・一日エロ東方 花映塚etc

 



コンスタンティノープルの木馬 ルーミア


鼓動 レティ


だってしょうがないじゃない リグル
たのしいこどものつくりかた1 大妖精 前門の猫、後門の猫 舌抜き雀 ミスティア
I scream, you scream. チルノ アリスゲーム アリス たのしいこどものつくりかた2 慧音
おっぱい 紅美鈴 恋するリリーはせつなくて略 リリー fetishism 霊夢
我ら知的なアンドロギュヌス 小悪魔 crescendo ルナサ 白黒綺想曲 魔理沙
paper view パチュリー super butter dog メルラン shapes of shavers てゐ
blue blood 咲夜 egoism リリカ 勇敢な愛のうた 鈴仙
抱きしめてトゥナイト レミリア 昆布の憂鬱 妖夢 八意に告ぐ 永琳
ライ麦畑で捕まえて フランドール いつか来る朝 幽々子 真説・輝夜姫 輝夜
    エキノコックス・パラノイアック きみのむねにだかれたい 妹紅
ザ・インデックスフィンガーズ 八雲紫    
 



etc
豆柴ラプソディー 萃香



etc
教えて! 文々。


春色ソルジャー 静葉
さらば青春の日々 霖之助 夢にまで見た球体関節 メディスン 芋と情緒と女心と秋の空 穣子
心の剱 妖忌 あぶらかたぶらなんぷらー 幽香  
虹の架け橋 レイラ 死神ヘヴン 小町   にとり
たのしいこどものつくりかた3 蓮子 四季映姫輪姦 映姫  
スクラムハーツ メリー drop dead スーさん   早苗
君は我が誇り 毛玉 感度0 リリーブラック   神奈子
禁じざるを得ない遊戯・absolute solo 上海人形 優しくは愛せない 幽霊   諏訪子
一茎 ひまわり娘 カラスの行水と20世紀のクロニクル    
陽はまた昇り繰り返す サニーミルク 好き好き大好き愛してる 大ガマ
白粉の月 ルナチャイルド

ダブルヘッダー 秘封
星に願いを スターサファイア (有)求聞史紀・稗田阿求部社会福祉課 阿求


 

一日エロ東方

七月十三日
(花映塚・射命丸文)



『教えて! 文々。』

 

 勤勉実直な射命丸文といえども、朝から晩まで新聞作りやネタ探しに奔走しているわけではない。時には暇を持て余し、枝に座り、幹に背を預けて休憩することもある。
 文々。新聞はあくまで趣味であるから、身体を壊して楽しめなくなっては本末転倒である。本気であることに違いはないが、それでも抜くところは抜く。常にネタは何処だネタはネタはと目を光らせていたら、いつか気が触れてしまうだろう。そんな末路は御免だった。
「ふあ……あー、と」
 欠伸の途中、空の端にふらふらと飛び行く妖精の姿を発見する。その手に握り締めている二本のアイスキャンディーは、きっと仲の良い妖精と食べるに違いない。最近はとみに暑いから、存在からして冷たいチルノはあちこちで重宝される。
 文は、枝の上で器用に胡坐を掻いて、黙考した。
 こないだ、チルノに正しいアイスキャンディーの食べ方を教えたのは記憶に新しい。けれども、それが元で大怪我を負ってしまったのは手痛い思い出である。記者が誘導的にネタを作ることの問題点を、第三者に突きつけられた結果だった。文も、まさかあの大妖精があそこまで本気で襲い掛かってくるとは思ってもみなかった。今思い出しても、冷や汗が出て来る。
 チルノをダシにするのは危険度が高い。
 それでも、あまりに騙し易いものだから、ネタにするには最適な人材なのである。
「うぅん……」
 文は考えた。
 休憩の時間であるはずなのに、こうまでして頭を捻らせてしまうのは、やはり文が生粋のネタ好きだからかもしれなかった。
 いろいろと考えを巡らせた結果、文は、チルノを呼び止めることにした。
「チルノさーん!」
「んー、あ、天狗だ」
 物凄い勢いで接近して来る文に気付き、チルノがのんびりと答える。心なしか声に力がないように感じられるのは、やはりじりじりと照りつける太陽のせいかもしれなかった。
 文は、チルノが握り締めているアイスに目を付け、すかさず質問する。
「なにやら、よいものをお持ちですね」
「あ、これ? そんな物欲しそうな目しても、あげないわよ」
 さっと背中にアイスを隠す。アイスが溶けずにそのままの形を保っているのは、他ならぬ氷精チルノのおかげである。冷気がダダ漏れであるから周囲はどこかひんやりと冷たく、アイスや食べ物を保護するには最適な人材なのだ。
「いえ、今日はアイスが目的じゃないのですよ」
「ふーん。どうでもいいけど、早いとこアイスを持ってかなきゃいけないから後でね!」
 素早く言い募ると、チルノは後ろ手にアイスを持ったまますたこらさっさと飛び去って行く。文も慌てふためくことなくその背中を見送り、小さく手を振って次の準備に移る。
「さて、忙しくなりそうですね……」
 あっという間に見えなくなったチルノの姿を思い、文は密やかにほくそえんだ。

 

 

 チルノが大妖精とアイスキャンディーを嗜み終え、またふらふらと文の頭上に現れた頃、文は木の枝で欠伸をしていた。
 帰って来るまではしばらく時間が空くだろうと思っていたが、思いのほか長引いてしまったようだ。からだ全体に気だるさが燻っている。それでも、チルノを発見すると胡乱な目が輝きを増す。
「チルノさーん!」
 取材の対象となると自動的に敬意の念が生じるらしい。大声で名前を呼ばれたチルノは、誰に呼び止められたのかしばらく辺りをきょろきょろ見渡していたが、一直線に接近して来る文を見て、そういやさっきも呼び止められたなあと思い出した。
「あ、天狗だ」
「そうです。天狗です」
 若干、間の抜けた会話がなされ、文がひとつ咳払いをする。
 既にチルノの手にアイスキャンディーはなく、大妖精と一緒に明るく楽しく食べたことが窺える。また幻想郷に伝わる古き良き食べ方(だとチルノが思っているというか文がそう教えた)をしたのかもしれないが、大妖精が瞬間移動して文に鉄山靠(てつざんこう)をぶちかまさなかったところからすると、ごくごく普通に唇で咥えて舌で舐めて食べ尽くしたようだ。普通である。
 ちなみに、鉄山靠を伝授したのは紅魔館の門番である。
「さっき、大の字とアイス食べたんだけどー」
 あ、大妖精のことね、と解説する。
「前みたいに食べたら怒るからね、て言われちゃった。なんでだろ」
「彼女はきっと、旧時代に取り残された方なんですよ。だから、幻想郷の新しい流れについていけないのです」
「ふうん……よくわかんないや。でもアイスおいしかったなー」
「それはよかった」
「どうしてもって言うなら、食べさせてあげてもいいわよ?」
「はい。でしたら、またの機会にでも」
 素直じゃないねー、と詰まらなさそうに呟く。
 その表情にもどこか嬉しさが滲んでいることを察した文は、唐突に切り出した。
「あなたがアイスを奢ってくれるのなら、私も何かご馳走しなくてはいけませんね」
 慈悲深い笑みを携えながら提案すると、案の定、チルノは目を輝かせて食いついてきた。
「え、ほんとに?」
「天狗は嘘を吐きませんよ」
 自信満々に言う文も文だが、何回か騙されているのにあっさりと信用するチルノもチルノである。が、お互いの思惑が勘違いながらも上手く噛み合わさっているのなら、そこに何も知らない第三者がしゃしゃり出て異論を差し挟むことなど出来るはずがなかった。
 瞳を爛々と輝かせているチルノに、文は眼下の森を指し示す。
「ちょうど、あそこの樹の幹に生えているんですよ。ご案内しましょう」
「わーい」
 二人は森の中に降り立ち、チルノが文の後ろに続く。
 実際に歩いたのは十歩程度だったから、文が例の樹を指差したのも、チルノがそれを発見したのも、降り立ってそう長い時間が経っていたわけではなかった。けれども、チルノは二の句を告げることも出来ず、文が指示した樹の幹に生えているものを、じっと凝視していた。
「それ……」
「はい、これです」
「いやこれですって……」
 チルノはうろたえていた。だがそれも無理はない、雄々しい樹の幹から生えていたのは、まさに男性器と見紛うばかりのキノコだったのだから。
 文はにこにこ笑っていた。
「キノコです」
 美味しいですよ、と付け加えたところで、何の説得力もなかった。
 チルノはたじろぐ。これでもれっきとした女の子である。
「き、きのこかもしれないけどさ……なんか、いやらしくない? 形が」
「どこがですか」
 開き直っていた。
 どこがいやらしいか、その説明をすれば納得するのかもしれない。だが、説明すること自体がひとつの恥辱である。抜かりがない。チルノもなんとなく罠である可能性を察していたが、何も知らないネンネであると悟られるのも恥ずかしいという子どもの強がりから、動じているのを気取られないように、なるだけ堂々と説明を試みた。
「だってそれ、おちんちんにしか見えないじゃん!」
 力強く、腰の中ほどから生えているキノコを指差す。腰の位置、というのがあまりに示唆的だった。雄々しく天を貫いている森の異形は、キノコというには表面がつるつるしており、プリンを刳り貫いて形作ったような特殊な形態だった。そしてあたかも本物の男性器かと思うくらい緻密な細工が施されているため、自然の神秘とは恐るべきものなのだなあと感嘆することしばしであった。
 チルノの指は差した直後からぷるぷると震えており、予測しがたい事態に困惑しているのは目に見えて明らかだった。文は動揺の極みにあるチルノを見て、ふっ、と笑った。余裕の笑みである。
「確かにそこはかとなくおちんちんに見えないこともないですが、これは立派なキノコなのですよ。それも極上のマツタケです。この季節にしか生えない、超希少なチンチンマツタケ」
「チンチンって言ってるじゃん」
「それは些細な問題ですよ。昔の人は言いました、××味のカレーとカレー味の××は何か違いがあるのか、と。ならば、おちんちんの形をしたマツタケも、マツタケの形をしたおちんちんも、潜在的には同じものなのです」
「××……」
 月人にしか発音できません。
「まあ、味は確かですから」
「えぇ……で、でも……」
「ほらほら」
 やたらと乗り気な文に背中をぐいぐいと押され、長さ20cm、直径5cmは軽い怒張に少しずつ肉薄するチルノ。
 このまま無理やり咥えさせられるのも本意ではない。とりあえず強引な文の腕を振り解き、自分の意志でもって、マツタケの前に屈み込む。
「わ、わかったわよ。騙されたと思って、食べてあげるわよ……それでいいんでしょ」
 ふん、と鼻を鳴らし、おそるおそる、ぷるぷると震えるキノコの笠に触れる。つんつんと先っぽを触ると、びくんと大きく跳ねる。文は臆面もなく「反射です」と口にした。
 嫌な予感がチルノの脳裏を駆け巡る。が、結局はその場の勢いに負け、おずおずとそのマツタケにしゃぶりついた。
「はむっ……、んん……!」
 唇に感じる違和感は、なんでこんなに熱いの、というものだった。硬さはともかく、人肌の温もりが感じられるのはおかしい。横目で文を見れば、「擬態です」といまいち答えになっていない答えが返された。
 チルノは諦め、口に含んだ大きなキノコに歯を立ててみた。
「あむぅ……はぐ、むぅ!」
 しかし、おちんちんキノコはいくら噛んでも噛み切れぬ弾力を秘めていた。精一杯噛んでも、歯の噛み跡すら付いていなかった。よく見れば根元は幹に接着しており、引き抜こうとしても容易にはいかない。握り締めてもやはり適度な弾力と芯の硬さに跳ね返され、つるつるぷるぷるのマツタケは相も変わらずその怒張を天高く突き上げるのだった。
 外見上はご立派な性器のくせに、その力強さは本物を遥かに凌駕している。
 今一度、チルノは文に助けを求めた。
「ていうか、これ、食べられないんだけど……」
「チルノさん」
 まつたけの幹を掴みながら、困ったように懇願するチルノに向かって、文は得意げに語り始めた。
「おちんちんまつたけは、ある特別な食べ方をしないと駄目なんですよ」
「だったらそれを早く言いなさいよ……。咥えちゃったじゃない、おちんちんそっくりなのに……」
 チルノはへこむ。
 名前が若干変わっていることは、もはや瑣末事であった。正式名称があるかどうかすら怪しいのだから、取り分け気にするところでもない。
「まつたけですよ?」
「どう見てもおちんちんじゃない! しかもびんびんに勃っちゃってるし!」
 まつたけを樹の幹にぎゅうっと押し付けながら、チルノは文を問い詰める。だが、憤慨する氷精にも全く動揺する素振りを見せず、文は作業的とさえ思える動作でまつたけの先端を弄くり始めた。
 そのあまりの唐突さに、チルノもどう反応していいかわからない。
「え、ちょっ、なにしてるのよ!」
 ひとつのまつたけに二人が絡み合う異様な光景は、文のしなやかな指に弄られていたまつたけの先端に、ちんちんで言うところの尿道口が出現したことによって、その勢いをよりいっそう加速させた。
 ぱっくりと空いた穴を見せつけられ、チルノも開いた口が塞がらない。親指と人差し指で射出口を露にした文は、空いた手を使って丁寧に説明を始める。
「これです。ここから胞子が出て来るわけですね」
「胞子……って、赤ちゃんの素でしょ? そんなの飲んで大丈夫なの?」
「人間が鶏の卵を食べても問題ないように、おちんちんまつたけの胞子を飲んでも、全く問題はないのですよ。むしろ美味しいくらいです。病みつきになります」
「えー……うそだぁ……」
 だって、おちんちんそっくりのまつたけから出て来る胞子なのだ。それがたとえまごうことなき本物の胞子であったにしろ、気分はもはや性器から射精された精液を飲み下しているのと大差ない。
 いくらチルノでも、度重なる性教育によりそのあたりの知識は漠然と理解していた。精子は本来、上の口じゃなくて下の口に出されるべきだ。そういうたとえをしている時点で何処か外れているのだけれど、当のチルノは違和感に気付くこともなく純粋に受け入れていた。
 だから、ぐっと親指を立てている文の胡散臭い笑顔も、いまいち信用出来ないのだった。
「ほんとですってば。信じてください」
「うー……だったら、あんたが先に舐めてよ……」
 苦し紛れに試飲の権利を文に譲ると、引くかに思えた文は、事もなげに「わかりました」と承諾した。
 呆気に取られるチルノから特等席を奪い、おちんちんまつたけの正面に陣取る。
 ごくり、と唾を飲み込んだかと思えば、すぐさま手のひらをきのこの裏筋に這わせ、先端を柔らかく口に含む。搾り取るように幹を扱き、先っぽをしつこく啄ばむ。舐めるたびに唾液が広がり、ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が辺りに広がる。
「んむ……ぺちゅ、ちゅるる……んふぅ、こうして、胞子を搾り出すんですよ……?」
 横目でチルノを眺め、裏筋に舌を這わせる。手のひらは先端に優しく触れ、指先は尿道口を丹念にいじっている。根元から、カリ首のあたりまでを何度も舌で往復し、てらてらと唾液の鈍い輝きが出てきた頃、空いていた左手で幹の全体を大きく扱き始める。
「ん、んぅ、ふうっ……こうしないと、きのこも胞子を出してくれませんから……んふ、どうせなら、いっぱい出してくれないと、んっ」
 にちゅる、ぐちゅぐちゅ、と卑猥な音が響き渡る。カリ首には泡が溜まり、文は度々それを舌で舐め取った。時には舌先で尿道口をぺろぺろと舐め、扱く速度に合わせて大きく飲み込むこともあった。
「んちゅ、ぷちゅっ、ちゅる……ん、んっ」
 行為を続けているうちに、手と首の動きが急に速くなった。文は一心不乱にまつたけをしゃぶり、早く胞子を飲ませて欲しいと激しく擦り続ける。
 チルノには、その様子がまるで本当に射精を促している女の姿に見えて、ぽかーんと口を半開きにしながらも、食い入るように見詰めるしかなかった。
 そうして、放出の瞬間は訪れた。
「んんぅっ! んぷっ、くぅ……ぷじゅるぅ……」
 文の咥内で暴発したまつたけは、あまりに大量の胞子を吐き出したため、文の口から微量の胞子が零れ落ちてしまった。胞子というには粘性のある白い液体が、柔肌を伝い、つららとなって顎に溜まる。
 射出されている最中も、文はまつたけの幹を何度も擦り上げ、内部に残っている胞子を余さず最後まで搾り取ろうとする。ごくごくと美味しそうに喉を鳴らし、ぷちゅぷちゅといやらしい音を立てながらおちんちんまつたけの胞子を飲み下す光景は、誰がどう見ても立派な淫行だった。
「んん……じゅる、ちゅぽぉ……」
 最後に、まつたけの先端を唇で吸い取り、文は恍惚の笑みを浮かべながら顎に伝う胞子を拭った。
「あぁ、はあ……胞子、たくさん出ました……」
 感想を述べる文の口の中には、まだ若干の胞子が残っていた。とろん、と焦点が定まっていない目をチルノに向け、逃げる隙も与えずに、まだ小さな肩を引き寄せる。
 一瞬だった。
「んむぐぅ!」
「むちゅぅ……」
 文は、みずからの口に発射された胞子を、口移しでチルノの舌に送り込んだ。
 チルノも舌の異物感に身悶えながら必死に抵抗するが、そもそも舌を絡めることが胞子の味を感じることに繋がり、ディープキスをされていることそのものもがいわゆる敗北といっても差し支えなかった。
 接触は、十秒ほど続いた。
 後半は、胞子どうこうと言うより、文がキスを愉しんでいる時間帯であった。
「ぷちゅるぅ……んっ、ぷはっ」
 唇を離すと同時に、チルノが文を弱々しく突き飛ばす。よほどショックが大きかったのか、チルノはよろよろと地面に手を付いて項垂れていた。
「うぅぅ……なんか入ってきた……」
 口の中に感じる胞子は、どろどろで、半固形状の白っぽい液体であり、舌触りは決していいものではなかった。けれども、甘いと言われれば甘く、味があると言われれば、確かにそうなのかもしれないと思わせる何かがあった。
「んっ……!」
 とりあえず飲み込まないことには始まらないと悟ったチルノは、涙が零れそうになりながらも何とかそれを飲み込む。喉を流れる胞子は、チルノが初めて味わう感触だった。気持ちがよいとか悪いとか、そんなことはどうでもよかった。ただ、精子に似た胞子を飲んでいるという事実が、チルノの心に深く突き刺さっていた。
「う、うげぇ……」
「どうでした?」
 臆面もなくそう尋ねてくる文に、一体どんな言葉を返せばいいものか。
 怒りか憎しみか、それとも新たな感覚を目覚めさせてくれたことに対する感謝か。
 漠然とした衝動に駆られながら、憎まれ口のひとつでも叩いてやろうと、顔を上げたチルノが見たものは。
「実はこれ、まだこんなにあるんですよ」
 文が指し示す方向に構えている、おちんちんまつたけの勇ましい御身だった。
 文の表情から察するに、彼女はもう病みつきになっている。危険な兆候だった。チルノがお人好しならすぐにでも助け出してあげたいところだったが、別にまあ死にゃしないだろうと思える程度の事柄だったため、ここは逃げの一手を打つことにした。
「あ、うん。それじゃ、またの機会に!」
 強引に会話を締め、素早く地面から飛び去ろうとする。
 だが。
「――あ、あれ?」
 がくん、と。
 大地から生えてきた手に足首を掴まれたように、膝から崩れ落ちてしまう。力が入らない。身体がぶるぶると震える。寒気はしない、むしろ、全身が火照っているような気がする。
 何か、おかしい。
「ちょっと、これ、なんなの……?」
 違和感の正体を見定めようと、文を見たのがまずかった。
 既に二本目のまつたけを舐り始めていた文の視線が、うずくまっているチルノの身体に絡みつく。まずい。逃げなくちゃと思うのに、どうしてだか身体は言うことを聞いてくれない。熱い。胸が、股間が疼く。無性にあそこを弄りたくなる。駄目だとわかっているのに、抑えることができない。
 どうしてだろう――という最後の思考でチルノが出した結論は、あの胞子が原因だという説だった。多分、それは正しい。文も胞子に侵されているのだ、けれども、それを知ったところで何にもならなかった。
「はぁっ、ふあぁ……!」
 右手が自然と股間に滑り込み、左手が自動的に乳首を摘まむ。どちらも痛いくらいに擦っているはずなのに、頭が痺れるくらいに気持ちよく感じられる。触れるたびにびくびくと身体が震え、視界が歪んだ。
「――ッ、あはぁ、これ、すごぉい……」
「ふふ、そうでしょう……?」
 恥辱に溺れるチルノを見下ろし、文は満足げに微笑んでいた。
 その淫靡な笑みを見上げたチルノは、よだれに濡れた唇を小さく尖らせる。
 文もその意図に気付き、自慰に忙しいチルノの唇を犯すために、みずからの唇を少女のそれに重ねた。
「んむぅ……にちゃ、くちゅぅ……」
「ちゅく、んぷ、んんぅ! ぷぁ、れろぉ……」
 チルノはみずから舌を突き出し、文の舌と激しく絡め合う。唾液が交換され、唇の間を滴り落ちる。
 文の指先はチルノの閉じた蕾を撫で、チルノの指先は文の花びらを懸命に穿り返していた。
 もう水滴しか聞こえない。
 種付けを終えた菌類は、天を突くことを諦め、大地にその先端を向けている。
 だが、まだまだきのこは残されている。
 宴は続く。
 雨のない空に打ち上げるように、水滴は、絶えず大地に落とされていた。

 

 


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一日エロ東方

七月十四日
(花映塚 メディスン・メランコリー)



『夢にまで見た球体関節』

 

 人形の作り方は知っている。
 だが、生きた人形は作れない。少なくとも、今は。
 純白のシーツの上に寝かされているのは人形だ。完全に肌が露出し、一見すると健康的な少女にしか見えない。呼吸も行い、心臓の鼓動も確認されている。血液の有無はわからない。下手に傷つけると、毒性のある気体や液体が溢れ出す可能性がある。
 メディスン・メランコリー。
 無名の丘に居着いている、新しく生まれた妖怪である。元は人形だが、何らかのきっかけで命を得た。その起因となるのは、おそらく無名の丘に咲き誇っている鈴蘭であろう。鈴蘭の毒が人形の体内に充足し、メディスン・メランコリーというひとつの生命を生み出したのだ。
 毒薬変じて甘露となる。
 蓬莱の薬も、考え方次第では毒にも薬にもなる。毒もまた何かを救う。侵すことは侵されること。救うことは救われること――あるいはそれほど単純な話でもないのかもしれない。だがアリスは眼下に眠っている人形の姿態を観察し、自律する人形の存在に見惚れていた。

 

 彼女を捕獲するのは容易ではなかった。
 何しろ、近くに居るだけで彼女が発する毒の影響を受けるのだ。能力の制御が出来ていない、手加減を知らないメディスンを相手にするのは、常に安全策を取るアリスには分が悪い相手だった。
 まして、あちらは人間のみならず人形遣いを憎んでいるフシがある。下手に手を出せば、全力の報復を受けるのは明白だった。人形を封じられ、素性を隠し、それでもアリスはメディスンと接触する道を選んだ。
 アリス・マーガトロイドがこういった博打を行うことは珍しい。
 だが、アリスの根底にあるものは魔法使いとしての好奇心であり、興味があるのなら手を伸ばす、それが自然だった。そのために魔法使いになる道を選び、こうして魔法使いとして生きている。
 今、メディスンと接触する道を避けても、魔法使いの長い生においては遠回りにもなりはしない。諦めることも時には必要だ。越えられない壁があれば、右か左に進路を変えるべきだ。正面突破は必ずしも美徳にはならない。
 だが、アリスは思う。
 通らなければならない道がないように、絶対に避けなければならない道もまた、存在しない。
 最初から駄目だと諦めるくらいなら、自律人形の開発など取り組んでいない。不可能を可能にする、そこには無数の障害があるはずだ。それらをいちいち避けていたら、魔法を使っているかどうかさえ解らなくなるくらい耄碌してしまう。
 最短距離を行く必要はない。けれども、利用出来るものは利用する。
 そういう道である、というだけの話だ。

 

 無名の丘に訪れたアリスは、不法侵入を咎めに来たメディスンに自身の素性を明かした。
 人形遣いであることを隠し、ただの魔法使いであると。
「魔法使いって人間じゃないの?」
 興味深く突っついてくる彼女に、元々は人間、でも今は似て非なるものよ、と曖昧な答えを返した。
 多少、首を捻っていた彼女も、人間じゃないならいいや、と納得するに至った。
 第一関門は突破した。
 アリスはその後、毒が全身に回らないよう適度に距離を取りながら、少しずつメディスンの情報を聞き出した。メディスンは生まれて間もない妖怪だから、適切な受け答えは期待出来ない。けれども、積み上げていく雑多な情報から、メディスン・メランコリーという存在を類推することは十分に可能だ。
 質問と回答を繰り返すうちに、解ったことがいくつかある。
 メディスンは、無名の丘に捨てられたことを覚えている。
 メディスン・メランコリーという名は、初めから知っていたと言っている。
 毒は無限に溢れて来るけれど、時期、天候、気分によって力が変動するということ。昔は鈴蘭が咲いている時期にだけ活動出来たが、今は咲いていない時期にも動くことは出来るということ。
 傍に浮いている人形は、メディスンが操っているのではないということ。自由気ままに動いているように見えて、決してメディスンから離れようとしない。彼女が無意識のうちに操っているのかもしれない、と考える。
 他にも、何故人間を憎んでいるのか、人形遣いを憎んでいるのかを尋ねたところ、
「だって、人間の都合で生み出されて、勝手に操られたり捨てられたりするんだもの。可哀想よ」
 と、人形らしい答えを述べた。
 可愛らしく頬を膨らませて憤慨する彼女を論破することは容易かったが、アリスの本来の目的はそこではない。妄信的に人間への呪いを発酵させている今、何を言っても逆効果にしかならない。
 それに、彼女の言うことも一理ある。
 今のアリスでさえ、メディスンを自分の研究の礎にしようとしているのだ。
 建設的に協力を得られれば問題はない。だが、今の彼女には棘が生えている。それらをひとつひとつ抜いている時間はなかった。メディスンのためならば、抜くこともやぶさかではなかった。ただ、今はアリス自身のために、理想を追求する。
 欺瞞か。
 ならば、検体となるメディスンを無駄にはすまい。
 アリスはメディスンの言葉を適当に受け流し、しばらく鈴蘭の海で他愛のない話を続けた。
 そのうち、メディスンがアリスを気遣うような視線を送るようになった。
「どうしたの」
 なるたけ優しく問い掛けると、
「ん、別に、体調が問題ないならいいんだけど。毒が気になるなら言ってね」
 何でもないことのように言い、倒れられるのも面倒だし、と補足した。
「もし倒れたらどうするの」
「あそこに運ぶ」
 指差した方向には、嵐が来れば容易に倒壊しそうなあばら家が建っていた。
「あなたが建てたの?」
 ぶんぶんと首を振る。頭のリボンがふわふわと揺れた。
「起きたら、あそこにあったの。便利だから私が使ってあげてるのよ。古いからって、簡単に捨てるのは勿体ないからね」
 ねー、と隣に浮いている人形に同意を求める。人形はふわふわと浮いていた。
 皮肉かと思ったが、表情からすると特に意識せずに呟いた台詞のようだ。あまり、捨てられたという実感はないのかもしれない。体験ではなく、知識のみの情報だと、見捨てられたという悲劇もどこか他人事のように感じられる。メディスンもその類なのかもしれなかった。
 アリスは覚悟を決めた。
「よければ、お邪魔してもいいかしら?」
 どうして、と聞き返されたら、具合が悪くなったから、と答えれば済む話だ。問題はそこではなく、いやがうえにもメディスン・メランコリーの真実に肉薄している自分が、どうしようもなく無粋に感じられたことだった。
 彼女が自発的に話してくれるのを待つことも出来た。
 だが、不確定要素に頼ることの恐ろしさもあった。
 要は、天秤がどちらに傾いたかに過ぎない。
 そう思うしかなかった。
「いいよー」
 メディスンはあっさりと答え、アリスをおんぼろの家に招待した。
 第二の関門が突破された。

 

 寝室の他には、玄関と台所しかない小さな家だった。
 メディスンは栄養の全てを鈴蘭の毒に頼っているようで、調理の機会を未来永劫に失った台所は、ただの物置と化している。四肢が破損した人形、茎の折れた花、何らかの骨、おおよそガラクタと呼ばれるものばかりだった。メディスンが何かに使えると拾って来たのはいいが、修理も出来ないからただ放置しているらしい。
 寝室には簡素なベッドと化粧台、天井に接するくらい大きな箪笥があった。
 ベッドはスプリングが剥き出しになっている箇所もあったが、小さなメディスンが寝るには全く問題がなかった。化粧台の鏡は不思議なことに罅割れすらしておらず、多少は毒の影響を受けているのか顔色が優れないアリスと、さして警戒することもなく無防備にベッドに寝転がっているメディスンが、綺麗に映し出されていた。
「あら、眠いのかしら」
「んー……ちょっと」
 正直に答え、染みの目立つシーツに顔を埋める。汚くないのかと思ったが、メディスンの身体から発している毒がシーツを殺菌している、と考えることも出来た。確証はないが、ありえない話でもなかった。
 程無くして、メディスンの口から心地よさそうな寝息が聞こえてくる。人間のように眠り、呼吸し、生きている。元々は人形で、今は妖怪に分類されるメディスン。元々が人間で、今は魔法使いのアリス。似ているのか、案外そうでもないのか、区別する意味があるのかどうかさえよく解らなかった。
「……最終関門、越えたわ」
 独り言のように呟き、化粧台から離れる。
 鏡の前には、色褪せた手記が置かれている。そこにメディスン・メランコリーを語る上で重要な何かがある、そう知りながら、アリスは古びた手記に背を向けた。
 アリス・マーガトロイドは魔法使いである。
「初めから問題の解答を見ても、面白くもなんともない」
 それはやはり、独り言のような結論だった。
 あらかじめ用意していた手袋を装着し、丁寧にメディスンを抱え上げる。親が子を抱くように優しく抱えているのに、毒が肌を冒さないように少し身を離しているのが、何故だか無性に申し訳なく思えた。

 

 アリス邸。
 窓のない部屋に、無骨なベッドが置かれている。純白のシーツに寝かされている少女は、人形のように美しい身体をしていた。唇からは小さな寝息を立て、呼吸に合わせて胸も上下している。
 始終、メディスンの周りに付いて回っていた小さな人形は、部屋の外で上海や蓬莱と遊んでもらっている。
 検証した結果、睡眠時には無差別な毒の放出が沈静化し、肌に触れても数秒なら問題ないことが判明した。念のため、毒を弾く礼装を施した手袋と白衣は準備しているが、仮にメディスンの身体を隅々まで弄るとした場合、軽い魔術礼装程度では役に立たないだろう。
 人形遣いのアリスをしても、メディスンの身体を正確に弄れるかどうか解らない。まして、メディスンは人形から妖怪に転じた存在だ。前例がないとは言い切れないにせよ、アリスが実際に触れたことがない以上、メディスンの存在は限りなく未知に近い。
 だが、やると決めた。
「ごめんなさい」
 せめてもの慈悲から、手足の拘束はしていない。逃げようとすれば、簡単に逃げることは出来る。メディスンがいつ目覚めるのか、深い睡眠であることは確かだが、はっきりしたところはアリスにも解らない。
 一時間。
 それ以内に何も見つけ出せなかったら、速やかに観察を終える必要がある。
「始めましょう」
 メディスンが目覚めた場合を考慮して、部屋の中に人形は置いていない。また、人形がメディスンの無意識下の支配を受ける可能性もある。機会があればやってみたいと思ったが、愛着のある人形を手放すのは辛いものがあった。今は、目の前のメディスンに集中する。
 手袋を嵌め、メディスンの肌を優しく撫でる。未熟な少女の肉体を眺めていると、元が人形だったとは俄かに信じられない。実際、肌をなぞってみても、弾力や滑らかさは人間の脂肪と皮膚そのものだ。人形を精製するとき、確かに人間をモチーフにはするものの、骨と脂肪と血と皮膚と神経を繋ぎ合せて身体を作り上げているわけではない。そんなことが可能なのは、人間の子宮だけだ。
「凄い……」
 感嘆する。
 触れてみて初めて、アリスはメディスンの素晴らしさ、恐ろしさに心が震えた。
 リボンが外された金の髪は、人間のそれと変わらない。人形に人間の髪を移植するのはそう珍しいことでもない。だが、抜けた髪の跡に毛根があるのは、通常の人形ならあり得ないことだ。
 同じように、歯も人間のものと同じだが、舌は味を感じるように出来ている。試しにアリスが蜂蜜を付けた指をメディスンの舌に押し付けたら、メディスンは美味しそうにそれをぴちゃぴちゃと舐め取った。塩、酢で試したところ、それと全く逆の反応を示した。無名の丘でも味の異なるパンを与え、それぞれの反応が違うことを確認している。神経が繋がっている証拠だった。
「次は……」
 成熟し切っていない幼女の身体に触れ、あれこれと観察するのは背徳的な魅力があった。汚れを知らない身体に触れているという、ふしだらな興奮が掻き立てられる。アリスは純粋にメディスンを研究対象と見ていたが――そうでなければ情が移り、誤差が生じるため――、好奇心を刺激され、知的欲求を満たされては、興奮せずにはいられなかった。その興奮を淫らな感覚と混同しても、行為を止めることは出来なかった。
 アリスは、指の先をメディスンの関節に滑り込ませる。つぷぅ、と皮膚を巻き込みながら体内に侵食する感触は、ただの脂肪に指を突き入れるだけでは得られない快感に溢れていた。
「――っく」
 不意に、静電気のような衝撃が、アリスの指先から腕、肩、首に駆け上ってくる。咄嗟に関節から指を引き抜き、あらかじめ用意していた溶液に浸す。徐々に引いていく痛みに安堵する一方、やはり、そう容易には弄れないと悟る。
 関節に指を入れたのは、そこが球体であるか否かを確認したかったからである。人形だった頃のメディスンが作りだったのかを知れば、その造形をベースにした自律人形を作ればよい。おそらく特殊なケースであるらしいメディスンが球体関節構造だったからといって、球体関節構造の人形がどれも妖怪になるとは限らない。
 だが、確かめることは無駄ではないと思った。
 新しい手袋を嵌め、指先に魔力を集中させる。余計なことは考えない。ただ、皮膚と脂肪と筋肉に覆われた肉体の中に、何があるかを調べるのだ。アリスは意を決し、かすかに震える五指をメディスンの関節に突き入れた。
「――うぅ! あ、あ、あぁっ!」
 突如として、メディスンが苦しげに身悶える。今度は魔力を込めた指先で、身体の中身を穿られているのだ。反応しない方がおかしい。だが、目が覚めたのではなかった。アリスの指が止まると、喘ぐのをやめ、再び浅い呼吸を取り戻す。
 慎重に。それでいて、深く。
 アリスは潜行を再開した。
「……ふぅ、あぁ……ん、くぅん……」
 皮膚も、脂肪も、筋肉も傷つけぬよう、その奥にある関節の正体を探る。感触からすると骨なのだが、何か違和感がある。あるいは、球体関節も時を経てただの骨に変わってしまったのかもしれない。それもまた常軌を逸する進化だが、果たして本当にそうなのだろうか。
 アリスは、ひとつの仮説を立てた。
「ん、はぁ……」
 メディスンは、むずがゆそうに寝息をこぼしていた。頬を上気させ、空いた手のひらを小さな胸に押し付けている。身体はまだ起きている。今は、夢を見ているのか。それも、信じられない話だった。
「あなたは……立派に一人立ちしているのね」
 アリスはまぶたを閉じ、仮説を実証すべく、突き入れた指先からメディスンにリンクを試みた。ちょうどアリス自身が作り出した人形とリンクするように、繰り人形に仮初の命を吹き込むように。
 アリスの指先から、メディスンの全身に広がる魔力の線。不可視の糸は人形の内部に絡みつき、命を吹き込む場所を探して彷徨い続け――。
 がくッ、がくんとメディスンの身体が跳ねた。拒絶反応にも似た反射だ。
 危険を感じたアリスは、メディスンが気付く前に指を抜く。あまりに集中が高すぎて、体内の毒素に指が壊死しかけていたことも解らなかった。ただ、荒い呼吸と激しい動悸がアリス自身の興奮を示していた。
「……すぅ……ひゅ……」
 メディスンの呼吸が落ち着き始め、胸を掻き毟らんばかりに押さえていた手も、今は力なくベッドの上に投げ出されている。額からは汗が滲み、アリスがそれを指で掬って舐めてみると、やはりどこか塩っぽい味がした。
 人差し指の第一関節に残る、メディスンの関節を思う。
 球体。
 ほんの一瞬、骨張っていた関節に人形の頃の球体が蘇った。アリスがメディスンを操ろうと触手を伸ばしたら、メディスンの人形だった部分が解放されかかった。
 仮説は実証された。
「あなたはもう、動かされるだけの人形じゃない……だから、球体の関節は要らない」
 動かされるだけの人形だった頃を思い出し、一瞬、球体関節が復活した。だが、今のメディスンに、人形だった頃の部品はもう要らない。だから、身体は球体関節を拒絶した。人形に戻ることを、無意識のうちに拒んだ。
 みずから動き、意志をもって何かをなそうと生き始めた瞬間から、メディスンの肉体は再構築されていた。人形から人間へ。それは毒がもたらした奇跡かもしれない。あるいは、メディスンが背負わされてしまった運命の皮肉かもしれない。
 アリスは嘆息した。
「道は、険しいわね」
 命の重み。
 そんな当たり前のことが、今更になって、アリスの肩に重く圧し掛かっていた。

 

 メディスン・メランコリーの観察はその後もしばらく続き、一時間弱でおおよその解析を終了した。
 性交、出産の可能性を示唆する女性器の発現もまた衝撃的だった。初潮、排卵が正常に行われているかどうかの確認は出来なかったが、試しに指を挿してみるとかなり奥まで挿入することが出来た。愛液の濃度も申し分なく、機会があれば人間と性交させてみるのも面白いと思った。
 だが、メディスンが能力を制御出来なければ、たとえ妊娠したとしても、みずからの毒で胎児を殺してしまいかねない。受精するより早く精子を皆殺しにしてしまう可能性もあり、それ以前に膣内で男性器を壊死させてしまうかもしれない。課題は山積みだった。
 アリスは、自律人形の生成過程から、メディスンそのものに興味が移っていることを悟った。
 初めて目の当たりにした自律人形だ、その在り方に魅入られ、知り尽くしたいとこいねがうのも無理はなかった。
 解ったことはいくつかある。解らないことはそれ以上にある。だから、これからもメディスンと付き合うことになるだろう。そしていつか、アリスの素性が露見する時が来る。叶うならその瞬間には、ごめんなさいと素直に謝ることが出来るような自分でいたい。
 綺麗事と知りながら、アリスはそう思った。
「……うー、おはよう……」
 メディスンの家、壊れかけたベッドから起き上がり、化粧台の前に座って寛いでいるアリスに、メディスンはまぶたをこすりこすり挨拶をした。
「おはよう。ぐっすり眠れた?」
「ん……変な夢見ちゃったからよくわかんない……」
 衣服の乱れもない。リボンもしっかり結んである。すこし濡れた額は汗を掻いた証拠だった。
 お疲れさま、と労いの言葉を送り、アリスはメディスンにカップを差し出した。ハーヴティーだった。メディスンの小さな鼻がひくひくと動く。
「あれ、鈴蘭?」
「かもしれないわね。美味しいわよ」
 勧められるままに受け取り、ゆっくりとハーヴティーを啜る。
 ぱぁ、と明るくなるメディスンの表情を見、アリスも頬を緩めた。
「あなたがなかなか起きないから、キッチンを整理して勝手に使わせてもらったわ」
「おいしい!」
「ありがとう。光栄ね」
「ねえ、また作ってくれない?」
 ――今度、たくさん毒をあげるから。
 皮肉にも似た感謝の言葉を受けても、アリスはごくごく普通に「喜んで」と承諾した。

 

 


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一日エロ東方

七月十五日
(花映塚・風見幽香)



『あぶらかたぶらなんぷらー』

 

 人間の里にある花屋には、妖怪もよく訪れる。
 花が好きな妖怪は数が多く、そのぶん飽きるのも早いのだが、風見幽香はたびたびこの花屋を訪れていた。春夏秋冬、よりどりみどりとはいかないが、かなりの花を揃えていることから、彼女が贔屓にしている数少ない人間の店である。
 幻想郷縁起によると人間有効度が最悪であると記されているが、こちらからちょっかいを出さない限り危害を加えられることはまずない。幽香も人間にあまり興味を持っておらず、里にも用事があるときくらいは来ない。運がよければ挨拶されることもあるだろうが、こちらから挨拶しても、必ずしも挨拶が返って来るとは限らない。
 ただ、花屋に現れる頻度が高く、挨拶される回数も多い。それだけと言えばそれだけなのだが、だからこそ花屋の主人は、風見幽香がさほど凶悪な妖怪には思えないのだった。妻や娘からは暗に「気を付けた方がいいよ」と進言されるのだが、わかったわかったと笑い返すのが常である。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
 そして、今日もまた風見幽香がやってきた。
 快晴の日差しに、優雅に傘を差し、水を撒いている主人の邪魔にならないよう、すこし離れたところからにこやかに挨拶をする。主人も丁寧に挨拶を返す。撒いた水は物凄い速度で気化し、地面の熱を奪い去ることで涼気を誘い込む。
 通りを歩く人々は、恐怖と好奇心から遠巻きに大妖怪を眺めている。当の幽香は不躾な視線など気にする様子もなく、小さな展示用の庭に咲いている百合を見つめていた。主人は柄杓を空っぽになった桶に突っ込み、邪魔にならないところに寄せた。彼女が来れば、花屋はもう彼女の貸し切り状態になる。幽香が具体的に要求したわけではないのだが、彼女の風聞を知っていれば、他の客がいなくなるのも仕方のない話であった。
 幽香の視線が、百合から主人に移る。
 彼女が花を所望したことは一度もなく、他愛のない話を繰り返すのが通例だ。話題は多岐に渡り、花のこと、里のこと、人間のこと、時には主人のことであったりもした。花が好きであること以外に大した自慢もない店主は、自分のことを尋ねられると決まって言葉に詰まった。照れ笑いを浮かべ、別の話題を探し始める。幽香は、そんな主人の様子を面白そうに眺めるのが常だった。
 太陽は南中に達し、傘が作る影は幽香の表情を覆い隠している。何を考えているのか解らないのはいつものことだけれど、店主は、彼女の表情が見えないことが少しだけ怖くなった。
「百合、香りが強いですわね」
 ふと、そんなことを言う。熱い日差しにも動じない涼やかな音色が、風鈴のように心地よい響きをもって店主の耳に滑り込む。
「はい。長いあいだ匂いを嗅いでいると、頭がくらくらするときもあります。まあ媚薬というのは言いすぎでしょうが、植物がおしべとめしべを惜しげもなく曝しているというのは、少なからずその手の意味合いも含まれるのでしょう」
 すらすらと思うままに答えた後で、不謹慎だったろうかと泡を食って幽香の顔色を窺う。
 彼女はすこし傘の位置をずらし、空の光に飾り気のない素顔を透かしていた。原色に近い緑の髪は、大地に根付いた植物に等しい。光と水があれば立派に育ち、大地に大輪の花を咲かせる。風見幽香はその化身であると、そう信じていた頃もあった。
 だがその本性は、自由奔放勝手気ままな妖怪なのだと、心のどこかで悟っていた。彼女が妖精ならば話は早いが、妖怪という肩書きだからどこか期待してしまう。あるいは彼女が、大地に咲く自然の権化ではないかと。
 それはそれで近寄りがたい存在になるのだが、今でさえ容易には近寄れない類の存在なのだ。今更その在り方が変わったところで、付き合い方が変わることもない。
「花を眺めていると」
 唐突に、幽香は言った。
「心が安らぎますわ」
 ずっと差していた傘を畳み、店主と視線を合わせる。一見、汚れがないように思える瞳に射竦められ、店主の身体が硬直する。だが、幽香が何の邪気もない微笑みを浮かべているのだと知ると、硬くなっていた身体が次第に緩んでいった。
「ですから」
 店主の言葉を待たず、幽香は垂れ下がっている彼の手に触れる。ああ、柔らかいな、と当たり前のことを考えた。
「花を愛しているあなたのことも、私は愛しているのですよ」
 幸い、二人の話を聞いているものはいなかった。
 今、娘は寺子屋に通っている。妻も用事に出ている。しばらくは帰って来ない。
 幽香は目の前に佇んでいて、花を愛でるのと同じような手付きで、店主の指先に触れている。
「しかし」
 店主は抵抗の意志を見せる。二人の会話に耳を澄ましているのは花だけだ。鬼百合、姫百合、鉄砲百合、無数の目が絡み合う痴情のもつれを視姦している。
「いけませんわ。素直になりませんと」
 幽香は、期待に膨らんでいる店主の股間に、片方の手のひらを這わせた。
 やや乱暴にその手を引き離そうとする店主の表情を見て、くすくすと厭らしそうに笑う。
「あなたがまるで子どもを諭すように、おしべやめしべのお話をするものですから。わたくし、その気があるのかと考えてしまいました」
「いえ、それは、私の不徳と致すところで」
 しどろもどろに述懐する彼を、幽香は力強い文言で遮った。
「構いませんよ」
 好意を持っているのだと、幽香は言った。彼が幽香に抱いている憧れのようなものが、下手をすればただの無粋な劣情に成り代わってしまう。彼はそれを恐れていた。だから単純な性的欲求を抑え、この場をやり過ごす必要があった。
 けれど、意志に反して、身体は敏感に反応していた。
 耳たぶに、幽香の吐息がかかる。
 温かい。
「私も、その気になってしまいましたから」
 そっと寄せられた胸から、幽香の激しい鼓動が伝わってきた。
 熱い吐息が心臓を掴み、このまま喰われるのか、それとも、お互いを貪るのか。
 その答えが出るまで、少なくとも、半刻は見積もらなければならなかった。

 

 

 店主が風見幽香と共に店の中に消える瞬間を目の当たりにした人物は、誰一人として存在しなかった。人通りが絶えない道であるはずなのに、その時だけは綺麗さっぱり人の目が無くなっていた。
 同様に、店じまいの看板が出ていないにもかかわらず、花屋を訪れるものもなかった。時折、庭の百合を興味深く眺める人はいても、何故か店内を見て回ろうとする人や、店主を呼ぼうとする人はいなかった。
 幽香は動揺している店主の手を引いて店の奥に進み、居間、寝室も素通りして、風呂場の前に辿り着いた。風呂場の脱衣所は多少なりとも余裕のある造りになっており、大の大人が着替えても身体がぶつかることもなかった。
 洗面台に映る自分の表情を確認し、幽香は上着のボタンに指を掛けた。
 咄嗟に視線を外そうとする店主の頬に、幽香の手のひらが重ねられる。
「ちゃんと、ご覧になってください」
 目が眩んだ。
 一個ずつボタンを外し、徐々に露になっていく妖の美貌は、ただの男には刺激が強すぎる。目を瞑ろうとしても、一度その目で見てしまっては、二度と離すことは出来なかった。
 リボンは床に落ち、程無くしてチェックのスカートもその上に落とされる。脱ぎ捨てられた衣服が積み重ねられるたび、もう引き返すことは出来ないのだと思い知る。
 彼が呆然としているうちに、幽香は既に絹糸ひとつ纏わない姿になっていた。いつの間に下着を脱いだのか、それとも初めから履いてなかったのか、そのような些事は問題ではなかった。
「……」
 声を失う。
 波打つ髪は短く、見た目以上に細い肩と鎖骨に擦れる程度だ。二の腕、お腹の贅肉はほとんど見られず、あるにしてもそれは全体の均整を崩すものではなかった。
 着衣時からあらかじめ把握していたことだが、露になった乳房は一種の果実というべきものだった。その大きさ、瑞々しさは果物のそれと一致し、なめらかな肌は豊かな胸を垂らすことなく維持していた。お尻から太ももに流れる肌も、無駄に垂れることもなく張りがある。
 陰部にはわずかに毛が生えているが、花びらの存在を覆い隠すものでなく、不潔ですらなく、そこの奥にある肉壺を神秘的に仕立て上げる一要素でしかなかった。実際、そこから蜜が垂れていることを知れば、今すぐにでもみずからの分身を突き込みたいと望むだろう。
 頭の先から爪先に至るまで、女の魅力に溢れている。触れたのなら、その柔らかさと温かさに鼻息が荒くなるだろう。解り切っていることだ。芸術品、と呼ぶには、あまりに扇情的すぎる。幽香の肉体には、何もかもを忘れて貪りたくなる魅力があった。汚したい、犯したい、罠に嵌められてるとしても、恐怖より快感が勝ることは自明の理だった。
 幽香の腕が、店主の身体に伸びる。
「私が、脱がしてあげますから」
 蕩けるような台詞だった。
 裸の女が足元に跪き、自分の服を丁寧に脱がしている。直立したまま、動くことも出来ず、時折素肌に触れる柔肌の感触に悶えることしか出来ない。中でも、下を脱がすときは彼女も苦労している様子だった。何しろ、卑猥な期待に膨れ上がった股間は、幽香の手に触れた瞬間から完全に勃起しているのだ。生地がやたらと引っかかり、そのたびに幽香の笑いを誘っていた。
「お元気なのですね」
「それは……、きっと、あなたに触れられているからでしょう」
 辛うじて、掠れた言葉が口の端から零れた。
 幽香は微笑み、最後の一枚をずり下げる。途端、押さえ付けられていた怒張が、解放と同時に天を仰ぐ。
 特徴の無い店主に似て、太さ、長さ、共に平々凡々としたものだった。色はやや浅黒く、呼吸、心臓の鼓動にあわせてぴくぴくと跳ねている。幽香は、おもむろにその胴をしごき始めた。
「あっ」
 突然の刺激に、店主の口から悲鳴のような声が漏れる。
 何回か肉棒をしごき、鈴口から若干の先走り液が出たのを確認して、幽香は風呂場の扉に指を掛けた。
「硬くて、お元気で、素敵ですわ」
 どう返事をしていいものか、店主は悩む。結局、あまり深くは考えず、ありがとう、と答えるに留めた。

 

 

 風呂場が多少大きめに作られている理由のひとつは、店主が愛娘といつまでも一緒にお風呂に入りたいから、というものである。実際、彼はまだ娘とお風呂に入っているから、その思惑は成功していると言っていいだろう。
 そしてもうひとつは、いざというときのために、である。
 想定していたのは、妻とそういう雰囲気になった場合だが、期せずして、その機会が転がり込んできた。
「仰向けに、寝転んで頂けますか」
 言われるがまま、すのこの上に仰向けになる。背中が若干痛むものの、どうということはない。それよりも、幽香の前に自身の恥部を曝しているという事実の方が、よほど頭を熱くさせた。
 風呂釜のお湯はまだ残っていて、温さはちょうどよい。声は風呂場全体に反響し、もし事に及んだのなら、絡み合う音や喘ぎ声が大挙をなして二人を包み込むだろう。快感は増幅される。足元に屈み込んでいる幽香の胸が自動的に谷間を形作り、彼は溢れた唾を慌てて飲み込んだ。
 何しているのかと覗き見ると、彼女は手のひらから生み出した油を身体に塗りたくっていた。目を丸くしている彼に、幽香は微笑をもってそれに応えた。
「これ、菜種油なんですよ」
 花の妖怪ですから、と自慢げに語る。それは知っていた。問題は、粘性のある油を使って、一体何をするのかだ。八割がた予想はついていたが、想像は想像を超えることはなく、幽香の肌の上を油が滑り、瑞々しい肌に練りこまれる油の卑猥な音に耳を傾けるしかなかった。
 そうして、彼の逸物からも同じように粘り気のある液体が漏れ始め、頃合とばかりに幽香が濡れそぼった姿態を起き上がらせた。
「では、いきますね」
 意地悪く宣言し、痴態を曝している彼の身体に、幽香の熟れた肉体が覆いかぶさった。
 にゅるん、と、彼の胸板の上を、幽香の豊満な乳が綺麗に滑る。既に硬く勃起していた乳首が、彼の肌を優しく削り、あまりに大きな乳房は彼の乳首さえも柔らかく包み込む。胸に浸透していた油は彼の身体の隅々まで塗りたくられ、身体と身体をこすり合わせるたびににゅるにゅると厭らしい音を立てた。
 気が狂うくらいの快感が、彼の脳をぐちゃぐちゃに掻き乱す。柔らかい肉体が、自分の身体を包み込んでいる。胸が押し潰され、ぷるぷると躍っているという視覚的要素も加味すると、ただ触れられているだけでは感じ得ない快楽であることは確かだった。
「うふぅ、はぁっ……」
 乳房を含めた幽香の肉体が、彼の腰から顎の下までを一気に滑り、そしてまた腰まで戻る。一心不乱に奉仕する、幽香の恍惚とした表情にも、塗りたくられた油がお互いの身体をより深く密着させ、ぬめりをよくすることで快感を増幅させていた。粘液による圧迫は、膣を彷彿とさせる。そう考えれば、全身が女性器に食い尽くされているという錯覚は、快感以外の何物でもなかった。
 まして、その相手が妖艶な美貌を持つ女性だとすれば。
 不義の罪を犯していると知りながら、彼はただただ快楽の海に溺れていた。そこに理性の藁が浮かんでいようとも、もとよりすがるつもりもなかった。
「んんぅ、あは……、気持ち、いいでしょう……?」
 彼は、呻き声しか出せない己の不甲斐なさを呪いながら、ぎこちなく同意した。
 満足げに微笑む幽香は、あえて触れさせずにいた彼の股間に、ようやく手のひらを滑り込ませる。大量の油をまぶした手のひらは、触れた瞬間に彼の肉棒をねっとりと湿らせた。逃れようにも逃れられない、喪失感にも似た解放感に包まれ、彼は一瞬意識を失いかけた。
「あら、よほど気持ちいいのかしら……」
 悶え苦しむ彼の表情に恍惚を覚え、幽香は撫でるように肉棒を扱き上げていた手をとめた。荒く繰り返されていた彼の呼吸が徐々に穏やかなものになり、快感に疲れ果てた視線を受ける前に、幽香はぬるぬると光っている肉棒の先っぽを咥える。
「にちゅ……、ぷちゅ、くちゅくちゅ」
 うくッ、と辛そうな声が漏れても、扱くのと平行して口の中で亀頭を舐め続ける。容赦など微塵も無く、時には睾丸さえ手のひらで柔らかく包みこみ、わざと水音を立てて視覚から聴覚から彼の神経を攻め立てる。
 限界だった。
 彷徨っていた彼の手が、不意に幽香の頭を押さえる。それが絶頂のシグナルだと悟った幽香は、唇がカリ首を刺激するように深く飲み込み、フェラの速度を加速させた。
「ちゅく、うぷぅ……、ん、んっ、んんんっ!」
 そして、ぱんぱんに膨れ上がった亀頭が、最大限に膨張し――。
「んんぅ、んぷぅっ……!」
 溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように、おびただしい量の精子が幽香の口の中に吐き出された。
 飲み込むより早く二回三回と精液を発射するから、口の中には一度に飲み込めないくらいの白濁液が溜まってしまった。ちゅぽ、と萎え始めた肉棒から唇を引き抜き、口に溜めている様子を彼に見せつける。
「んむ、ちゅる……、んぅ、こく……」
 一度に飲み込むには量が多すぎるにもかかわらず、彼女は涙目になりながら彼が放った精子を懸命に嚥下した。呆然と、感動に近い眼差しで幽香の行為を見ていた彼は、再び股間が盛り上がっていくのを感じた。
 まだ、この程度では終われない。
 心も、身体も、そう結論を出した。
「うふ……」
 幽香は、唇から顎に垂れた精子を手のひらで拭い、丁寧に舐め取った。
 寝転がったまま、再戦を希望する逸物に一瞥をくれて、幽香は四つんばいになり、彼の唇を濡れた人差し指で押し付けた。
「あなたの唇も欲しいのですけれど、それは、奥様にお譲りしますわ」
 上唇と下唇を撫で、付着した唾液を人差し指と一緒に啜る。間接的に彼の唇を味わい、満足した幽香は彼の身体に覆いかぶさる。こすりつけるのではなく、触れ合うことを目的とした密着に、彼は幽香の背中を抱き締めた。油でつるつると滑る身体を抱き留めるのは、かなりの体力が要る。
 だが、逃がしたくないと思った。
 粘膜に抱かれ、粘膜を抱いているような錯覚の中、幽香は彼の胸に両手を添えていた。
 びくびくと脈動を繰り返す肉棒が、ようやく幽香の恥部に触れる。
「はぁ……、あなたの、ぴくぴくしてる……」
 お互いの肌が密着した状態から、幽香は肉棒を探り当て、みずからの肉壺に収めようとする。扱くような所作は肉棒から多量の先走り液を噴出させ、既に愛液に溢れた幽香の膣を掻き分けるのに適した状態に出来上がっていた。
 亀頭が、花びらに触れる。幽香の身体が、肉棒を受け入れるために押し下がる。
「んんんっ……、くぅ、ふあぁ……!」
 嬌声は、性器が性器を貫く音を掻き消した。
 だがどこからともなく水音は滔々と溢れ出し、じっとしてるだけでも、耳の中に深く深く反響していた。真正面に、男のモノを受け入れた幽香の苦しそうな表情がある。興奮などとは無縁だった顔は真っ赤に染まり、肺を搾り上げるような吐息が彼の首筋に吹きかけられていた。
 抱き締めても捕らえどころのない身体が前後し、繋がったまま腰を深く押しつける。粘膜が彼の分身を締めつけ、全神経を股間に集中させる。
 幽香は彼の胸に手をつき、すこしばかり身を離す。騎乗位のまま激しく腰を振る女の媚態は、彼が今まで見たどの女性よりも美しく、乱れていた。
「はぁ、ひっく……、どうか、さわって……」
 動くたびに縦横無尽に揺れる乳を差し出し、彼もまたそれに従った。初めて触れた風見幽香の乳房は、油の影響もあるのだろうが、手のひらに吸いつくような極上の柔らかさがあった。鷲掴みにしてもなお余りある豊かさに、もっと長くこの感触を愉しんでいたいと切に願った。
 接合面からは、淫靡な水滴が漏れ聞こえる。膣はあたかも別の生き物のように絶えず蠢き、食べられているとしてもさして的外れではないように思えた。彼がわざと腰を突き上げると、幽香の髪の毛がふわりと浮き上がった。
「ひゃうっ!」
 胸を揉みしだいているから、仰け反ろうとしても上手くはいかない。乳首を親指で丹念に転がし、硬く勃起したその部分をついばむために、彼は上半身を起き上がらせた。腕は幽香の背中を抱き、唇は彼女の乳首を摘まむ。
「ひぅ、あふっ、い、いやらしいですよ……?」
 幽香は彼の肩に手を置き、くねらせるように腰を回していた。彼は捻じ切られるような締め付けを感じ、だが苦痛ではなく純粋な快感となって背中を駆けのぼる。喘ぎを漏らすのは情けないと思い、乳幼児のように激しく胸を吸う。
「ふあ、はぁ、……あ、あかちゃんみたい、です、ね」
 官能の渦に揉まれながら、幽香はそれでも余裕をもって呟いた。
 みずからの身体をゆっくりと後ろに倒し、抱き合ったまま彼に押し倒させる。上位は逆転し、正常位に立った彼は、幽香の胸を押し潰しながらすこし身を離した。無論、股間は深く繋がっている。
「どうぞ……、あなたの、お好きなように」
 熱を持った彼の手のひらに触れ、幽香は優しく誘う。
 もとより躊躇いはなく、彼は一心不乱に腰を送り込んだ。汗か油か判然としないくらい身体は濡れ、だがそれ以上に性器の繋ぎ目はぐちゃぐちゃに濡れて淀んでいた。膣を抉ることも、子宮口に到達することも造作もない。
 突き入れると啼き、引き抜こうとすると啼く。そんなことの繰り返しだった。それだけに過ぎないのに、どうしても途中でやめることは出来なかった。
「あぅ、きゃぅ、ひゃっ、ふぅ、くぅん!」
 喘ぎ声の間隔が狭まり、声色は次第に高くなる。限界が近付いていた。おそらく、彼も、彼女も。
 胸に触れていた手はいつしか幽香の手を求め、下半身のように手のひらもまた硬く繋ぎ合う。唇を交わすことは出来ないから、せめて全てを感じられる敏感な手のひらくらいは。
「ん、んぅ、ひくッ! も、もう、だめ、……!」
 絶頂を告げる言葉が漏れ、幽香が何かに耐えるように目を瞑る。
 それとほぼ同時に、彼も幽香の最奥に到達したあたりで、ぴたりと硬直した。
 直後。
「――んんんんんぅっ!」
 重なり合う絶頂の果て、彼は幽香の膣内に精液を注ぎ込んだ。
 熱い塊が、膣から子宮に向けて一直線に放たれる。肉棒が跳ねるたび、彼は気絶してしまいかねないほどの痺れを感じていた。
 延々と続くかに思われた射精は、硬く滾った肉棒が何度か跳ねた後、驚くほど早く収束した。荒い呼吸と、軽い後悔を抱きながら分身を抜くと、追いかけるように幽香の膣から白濁とした液体が滴り落ちる。
「はぁ、あ……、いっぱい、射精してくれましたね……」
 気持ちよかったですか、と尋ねられ、すこし逡巡した後、彼は小さく頷いた。
 幽香は満足げに起き上がると、いまだに熱く勃起している彼の逸物に指を這わせた。うっ、と辛そうに呻く彼の表情に悦びを見た幽香は、再び自身の胸に油を塗りたくり、座り込んでいる彼の下半身にふたつの乳房を押し付けた。
「ちょ」
「ほら、まだ中に精子が残ってるじゃありませんかぁ……」
 ぬるぬるべとべとになった胸で、硬さの残る肉棒に挟み込む。お互いににゅるにゅるとしたモノを重ね合わせているから、しっかりと固定することは難しい。それでも、皮膚がこすりあう摩擦と温もりが粘膜にも似た刺激を想起させ、彼は睾丸の底から精が搾り取られるのを実感した。
「んむ……ちゅぅう……」
 こねるように、根元からカリ首までぷにゅぷにゅとこすり上げ、尿道を駆け上がってきた精液の残滓を余すところなく唇で味わう。敏感に腫れている亀頭を、口の粘膜で吸い上げられ、彼は頻繁に情けない声を漏らした。そのたびに、幽香は肉棒を食んだままくすくすと笑う。
「ちゅるぅ……ん、んんっ」
 ちゅぷ、と最後の一滴まで搾り取り、幽香は茫然自失としている彼に向き直った。
 いわゆる、やっちまった、という表情である。
 前述の通り、彼には妻も娘もいる。それぞれに仲が良く、娘とはまだ一緒にお風呂に入っている。あるいは、妻とも一緒に入っている可能性も否定出来ない。確かにあちこちに転がっている石鹸の量からすると、まあそういうこともちょくちょく行っていると見える。
「あぁ……」
 彼は海よりも深く後悔した。
 思わず股間も萎える。が、幽香に顔を覗き込まれていることに気付くと、諸々の感触を思い出して下半身が活気を取り戻さんとしていた。現金なものである。
「これは密会ですわ」
 幽香は言い、乳首についた油を舌で舐め取る。豊満な肉体だからこそ出来る技である。
「これでも永らく妖怪などを嗜んでおりますから、脅されて事に及んだとなれば奥様も何も言えませんでしょう」
 ――そのわりには、愉しんでおられた様子ですけれど。
 彼は恐縮しきりだった。その縮こまった様子を見て、幽香は厭らしく微笑む。
「でも、困りましたわね」
 全然困っているようには見えなかったが、何を言われたにしても彼は幽香の声を聞かなければいけなかった。いわば、それが契約のようなものだったから。
 唾を飲み込み、ほぼ正座に近い体勢で待ち構える。
 頬に手を寄せて、湿った髪の毛を指先でくるくる絡め取りながら、幽香は告げた。
「わたくし、そろそろ排卵日なのですよ」
 生理、月経、危険日。
 膣に射精しないで、とは言わなかった。
 既成事実、という奇怪な単語が彼の頭を埋め尽くした。
「人と妖の間にも、子どもは産まれますわ」
 ――出来たら、元気な子だとよいのですけれど。
 出来れば、彼は気絶したかったのだが、残念ながら、その願いが天に届けられることはなかった。
 うふふ、と妖艶な美女が、嬉しそうに笑っていた。

 

 

 責任の取り方も人それぞれ各種あるものであり、花屋の店主が選んだ方法は純粋に妻と娘に謝罪するというものであった。
 正攻法でありながら最も難易度が高く、最も勇気が試される方法である。
 妻と娘は三ヶ月ほど口を利いてくれなくなり、三食抜きの視線すら合わせない完全無視の刑に曝された。彼はその期間、里の男たちにあれほど助けられたことはない、と後に述懐している。
 幽香は幽香で、何事も無かったかのように毎度毎度花屋に訪れ、他愛のない会話をしては時たま球根や株を持って帰った。店主はほとんどタダでそれらを譲り渡し、妻と娘の顰蹙を買っていた。
 三ヶ月経っても、幽香の身体には何の変化もなかった。その頃になると、妻と娘の態度も徐々に軟化し始め、今度あやまちを犯したら無名の丘に埋めるか紫陽花か桜の下に埋めて花びらの色を変えるという契約を結ぶこととなった。
 まあそれでもやっぱり相変わらず幽香は花屋に足を運ぶ、時折おなかを撫でるような仕草を見せては、妻と熱い火花を散らせていた。娘は、風呂場にたくさん置いてある石鹸に違和感を覚え始めてきたようだ。
 風見幽香。
 人間友好度、最悪。
 百合の花言葉 「純潔」

 

 


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一日エロ東方

七月十六日
(花映塚・小野塚小町)



『死神ヘヴン』

 

「あのー」
「何です小町」
 それは傍から見ればのんびりとした主従の会話であり、あるいは縁側に隣り合いほのぼのとした田園風景を眺めながら親睦を深めているのであれば、ああなんて彼女たちは仲がいいのだろう私たちも見習わなくっちゃねうふふ紫様ちょっと気持ち悪いですよ西瓜と天麩羅一緒に食べたんですかという具合に落ち着いたのかもしれない。
 しかしまあ現実はかくも世知辛いものであって。
「確かに、不肖あたくし小野塚小町はごくたまに仕事をサボるってか専門用語でいうところのサボタージュを断腸の思いで断行したこともございまするが、それは労働者階級に許された最低限の権利であり労働条件の改善を求めることはすなわち自由を追求することの根源的な昇華であるからしてえーとなんだっけ忘れた」
「解りました」
 死神、小野塚小町の直属の上司であるところの、閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥは、彼女の世迷言を一蹴した。
 あちゃあ、と小町は作戦が失敗に終わったことを悔やみ、冗談ぽく額を叩こうとした。残念ながらその動作を行うことは叶わなかったのだが、小町が現在立たされている状態を鑑みれば、誰しもが同情を禁じえないであろう。
「あの、腕と、足と、腰と、首と、胸が痛いんですが」
「我慢なさい」
「あの、やっぱこれ、拷問ですよね」
「それがどうかしましたか」
 四季映姫は動じなかった。
 数分もしないうちに法廷が開廷されることを考えれば、映姫の際立った冷静さも納得がいくところであったが、やはり小町には納得がいかなかった。
 本日、小町は休暇の予定であった。
 それが目覚めてみれば、法廷の中。
 眼下には、部下が呑気に惰眠を貪っている間にも黙々と仕事に勤しんでいた我らが四季映姫様の御身がある。
 おはようございます、と寝惚け混じりに挨拶をしたときに、小町はどうにも身体の動きがぎこちないことに気付いた。
 それもそのはず。
「四季様、四季様」
「何ですか小町」
 いちいちうるさいなあと声色が訴えていた。
 怒られ慣れしている小町は、ただひたすらに自分の境遇を訴えるしかなかった。
「もしかして、このまま裁判するんですか」
「そうですよ」
 よかったですね、とにこやかに言う。
 よいわけなかった。
「いや、だって」
 裸である。
 吊るされている。
 かつ、縛られている。
 そして、曝されている。
 正確には曝されようとしている段階だが、それも時間の問題だった。
 天井の梁に引っ掛けられた縄は、小町が空飛ぶ海亀のように旋回しながら確認したところ、壇上の脇のコイルに巻き取られている仕組みになっているようだった。高度の調節機能から推理されるのは、誰がどう考えても晒し者以外に考えられなかった。
 あとは、遠心力を利用した鉄球小町とか。
 おっぱいでかいしちょうどいいかもしれない。
「私がこんなん曝してたら、四季映姫のところの風紀はどうなっとるんだって十王様に罷免されちゃいますよ。四季様、ただのお地蔵様に戻っちゃいますよ」
「安心なさい。十王の許可は得ています」
 マジか。
 小町は戦慄した。
「それにどうせ幽霊は喋れないのですから、関係者のみ口を封じれば問題はないでしょう」
 外道の考えだった。
 相当なデスマーチである可能性が高い。
「お、怒ってます?」
「怒ってませんよ」
 確実に怒っていた。
 でなければ、堅物の映姫がこのような破廉恥な所業に及ぶはずがない。
 溜まってるのかなあ、と言いかけて、これ以上は貞操の危険が危ういため固く口を噤んだ。
「あ、最後にいいっすか」
「手短に」
 映姫はおもむろに悔悟の棒の素振りを始めた。
 示唆的すぎる。
「これ、四季様が縛ったんですか」
 物の見事な逆海老縛り。
 手と足を腰の後ろで縛り、背中を反らせて引っ張り上げるという荒業だ。
 縄はいまや小町の肌によく馴染んでおり、痛みはあるが、苦しいというほどでもない。揺れすぎて乳房がもげそうになったり股間がすりあげられたりするものの、それ以外の問題点は極悪に恥ずかしいという点のみであった。
 これを映姫が直々に施したというのなら、別に小町を吊るさなくても近いうちに首を切られそうな気がする。
 映姫は、隈の目立つ顔を呑気な小町に向け、疲れたように言った。
「亀甲縛りの方がよかったですか」
 もうだめだ。

 

 開廷。
 渡し守は小町も他にも何人か在籍しているから、小町が休んでも特に問題はない。
 常に休憩を挟んで生きているのに改めて休みが必要なのか、という疑問がそもそもの発端であり、此度の悲劇を生み出す結果となった。自業自得である。
「入りなさい」
 開かれた扉から進み出た幽霊は、まず法廷の広さに驚き、裁判官の少女に恐れ戦き、そして吊るされている小町の存在に愕然とした。
「裁判を始めます」
 それでも映姫が淡々と言葉を紡いでいるので、これは気にしたら駄目なのかと幽霊も思い直した。
 出産状況。生育過程。人生。縁。死亡理由。罪状。審判。
 息つく暇もなく展開する裁判の中、幽霊から見て左上空に吊るされている紅髪の女性は、意味もなくくるくると回転していた。時計回りに二週ほどすると、今度は反時計回りに二週ほど回転する。しばらくすると完全に回転が止まり、そうするとまた勢いをつけて右に左に回ろうと試みる。
 何をしてるのか問い詰めたかった。
 無口なのが残念でならない。
「話を聞いているのですか」
 威厳のある声が幽霊の透けた身体に突き刺さり、ふらふわとした動きがぴたりと止まる。
 ついでに小町の回転も止まった。
「よろしい。では罪状を繰り返します――」
 視線は閻魔に、だが意識はゆらゆら揺れている小町に向いていた。
 辛い体勢であるにもかかわらず、あれほど楽しく振る舞えているのか、気になってしょうがなかった。
 だって、裸である。
 胸がぶるんぶるん触れているのである。
 痛いだろう。
 痛いに違いなかった。
 自分ももし同じ状態で股間がぶるんぶるん揺れていたら、きっと痛みに悶えていただろうと思うから――。
「あれが気になりますか」
 冷徹な声が轟く。
 再び硬直する幽霊を制し、映姫は冷めた瞳を頭上の哀れな死神に向ける。
「あれこそ、怠惰の罪を重ねた者の末路ですよ」
 嘲るように、嘆くように、映姫は言った。
 その声が聞こえていないのか、小町は旋回を続けていた。
 幽霊は思う。
 次に生まれ変わるとしたら、死神はちょっと嫌だなあ、と。

 

 裁判は続く。
 小町は、裁判が進むに従って、徐々に自分の身体が地上に近付いていることを察した。
 有罪無罪の審判を耳にするたび、ぎし、ぎし、と身体が重力に誘われる。高さの調整を務めている者が誰なのかは判然としないが、彼の目に自分はどう映っているのかと考えると、すこしぞくっとした。
 何か芽生えたのかもしれない。
「見も知らぬ女性を劣情の対象に据え、夜な夜な自慰に耽る。有罪」
 冷酷に罪状を読み上げる映姫はまさに地獄の閻魔様であり、恐怖の具現であった。
 心なしか、ふるふる揺れている幽霊が今はぶるぶる震えているように見えるから不思議なものだ。
 あるいは、この幽霊もまた罵られるのが好みなのだろうか。
「残念ですね。あなたが仮に人の形を成していれば、彼女を慰み者として献上することも出来ましたが」
 全く冗談に聞こえないのが恐ろしい。
 そうこうしているうちに幽霊たちは次々と裁かれ、映姫も最初から最後まで休憩すら挟まずに裁判を続けている。過去に何度か映姫の仕事振りを拝見したことのある小町でも、今の四季映姫からは並々ならぬ気迫が感じられた。
 四季映姫・ヤマザナドゥは閻魔である、と。
 役職に偽りなしと誇れるだけの自分を崩さぬよう、閻魔という存在に徹している。
 痛々しいくらいに芯が通っている姿に、小町は彼女に見惚れているのだということを理解した。
 肉体的に痛々しいのは圧倒的にこっちなのだが。
 早いとこ下ろして欲しかった。
「童貞。有罪」
 残酷だった。
「残念ですね。あなたが仮に人の形をなしていれば彼女を慰み者として」
 定番らしい。
 裁判は、もう終盤に差し掛かっていた。

 

「本日は、閉廷します」
 かぁん、と軽快な音と共に槌が鳴る。
 長蛇の列を成していた幽霊も、今は綺麗に捌き分けられ、半端に膨らんだような風船の姿はもう影も形もない。
 あるのは憔悴し切った閻魔の背中と、吊るされながらも呑気にへらへら笑っている死神の姿態くらいなものであった。
 腕と足の感覚はほぼ無くなっているが、縄が肌に食い込む感触はちょっと刺激されるものがあった。痛覚を凌駕する快感というものは、麻薬以上に危険なものである。
「四季様、お疲れ様です」
「はい」
 手短に返す。
 小町の身体は既に映姫の頭部程度にまで下がっており、その気になれば鉄球小町で映姫を襲撃することさえ不可能ではなかった。が、今日の四季様はわりと洒落にならんくらい疲労困憊していらっしゃるご様子、と小町は即座に判断し、悔悟の棒を上を下への口に突っ込まれるのも確かにちょっと快感なのかもしれないが、やはりそれは抵抗に抵抗を重ねた上で実行されるのが状況的に最善だと考えた。
「痛くありませんか、小町」
「四季様こそ、疲れていらっしゃるんでは」
「いえ……、まあ、否定はしません」
 はあ、と重苦しい溜め息を吐く。
 外見上は年端も行かない少女だが、しかしてその実態は幻想郷の神魔人妖精霊を震え上がらせる説教閻魔である。現世を憂うことにかけては誰にも引けを取らない。小町からすると、考えなくてもいいことや考えてもどうしようもないことまで勝手に抱え込んでいるように見えるから、もうちょっと気楽に生きた方がいいんじゃないかなあとも思うのだが、やはりそうもいかないらしい。
 小町も、胸やら尻やらを放り出したまま真面目な話をするのも酷く馬鹿馬鹿しいから、とりあえずは心配そうに映姫を見つめてみることにした。
 だが、映姫は必ずしもそうではないようで。
「小町」
「あ、はい」
「今日、裁判を傍聴して、あなたは何を得ましたか」
 随分と斬新な傍聴席だなあと小町は思いながらも、訊かれたままに考えてみた。
 縄は映姫の趣味だと思うことにした。
「童貞が有罪なのはちょっと可哀想だなと……」
「なら、あなたがお相手してあげればいいでしょう」
 どうにも冗談を口にしているように見えないのが、軽口専門の小町には辛いところだった。
 悔悟の棒を小町の額にぺしぺしと押し付け、映姫は語り始める。
「私は閻魔という存在に誇りを持っています」
 確かに、小町にもそう見えた。
「あなたは、死神という存在を何と考えていますか」
 悩む。
 あまり真面目に考えたことがない主題だったから、このような異常な状態でなくとも、時間はかかったかもしれない。首を傾げるという動作が許されていたのは、すこし有り難かった。
 映姫は悔悟の棒を床に付け、小町の回答を待っている。過度の期待をしているようには見えない。ただ、嘘を吐けば現状を超える拷問が待っているだろう。それはそれで、と小町は一瞬考えたが、いきなり階段を駆け上がるのも危険である。
 だから、ひとまず。
「明るく楽しく正直に、ですかね」
 思ったままに、素直な意見を述べる。
「よろしい」
 手短に答え、映姫は小町の横を通り過ぎる。疲労がピークに達しているのか、途中ふらふらと上体を揺らしながら、居住区に続く扉を開ける。
「あ、四季様お疲れ様でした! じゃなくてあたいずっとこのまんまですか!?」
「あなたの返答如何では、しばらく吊るし上げていてもよかったのですが」
 全然よくなかった。
「安心なさい。朝からコイルの調整役をしていたものに後を任せています、私は寝ないと多分死ぬので帰ります。おやすみなさい」
 があん! と派手に頭をぶつけながらも、悪態ひとつ吐かずに法廷を後にする。鉄の精神である。最後は多少意識が混濁していた様子だったが、小町の処遇を忘れたまま立ち去るような極悪人でないことが解り、小町はひとまず安心した。
 程無くして、壇の陰から二名の死神(男)が登場する。
 小町の顔見知りであり、あけっぴろげな性格をしている小町とも仲が良い。
「あー、早いとこ解いてくれよ……」
 此処に来て、ようやく疲弊した声を上げる。
 彼らはおもむろに法廷の扉を施錠し、小町の高さをちょうど男たちの腰の位置に合わせ、よし、と頷いた。
「……あ、え?」
 すまない、と彼らはまず小町に頭を下げた。
 そしてゆっくりと下半身を露にする。
 臨戦態勢は十分であった。
「……、……あ、ちッ、そんなこったろうと思ったー!」
 負け惜しみを吐き、その直後に男の汗臭い性器を咥えさせられる。
 むごご、と歯を立てないよう苦労しながら肉棒に唾液を絡める。
 なんだかんだいって小町もやる気なのだが、それはそれ、いつか四季映姫を縛り倒してやろうと固く心に誓いながら、ぐちゅぐちゅに濡れた恥部を穿られる快感に身悶えるのだった。

 

 孕んだら、産休と育児休暇もらえるかなあ。

 

 


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一日エロ東方

七月十七日
(花映塚 四季映姫・ヤマザナドゥ)



『四季映姫輪姦』

 

 無縁塚に嬌声が響き渡る。
 周囲を木々に囲まれた物寂しい場所、無残に衣装を引き千切られた女性と、彼女を取り囲む無数の人影があった。女に群がっているのは三人程度で、残りは近く遠くから彼女の痴態を眺めている。彼らはあたかも順番待ちをしているようであり、実際、男が達し終えると、入れ替わるように傍観していた男が前に進み出る。
「……、う……っ!」
 女の口から、くぐもった悲鳴が漏れる。
 咥内には入れ替わり立ち代わり肉棒が突き込まれ、時には頭を抱えられながら激しく揺さぶられる。喉奥に欲望を吐き出されることもあれば顔面に浴びせかけられることもあるが、いくら咽ても、顔を拭っても休む間もなく怒張を咥えさせられた。
 白く染まった顔は苦痛に歪み、瞳には光が灯っていない。ハイライトの失せた目が映し出しているのは、無表情に腰を送り続ける男たちの姿と、精液に濡れた自身の下半身だった。
「ぅ……!」
 男の口から押し殺した呻きが漏れ、続け様に女の膣に射精する。
「う、うぅ……」
 何処か諦めたような声しか出て来ない。それは唇が肉棒に塞がれているせいでもあり、あまりにも多量の精液を膣に射精されていたから、何を言っても何も変わらないと理解しているせいかもしれなかった。
 お腹がだるい。股が引き裂かれたような痛みがある。体中がべとべたとして、乾き始めたところから新しい白濁液が撒き散らされる。新緑の輝きを帯びていた髪の毛も、今は鈍く光っている。
「――んぶうぅッ!」
 咽喉に突き刺さった肉棒の先端から、飲み下すのも困難な量の精液が発射される。髪の毛を掴まれ、顔を男の股間に押し付けられ、鼻腔に陰毛が侵入して酷くくすぐったい。喉を伝い、胃に濃厚な精液が注ぎ込まれる感触には慣れてしまったから、そのようにどうでもいいことばかり考えてしまう。
 引き抜かれた肉棒が女の眼前でまたひとつ跳ね、目頭から零れた涙の川に濁った白が混じった。
「歯は立てるなよ」
 前置きすると同時に、赤く腫れた男性器が咥内に侵入する。反射で歯を立てそうになり、その動作に気付いた男が鼻を摘まみ上げる。
「んぐうぅ!」
 呼吸がままならない。その苦しさを訴えるように男の脚を叩くけれど、女の訴えなど全く気に留めず、勝手気ままに腰を振る。口の端から涎と精液が混じった汁が噴き出し、顎に垂れていた精液と混じって地面に落ちた。
 下半身ではまた次のペニスに挿し込まれ、愛液と精液の混合液が潤滑油となり、男と女に無尽蔵の快感を送り込む。実際、男は数回の往復で女の膣に種子を注ぎ込み、満足げに萎えた性器を引きずり出していた。ぱっくりと開かれた淫口から、もはや誰のものかもわからない白濁液がこぽこぽと溢れた。
「――、――――」
 朦朧と霞む意識の果てに、女はまた身体の何処かに欲情を吐き掛けられたことを知る。
 何度か欲望を撒き散らした男は、そのまま空に溶けていった。
 だが、あと何人残っているものか、女の視界からは解らない。
 酸素が足りず、ぷっつりと途切れた意識の底に落ち、ただ目覚めた後も、眠っている間すらも、絶えず犯されるのだという諦観があるのみだった。

 

 無縁塚には、無数の亡骸が眠っている。
 そのうちの何割かは亡霊となり、人との繋がりを求めて未だに現世を彷徨っているとされる。
 結界の揺らぎ、その狭間に巻き込まれた外来人が数多く眠っているのも、無縁塚の特徴である。
 無縁仏が点在する無縁塚に、楽園の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥが訪れたのも、亡霊の無念を晴らすという目的があったためだ。だがそれは相手の言い分も聞かず力尽くで祓うということではなく、死者の未練を聞き届け、可能な限り話を伺い、すこしでも気が晴れるよう話し相手になるというものであった。
 亡霊は、その多くが死んだことを認めていない。
 映姫と話しているうちに、己が死んだことを安らかに認め、成仏への道が開かれればよいと思った。その橋渡しが出来るなら、これ以上のことはないと。
 お節介かも知れないが、死してなお迷い続ける御霊が、どうしても哀れに思えてならなかった。
 容易に見捨てることが出来るのなら、閻魔という職に手を染めてなどいない。
 だから――。

 

 見込みが甘かった、としか言いようがなかった。
 無縁塚に眠る亡骸と、潜んでいた亡霊は、映姫が想定していた何倍もの数だった。
 話し合いなど、成立するはずがなかった。
「the Last――」
 強制的に排除することも、勿論可能だった。そうするだけの覚悟も、そう出来るだけの力もあった。
 だが。
 救いを求めるように手を伸ばす男の必要な面持ちが、子どもを撫でるように髪の毛を掴む男の仕草が、生への執着をありありと感じさせて、躊躇した。
 妻も、子も、親も、友人も、きっと居たはずなのに。忘れられない。忘れたくない。絶対に戻れないはずなのに、戻れないと心の何処かで悟っているはずなのに、彼らはずっと此処に留まっている。
 みずからの死を認めたくない、認められないという、痛み、苦しみ、悲しみ、ありとあらゆる負の思念。その波は巨大な渦となって映姫を呑み込み、亡者の螺旋から抜け出す術を奪い取った。
 生者との繋がりを求める意志は黒く歪められ、映姫の身体を貪り尽くす結果となり――。
 かれこれ、半日が経とうとしていた。

 

 月の光に染められた無縁塚を、空から眺められたらさぞかし綺麗だったものを。
 映姫が目を覚ました頃にはもう既に日が沈み、夜空には高々と半月が打ち上げられていた。
 たとえ身体が男性器と繋がっていなくても、肉棒を頬張り、肉棒に膣が押し広げられている感覚に囚われている限り、しばらくこの呪いからは逃れないのだろうと映姫は思った。
「くぅ、締まる……!」
 意識もしていないのに、肉襞は男のペニスを締めつける。後背位から腰を送り続けていた男も映姫の膣で簡単に達し、びゅるびゅると新鮮な精子を子宮に到達させた。その感覚が、今の映姫には解る。
 だらしなく開いた口腔、肉壺には常に栓が収められ、映姫も当たり前のように差し出される肉の槌を受け入れていた。鼻腔を貫く栗の花の匂いにも慣れた。子宮はいまや注入された数限りない精子で満杯になっていて、新しく射精されても零れるだけで意味はなかった。ただ、射精されているという快感は、辛うじて得ることが出来た。
「はぁ……、ぷちゅぅ……」
 頬の裏側の肉を犯す汗臭い剛直に舌を這わせていると、不意に、尻を這っていた亀頭が、陰部でなく肛門に触れていることに気付いた。
「んんんぅ!」
 顔を振り乱して抵抗の意志を見せようとしても、頭を抱えられているから簡単には外れない。何故、今まで手付かずだったのに、いきなり後ろを狙われるのか。失いかけていた焦り、恐れ、絶望が映姫の脳裏を駆け巡る。
 鈴口から溢れ出る先走りの液体が、くすぐるように映姫の肛門を撫でる。
 座薬を挿れるような前戯が続き、唐突に、先端が映姫の穴を貫いた。
「――――、ぎ」
 ずずず、と確かな衝撃が映姫の身体に襲いかかる。痛みより先に違和感か来た。悲鳴より先に空気が漏れ、堪えるように歯を噛み締めようとして、乱雑に往復する肉棒に遮られた。
「あ、ぁ、う……」
 徐々に突き込まれる異物に、乾いたと思っていた涙が強引に搾り出される。
 やがて肉棒が完全に腸内に収まり、男の口から安堵のような息が漏れる。不思議と肛門も裂けず、心地よい吐息と共に男がゆっくりと腰を振り始めた。
「ひゃぅ、ぶむう……!」
 フェラチオとは異なる速度で後ろを嬲られ、強烈な不快感に胸がぐちゃぐちゃと掻き乱される。
 引き抜かれるたびに臓器が持って行かれそうな錯覚を覚え、突き入れられるたびにお腹が貫かれるような不和を覚える。拷問というなら、これ以上の拷問はなかった。
 対する男は、膣に嵌めているのと異なる締め付けに異常な快感を抱いている様子で、滑りがよくなると同時に腰を送る速度がよりいっそう増す。
「あぐうぅ! ぷぁ、やぁ、やめ……っ!」
 あまりに強力な動きにより映姫の小さな尻は赤く腫れ、白濁液と重なり合って独特の色合いを放つ。
 悲鳴は肉棒をついばむ音に掻き消され、喉の震えもまた、映姫の下に這い回って来た男が膣の入り口に添えた肉棒のおかげで、完全に止めることが出来そうだった。
「むぅ、むりよ、――ぅうぅ!」
 三本目の肉棒が、映姫を深々と貫く。
 既に男たちの精液で満たされていた膣は、突き入れられた直後からじゅぷじゅぷと卑猥な音を立て始める。下の男は目の前にある乳首を素直に摘まみ、舐め、歯を立てた。三本の性器に犯され、声を出すことも表情を変えることも出来なくなった映姫は、ただ勃起した乳首とクリトリスをかすかに震わせることで快感を示した。
「――、――――」
 それぞれの性器がそれぞれの速度で映姫を味わい、白濁液に溺れている映姫に更なる恥辱をお見舞いしようと腰を振り続ける。
 当の映姫は意識を保つことすら困難で、視界が徐々に白く染まり始めていた。
 体中から汁が流れ落ち、男たちにとってはろくに反応も見せない人形のようになっているのだと気付く。
 ただ欲望を振るい続ける男たちには、相手が誰でも構わないのだろう。
 そのことが少し寂しく思えたが、今の自分には、男たちに犯されるしかないのだと解っていた。
 男たちの声に、余裕がなくなっていた。
「ふ、ふっ……!」
 映姫の頭が、男の下腹部に押し付けられる。
 後ろの穴を犯していた男が、捻るように腰を突き込む。
 膣を満たしていた肉棒が、映姫の子宮口に押し付けられた。
「――――、――ぁ」
 最後、映姫は終わりの声を漏らした。
 ――どぷぅ、びゅくっ!
 上、下、後ろに三人の種子が注がれる。
「ん、んぶうぅぅ!」
 咽喉の壁に叩き付けられた精液は反射的に映姫を咽させ、膣に放たれた精液は子宮に達しながら精子のプールをめちゃくちゃに掻き乱した。
 本来ありえない場所に発射された白濁液も、男が肉棒を引き抜いた直後に、肛門から若干量が逆流していた。
「――は、ぁ……」
 花びらが、精液に濡れている。唇はぬとぬとした感触に包まれている。
 視覚は既に半分が白色に染まり、それが精液の色合いなのか、意識が断ち切られる故の終局なのか、映姫には判断することが出来なかった。
 そうして、全てが白になった。

 

 

 覚醒は、水音が最初だった。
 顔面に降り注ぐ液体は、おそらく普通の水であろうことは予想がついた。けれどもいまいちそれが信じられなかった映姫は、しばらく濡れた髪の毛を指でなぞっていた。
 続け様に首から下にも水がぶっかけられ、脱がされていたはずの服がぐしょぐしょになる。
 そこでようやく完全にまぶたが開き、瞳にも光が戻った。
「小町!」
「はーい」
 起き上がり際に部下の名前を呼ぶと、水桶を抱えていた死神の小町が呑気に返事をする。
 小町が放り投げた帽子を受け取ってすぐさま被ろうとするが、ずぶ濡れになっているから先に乾かさないと無意味だと知る。
 とりあえず小町を睨みつけ、穴と股間と顎の軋みを押し殺しながらよっこらしょと立ち上がった。
「小町」
「いやあ、まさか四季様にあんな趣味があるとは……」
「手間を掛けさせました。ごめんなさい」
 茶化すつもりが素直に謝罪され、小町は面食らった。
 映姫は、下げていた頭を上げ、しばらくぶりに笑顔を見せた。
「ありがとうございます。流石にあの状態が続けば、少なからず職務に影響するところでした」
「いえまあ、あたいが見つけた頃にはもう亡霊はいなかったんですよ。だから運ぶだけで済んだといいますか」
「ふむ。なるほど」
 頷く。
 亡霊たちは、映姫と交わることで本懐を遂げ、昇天する至った。中にはただ女の身体を求めていただけの亡霊もいただろうが、彼らもまた映姫に欲望を叩き付けることで満足し、昇天の足がかりになった。
 無論、ただ単に姿を隠しただけということも考えられるが、そう思っていた方が幾らか脳に優しい。そうであれば、自分の行為が無駄でなかったと自分を慰めることも出来る。偽善だとしても、閻魔として相応しくない所業だったとしても、そうであったら嬉しい。
「ふう」
 吐き出すように、溜め息を吐く。
 またいずれ、無縁塚には訪れねばなるまい。
 映姫の心には、無数の未練が焼き付いてしまったから。
「さて」
「はい」
 見渡せば三途の河、足元には悔悟の棒が転がっている。
 何故引き裂かれたはずの服が元に戻っているのか、それを考えると何分か小町を突っつく必要があるものの、今はもっと他にすべきことがある。
「嘘吐きは総じて地獄に落ちるべきだと思いませんか」
「なんのことですかい」
「あなたは何故、私が亡霊と一緒に居たと思ったのです」
 小町が硬直した。
「だって、引き裂かれてたじゃないですか。服」
「そうですね。だが、どうして亡霊だと断言出来たのですか?」
「……あ、仕事が」
「小町」
「あー……はい」
「見ていましたね」
 映姫は宣告した。
 小町は頷かなかったが、その態度だけで映姫は納得した。
 だから、どうということはない。
 ただ、次に無縁塚を訪れるときは、いざとなったら小町を生贄にすればよいのだと。
 そう、確信したまでのことだ。
「私のことが羨ましかったのなら、あなたも参加すればよかったのに」
 にこやかに微笑み、映姫はかすかに震える小町の肩を叩いた。
 三途の河には、今日もまた深く濃い霧がかかっていた。

 

 


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一日エロ東方

七月二十日
(花映塚・スーさん)



drop dead

 

 

 

 スーさんが動かなくなった、とメディスン・メランコリーに泣きつかれた八意永琳がまず初めに考えたのは、スーさんという名詞がメディスンの傍らに浮いている人形なのか、無名の丘に咲き誇っている鈴蘭の総称なのか、ということだった。
 その答えは、メディスンが抱えている人形を見れば、驚くほど簡単に解ってしまった。
 今朝、メディスンが目覚めて、隣に眠っているはずの人形に挨拶をしようと思ったら、寝転がったまま何も反応がなかった。寝ているだけなのかなと思い、しばらく寝顔を観察していたのだが、昼になっても、目覚める様子がない。
 メディスンは不安に駆られた。
 もしかしたら、死んでしまったのではないか。
 人間でいうところの死と、人形でいうところの死は、少しばかり意味合いが異なる。けれども、動かない、という意味合いはどちらも一致する。
 永琳は人形を受け取り、動揺しているメディスンを説き伏せた。
 仮説は既に立てている。後は、実証に持ち込むだけだ。
「メディスン、よく聞いて。この子は毒の力が尽きている。貴女が無意識下に送り込んでいる毒の力が、何らかの原因によって漏れ出しているの。おそらく、毒を循環して純粋な運動エネルギーに変換するための装置が磨耗しているはず。私は今からそれを修理するわ。だから、貴女は毒の力を溜めておいてちょうだい。この子がすぐに動き出せるように」
 ね? と念押しする。
 メディスンは多少不安がっている様子だったが、結局は「解った」と承諾した。
 忙しなく永琳の部屋を退出する少女の背中を見送り、永琳は自身のベッドに寝かせている人形を見下ろした。メディスンの身体をそのまま縮めたような姿で、けれどもメディスンよりもよほど人形らしい。
 永琳には毒も薬も通じない。人形に触れ、服を脱がすことなど造作もない。
「なるほど、ね」
 頷く。
 いくら人形が人に模して作られたものといえども、このサイズで乳首や性器を完全に再現するのは技術的に困難であるし、いささか偏執的過ぎる。実際、この人形も服の下は簡素な身体をしており、あちこちが酷く節立っていた。髪の毛は人間から移植したものだが、劣化も磨耗もせずに残っているのは毒の恩恵だろう。
 解剖が必要かもしれない。
 あるいはメディスンに毒を注入させ、漏れている箇所を見つけ出すか。
 いずれにせよ、人形にとって拷問に近い作業であることは明白だった。
「貴女に意志があるか否か……。それを測るのは、私の役目ではないのだけどね」
 独り言のように呟き、箪笥の引き出しから一錠の薬を取り出す。
 胡蝶夢丸。
 こうして運び込まれてきた以上、彼女は立派な八意永琳の患者である。ならば可能な限り患者には安息を与えるべきだと永琳は考える。それがたとえ意志無き人形だとしても、先ほどまで生きていたことには変わりない。
 人形には人形の本分がある、とは思わない。
 目覚めたときに自分の身体が綺麗に分解されていたら、人形であっても苦痛を感じるに違いない。
 その仮説が正しいかどうかでなく、もしそうであったらと考えて行動する。
「毒人形は人間の夢を見るか? ……なんて」
 永琳は自分のやり方に従う。
 皮肉のような問い掛けは自身の心に沈め、永琳は人形の口に薬と水を押し込んだ。
 水が薬を人形の喉の奥に押し流し、永琳が顎を上げて嚥下の補助を行う。
 そして確かに、薬が人形の胃に落ちた。
「さて」
 仕事を始めましょう。
 永琳は、自分の頬を軽く叩いた。

 

 

†  †

 

 

 人間の里に、ごく普通の女の子が住んでいた。可愛い女の子だ。少女は優しい父親と母親がいた。兄弟姉妹には恵まれず、一人っ子だったけれど、友達もたくさんいたから、あまり寂しいと感じることはなかった。
 女の子が八歳になる誕生日に、父親は人形をプレゼントしてくれた。女の子の腕に収まるくらいの、可愛い人形だ。女の子は家に籠もるより外で遊びことが多かったが、同年代の友達が人形を自慢することもあって、まさに望みどおりのプレゼントだったものだからとても喜んだ。
 人形は、女の子に部屋に飾られていた。化粧台の鏡の前、持ち運びやすいように、目が覚めたら女の子と目が合うように、大人には少し不気味なようにも感じられたけれど、女の子にはごく普通のことだった。父親に訊かれると、友達だから、と当たり前のように答えた。
 遊びに行くとき、女の子はいつもその人形と一緒だった。誰かに馬鹿にされても、転んで土に汚れてしまっても、次の日には人形を抱き締めて駆け回っていた。初めはあれこれ口うるさく言っていた両親も、子どもみたいと揶揄していた友達も、そのうち何も言わなくなった。そのうち人形を抱き締めている女の子が当たり前になり、当然のように受け入れられていた。
 両親は、女の子が人形をあちこちに連れ回すのは、もしかしたら兄弟が欲しいという意識の表れなのかもしれないと考えた。
 女の子が生まれてからずっと、子宝には恵まれなかった。神様から預けられた身体に文句は言えなかったから、これも仕方ないと諦めていた。
 けれども、女の子に寂しい思いはさせられない。
 その想いが勝った。

 

 夜な夜な父親と母親が何かをしていることは、幼いながらに解っていた。
 けれども幼いながらにそれは見ちゃいけないことだと解っていたから、気にはなるけれど、なるべく見ないように心がけていた。
 その夜はひどく寝苦しくて、ベッドに入ってもシーツを被っても、何度も何度も目が覚めた。
 眠る前に紅茶を飲んでしまったせいで、母親にも言われていたのに、やっぱり眠れなかった。
 重たいまぶたを擦りながら、人形を抱き締めて、トイレに行った。
 その途中に、母親と父親の部屋はあった。
 あまりにも暑い夜だから、扉はすこし開いていた。
 見ちゃいけない、と思った。
 部屋の中からは、苦しいような、切ないような、けれども気持ちが良いような、よくわからない声が漏れ聞こえていた。
 唾を飲み込む。
 人形を抱き締める力が強まって、何故だか知らないけれど、頭が熱くなっていた。
 興味がないというのは嘘だった。
 息が荒い。
 人形はぎしぎしと音を立てていた。
 扉に触れても、音はしなかった。
 だから、いいかな、と思った。
 いけないと知りながら、女の子は、扉の隙間を覗き込んだ。

 

 前日まで茹だるような暑さだったのに、その日は何の前触れもなく雨が降った。
 女の子も遊びに行けず、部屋の中から雨の庭を眺めていた。少しばかり髪の毛が湿っている人形を胸に抱き締め、早くやまないかな、と切に願っていた。
 父親は、この雨にもかかわらず、外に仕事に出ていた。
 母親が、部屋の扉を叩いた。部屋に入るときは扉を叩く。そういう約束だった。これは母親と父親の部屋に入るときも同じ決まりで、中に入るときはそうしなくちゃいけなかった。
 だから、あれはルール違反だ。
 でも、自分から告白することは出来ないから、女の子は何も言わずに母親を招き入れた。
 母親は、いつものように包み込むような優しい顔をしていた。
 ――お人形、洗いましょうね。
 人形は、女の子があんまり外に連れ回すものだから、かなり汚れがたまっていた。付いた汚れはちょくちょく拭き取っていたものの、服のほつれや、肌の傷はそのまま残っていた。
 洗うのは嫌だと言っても、母親も譲らなかった。本当は、わずかな間でも一緒にいられないのが嫌だったのだけれど、それを言っても引き下がる様子はなかった。
 ――この子も、綺麗になりたいって言ってるわ。
 説き伏せられて、女の子は仕方なく人形を差し出した。
 いい子ね、と頭を撫でられて、すこし嬉しくなった。でも、昨日の夜、母親と父親が何をしていたのか、それが唐突に頭をよぎり、表情が固まってしまった。
 様子がおかしいことに気付いた母親が、どうしたの、と優しく尋ねようとして。
 玄関から、乱雑な足音が聞こえてきた。
 それは、明らかなルール違反だった。

 

 荒い吐息が響いていた。
 人形は床に投げ出されていた。ガラスの瞳は女の子と母親とたくさんの男の人たちを見つめていて、まん丸の宇宙にやたら生々しい肌色が映り込んでいた。
 大きな男が小さな女の子を抱え上げている姿はどこか滑稽で、激しく揺さぶられているのに、何の反応もない女の子もどこか歪んだ光景だった。華奢な背中をガラス窓に押し付けられ、未熟な身体を何度も何度も嬲られた。
 子ども用の小柄なベッドに投げ出されて、母親が大柄な男に圧し掛かられていた。光景そのものは女の子が昨日の夜に見ていたものと同じだったけれど、母親の口から出て来るのは苦しそうな声ばかりで、女の子が聞いたような気持ちよさそうな響きではなかった。
 人形はそれを見ていた。
 盗みに入った男たちが二人を見つけて、母親から女の子を引き剥がし、人質にしてから金品を集めさせた。その後で、刃物を突きつけられている女の子の目の前で、母親が犯された。十八で子を産んだから、身体はまだ若々しかった。
 飢えた男たちには、格好の捌け口だった。
 ――あの子には。
 悲痛な叫び声は、すぐに塞がれた。
 女の子が、叫び声を上げることはなかった。
 何も出来なかった。
 閉じることも出来ないまぶたの裏側で、捻じ曲がりながら壊れていく世界を見つめるしかなかった。
 そしてすぐさま押し潰すように覆いかぶってきた男を、別の世界で起こっている他人事のように眺めるしかなかった。
 人形は、その全てを見た。
 父親が帰ってきたのは、全てが終わってから二時間が経ってのことだった。

 

 女の子が外に出ることはなくなった。
 部屋の中に閉じこもり、人形を抱き締めたまま、死んだように眠る日々が続いた。
 母親は、一週間が経つと、外には出られないものの喋れるくらいには回復した。
 一ヶ月ほどが経ち、里の警備隊によれば、犯人と見られる男たちは妖怪の山の麓で死体として見つかったらしい。賊は奥地を根城にすることが多いから、ありえない話ではなかった。
 事件そのものの片は、呆気ないくらい簡単に付いた。
 だが、だからといって、何もかもが元に戻るわけもなかった。
 三ヶ月が過ぎた。
 ――あなた。
 ようやく、外出できるくらいに元気を取り戻した母親が、父親に告げた。
 食べ物を見ると吐き気がした。無理に食べると戻しそうになった。強い匂いが駄目になった。
 強姦されたことによる、心の病だとは考えなかった。
 この症状には、心当たりがあった。
 だから、里の医者に診てもらった。
 外れていてほしい、と切に願いながら。
 ――悪阻(つわり)だったの。
 お腹を擦る。
 その中に芽生えた命の塊が、目の前で項垂れている彼のものなのか、妖怪に食い散らかされた名も無き賊の欠けらなのか、それすら判然としないまま、彼女は母親としてお腹を撫でた。

 

 女の子は、部屋から景色を見るのが精一杯だった。
 人形は、まだ薄汚れたままだ。
 玄関で音がすると、身体が震えた。それがお母さんだと解っていても、溢れてくる涙を押さえることは出来なかった。
 乱暴な手のひら。しわがれた顔。ドス黒い塊。引き裂かれるような痛みと、絶望のようなもの。
 思い出すたびに、死にたくなった。
 心を抉り出せば、もう何も感じられなくなると思った。
 それもまたひとつの希望に見えるほど、瞳は光を映さなくなった。
 ――、――。
 居間の方で、誰かの叫ぶ声が聞こえる。
 お父さんかお母さんかも解らないくらい掻き乱された声だったから、女の子には耐えられなかった。
 悲鳴は、あの日のことを思い起こさせる。耳を塞いでも、聞こえなくても、頭の中に下衆な笑い声が律儀に再生された。きつく抱き締めすぎた人形の関節が折れ、ばきばきと軋みを立てた。
 もう、いやだ。
 女の子は涙を垂れ流しながら、部屋の扉を開けた。
 人形は床を引きずるように、それでも手のひらは硬く繋いだまま。
 居間の扉は、すこしだけ開かれていた。
 ――無理だ。
 お父さんとお母さんが、向かい合うように立っている。
 言葉の意味は解らなかった。
 どうして、お母さんがあんなに怒っているのかも、全く解らなかった。
 ――堕ろそう。
 お母さんが何かを叫んだけれど、上手く聞き取れなかった。
 聞きたくなかった。
 見たくもなかった。
 あんな、むちゃくちゃに歪んだお母さんの顔は。
 ――幸い、楽に堕胎できる薬も、
 ぱぁん、と乾いた音がした。
 お母さんがお父さんを殴った音だと気付くまで、すこし時間がかかった。
 噛み締めた唇から、血が垂れていた。お父さんは、呆けたような表情で、お母さんの形相を眺めていた。
 痛いのに。
 痛いのに、どうして殴るんだろう。
 ――どうして、
 言葉が詰まった。
 ――どうして、そんな簡単そうに言うの。
 搾り出すような声だった。
 お父さんは俯いたまま何も言わず、赤くなった頬を手のひらで押さえていた。
 ――殺すのよ。
 左手は、お母さんのお腹に当てられていた。
 右手は何かを訴えるように、あてどなく宙を彷徨っていた。
 ――赤ちゃんを、わたしたちの都合で、まだ産まれてもいないのに!
 壁に叩きつけようとしていた手を、父親の手が掴んだ。
 ――不幸になるだけだ。
 父の手を振り払って、母は叫ぶ。
 ――あなたは、ご自分の子じゃないかもしれないから!
 今度は、父が母を殴った。
 喋っている途中だったから、口の中を切り、次に口を開けたときにはかなりの血が零れ落ちていた。
 ……もう、いやだ。
 ――あぁ、そうだ。
 聞きたくない。
 ――おまえをむちゃくちゃにした、糞野郎の血が混じった子どもなんて、
 見たくない。
 ――絶対に、
 もう、
 ――死

「いやあぁぁぁぁぁぁ!」

 絶叫した。
 がんがんと木霊する頭を押さえながらがむしゃらに走り出して、家を飛び出し、夕闇の暮れ始めた里を駆け抜けた。
 喉がかれ、涙も出ているのか出てないのか解らなくなった。
 誰かが追いかけていても何も解らないほど、耳はあの日の笑い声と肉と肉がぶつかり合う音と殴りつける音と殴りつけられたように軋む骨と肉の不協和音だけを奏で続けていた。
 片手には人形の手を握り締め、足が棒になるくらい走り続けた。
「……、あ……」
 気が付けば周りはもう完全な闇に落ちていて、人影も民家も見当たらない。
 見たことがあるような花が、辺り一面に咲き誇っていた。
 薄い月明かりに照らされた花は、病的なほどに青く輝いていて、ひどく綺麗だった。
「わあ……」
 風に、鈴蘭が揺れる。
 その光景があまりにも美しかったから、女の子は人形を抱き締めたままそこに座り込んだ。
 長らく身体を動かしていなかったから、疲れてしまった。
 剥き出しの土の上に眠るのはすこし汚いけれど、この景色に包まれながら眠れるのは、ちょっと心が躍った。
 綺麗なものが見たかった。
 せめて今だけは汚いものを全て忘れて、ただ目の前にある美しいものを、瞳に焼き付けていたかった。
 まぶたを閉じる。
「おやすみ」
 隣に寝転ぶ人形の髪の毛を撫でて、女の子は息を止めた。
 最後に思ったのは、生まれてくる子どもは、弟と、妹のどちらだろう、ということだった。
 それでなくても、人形がある限り、女の子は確かにお姉さんだったのだけれど。
 誰も、それを教えることは叶わなかった。

 

 

 冷たくなった女の子は、次の日の昼には両親に発見された。
 人形は女の子と一緒に供養され、墓の前に安置されたが、ある日突然姿を消した。
 誰かが持ち去ったのだろうという結論に落ち着き、犯人の探索は行われなかった。
 その後、女の子の母親は、身ごもっていた子どもを産み、育てたのか。
 それは、幻想郷の如何なる歴史にも伝えられていない。

 

 

 

 

 永琳は嘆息し、ベッドに寝転がっている人形と、その手のひらを硬く握り締めているメディスンを一瞥した。
 手術は誰にも有無を言わせぬ速度と精度で成功し、メディスンが人形の全身に毒を回すことで、人形の再起動を確認した。以前のように動き回れるようになるまではまだしばらくかかるから、とりあえず休むように言いつけると、すこし目を離した隙にメディスンはベッドの脇で寝入っていた。
「手間のかかる子たちだこと……」
 少女の背中に毛布をかけようとして、毒で繊維が駄目になるかしらと躊躇する。
 しかしそれもまた一興と考え、人形でも妖怪でも寒いものは寒いだろうから、メディスンに毛布を掛け、人形にもシーツをかぶせた。メディスンからは呼吸が確認出来るが、人形は呼吸をしているようには見えない。だが、メディスンが目覚めれば自然と活動するようになるだろう。不思議なものだ。
「楽しい夢、見れたのかしらね」
 それこそ、人形のみぞ知るといったところだ。
 肩を竦めて、細々とした明かりの中でカルテを書き加える。
 この人形には、心がなかった。
 正確には、骨格を支える心臓の部位が丸ごと欠落していたのだ。
 ほとんど化け人形と化している今は、全身を操る芯の部分がなくても十分に稼動する。だがそれは毒という魔力が尽きれば呆気なく瓦解する構造で、メディスンが強すぎる毒を送り続けていなければ、心臓のない人形は毒が漏れてすぐに動かなくなる。メディスンの毒は、彼女自身が成長するにつれて徐々に抑制され、それに従って人形に注がれる毒も減少して行った。そして、需要と供給のバランスが引っ繰り返り、今回の事件が起きた。
 考えてみれば、今までどうにかなっていたのがおかしいのだ。
「さすが、幻想郷」
 だから、永琳は人形に心臓を与えた。
 抉り出された心を補填し、再び、新しい何かを溜められるように。
 結局は、ただの願望に過ぎないが。
「人形が、人の命を持つくらいだから」
 眠り続ける彼女たちに目を向け、そっと微笑んで。
 彼女たちの見る夢が、素敵なものであればと。
 ささやかな祈りを、虚ろな空に放り投げた。

 

 


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一日エロ東方

七月二十二日
(花映塚・リリーブラック)



『感度0』

 

 リリーブラック、通称黒百合は言わば春告精リリーホワイトの亜種とも呼べる存在であり、一般民衆からは希少種扱いされている。リリーホワイトが春に現れるのに対し、リリーブラックは秋のごく短い期間に現れるという節もあるが、あまりはっきりとしたことはわからない。春を伝え終わった後、彼女たちが妖怪の山に帰るという目撃談もある。そこの巣を叩けば、赤白黄色緑に藍紫橙といった、各種の百合が拝めるかもしれない。
 いちばん確実なのは、楽園の閻魔ことザナドゥ映姫と弾幕を張り合い、そのうちひょっこりと現れたブラックをひょいと奪取するというものだ。ありがちな落ちとして予想されるのはリリーホワイトが黒い格好しているだけという結末だが、それならそれでリリーホワイト爆死事件(文々。新聞より抜粋)の二の舞にならないよう適切に処理すれば良いだけの話である。
 愛と真実と魔術の探求者、霧雨魔理沙は考えた。
 リリーホワイトとリリーブラックはどう違うの? と。
 服装だけなら虐めればよい、別人格なら弄ればよい。よりどりみどりのやりたい放題である。
 魔法使い万歳。
 だが、過信と慢心は身を滅ぼす。万全を期す必要がある。魔理沙は、前々回のリリーホワイト爆死事件、前回の「ドキッ☆4人だけの百鬼夜行」(命名・射命丸文)を教訓に、鉄壁の隠蔽工作を展開する用意があった。もう、文の奴隷になるような生活はまっぴらごめんだ。たまにならいいけど。
 霧雨魔理沙は、確かな決意を持って出撃する。
 砂埃を巻き上げながら爽やかな青空に舞い上がる勇姿を、一方的に協力を持ち掛けられた博麗霊夢はのんびりと傍観していた。
 どうせまたロクなことにはならないだろうなあと思いながら、それでも魔理沙の提案を突っぱねずに受け入れてしまったのは、やっぱりそこそこ暇だったからかもしれない。
 幻想郷は、おおむね平和である。

 

 

 二時間後。
 霊夢が賽銭箱の上に座って祓い串を回していると、空の彼方から箒にまたがった白黒いのがやってきた。右腕にリリーブラック、左腕にリリーホワイトを抱えているところからすると、彼女はよっぽどモノクロームな色彩に愛着があるのだなあと思うことしばしであった。
「ただいま」
「帰りなさい」
「『お』が抜けてるぜ」
 よっこらしょと箒から降りた魔理沙は、きゅーとばかりに昏倒している白百合と黒百合を放り投げる。多少煤けてはいるものの、確かに春を伝えるところの妖精であることは間違いない。
 霊夢は質問した。
「なんで二匹なの」
「二匹採取しないと比較できないだろ」
 至極もっともな意見だったが、面倒が増えたことだけは確かである。
 白と黒の妖精を社務所に引きずり上げる魔理沙の嬉々とした姿を一瞥し、霊夢は深々と溜め息を吐いた。

 

 

 居間である。
 博麗直伝の結界に四方を守護された空間は、スキマ妖怪ですらも突破するのに数分を要する。そもそもスキマの構造が意味不明だから、彼女に対して結界なんぞ何の意味を持たないのかもしれないが、これは彼女以外の生命体による邪魔を防ぐための防壁だ。八雲紫のちょっかいがあった場合は、研究を中断するか、迎撃専門の霊夢に退治を委託するか、そのどちらかを選ばざるを得ない。
「要するに、早いとこ調べた方がいいってことだな!」
「なんでそんな乗り気なの」
 二度も似たような過ちを犯しておいて、まだ同じことを繰り返そうとしている。懲りないものだ。
 二度あることは三度ある、三度目の正直、仏の顔も三度まで、桃栗三年柿八年。
 最後のはあんまり関係なかった。
 兎も角も、今はリリーホワイトアンドブラックである。
 布団に寝かされた両名は、時折悪夢にうなされる様子もあったが、今は小康状態を保っている。
 ぱっと見は、服装を変えただけの双子にも思える。体型にも表情にも大きな差異はない。放つ弾幕に違いがあるのかもしれないが、それは魔理沙がその目で確認したことだろう。こうして無防備な状態にある以上、そういう状態のうちに出来ることをする必要がある。
「よし、脱がすぞ」
 腕まくりをする魔理沙を冷めた目で遠巻きに眺めていた霊夢だったが、魔理沙が執拗に手招きするため、めいっぱい渋い顔を見せて抵抗の意志を露にした。
「おい、霊夢。不細工だぞ」
「強姦の手助けをするくらいなら、不細工面になってた方が何倍もマシよ」
 物騒な言葉を羅列する巫女に対し、魔法使いも負けてはいない。リリーブラックの上着をめくり上げながら、魔理沙は自慢げに言う。
「甘いな、霊夢。妖精に処女膜はないんだぜ」
「……え、そうなの?」
 初耳だった。
 というか、そもそもそういう事柄を知る機会が皆無に等しい。慧音先生も教えちゃくれまい。
「まあそれは今から確かめるんだが」
 眉唾の香りがする。
 とりあえず霊夢は柱に背を預けたまま、魔理沙の実験とやらに視線を注ぐことにした。
 たとえ事態がどんな方向に転がろうとも、全ては弾幕一発ぶちかませば済むことである。何を憂うこともあるだろうか。霊夢は悠然と構えていた。
「まずは、黒の方だな」
 上着は既に首の辺りにまで押し上げられ、スカートも腰までめくり上げられている。生意気にも黒の下着を付けていたものだから、何故か癪に障ったらしい魔理沙にぺいっと毟り取られていた。その手馴れた様子が若干気になる。
 身長こそ二次性徴を迎えるかどうかといった程度だが、骨格そのものは成熟している。等身大よりすこし小さめの精緻な人形を作るとすれば、ちょうどこのような姿になるのかもしれない。
 半裸の妖精が寝転がっているだけでも異様なのに、その妖精をまじまじと眺めている魔法使いという構図が事の異常さにスパイスを加えている。霊夢は殊更そのことを考えないようにしていたのだが、魔理沙の独り言がいちいちうるさいのと、予想以上に妖精の身体がちゃんと出来ていることに、多少なりとも注意を引かれてしまっていた。
「私の見立てによれば、こいつらは興奮が一定のラインに到達すると、自動的に弾幕を放射するように出来てるんだが……」
 聞かれてもいないことを丁寧に解説する魔理沙の背中を見て、もしかしたら独り暮らし寂しいのかなあと霊夢は思った。
 そんな魔理沙は霊夢の健気な気遣いを知る由もなく、握り拳から人差し指と中指を立て、わざとらしく腕を後ろに構えていた。
 何らかのポーズらしい。
 そして叫ぶ。
「奥義!」
 奥義らしい。
「ブレイジングスター!」
 おい。
 無言で突っ込みを入れる霊夢を他所に、魔理沙は腰の位置に構えた指を、わりと勢いよくリリーブラックのあそこに突っ込んだ。
「ひあぅう!」
 突然の衝撃に、リリーブラックも覚醒する。だが、魔理沙が膣壁を掻き分けながらねちっこく弄くるものだから、寝起きも相まって、有効な対抗策を打ち出せないまま身悶えるしかなかった。
 その間に、魔理沙は嬉々として下の穴を掻き回している。
 その光景に、霊夢はしばらく沈黙していた。が。
「……あぁっ!?」
 弾かれるように、おっさんみたいな声を上げた。
「ちょっ、魔理沙! おいそこの霧雨魔理沙! 白黒! 止まれ!」
「なんだよ霊夢、今からいいとこなんじゃないか」
「なんだよ霊夢じゃないわよ魔理沙! あんた物事には順序ってもんがあるでしょ!」
「なんだよ霊夢じゃないわよ魔理沙じゃなくてな霊夢」
「うっさい省略しろ!」
 後半は自分でも激昂している理由がわからなかったが、とりあえず魔理沙の行為が妖精相手にしても乱暴に過ぎるからこれは女として黙っちゃおれんということにした。
 魔理沙は霊夢にどやされている最中も絶えず二本の指を動かしており、そのたびに黒百合の口から熱い吐息が零れ落ちる。肉壺も徐々に愛液が満ち始め、魔理沙は一気呵成に淫核(クリトリス)を摘まんだり弾いたりする。
「あぁん! ふぁ、い、いやぁ……」
「ほれ」
「ほれじゃないわよ……。嫌がってるじゃない」
 嘆息して、魔理沙の腕を掴もうとすると、また何処からか喘ぎ声と衣擦れの音がする。
「はぁ、ひぅ、くぅん……」
「ほれ、感度も抜群だろ」
「いや、別のとこから聞こえたじゃない……って」
 霊夢は、声が聞こえた方向を望む。
 魔理沙がつられてその方向を見ると、むず痒そうに股間を押さえるリリーホワイトの姿があった。
 ちなみに、リリーホワイトには何も突っ込んでいない。着衣のままであるし、そればかりか目覚めてすらいないようである。
 霊夢と魔理沙は顔を見合わせた。
「……どういうこと?」
 霊夢の問いには答えず、魔理沙は確かめるようにクリトリスをきゅっと摘まむ。
「ふあぁ!」
「ひゃん!」
 先に黒、次に白が啼いた。
 既に覚醒している黒は恨みがましい視線を魔理沙にぶつけているが、喋る気力も弾幕る体力も失せているようだ。ぐったりとした身体を布団に預けている。
 魔理沙は厭らしくほくそえんだ。
「間違いないな……」
「何が」
 なんとなく察しはついたが、とりあえず尋ねてみる。
「こいつら、感覚を共有してる」
「へえ……珍しいこともあるもんね……」
「妖精が弾け飛びながら連鎖する例もあるからな、そう考えるとあり得ないパターンじゃない」
 自信満々に語る魔理沙とは対照的に、霊夢はあまりやる気がなかった。
 卑猥な空間に昇華しつつある居間の中に長時間身を置いていると、自分もまた卑猥な存在に書き換えられている錯覚を抱く。それを避けるために興味がない態度を保っているのだが、ステレオに響き渡る嬌声と愛液が掻き乱される水音は、霊夢の理性に穴を穿つには十分過ぎるほどの艶かしさを秘めていた。
「ひうぅん! やだぁ、もう、やめぇ……あぁぁッ!」
「くふぅ、んふぅ……、ひぁ、あはぁ……あぁんッ!」
 か細い抵抗を示しながらも押し寄せてくる波に呑まれて漏れ出してしまう声と、うなされながらも夢の中で確かな快感を味わっている押し殺した声が、折り重なるように居間を包み込む。
 魔理沙も妖精の中をいじっているうちに盛り上がってきたらしく、今は下着を曝したまま黒百合の唇を吸っている。「ひーひーうるさいから」という詭弁はリリーブラックの唇に溶けて、求め合うように重なった口唇の隙間から銀色の雫が布団に落ちた。
「にちゅぅ、ちゅ、ちゅうぅ……」
「んんぅ、ちゅく、むぅ……んっ」
 時折漏れる鼻息は、黒百合と白百合が混じり合って構成されている。リリーブラックと感覚を共有しているリリーホワイトは、擬似的に魔理沙の唇を体感している計算になる。何もしていないのに、口の端からは涎が垂れ、物欲しそうに舌を伸ばしては宙に泳がせている。
 地獄絵図か阿鼻叫喚か、はたまた酒池肉林か。
 霊夢には全くもって判然としなかったが、当人たちが気持ちよくやっているのなら何も言うまいと心を捻じ切った。
 だって、ほら、なんとなく中立だし? 博麗霊夢って。
 あんまり、その、そういうことするのもまあ、あれじゃない。
 あれよあれ。
「んむ、ちゅぱ……、はぁ、れいむ、おまえも参加したかったら、ほれ、白いの空いてる」
「やんない」
「ん、まあ、頬を赤らめながら言っても、説得力ないけどな」
「うるさいうるさい」
 んふふ、と厭らしく微笑む魔理沙の下着は、いつの間にか卑しい染みが滲んでいた。霊夢の視線が下に注がれていると気付いた魔理沙は、空いた指を下着の内側に滑り込ませて、みずからの感度を確認した。
「んんぅ! ……ふう、はぁ……、いっぱい、ぬれてる……」
「……あんた、わざとやってるでしょう」
「さあ、どうかな」
 しれっと答えて、黒百合の秘部から指を引き抜く。
 愛液にまみれた指を黒百合の唇に差し出し、彼女の意志で指を舐めさせる。ぴちゃぴちゃと棒状のモノを咥える音が、リリーブラック、リリーホワイトの口から零れ落ちる。
 綺麗になった指をまた魔理沙自身が丁寧にねぶり、「どう?」とばかりに霊夢に差し出せば、凄まじい速度のゲンコツが魔理沙の頭蓋骨を捉えた。
 よい音がした。
「ばか! このばか!」
「うるさいのはどっちなんだよ……、と、そろそろかな……」
 激怒する霊夢を脇に押しのけ、布団の傍らに置いていた桐の箱を引き寄せる。
 おもむろに蓋を開け、躊躇する様子もなく魔理沙の手馴れた様子を垣間見て、ああもうこいつはうぶなねんねじゃないんだなあと感慨にふける霊夢だった。
 それはいわゆる男性器の形状を思わせる物体であり、用途は森近の霖之助に頼まなくてもなんとなく理解できてしまうくらい明確極まりないフォルムだった。
 別名を張り型といい、霊夢魔理沙は知らないが、機械仕掛けで動く張り型をバイヴという。
 魔理沙が嬉々として握り締めているのは、バイヴの方である。
 てらてらと鈍く輝く紫色が厭らしい。
「今なら、これも入るかな、と……」
「あんたなんでそんなに使い慣れてるの」
「……」
 魔理沙は答えなかった。
 哀れ、霧雨魔法少女の破瓜(ロストバージン)が無機物による姦通でないことを祈るばかりである。
 霊夢はもうどうでもよくなっていた。
「そらあっ!」
 これまた何の前触れもなく、開き切った入り口にバイヴを突き刺す。
 誇張でもなんでもなく、黒百合と白百合の身体がびくびくっと震えた。
「あぁぁぁっ!」
 喘ぎ声がシンクロする。
 リリーホワイトの股にも絶頂による洪水の染みが生まれ、そのあまりの衝撃にリリーブラックは口を開けたまま仰け反っていた。たった一突きでこれである。往復を繰り返したらどうなるのか、それを考えると魔理沙の興奮は更に高まった。
「ふぁ、ひ、くうぅ……、はぁ、え、えぇ!?」
 惰眠と快楽を貪っていた白百合も、この攻撃には流石に目覚めずにはいられなかった。隣で手動バイヴに犯されている黒百合に驚き、犯している魔理沙に驚き、何もせずに突っ立っている霊夢はとりあえず背景に設定した。
「起きたか……、だが、ちょっとばかり遅かったようだな!」
 ブレイジングスター! とさっきやったばかりのネタを繰り出すあたり、魔理沙も細かいことはどうでもよくなっているらしい。
 引き抜かれかけたバイヴが、再びリリーブラックの花びらの中に突き刺さる。
「――は、あっ……!」
 一度頂点に達し、その熱気が冷めやらぬうちに怒張を差し込まれたせいで、呼吸すら満足に行かない。苦悶の表情を浮かべる白と黒の百合に嗜虐心を掻き立てられた魔理沙は、蜜に溢れている膣の奥深くまでバイヴを突き入れ、もったいぶるように引き抜いては、また乱暴に突き立てる。
「はっ、あ……、っ、ひぅ……!」
 オーガズムは快楽が延々と積み重なるものであり、冷め切らぬうちに繰り返せば快感が増幅する。
 二人のリリーもその理に則り、なかば暴力的に襲い来る衝動に身悶えていた。
 バイヴを往復する速度も次第に速まり、ぐちゅぐちょと肉襞を掻き分ける音も徐々にうるさくなる。同時に二人を犯すという荒業をやってのける魔理沙にある種の感動を覚えつつある霊夢だったが、自分だけはこの雰囲気に呑まれてはならないと耳を塞ぐ。
「霊夢」
「……」
 聞こえない聞こえない。
「霊夢、リリーホワイトの方に指」
「わたし関係ないし……巫女だし……」
「あ、あぁっ! はぁ、ふっ、ひゃぅ……!」
 魔理沙は手を止めない。
 あまつさえ、自分の恥部にも指を滑り込ませる始末である。
 霊夢は見ないことにした。
「一人でもこんな大洪水なんだ、もし二人同時に責められたら、一体どうなるんだろうな?」
「どうもこうも……細胞分裂とかするんじゃないの……知らないけど……」
「やぁ、も、もぅ……! あ、あっ、んんんっ!」
 あーもうあーもう。
 折角何も考えないようにしているのに、こうもきゃんきゃんうるさいと焼け石に水である。
 霊夢にしろ、そりゃあ純真な少女であるわけだから、この状況に何も感じないはずがない。具体的に言うと、魔理沙ほどではないにしろ、ごにょごにょむにゃむにゃという状況でもあるわけなのだ。
「れいむだって、もう濡れてるくせに」
「言うなあー!」
 ブチ切れた。
 噴火してもなお白百合に指を挿入しろと指示する魔理沙に幾許かの淫乱疑惑が浮上する霊夢だったが、もうこうなったらどうとでもなれ、と激しく身悶える白百合の股の間に滑り込む。
 触れられてもいないのに、一方的に黒百合の快感に押し流されている。本人が望んだ結果でないことだけは確かだが、特殊な体験であることに間違いはない。
 霊夢は、おずおずとリリーホワイトのスカートを脱がし、やっぱり履いてた下着も脱がし、ばたばたと邪魔な脚を押さえつけて。
「……えい」
 つぷ、とリリーホワイトの膣に指を差し込んだ。
「――、くふ、あぁっ……!」
 びくん、とリリーホワイトが仰け反り、それに呼応してリリーブラックも身を震わせる。白百合の金の髪と、黒百合の琥珀の髪が、感覚を共有するたびにまるで別の生き物のように激しく躍動していた。
「ふあぁ、はっ、んんんっ……!」
「ん、あ、ぬとぬとして、あったかい……」
「ふぁ、ん、そうだろ……? 妖精も、子作りするように、できてるんかな……あ、ぁん!」
「ちょっとなんであんたまで盛り上がってるのよ!」
 霊夢はびっくりした。
「だ、だってぇ……」
 バイヴを蠢かせる手付きもさることながら、その最中に自慰に耽る魔理沙の手腕たるや侮れないものがある。くちゅくちゅと響かせる雫は魔理沙の絶頂が近いことを示しており、とろんと蕩けた瞳にはいつもの燦然とした輝きはなく、ただただ欲情に頭を焼き尽くされた女のそれでしかなかった。
 四人中三人が恍惚の海に投げ出されている状況下にあって、霊夢がその渦に呑みこまれるのももはや時間の問題だった。が、霊夢は容易く諦めはしない。
「こうなったら、早いとこ終わらせて……!」
 ヤケクソ気味に指を動かせば、そのたびにダブルリリーが切なく啼き喚く。それでなくても黒百合側からは断続的に魔理沙が自分の恥部をいじくるぴちゃぴちゃした音が響き渡り、喘ぎ声も水滴も三人分である。湿っているだけなら霊夢も加わる。
「たく、なんで、こんなことに……んっ」
 じんわりと股間に広がる湿り気が、多少なりとも気にかかる。
 指先から伝わって来る他者の温もりは、おそらく自分のそれとも繋がるものだ。だとすればそれは決して汚らわしいものではなく、ただ生殖のための一要素でしかないと理解できる。理解はできるのだ。
「ふぅ、んっ……」
「はぁ、あっ、ひぅん! あぁん!」
「あ、はぁ、もう、そろそろ……んんっ!」
 それぞれがそれぞれに階段を駆け上がろうとしている間際、霊夢は、呑まれるのが正しいのか、拒むのが正しいのか判断を迫られていた。
 気持ちよければいいというものじゃないのは解っている。けれど、それが間違いじゃないことも知っている。少なくとも、生理現象という意味においては。
 言い訳は揃っていた。
 だから。
「あ、くふぅ……、だ、だめなのにぃ……」
 ぐちゅぐちゅと掻き分ける指の動きに呼応して、片方の手のひらが霊夢自身の股間に自然と滑り込む。
 そこは前々から準備が万端で、霊夢に柔らかく触れられた途端、電撃のような衝撃を下から上に送り込んだ。
「――んうぅぅっ!」
 痺れる。
 一瞬、手放しかけた意識を何とか手繰り寄せ、最後の気力を振り絞り、リリーホワイトの膣の奥深くに指を突き刺し。
 同時に、絶頂を感じ取った魔理沙もまた、バイヴをリリーブラックのいちばん深いところに捻じ込み。
 びくん、と誰かの身体が震えた。

「んんっ、っ、あっ――――!」

 スパークする。
 四人がほぼ同時に絶頂を迎え、魔理沙は黒百合に、霊夢は白百合に倒れ込む。
 各々の視界が白く染め尽くされ、大切なところから大事な何かが解き放たれたような、漠然とした後悔に包まれた――。

 

 

 結論から言えば。
 結界とは外から内を護るためでなく、内から外を護るためにも役立つ。
 今回は実験が実験だけあって、内部から音と光が漏れないよう努めていた。そのため、居間でどのようなエネルギー爆発があっても誰にも気付かれないように構成されていたのである。なおかつ光が鏡面に反射するように波動もまた結界に乱反射し、最終的にはエネルギーを放出した存在に全ての力が帰って来る。
 リリーホワイト、リリーブラックの両名は快感が最高潮に達すると同時に体内のエネルギー核を瞬時にフル稼働させ、感覚の共有により極限まで高められた無意識の意志により、芸術的な連鎖爆発を描いてみせた。
 閉鎖された空間における局地的な爆発がもたらす衝撃波の威力はまさに以下略であり、端的に言うと「うわあ」という感じである。そんなにうわあな爆発の影響で結界の基点が外れ、その境目をくぐるようにリリーホワイトアンドブラックは博麗神社から脱出した。
 一方、ぶすぶすとそこかしこを焦がして畳にうつ伏せている魔法使いと仰向けになっている巫女さんは、あーとかうーとかしきりに呻きながら、事のあらましをぶつぶつと呟いたり嘆いたりしていた。半裸で。
「あー……結局なー……」
「うー……けほこほ……」
 もうやだ、とほろほろ涙を流す霊夢の傍ら、悲しみに暮れている間も空けず、魔理沙はひとつの結論を導き出していた。
 二度あることは三度あったが、そのたびにひとつずつ何かを学んでいく。
「黒いの……処女膜なかったよな……」
「……」
 たとえ、それがどんなことであっても。
「それ……あんたのこと……?」
「……」
 魔理沙は答えなかった。
 霊夢は少女の沈黙を聞き、春だなあ、と思った。

 

 


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一日エロ東方

七月二十三日
(特別出演・幽霊)



『優しくは愛せない』

 

 冥界は、裁きを受けた死者の霊が転生・成仏待ちのために留まる場所であるが、最近は冥界の美しさに惹かれて転生もせず其処に留まる幽霊も多いようである。
 冥界きっての名家である白玉楼に住む魂魄妖夢は、冥界にてすれ違う幽霊を特に何の気もなく眺めているのだが、たまに人の姿を取った幽霊を見かけることがあり、その場合はにわかに警戒を強める。
 今日は、大樹の陰に二体の幽霊が寄り添っていた。いずれも、人間のような姿を取っている。
「――、……」
 妖夢は、息を潜めた。
 最近は結界が緩んでいる影響からか、普通の人間も冥界に現れることがある。通常は存在の濃度、すなわち透過の割合で幽霊か否かを判別するのだが、人の姿を取った幽霊に擬態した、凶悪な妖怪という線も十分に考えられる。
 面倒だからそういう存在は丸ごと一緒くたに切り捨てればいいだけの話なのだが、閻魔や主が言うには問答無用で斬り付けるのもあまり宜しくないらしい。妖夢は面倒だなあと思いながらもその言葉を承り、人の形をしたものを見つけたら、いきなり斬りかからずにまず真偽を判定することから始めることにした。
 足音を殺し、大樹に擦り寄る。
 あちこちに漂っている幽霊は、人間に似た幽霊にも、妖夢にも不干渉である。殺気も妖気も気配らしきものは全て押し殺している妖夢ではあるが、姿は見えているのに気配がない、という妖夢の存在に、幽霊たちは恐れ戦いていた。自然と、距離も開く。
 妖夢と大樹までの進路がクリアになり、妖夢は難なく大樹に背を預けた。
「――ふぅ」
 息を吐く。
 反対側には、二体の幽霊がいるはずだ。いつでも反撃に転じられるよう、手のひらを柄に添え、妖夢は半霊を大樹の枝に飛ばす。半霊は妖夢の意志によって自由自在に動く。半霊の知覚は妖夢にも通じ、半霊が目撃したものは妖夢もまた認識することが出来る。
 妖夢は瞳を閉じ、瞑想するように心と体を極限まで透過させた。
 徐々に、半霊の視界が朧から露になる。

 

 

 幽霊は、物や壁を自由にすり抜けることができる。
 裏を返せば、自由に物に触れることはできないということだ。
 人の形を取っていても、相手が幽霊であったとしても、希薄な存在である幽霊は誰にも触れられない。
 事此処に至り、存在に耐えられない軽さを知る。
 ――。
 一人は男、一人は女だった。
 ぼんやりとした輪郭から男女の区別はできるものの、服を着ているかどうかは曖昧である。その中でも容姿は比較的はっきりしていて、お互いを求めるには都合がよかった。
 肩を寄せても、肌はその内側に擦り抜ける。真に交わるのならば、身体を重ね合わせることもひとつの幸福かもしれない。それでも二人の手のひらは、お互いの内側に透ける手前で、触れているように重なっていた。
 唇が触れ合う。
 人の形を維持することに意識を割いているせいか、唇から意味のある言葉は出て来ない。音すらしない。ただひたすら、接吻の真似事をするように唇を忙しなく動かし、愛を確かめ合うように舌を絡め合う。
 そこに、触覚はなくとも。
 ――、――。
 男の手のひらが女の乳房を這い、勢いあまって手首まで胸にめり込んでしまう。くすくすと笑う女の前で、男は気恥ずかしそうに手を抜いた。次は上手に手のひらをこね、女の感触を味わいながら再び唇を求める。
 彼らは、みずからの記憶に宿る五感を補助として用いている。
 過去に体感した触感、音声、粘性を現在の行為に当てはめて、よりよく求め合うための材料に仕立て上げている。
 思い込みは神に勝る魔法である。
 そうと信じている限り、おそらく、彼らは生死を超越しているのだ。
 ――――。
 幻に似た影は絶えず朧気に揺らぎ、抱き締めようとも縛り付けようともいつか必ず消えゆくものである。それが霊の定めならば仕方ないと諦められようが、冥界は現世と異なり、幽霊のような不確かな存在であれ、望むのならば永住することもできる。永遠の定義はそれぞれ思うところがあるのだろうけど、ただずっと共に在りたいと望み、それが果たされる冥界は至上の楽園ということもできた。
 だが、幽霊の冷たさに飽き、人間の温もりを忘れられないのならば。
 お互いを慰めるように抱き合ってみても、押し寄せる虚しさが心を埋め尽くす。
 それでも。
 ――、……。
 男の手が女の股間に移り、本来はそこにあるはずの恥部をまさぐる。
 照れ隠しに男の腕を掴んではいるけれど、拒んでいる様子はない。男が花びらをめくると、女もせいいっぱい股を広げて、その部分を細かく形作ろうとする。
 女の気苦労を悟り、男は乱れていた彼女の髪の毛を撫でる。髪の毛は男の手を擦り抜けたが、髪の毛は、程無くして女の胸に落ちた。微笑む。
 ――。
 不確かな情愛だった。
 それでも、お互いを想う気持ちがあり、求め合う意思がありさえすれば、情事などどのような場所でも起こり得る。相手が存在すら定かでない幽霊であろうとも、形があれば、心だけでも繋がることはできる。
 男はあらかじめ勃起させておいたペニスを、早々と女の股間にあてがう。
 愛液や先走りを垂らすには、死んでから時間が経ちすぎていた。記憶が劣化している。肉欲を貪っていた期間は遠い過去に成り下がり、今はただ性器の形を思い出す程度に留まっている。
 大樹に背を預けた女が、男に向かって優しく笑いかける。
 唇を開いても声にはならない。それでも、唇の形で言葉を織り成すことはできる。
 ――ここにいるよ。
 その一言があれば、貫くことに躊躇いはなかった。
 重々しい一撃が女の膣を掻き分け、ここぞという場所で止まる。
 苦悶の表情を浮かべる女性を労わるように、男は女を胸の中に招き入れた。
 ――っ。
 歯を食い縛る。
 痛みはない。快楽もない。触れている感覚もなければ触れられている感覚も絶無だ。熱も体温も鼓動も声も愛液も唾も何もかも、当たり前のように備わっていたものが、何もない。
 何もないのだ。
 それでも。
 それでもだ。
 ――。
 貫き、引き抜き、時に唇と舌を絡ませて、虚構の快楽に身を委ねている女の頬をそっと撫でる。
 上下に突き、腰を押し付けたまま膣壁に亀頭を引っ掛ける。
 女は男の動きと表情に合わせて腰を動かし、時折、ペニスを絞るように腰を震わせる。
 演技かもしれない。
 実体のない交わりかもしれない。何も生み出さないかもしれない。
 ただ。
「……は、ぁ……!」
 半霊越しに幽霊の交わりを目撃した妖夢には、その光景が、確かな性交に見えた。
 大樹の陰にへたり込みながらも、意識を集中させる。
 見なければならない。
 邪な意思がないと言えば嘘になるけれど、これは、この情景は、半人半霊である自分が知らなければならない、幽霊の側面であるのだと。
 心の何処か、おそらくは自分の幽霊の部分が、語らずのまま訴え続けていた。
 ――、……。
 密会は続く。
 射精という肉体的な絶頂も、受精という結果も存在しない。終わりを決めるのは当事者たちの意思で、食欲も睡眠欲も、本来ならば性欲すら必要ない幽霊ならば、延々と演技を続けることもできる。
 だが、お互いの身体が、人の形を留め切れなくなっていた。
 お互いに、求めているものが人であったときの温もりだと知っているから、やがて潮時は訪れる。
 人肌の温もりを求め、それが愛であれ慰めであれ、繋がっていることに意味はある。
 そう思いたかった。
 ――、――――!
 がくがくと腰を突き上げる男のリズムに合わせて、女の身体が艶かしく躍動する。
 豊かな乳房は自然と跳ねまわり、それを留めるように男が手を這わせ、喘ぎ声を啜り取るように唇を貪った。
 二人の輪郭は徐々にぼやけ、膣に収まっている肉棒が見えるくらいに透過していた。
 最後に、抱擁を求める女に男が応え、奪い去るように抱き締める。
 もう、ふたつの影が完全に重なり合い、ひとつの輪郭に収まったかに思えるほど、それは理想的な結合だった。
 そして、終局が訪れる。
 ――――――――。
 時が止まった。
 本当にそう思えるくらい確かな眩さを放ち、二人の幽霊は二匹の幽霊に還った。
 幽霊にありがちな水風船のような姿に戻り、くるくると旋回する。
 その後は、螺旋を描くように上昇し、半霊の横を通り過ぎてから、冥界の空の果てに消えて行く。
 遠ざかる二匹の影を見送り、妖夢は気張っていた身体を弛緩させた。はあ、と気の抜けた吐息が漏れる。気付けばぐっしょりと汗を掻いており、見回りの途中だが一旦帰らなければ気持ちが悪くて仕方ないくらいになっていた。
「あぁ、もう……」
 嫌になる。
 覗き見していた自分も、あれほど激しく温もりを求め合う幽霊を知らなかった自分も。
 手のひらを握り、開き、また硬く握り締める。髪の毛、額、眉、まつ毛、頬、鼻、口――舌は味を感じ、言葉は宙を泳ぎ、肌は温もりを感じられる。恵まれた身体だ。何もない、などと言えるような存在じゃない。そしてたとえ何もなくても、求め合うことはできる。
「ここにいるよ、か……」
 服の上から、胸に触れる。
 手のひらから伝わる鼓動は確かで、魂魄妖夢という個人がここにいることを教えてくれる。
 それ以上でも、それ以下でもない。
「……うん」
 帰ろう。
 立ち上がり、上空をうろちょろする半霊を呼び戻し、頭を撫でてから来た道を引き返す。
 ぞろぞろと集まっていた幽霊は自動的に道を開け、妖夢もまた当然のようにその道を渡る。
 けれどもその途中で立ち止まり、ふと、この世のものとも思えぬ冥界の空を仰ぐ。
 ――転生するだろうな、あの二人。
 幽霊だった頃、愛し合った記憶を失っても。
 あれほど激しく温もりを求めた意思が、冥界に留まるとも思えない。
 悲しいような、寂しいような。
 それでもいくらか期待と希望が勝った妖夢は、再び白玉楼に続く長い道を歩き始めた。

 

 


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一日エロ東方

九月五日
(特別出演・射命丸の鴉)



『カラスの行水と20世紀のクロニクル』

 

 かぽーん。
 ぴちょん。
 温泉である。
 けれどもこの温泉は妖怪の森の中腹に存在する穴場であるから、タライもなければ手拭いもない。必要ならば持参するしかないのだが、大概は何の準備もなく訪れて勝手にどぼーんと入って温もるのが通例である。
「ふう……」
 やや爺むさい吐息を漏らしながら天然温泉に浸かるのは、鴉天狗の射命丸文である。羽が濡れるのが嫌だから水浴びは短く、俗に言うカラスの行水はこと彼女においては通用しない。酒と温泉と弾幕(と色欲)に順応出来なければ、幻想郷の少女として生きていくことは出来ない。
 だが、いちばん大事なのは、文が温泉好きであるということ、それくらいである。
「ぶくぶくぶく……」
 お湯に唇を浸し、ぶくぶくと息を吐き出す。年端も行かない子どものような他愛のない悪戯も、幾星霜と年を重ねて来た妖にすれば、ごく自然に行われる遊びのひとつである。童心に帰ることこそ生を楽しむ秘訣だ、と誰かが言っていたような気がする。
 肩までどっぷりとお湯に浸かっている文は、頬を赤く染めぼんやりと明るい空を見上げている。たまに山の上空を通り過ぎる鳥の姿に風情を感じながら、あの鳥は誰かの使い魔なんじゃないかと邪推したり、でもまあ減るもんじゃないからいいかと開き直ったりしていた。
 豪気である。
「へあ……。きょうは、だぁれもじゃまがはいらなくてぇ、いいですねぇ……」
 間延びした口調で、独り言のように語る。
 彼女も返答を期待した言葉ではなかったろうし、私もまた、それに対して返す言葉を持たなかった。嘴はあれども声帯はなく、意志も思考も脆弱だ。出来損ないの鴉として生を受け、こうして天狗の僕として動くことが出来るだけでも幸福の極みだというのに、下手に言葉や意志を持てば、必ずそれ以上を期待する。
 だから私は現状に甘んじ、主を脅かす不届き者はいまいかと温泉の周囲を監視しながら、たまに主の姿も観察しているのだ。万が一、のぼせでもしたら大変である。人工呼吸は無理だが、心臓マッサージくらいは出来るぞ。
 鼻息も荒く主人の様子を窺っていると、お湯に深く浸かりすぎたのか、額を押さえながらおもむろに立ち上がる。途端、湯面から浮かび上がって来る魅惑の姿態に、私は一瞬目が眩んだ。
「ふう……、すこし休憩しましょう」
 美しい。
 ろくに言葉も知らない私にそれ以上の美辞麗句が思い浮かびようもないのだが、賢明な諸兄は美味しいものを美味しいと美しいものを美しいと言う以上の表現を求めているであろうことも、私は十分に理解している。だから、がんばる。
「はぁ……、気持ちいい……」
 天然の湯船から這い上がり、文は岩の上に腰掛ける。すらりと伸びた脚を湯船に引っ掛け、子どものようにぱちゃぱちゃと水面を蹴る。
 全身から立ち昇る湯気は彼女の姿を朧に隠し、未成熟とも発展途上とも言える姿態をより神秘的に織り上げている。一糸纏わぬ気高き御身は、齢千年を数える妖と思えぬほど少女じみた体躯であったが、少女性は処女性に通じ、巫女が神と通じるためその身の純潔を神に捧げるように、汚れひとつ知らぬ少女の肉体はすなわち神聖なものであると考えることが出来る。
 抱き締めれば容易く折れそうな身体の節々から、硫黄の香り漂う雫がぽたぽたと垂れる。まさに鴉の濡れ羽色と呼ぶに相応しい黒髪から落ちた雫が、天使の羽と言われる肩甲骨の間を伝い、細く締まった腰回りから円熟でない程度に膨らんだお尻に広がる。文が腰掛けている岩にちょうどお尻の形をした水溜りが出来上がり、身じろぎするたびにぷにぷにと柔らかいお尻が押し潰され、文の手に持ち上げられ、縦横無尽に形を変える。
「いたた……、ちょっと硬いなぁ……」
 据わりが悪かったらしく、文は岩から飛び降りた。ざぶんと水面が波打ち、程よく膨らんだ乳房がぽよんと揺れる。たぷん、ではない。決して大きくはない文の胸も、激しい動きをする際には相応に揺れるくらいの素養は持ち合わせている。手のひらにすっぽり収まる程度、という物言いにはイコール諸兄の手のひらであるという願望が込められていることは、鴉である我が身であっても想像に難くない。だがあえて言わせて頂くならば、この射命丸文のおっぱいは、この鴉である私の足にすっぽりと収まる程度の大きさである、と言わざるを得ない。
 鴉と思って侮るなかれ、私の足は意外にでかい。
 三本をめいっぱい広げれば、まあ確かに人間である諸兄の手のひらに収まる程度、と表現することもやぶさかではないが。
 何にせよ、不躾に弄られた様子のない乳首も、お椀型、いやお猪口型と評するに相応しい控えめな乳房も、全ては神々しさすら漂う少女性の成せる業である。湿った髪の毛を撫でる仕草が、あたかも愛しい者の髪の毛に触れているような錯覚を抱く。潤み、細めた瞳が何かを訴えているように見えるのは、主にある種の憧憬を抱いている私の傲慢な思い込みだろうか。
 一度、文は温泉から上がる。
 そろそろ、お開きかもしれない。
「ふう……、源泉に近いだけあって、熱いのが玉に瑕ね……。どう、あなたも入ってみる?」
 いきなり話を振られ、枝の端に陣取っていた彼女から目線を逸らす。彼女は私がそちらを凝視していたことも知っているはずなのに、惜し気もなく裸身を曝している。下僕の鴉には裸を愉しむ程度の自我すらないと思われているのか、それとも、私になら見せても安心だと考えているのか。
 今一度、主の御身を一瞥する。
「どう?」
 まっすぐに伸びた柳眉から、強靭な意志の宿る瞳が垣間見える。
 あばらは浮き出ておらず、けれども贅肉のない身体は華奢にも見て取れる。内側に秘められたもの、天狗の力が少女の身体に全て押し込められているとすれば、射命丸文は少女の姿を模した鬼神なのではないかと恐れ戦くこともある。
 安易に近付くべき存在でないことは知っている。
 だが、太陽のように、月のように輝ける引力を帯びているからこそ、その存在に惹かれ、吸い寄せられるのだ。
「むむ、返事がありませんね……」
 唸り、かすかに震える二の腕を組んで、文は考え込むような仕草を見せる。腕組みをしてもおっぱいが乗るような愉快な体型はしていないが、普段から原稿の執筆等々で腕組みする姿を目の当たりにしている私は、その仕草がやけに美しく思えた。裸であってもだ。
 しばらくうんうんと何かを計算していた彼女も、よし、と腰に手を当てると、相変わらず唐突に指令を下した。
「帰りましょう。下手を打つと、貴重な安らぎの時間が削られることになりま――」
「あら」
 遮る声が飛ぶ。
 文も、まさかこの瞬間に姿を現すとは思ってもみなかったのか、ぎぎぎと首を軋ませながらおずおずと後ろを振り返る。
 そこには。
「ごきげんよう。このような場所で貴女にお会いすることが出来て、光栄でもあり、さほどでもなく」
「さほどでもないんですね」
「温泉は、ゆったりしていた方が好ましいでしょう?」
 八雲紫は、あくまで悠然と語る。
 前置きすると、彼女は登場した瞬間から全裸である。
 付け加えるなら、彼女の後ろから現れた九尾の狐と、二股の猫も共に全裸であった。八雲紫の背後に彼女の代名詞ともいえる紫色の空間断層――俗に言うスキマが見えることから、おそらくはマヨヒガの或る地点から直接空間を飛び越えて来たらしい。堅牢な樹木くらいしか囲いになるものが存在しない天然露天風呂では、服を脱ぐ瞬間が最も無防備になる。それを防ぐための空間転移と考えれば、主への嫌がらせである可能性を差し引いても、なるほど納得出来るというものである。
 私からすれば、視姦対象が四人に増えて小躍りしたい気分である。
 主は、予測していたらしい闖入者が予想以上に早く現れたことに憤慨と後悔を抑え切れず、スキマの現出など見破れるはずのない私に怒りの眼差しをぶつける。冤罪だ、と羽をばたばたはためかせる私の必死な姿を見て、紫は屈託のない笑みを浮かべた。
「既に詰んでいるわ。観念しなさいな」
「くぅ……、折角、貸し切りだと思ったのに……」
「真の自由を勝ち得るためには座して待ち続けている以上の運と力が必要なのですよ。限定された自由に現を抜かすのは、落下を飛翔と勘違いして飛んだ気になっている人間と同じですわ」
「ご忠告、痛み入ります」
 乱暴に言い捨てて、文は先に湯船に滑り込んだ。せめて部外者にまじまじと観察されることがないよう、みずからの身体を温泉の中に隠す。顎の先まで源泉に近い熱湯に浸かっている文を見、紫はまた笑った。笑うたび、強調されるまでもなく出張っている巨乳がぷるるんと揺れる。ぷるん、ではない。波紋が水の上を波打つように、紫が動けば彼女が標準装備している乳は例外なくぷるるんと波打つのだ。着衣であるならばゆっさゆっさと肌が衣に擦れる扇情的な衣擦れ音が鈍く鳴り響くのだろうが、もし裸であるならば、乳房が奏でる音はそれを目の当たりにしている我々の脳裏に粛々と響き渡るであろう。
「ぶくぶくぶく……」
 文が、拗ねるように泡を発する。
 九尾の狐――八雲藍の後ろから、二股の猫――橙が堪え切れずにわっと前に出る。「こらっ!」と藍が制止しても、無邪気な猫は聞く耳を持たない。言わんこっちゃない、と渋い顔をする文など気にも留めず、橙は頭から温泉に飛び込んだ。
「ああ……、安寧が……」
「――ぷはぁっ!」
 ある意味、華麗な飛び込みを決めた橙は、小さなお尻を水面にちょこんと出したまま、勝手気ままに泳ぎ始める。文の落胆は単に温泉の独占を打ち砕かれたことによるもので、温泉も橙一匹が泳いでいる程度ではさして邪魔にならない。もし湯船が冷水で満たされていれば、おそらく池と呼称されていたであろうくらいには広い。文は温泉の端に陣取り、こいつら早く出て行かないかなあと半眼で彼女たちを睨んでいる。そんなに気になるならさっさと上がればいいものを、よくわからない意地が天狗の自負をくすぐり、文に不退転の覚悟を押し付けるのだった。
 程無くして、橙の説得を諦めた藍が、温度を確かめるように爪先を湯面に浸す。やがて入っても問題ないと判断し、そろそろと湯船に浸かろうとしている背中を、紫が「えいっ」と突き飛ばした。
「どぅわ!」
 稀代の美女にしては色気もへったくれもない悲鳴を上げつつ、藍はばたばたともがきながら熱湯に落水した。しばし、漬物石を池に沈めたときに生まれるような泡がぶくぶくと水面に現れ、それが途絶えたかに思えた瞬間、海に沈められた人間が数十年後にぽっと海面に浮かぶような唐突さで、藍の顔面が水面を突き破った。
「ぶはあっ! げほ、かはっ!」
「下品ね。橙はもっと華麗だったわよ」
「死ぬわ!」
 耳の穴にもお湯が入ったのか、耳を穿る藍の表情は必死そのものである。だが同じ獣耳である橙がいきなりお湯に飛び込んでも平気だったということは、そのへん気分的な問題なのかもしれない。
 とにかく、文が安寧を謳っていた温泉も、八雲軍団が現れたおかげで途端に騒がしくなった。ゆったりとお湯に浸かりたい者もいれば、きゃっきゃと騒がしく遊びたい者もいるから、なかなか折り合いを付けるのは難しい。
 けれども裸の付き合いという言葉があるように、服を脱いで生まれたままの姿を晒しているなら、禍根も遺恨も忘れて背中を流し合ったり乳繰り合ったりするのが温泉の正しい入り方である。決して、私がその光景を見たいから、ではない。断じてない。
「……ぶくぶく」
「まだ拗ねてるの、貴女。もっと聞き分けの良い子だと思っていたけれど」
「そういうあなたは、入らないのですか」
「あら。入らないなら、背中でも洗ってくれるのかしら」
「お断りします」
 素っ気なく言い放ち、再び湯船の縁をぶくぶく言わせながら移動する文。我が主ながら、抵抗が子どもじみているというか可愛げがあるというか、あまり深く浸かっていると全身がよく見えないから困る。
 仕方がないから、諸兄の希望に従い、八雲一味の姿態をつぶさに観察することにする。
「紫様。あまり裸のまま風に晒されていますと、お風邪を召しますよ」
 此処で残念なお報せがある。
 八雲藍のお尻は、そのご立派な九尾の尻尾のおかげで、私からは全く見えない――――。
 無念である。遺憾である。慙愧に耐えない。
「大丈夫よ。風の主が此処にいるのですから」
「はあ……」
 だが、嘆くことなかれ。
 その胸に張り出ている乳房は紫に匹敵するほど見事なものであり、まさにたたわに実った果実と呼ぶに相応しい。釣鐘型に属するおっぱいは我がままな方角に乳首を向けているものの、これは摘まむ側からすれば非常に具合がよいとされている。自動的に角度がついた急所はただ触れるだけで感度を増し、布が擦れるだけでも息が荒くなる、なればいいな、という私の願望が込められていることは否定出来ない。
 ともあれ藍のおっぱいは狐らしくつんと尖った芸術品であり、私は諸兄に成り代わり彼女のおっぱい及び彼女を崇め奉ろうと拝みたかったが、脚しかないので無理だった。仕方がないから、猫掻きを中断し、張り出た岩の上で湯冷ましをしている橙に目を向けた。
「ふあ……、湯当たりしちゃったかも……」
 聞くところによれば、橙は水に弱いらしい。水は駄目でもお湯は平気なのか、という揚げ足取りは控える。紫や藍の特訓により水嫌いを克服したのかもしれないし、何より、そこに橙の裸があるからである。
 少女性の観点からすれば、橙の身体は未熟ですらある。発展する兆しの見えない胸や、わずかなふくらみしか感じられず、岩に浸しても可塑性の少ないお尻など、女にも、少女にも括れない。ましてや幼女ですらない。
「うぅーん」
 けれど、そこにこそ、彼女の魅力がある。
 賢明な諸兄になら解って頂けると思うが、橙は幼児体型である。手に余らない胸、手に余らないお尻、小さな手、小さな足、生え揃わないお毛々、まさに子どもである。猫であれば毛を撫で繰り回してごろにゃーごで済む話だが、なんということか橙は化け猫であるからして人間の形態を取っているから始末が悪い。俗世間の汚れを知らない無邪気な猫が、つるつるすべすべの身体を惜し気もなく晒しているのだ、何か悪いことを抜き込まれればたちまち卑猥な色に染まりかねない危険性を秘めている。それを加味して初めて橙の魅力を語ることが出来る。
 傷ひとつなく、世間の常識、社会通念に囚われない生き方をしている子猫(娘)が、突然家の軒下ににゃーにゃーと現れたとするならば、どうだろう。豊満な肉体であるよりか、橙のように未熟な肉体であった方がより強い禁忌を覚えるのではなかろうか。
 紫、藍の如く成熟した女性からは、強い自立心を覚える。だが橙を見て想起するのは、不安定、未成熟、処女性、その他諸々の保護欲である。大事にしたい、大切にしたいと願う心が、やがて独占欲に満たされ、末期にはみずからの手で汚してしまいたいと思うようになる。その禁忌、理性と本能の対立を喚起する無邪気な獣こそ、凶兆の黒猫、橙の本性である。
 つい、本気を出してしまった。恐るべし、八雲一族。呼称が正しいか定かでないがまあどうでもよい。私は満足である。
「あ、カラスだ」
 ふと、その橙と目が合った。
 嫌な予感がする。
 私の位置を寸分の狂いもなく指差し、つるつるすべすべの腋を垣間見る。そのくぼみと浮き出る鎖骨の線に目を奪われているうちに、八雲紫、八雲藍もまた私の存在を確認したようだった。何故わかるかというと、圧力が凄まじい。視線だけで死ぬ可能性があると感じたのは、以前誤って主の記事に鴉の足跡を付けてしまったとき以来である。
「如何なさいましょう」
 藍が紫に意見を求める。命さえあれば即座に羽を散らせる、とでも言いたげである。だがこちらの裏にも天狗がいる。我が主と九尾の狐が裸でぶつかる、なかなか壮観な構図であると言わざるを得ない。
 当の主は、相変わらず八雲一家から離れた場所で湯に浸かっている。ぶくぶく泡を吐き出していないところを見ると、多少は諦めが勝ち始めているらしい。
 紫は、足の先だけをお湯に浸し、つまらなそうな瞳を藍に送る。
「放っておきなさい……、と、言いたいところだけど」
 ぱちん、と指を鳴らす。
 何の合図か、と首を傾げた瞬間、私が留まっていた枝のすぐ隣に、先程まで湯船に浸かっていた八雲藍の姿があった。獣のように四肢を枝に下ろし、ぎらぎらと獣の悦びに満ちた瞳を私のどんぐり眼にぶつけている。想定外の重量にも枝は軋まず、太陽は満遍なく鴉と狐を照らし出す。
 黄金だ。
 八雲藍の瞳孔は縦に美しく割れ、そこから見るも無残な黄金の月が垣間見える。
 裸であることの羞恥は何の意味も成さない。彼女はもとより勇敢な獣であり、裸のまま野を駆け回っていたのだから。
 とりあえず、失神しなかった私の精神に拍手を送りたい。
「悪いね」
 一言、それ以上は無為だと言わんばかりに、藍は私の身体を握り締め、露天風呂に帰湯した。
 九尾の狐に掛かればこの距離は一瞬であるらしく、私は瞬きする間もなく八雲紫の前に投げ出された。ばさばさと羽をばたつかせて足掻いてみるものの、にゃーんと猫の本能剥き出しで元気よく飛び掛ってくる橙を前に、成す術もなく遁走するのが精々だった。いやはや、衝撃が強すぎて、飛ぶことすら忘れてしまっている。ねこぱんちは一撃で絶命させることのないよう適度に痛く、私は何度も岩に転がされ、そのたびに羽根を散らすこととなった。
 一見すると悲劇のようにも思えるが、私はまだ成すべきことが残されていた。
「にゃはー」
 ぺしぺしと叩かれ、転げ回りながらも必死に八雲藍の背後に回る。
 そこには、俯瞰からだと決して拝むことの出来ない、八雲藍の見事なお尻があった。
 たわわに実るは胸のみならず。手に余るお尻は桃尻と呼ぶことこそ最大の賛美である。その柔らかさは触ってみなければ知り得ず、勇敢な諸兄が試すようにみずからの尻に触れてもその一欠けらの真実に到達することすら叶わない。
 熟と未熟の競演。
 私は今日此処に居合わせたことを嬉しく思い、その存在を誇ろう。
 たとえ儚く命を散らそうとも、この意志は次の世代に繋がる。そう信じている。
「どうやら、溺死がお好みのようだね」
 藍が迫る。
 前門の狐、後門の猫。行き場のない万事休すの王手でありながら、私は絶望していなかった。
 そうさ。
 私が死んでも、第二、第三のカラス「にゃーん」ぎゃあぁぁぁっ!

 

 

 

 

・何かを覗くときは注意しましょう。
 下手すると、向こう側から覗かれている可能性があります。

にーちぇ

 

 


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一日エロ東方

九月八日
(特別出演・大ガマ)



『好き好き大好き愛してる』

 

 大ガマは妖精に恋をした。
 彼女は春真っ盛りにもかかわらず大きな向日葵を抱えていて、遥かなる大空のように透き通った蒼い髪、汚れひとつない白い服が印象的だった。
 一目惚れ、という他なかった。
 大ガマは、長らく生きてきたおかげで言葉を喋ることは出来る。だが、それだけで本懐が遂げられるとは思っていなかった。何より経験がないに等しい。長いこと生きてみても、蛙以外に心を奪われることは本当に稀だった。あまりに希少だから、そんなことがあったことさえ忘れてしまっていた。
 さて、あの頃は一体どうやって想いを伝えたのだろう――。

 

 

 あくる日、池に向日葵の妖精が現れた。
 幸か不幸か、今は独りで行動している。幸せそうに向日葵を抱え、にこにこと池の上を漂っている。
「〜〜♪」
 かすかに聞こえるのは、耳ざわりのよい鼻歌だった。歌の名前はわからないが、歌声は美しく澄んでいた。
 頃合を見計らい、大ガマが水面から顔を出す。突然の登場に妖精も驚きを隠せない様子だったが、すぐにまた何事もなかったかのように水面の上を漂い始める。池に蛙がいるのは当たり前のこと。自然の具現である妖精には、そのことがよく解っている。
 ――もしもし。
 その背中に、野太い声を掛ける。
 この言葉はもしかしたら人間には通じず、妖精や妖怪にしか届かないものなのかもしれない。だが、相手が妖精ならなんら障害はない。
「?」
 妖精が、つぶらな瞳を大ガマに向ける。
 大ガマは非常にずんぐりむっくりとした身体をしており、何かの間違いで熊が蛙に転変したような巨大さを持っていた。人間の子どものような体型をしている妖精には、威圧的に感じられてもおかしくはない。
「なーに?」
 負けじとつぶらな瞳をしている大ガマの瞳と向き合い、妖精は可愛らしく首を傾げた。
 身体と同じくらいある大きな羽をぱたぱたと揺らして、大ガマに純粋な疑問を投げかける。
「……」
「ん?」
 ――辛抱たまらん。
 大ガマは、すかさず己の舌を妖精の身体に巻きつけた。
「きゃあぁぁっ!」
 その悲鳴すら大ガマの耳には心地よく、嗚呼、そういや昔妖精に恋したときもこういう結末に至ったんだなあと、今更ながらに思い出した。
「は、はなしてよぉ……」
 力なく、抵抗の声をあげる。
 実際、大ガマは妖精の身体を柔らかく包んでおり、締め上げたり捩じ上げたりという乱暴な手段には訴えていない。手足を拘束することが乱暴でないという言い分は、もはや今の大ガマには通用しないところである。
 可愛いあの子を手中に収めたはいいが、舌で捕まえている以上は何も出来ない。仕方なく、大ガマは池から出てそこいらの茂みに場を移すことにした。
「あうっ」
 べろりんと舌を回転させ、一旦、妖精の拘束を解く。瞬間的にくるくると回転した妖精は、逃げる機会が訪れたにもかかわらず、前後不覚に陥って上手く飛ぶことすら出来なかった。
 その隙を、大ガマの前脚が塞ぐ。
 覆いかぶさる形で、妖精の手首に前脚をぺたりと押し付ける。体重差があるから、それだけでも十分に効果はあった。
「ひゃぅ!」
 冷たさか、あるいは粘液のぬめりに声を上げる。
 大ガマは、自分も人間の形態になった方が性交としては適切なのかもしれないと思ったが、以前は人間の状態で愉しんだらしいことを思い出していたから、今回はあえてこのままで行こうと考え直した。
 向日葵は妖精の隣に投げ出され、妖精は悲しそうに大ガマの目を見つめている。涙に潤んだ瞳は何か大切なことを訴えているようにも見え、物欲しげに啼いているようにも見える。おそらく、後者は盛った雄の傲慢に過ぎないのだろうと気付いてはいたが。
「うぅ……、ひく……」
 ショックから立ち直れていないのか、妖精の涙声はやまない。
 大ガマも、なんだか少し申し訳ない気持ちがしゃしゃり出てきた。
「こんな、らんぼうしなくても……」
 手を離そうかと思った刹那、妖精の声色が変わる。
「……言ってくれたら、ちゃんと、してあげたのに……」
 しゃくり上げながら、淫乱極まりない台詞を口にする。
 大ガマを見上げる視線は先程と打って変わって妖艶な輝きを帯び、これから行われる行為に、いくばくかの不安とそれ以上の期待を寄せているようにさえ見えた。
 大ガマは、とりあえず長い舌を妖精の口にねじこんだ。
「んむぅぅっ!」
 純真そうな子が実は、という衝撃は事此処に至ってはむしろ渡りに舟であり、多少の落胆はありながらも強姦から和姦に移行出来たことは状況的に言えば大きな進展だった。プレイ的に言えば興奮の差こそあるだろうが、それも確固たる安全とプレイヤーの了承あってのものである。
 大ガマにしてみれば妖精を犯すことが出来ればよく、妖精にしてみれば、もう誰でもよかったような気さえする。スイッチが入ってしまったら、みずからの意志で止まることが出来ないのかもしれない。
「んんぅ、ちゅ、ちゅるぅ……」
 口いっぱいに広がる大ガマの舌を、妖精は懸命に舐めほぐす。
 細く長い蛙の舌は、考えようによっては一種の性器と捉えることも出来る。妖精も、キスというよりは口に対する触手責めと考えているところもある。先端を舐める動きが明らかに性器を刺激するそれと同じで、試しに舌を口から引っこ抜くと、物欲しそうに舌を差し出していた。舌を口に近付けると、その先端をぺろぺろと忙しなく舐める。唾が口の端から垂れ、手を拘束されているから拭われることもないままに垂れ続ける。
「くちゅ、んぶぅ……、ず、ずじゅっ!」
 頬は朱に染まり、はっはっと漏れる吐息も発情した犬のそれと似ている。
 盛りのついた雌の反応を目の当たりにして、これといった男性器が存在しない大ガマも、心の性器がびくびくと震えるのを感じた。
「ぷちゅぅ……、ん、はぁ、はあ……」
 舌の絡め合いが終わり、妖精はとろんと緩んだ表情で恍惚に浸っている。
 荒く、落ち着きのない呼吸が落ち着いた頃、妖精は懇願した。
「あのね……、おねがい、きいてくれる……?」
 首を縦に振ることは難しかったが、了承の意味でゲコゲコ鳴く。
 妖精は、うっとりと目を細めた。
「その、ながい舌で……、わたしの、ぬれてるとこ、なめて……」
 時折、息を詰まらせながら、それでも必死に懇願する。
 顔が紅潮しているのは興奮か羞恥かそのどちらのせいとも言い難かったが、いずれにしても、大ガマがその懇願を退ける理由など存在しなかった。すぐさま手を離し、太ももに手を添えて股をこじ開ける。
「あ、んぅ……」
 抵抗もせず、開かれた股間の中心から、中途半端に割れた筋が現れる。しっとりと濡れた陰部に、大ガマはさして躊躇いもなく舌を這わせた。
「んひゃあぅ!」
 びくん、と妖精の身体が跳ねる。
 溢れて来る蜜はぬめらかに舌に絡まり、無味であるようにも、甘くも苦くも感じられる。これがひまわり妖精の味だと思えば、興奮もひとしおである。
 一舐めすればびくびくと身体が震え、嬌声とも悲鳴とも取れる声が次々と上がる。ぷっくりと浮き上がって来た突起も、丁寧に舌で突つく。
「んんぅぅ!」
 押し殺した声が、妖精の口から漏れる。
 駆け上って来る快感に耐えようと身を強張らせても、それ自体が快感を促す役目を担っているから焼け石に水だ。クリトリスをひとしきり弄られ、身悶え、甘い声色が大半を占めて来た頃、大ガマは自分の舌をぐっと妖精の割れ目に押し付けた。
「は、ふぁ……、ん、んぎゅ……」
 貫かれようとしてもなお、妖精は拒む素振りを見せない。大ガマの舌なら、膣のみならず子宮口やその内部にまで到達することが出来る。性感帯を丸ごと舌で嬲り尽くされる陵辱も、裏を返せば、それ以上は考えられないくらいの快感になり得る。
 ぐぐ、と強く押し付け、丸っこい先端が徐々に割れ目を押し広げる。
「んぐ、うゅぅ……」
 妖精の辛そうな声ですら、大ガマには心地よい。
 実際、どんな表情で妖精が声を上げているのか、彼女の膣をほじくることに夢中な大ガマには、全くこれっぽっちも見えていなかった。
 だから。
「ふ、へぁ……、あ、うん、ごめんね」
 謝罪の声が飛ぶ。
 大ガマが不審に思い、舌で嬲るのを中断して顔を上げると、そこには。
「死んじゃえ」
 とりあえず妖精が生み出せるだけの大きな弾を両手に抱えた、憤怒の表情に彩られながら、それでもやっぱり可愛らしいひまわり妖精の姿だった。
 ――――あ。
 両手いっぱいに抱えられた弾は、大ガマが瞬きする猶予すら与えず、隕石が後頭部を直撃するくらいの唐突さと正確さでもって、大ガマの顔面に吸い込まれた。

 

 

 結局のところ、大ガマの恋は実らなかった。
 告白する前に辛抱たまらんと押し倒したのだから無理もないが、妖精の反応から、もしかしたら行けるのではないかと勘違いしてしまったのが失敗だった。全てが上手く行っている時こそ注意が必要である。大ガマは、事が順調に流れ過ぎていることに何の疑いも持たなかった。
 反省したなら、次に生かそう。
 まだ、これで終わりというのでもないのだし。
 焦げ臭い顔面を舌で洗い、澄み切った池の水鏡に顔を映す。問題ない、いつもの蛙顔だ。
 やれやれ、と竦める肩もないからとりあえず諦観だけを胸に抱き、ひとまず池に帰還しようとする。
「あ! あいつだー!」
 刹那、騒がしい声が池に木霊する。
 のっそりと、聞き覚えのある声の方を振り返る。
「今日こそは、いつもの借りを返してやるんだから!」
 いつも小さな蛙を苛めている氷精チルノと、いつもチルノに付いて回っている大妖精が、目を瞑っていてもわかるくらい小慣れた配置で待ち構えていた。
 連敗を喫しているわりに自信満々なのが、実にチルノらしい。
「チルノちゃん、あんまり無茶しない方がいいよ……」
「何よ! あんたまでそんなことぶぇっくしょいっ!」
 豪快なくしゃみを放ち、その雫がいくつか池に落ちて波紋を作る。
 わかりやすい風邪だった。
「ほら、家に帰って休もうよ。今ならあったかいスープも漏れなく付いて来るよ」
「うぅぅ……あったかいのはあんまり好きじゃないぃ……」
 ずずずと鼻を鳴らしながら、チルノは大妖精に引きずられていく。
「それではー」
 表情を崩さない大ガマに苦笑いを浮かべ、大妖精はチルノと共に茂みの中へ消えて行った。途中、へっくしょいと激しいくしゃみが響き、そこいらの蛙がびっくりして池に飛び込んでいた。
 その姿が完全に見えなくなった頃、大ガマは、思い出したようにゲコゲコ鳴いた。

 

 

 大妖精、いいかも。

 

 


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