがブレイジングスター」
 完全に油断していた。何やら腕を腰だめに構えているリリーを、警戒する暇すらない。
 目指すは受け入れ態勢が整っている静葉の割れ目。とろとろに溢れ出た愛液は、ひくひくと物欲しそうにうごめく秘壺から際限なく零れ落ちる。
「いくよー」
「ちょぉ――」
 彗星は来たれり。
「ブレイジングスタァァー!」
 ――ずんっ。
「…………ッ!」
 悶絶する。
 一方、リリーはとても気持ちがいいご様子。
「うわぁ……とろとろしてるよぉ……」
「……ぅ、くぁ……」
 恍惚の笑みを浮かべるリリーと対照的に、静葉は感じるとか感じないとか言っている場合じゃなくなっていた。未知の感覚に酔い痴れる余裕があればまだしも、静葉の恥部はまだ異物を受け入れる覚悟ができていなかった。交尾そのものは可能でも、理論が通れば実現が可能ということにはならない。
 で、あるからして。
「ふあ……、ねぇ、このまま、うごかして……、も……?」
 指先に感じる膣の熱と湿りに浸っていたリリーも、静葉の表情を見るべく顔を上げて、ようやく異変に気付くことができた。
「う、ぅぅ……」
「し、ずは?」
「ひっく……、うぇぇ……」
 泣いている。
 ぞくにいう、ぼろ泣きである。
 さすがにこれは、百戦錬磨のリリーも焦った。しかし顔を手のひらで覆うこともなく、ただ零れる涙を抑えようともせず泣いている静葉は、これはこれで可愛いなあと不謹慎なことを考えもする。が、ここはフォローが大事な場面である。
 事此処に至り、犯す側と犯される側の立場が逆転する。
「あ、ぅ、えと……し、しずは、ごめん、ごめんね……いきなりだったよね、びっくりしたんだよね……?」
「うぎゅ……、ふぅ、んく、うわぁあぁ……」
 焼け石に水である。
「な、泣かないでよぉ……もう、もうしないから……」
「うえぇぇ……ぐずぅ、うぅぅ……ひッく、ひッく」
 嗚咽を漏らし、一向に泣きやむ気配を見せない静葉に、リリーも困惑した。さっきまで二人ともノリノリだっただけに、この変容には戸惑いを隠せない。おさわり程度ならお互いに満足できたものを、下手にブレイジングスターなどと口走るから痛い目を見る。なるほどなあ、だから魔法使いは罪なやつなんだ、とリリーは軽く現実逃避した。
「は、はるですよー」
「びえぇぇぇ!!」
 だめだった。
 静葉も幼児退行気味だし、リリーもなんとなく泣きたくなった。でも子どもみたいに泣きじゃくる静葉もかわいいなあと思いながら、リリーは不意に背筋がぞくッと凍りつくのを感じた。
「――――ッ」
 振り返れない。別に零れる涙を手のひらで拭う静葉が愛しいからじゃなく、ただ、振り向けなかった。心の奥底にある本能の手綱が、リリーに振り向くことを許しはしなかった。
 氷精とも、冬の妖怪とも違う、純粋なる恐怖。異形の存在、畏敬の対象、あるいは、その垣根を超越した続柄の――。

 

「――うちの静葉に」

 

 瞬間、リリーは空を飛ばされていた。すっぽんぽんで。
 何が起こったのかわからない。一方的な衝撃がリリーの身体を吹き飛ばし、何さらしてくれとんのじゃあぁぁ! という咆哮が耳朶に刻まれたことだけは、なんとなく察した。
 リリーは思う。
 また会えたらいいな。この次は、不埒な感情を抱かない程度に。
 でもまた、あの羞恥に満ちた表情と、涙に濡れた顔が見れたらいいな。
「うふ、うふふふふ……」
 不気味に微笑むリリーの後頭部に、芋にも似た弾丸が突き刺さっても、リリーは速度を変じることなくそのままの勢いで妖怪の山の裾野に着弾した。

 

 

 ぞくにいう、『春秋事変』である。

 

 

 

 



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2008年4月7日 藤村流

 



 

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