・一日エロ東方 永夜抄

 



コンスタンティノープルの木馬 ルーミア


鼓動 レティ


だってしょうがないじゃない リグル
たのしいこどものつくりかた1 大妖精 前門の猫、後門の猫 舌抜き雀 ミスティア
I scream, you scream. チルノ アリスゲーム アリス たのしいこどものつくりかた2 慧音
おっぱい 紅美鈴 恋するリリーはせつなくて略 リリー fetishism 霊夢
我ら知的なアンドロギュヌス 小悪魔 crescendo ルナサ 白黒綺想曲 魔理沙
paper view パチュリー super butter dog メルラン shapes of shavers てゐ
blue blood 咲夜 egoism リリカ 勇敢な愛のうた 鈴仙
抱きしめてトゥナイト レミリア 昆布の憂鬱 妖夢 八意に告ぐ 永琳
ライ麦畑で捕まえて フランドール いつか来る朝 幽々子 真説・輝夜姫 輝夜
    エキノコックス・パラノイアック きみのむねにだかれたい 妹紅
ザ・インデックスフィンガーズ 八雲紫    
 



etc
豆柴ラプソディー 萃香



etc
教えて! 文々。


春色ソルジャー 静葉
さらば青春の日々 霖之助 夢にまで見た球体関節 メディスン 芋と情緒と女心と秋の空 穣子
心の剱 妖忌 あぶらかたぶらなんぷらー 幽香  
虹の架け橋 レイラ 死神ヘヴン 小町   にとり
たのしいこどものつくりかた3 蓮子 四季映姫輪姦 映姫  
スクラムハーツ メリー drop dead スーさん   早苗
君は我が誇り 毛玉 感度0 リリーブラック   神奈子
禁じざるを得ない遊戯・absolute solo 上海人形 優しくは愛せない 幽霊   諏訪子
一茎 ひまわり娘 カラスの行水と20世紀のクロニクル    
陽はまた昇り繰り返す サニーミルク 好き好き大好き愛してる 大ガマ
白粉の月 ルナチャイルド

ダブルヘッダー 秘封
星に願いを スターサファイア (有)求聞史紀・稗田阿求部社会福祉課 阿求


 

一日エロ東方

八月十五日
(永夜抄・リグル)



『だってしょうがないじゃない』

 

 里の外れに住むSくんはたいそう純朴な男の子で、それはそれは女の子と見紛うばかりの可愛い顔をしておった。元服を迎える十四、十五に近付いてもやっぱりその可愛さが衰えることはなかったものだから、両親は元より親戚友人知人等々までもたびたびSくんに女の子の格好をさせていた。Sくんにも多少思うところはあったけれども、女の子の服も可愛いなあ、と素直に受け入れていたから大した問題にはならなかった。Sくん人気が沸騰していくと、あいつは男なのか女なのかいやどっちでもいいじゃないかと言った論争が次第に過熱していき、ついにはSくんに夜這いをかける男やら女やらが増加、そのたびに両親が雇ったSくんの親衛隊に斬り捨てられるのだが、Sくんは十五を過ぎても何とか童貞であった。
 そんな折。雀が鳴き、快適な朝を知らせる頃。
 両親の留守中を狙ったというわけでもないが、一匹の妖怪がSくんの門を叩いた。頭から二本の触覚をちょろんと垂らし、黒いマントを羽織った緑の短い髪が印象的だった。これまたSくんに負けず劣らずの可愛さだったが、門の裏に控えている守衛はSくんの中世的な可愛さに目が眩んでいるため、その妖怪が男か女はよく分からなかった。まあどっちでもいいや、可愛いから、くらいである。
「誰だ! 名を名乗れ!」
「ちはー、蟲の知らせサービスですがー」
「訪問販売なぞ要らぬ! どうせあの子の評判が妖怪にも広まって、あの子を篭絡しようという策謀であろう!」
「……誰?」
 無論、いくら有名と言えど妖怪にまでその名が轟いているということはなく、蛍の妖怪――リグルは首を傾げるばかりだった。実は、蟲の知らせサービスを通じてSくんの名はちょくちょく入ってはいたのだが、流石にその子が親衛隊が常駐するくらい可愛い男の子という事実は知らなかった。
 守衛は何故か憤慨し、硬く閉ざされた門を内側から蹴破り、
「無礼者がぁ! あの可憐さを理解できぬ者、この扉をくぐることあたわず――」
 鎧兜に縦と槍まで装備した物々しい守衛は、半眼で睨んでくるリグルの容姿を確認するために兜を脱ぎ捨てた。がちょん、と砂利に硬いものが落ちる。
「な、何よ……」
 舐め尽すように凝視され、髭オヤジの顔が真剣なものに移り変わる。リグルはたじろぎ、いざとなったら延髄斬りでも仕掛けようかと足裏の感触を確かめる。
「ふむ。其方も、なかなかの逸材ではないか」
「……へ?」
「隠さずともよい」
 何かを理解してしまったらしく、守衛のオヤジはうんうんと首肯する。門は開いちゃったからこいつ無視して中に入ろうかな、とリグルが視線を外したとき、オヤジの両手がリグルの肩を力強く掴んだ。
「うひぁッ!?」
「小さい頃から女の子の服を着せられ続けていたのだろう。その反発で、今は男子らしく勇ましい格好をしているのだな。あの子にもその時期はあった。だがな、あの子は気付いたよ……結局のところ、生まれ持った美しさを活かす道しか残されていないのだと!」
 力説する。お願いだからよくわからん世界に引きずり込むのはやめてほしいと切に願うリグルだったが、辟易するリグルの憂鬱も知らずにオヤジは熱っぽく語り続ける。
「其方は可愛い!」
「……は、はぁ。そう言ってくれるのは、嬉しいけど」
「だから、たとえ男の子でも女の子のような格好をしても――!」
 リグルはオヤジの延髄を蹴った。
 その前に一発、肩を掴まれた状態のままオヤジの顎を蹴り上げ、膝が落ち、腕の力が緩んだのを見計らい、側面から胴回し気味に放ったリグルのミドルがオヤジの頚椎を見事に軋ませたのだ。
 声もなく、白目を剥いたオヤジが砂利に沈む。リグルは埃に汚れた手のひらを叩き、マントを翻しながら門をくぐる。
「あんたにとっては褒め言葉なのかもしれないけど、言葉には気を付けることね。……だから女だっつってんじゃないの、ばか」
 ぶちぶちと愚痴りながら、リグルは敷石を乱暴に踏み鳴らした。

 

 

 かくてSくんの家に侵入したリグルだったが、本来の目的は蟲の知らせサービス導入のお知らせだったのに、S邸に現れる誰も彼もがリグルの格好を生温かい目で見るものだから、男だと決め付けてくる奴には鉄槌を、女だと思っていた輩には蟲の知らせサービス券を発行する程度に留めておいて、それでも例のSくんの居場所は吐かないものだから徹底的に部屋という部屋を虱潰しに当たっていた。
 もはや、Sくんを見るまでは帰るに帰れないリグルであった。
 目的の部屋に辿り着くまでに五人の中ボスと死闘を演じたり和解したりしたが、結局はショタでリグルにも危機が及びそうだったから即座に縁を切った。そしてS邸の最奥、問題のSくん部屋に到着した。扉には、ファンシーな筆記で当人の名前が刻まれている。
「それじゃ、お邪魔しまーす……」
 軽くノックし、反応がないと見るや即座に扉を開ける。
 木目調の壁が目に優しく、職人があしらったような熊の縫いぐるみや木彫りの熊、熊の首の剥製に熊時計といった、他に置くもの無いんかいと思わせる程度には熊尽くしだった。加えて、壁に掛かっている猟銃や日本刀の物々しさがえもいわれぬ一体感を醸し出しており、何とも感想に困る内装だった。
 ともあれ、薄桃色の長いヴェールに覆われたベッドで眠っているのが当のSくんらしい。シルエットは成る程確かに細く、寝息も相応に幼く聞こえる。寝返りを打つ際の衣擦れの音だけ聞けば、それなりに悶々としたものを覚えるかもしれない。
「どれどれ……」
 足音を殺しながらベッドに近付き、朝の光に煌めくヴェールをめくる。その向こう側に、シーツ一枚を纏っただけのSくんが就寝していた。
「……ほー」
 なんで全裸なのかはさておき、肩にかかる緑の黒髪をベッドに浸したSくんはリグルから見ても確かに可愛かった。人間たちがあれほど盛り上がってしまうような美形には思えなかったが、顔も小さく、ちっちゃく開いた唇にはほんのりと赤みが差している。眉も細く、睫毛も女の子と見間違う程度には長い。肌も実に決め細やかで、胸部の膨らみがなく、代わりに朝なのか何なのか知らないが股間の辺りが立派に膨らみシーツを押し上げていることを除けば、リグルも納得の出来だった。
「まあ、これくらいなら、別に許してあげてもいいかな」
 Sくん同様あまり顕著でない胸を張り、不意に襲い来る敗北感を必死で振り払いながら、リグルは彼の頬を突っついてみた。ぷにぷにと柔らかく、触れるたびにうぅんと呻く姿がやたら可愛い。
「いや、こいつ男だろ……でも、いやいや……」
 いやこれは親が子を慈しむのと同じ感情なのだ、仔猫とか仔犬とかそうじゃん、と自分を肯定し、引き続きSくんのほっぺたを楽しむリグル。
 だが、限度というものはあるもので。
「むあ……ん、うぅ?」
「あ」
 Sくんが起きた。
 リグルと彼の視線が合い、運命の人に出会ったとでも言うように二人の動きが完全に停止する。
 Sくんの瞳は髪の色と同じ澄んだ黒で、緑の髪と碧の瞳を備えているリグルと好対照を描いていた。色が違えば、あるいは入れ替わることさえ可能かもしれない、とリグルは益体もないことを考える。
「おねえちゃん……だれ?」
 声変わりしていないらしく、声色も女性のように高く澄み切っている。鈴を鳴らすような涼しい音色が、彼の喉から零れ落ちる。
 困惑の色に染まり始めた瞳が切なげに歪み、まずいこいつ泣くと判断しリグルはすぐさま言い訳の言葉を取り繕った。
「えー、と……む、蟲の知らせサービスでおまー」
 誤魔化した。
 我ながらうそ臭い芝居だとは思ったが、寝起きで頭が働いていないのか、それとも元から感性がずれているのか、リグルの言い分をすんなり受け入れた。
「あ、みんなが言ってたやつだね……そっかぁ、うちにも来たんだー」
「そうそう。ていうかあんた、からだ隠しなさいからだ」
「え……あ、ぅ、きゃあ!」
 きゃあ、て。
 シーツを引き寄せ、真っ赤になった顔を覆うSくんを見、この顔にこの性格だから救われたが、この性格に別の顔だったら救われんぞと他人の運命を占うリグルだった。むしろこの顔だからこんな性格になったのだとも言えるが、細かいところはどうでもいい。
「み、みみ、み……みた?」
「あー……でも、男の子なら朝は大抵ああなるって言うし……」
「え……?」
 仕草がいちいち女っぽく、おそるおそる自身の下半身を覗き込む彼が本当に男なのか、シーツにテントが張られていてもいまいち判然としなかった。
 Sくんは、シーツに隠されていながらも確かに君臨している己の槍を確認し、数秒ほど意識を失ったあと。
「あぁぁ――――!!」
 分かりやすい悲鳴を上げ、枕を股間に押し付けた。茹蛸のように上気した顔をさらし、横目でリグルの顔色を窺う。小さく俯いた横顔に細い髪がかかり、ますますその美貌に磨きがかかるSくん。
 リグルは頭を抱えた。
「えっと、その……ご、ごめんなさい……」
「いや、そういうんじゃなくて……あのさ、私って女に見えるよね?」
 この類の質問を最もしてはならない相手にしてしまった気もするが、自戒の念が彼女を押し潰す前に、Sくんが露になった胸を隠しながら、
「う、うん……おねえちゃん、すごくかわいい……」
 と、はにかみながら口にした。
 リグルは、本気で彼の性別を疑った。可愛すぎる。男がこれだったら女の自分はどうなるんだ。あるいは美の究極に男も女も関係ないということか。深遠な議題であるが、それを議論するのは話題の渦中にある彼やリグルではない。
「あの、聞くけど」
「うん」
 落ち着いたか、Sくんもリグルの目を見て答える。頬はまだ紅潮しているが、それを除いても観察者が危険域に達するくらいやばげな量のフェロモンを放っている。腋か。腋なのかとリグルは鑑みる。体毛が皆無というのもひとつ要因に挙げられるかもしれない。
「あんた、本当に男なの?」
「そ、そうだよ。今じゃ、女の子に見られるのは慣れてきたけど。……えと、やっぱり、おねえちゃんの方がかわいいよ。ぼくなんか、ただ子どもっぽい顔してるだけだから」
 にぱ、と顔を綻ばせるSくん。
「……マジ?」
「うん」
 初対面で口説くか。
 おそらく彼にその気はないのだろうが、天然風味のスケコマシ属性が付いていると言って否定するものはいないだろう。
 リグルは自身の顔を撫で、次に彼の頬を撫でる。うわ、とたじろぐSくんであったが、しばらくされるがままにじっと身を硬くしていた。
「男の子に間違われる可愛さと、女の子に間違えられる可愛さと……いや、結論を急ぐことはない、か……」
「あの……おねえちゃん?」
 上目遣いにリグルを見据えるSくん。寝起きの影響もあり、やや潤んだ瞳が朝の光に輝き彼の容姿を鮮やかに彩っていた。
「あかんわ」
「え――きゃあぁぁっ!」
 性欲をもてあます。
「だからきゃあぁぁってのはなによー!」
 理不尽な怒りに駆られながら、リグルはSくんを覆っていたシーツを剥ぎ取り、おまけに彼の股間を隠していた枕も熊の剥製に叩き付けた。
「なによ、あんた可愛すぎ! 異常! なんなのよ、あんたがこんなならちょっと男の子に間違われてもいいかなって思っちゃったじゃん! 返して! あの頃のまっすぐだった私を返して!」
 リグルの複雑な胸中など知る由もなく、Sくんはただおっぴろげになった自身の逸物を隠すのに精一杯だった。彼もやはり一人の男であって、リグルのような女の子に肌を触られ、まして自身がすっぽんぽんなのだから性器があっちの方に反応して当然だ。Sくんの身体は全く健康そのものであった。
 ひぃん、とリグルの剣幕に押されて半泣きになった彼を見下ろし、リグルは理性をしっかり保たなあかんと自身の頬を張り、仔犬のように怯えて身体をふるふると震わせるSくんを見て、再び良からぬ衝動が彼女の中に沸き起こる。
「あーもー! あんた、いつまであそこ隠してるのよ! それが見えないと本当に男かどうか分からないでしょ!」
「な、なんで怒ってるの……!?」
「知るか!」
 弾力のあるベッドを踏み、彼の両手を無理やり引き剥がす。いやぁ、と黄色い悲鳴を上げるSくんは無視し、仰向けに寝かせる形で彼の性器を露にする。
「おー、ちゃんと元気に跳ねてるじゃない」
「うぅぅ……」
 垂れっぱなしだった触覚もぴんと起き上がる。マントは邪魔なのでベッドに置き、よっこらせと彼の傍らに座り込む。
「は、恥ずかしいです……もう、ぼくが男だって分かったから、いい……?」
「……んー」
 涙目で懇願する彼の声が切なく響き、リグルは不意に彼の男根を握り締めていた。
「ふあぁ!」
 気の抜けた喘ぎ声が漏れ、赤く腫れた肉の棒がびくんと跳ねる。弓なりに反った逸物を握り、Sくんの身体に直角に立て、そのまま上下に扱き立てる。
「くぅ、あぁ、うぅぅ……」
「そんな可愛い顔してるわりに、こっちの方は結構ご立派というか……これが普通なのかな? 分かんないけど。でも、使い込まれてない感じで、可愛いよ。こっちも」
「ふぇ、はぅ……」
 落ち着きを取り戻したリグルが、主導権を奪い返す。
 ピンク色の亀頭は見る間に充血していて、しばらく擦っているとやがて先走りの液が溢れてくる。それを潤滑油にし、更にSくんの精神を追い詰める。
「あぅ、きゃぅ! ひぃ、はぁ……あぅん!」
「なんか、反応が異常なんだけど……あんたもしかして、こういうことした経験、ないの?」
「あぅ……ふぁ、えと……友達は、やったことある、て言ってたけど……どうしても、最後まで出来なくて……出ちゃいそうだし……やぅ、ひあぁ!」
「あ、そうなんだ……」
 童貞はおろか、精通も経験がないらしい。手のひらに感じる肉の熱気を確かめながら、徐々に手でしごく速度を上げていく。噴き出てくるカウパーの量も尋常ではなく、ペニスの全体にまぶされたそれはリグルの手のひらと幹の間に入り込み、ぐじゅぐじゅと泡立ちながら彼の股間に流れ落ちる。
「ふふ、なんだか、射精が近いみたい……」
「あぁぅ、うぅ、ど、どうなるのぉ……?」
「どうもしないよ。ただ、気持ちよくなるだけ……かな」
 Sくんの初めてのひとになると思うと、何故かは知らないけれど心が躍って仕方なかった。あれほど他人を掻き回している彼の性的な部分を垣間見て、一瞬でも彼を虜にしているという優越感だろうか。
 最も大きいのは、自身がちゃんとした女に見られている、という達成感かもしれないのだけど、愉悦に浸っている今のリグルにとっては瑣末なことであった。
 痛いくらいに握り締めた肉棒も、びくびくと痙攣しながら快感をアピールする。彼の喘ぎ声の感覚が短くなっていることを知り、リグルは余った手でSくんの睾丸に手を伸ばす。
「ちょっとごめんね」
「――ひぃあ、んぅぅぅ!」
 毛の一本も生えていないつるぺたの皮を掴み、その中にある精巣を指先でまさぐる。手コキの速度はほぼ限界に近く、リグルの手のひらが二つの睾丸をがっちりと握り締めたところで、彼が嬌声と共に大きく仰け反った。
「うぁ、で、でる……!」
 ぎゅっと握り締めた肉棒の先端が大きく膨らみ、その直後、噴水のような勢いをもって濃密な白濁液が高々と打ち上げられた。
「ひゃぅ!」
 あまりに凄まじい勢いだったから、リグルの顔にもSくんの精液が情け容赦なく振りかかる。手のひらの中にあるペニスは何度も何度も脈動を繰り返し、そのたびに解放を待っていた精子が次々に外界に飛び散っていく。
「……うあー、べとべとー」
 射精時の快感と解放感により、しばらく放心状態に陥っていた彼も、リグルが顔に付着した白濁液をぺろぺろと舐め取っている姿を見、そして自身の股間に溜まっている並々ならぬ量の精液を見て、恥ずかしそうに俯いてしまった。
 リグルは、そんな彼を見て、やっぱり可愛いと思ってしまった。
「じゃあ、これで契約完了ね」
 ノルマ達成だー、と大きく伸びをするリグルだったが、彼は全くその真意が飲み込めない。
「……へ、契約?」
 きょとん、と黒い目を丸くする彼に、リグルは紳士ぶって丁寧にお辞儀をし、
「蟲の知らせサービス、快適な朝の目覚めを誘うためのモーニングサービス、でございますよ」
 ふふふ、と女らしく淫靡に笑ってみせた。

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月十六日
(永夜抄・ミスティア)



『舌抜き雀』

 

 むかしむかしあるところに、それはそれは舌で抜くのがうまい夜雀がおったそうな。
 何か問題でも。
 そんな彼女は、夜道を歩いている人間やら妖怪やらに自慢の歌を聞かせて鳥目にし、道の先にある赤提灯に誘き寄せては鳥目に効く八目鰻を有償で提供するというあこぎな商売を行っている。
 しかして鰻には精力増強の効果もあり、鰻を捌き朗々と歌唱する店主もそれなりに可愛いとあって、なんとはなしに悶々とする者が少なからずいるらしい。
 会計を終えた男たちが前屈みに去って行く背中を見、夜雀はこれで何か商売はできないかと考えた。もとより暴利を貪り懐を潤すこと自体に意味はなく、鳥肉撲滅キャンペーンと人間を騙くらかすのは面白いやという目的から八目鰻屋を始めたのだったが、折角だから財布の中身もついでに精気もすっからかんにしてやろうという腹積もりで、夜雀は八目鰻屋の品目に『特別めにゅー』を書き加えたのだった。
 しばらくは怪しげな品目名からか特別めにゅーを注文する者もいなかったが、騙されてくれないのも悲しいものだから、閉店間際を狙ってそれらしき男にめにゅーを勧めてみた。
「お客さんお客さん。実は、うちに新しいめにゅーが出来たのよ」
 へぇ、とほろ酔い気分で鰻の串を噛む。この人間は八目鰻屋開業からの常連客であり、前屈みの姿勢によって彼女に特別めにゅーの導入を決意させた人物でもあった。
 だが金がなあ、と渋る男を前に、夜雀は初回なら只でいいよと進言する。それでも首を縦に振らない男に、彼女は決定的な言葉を投げかける。
「お客さん。そんなにあそこ大きくして、どうしたの?」
 客の顔から血の気が引き、何をされるかのと目を泳がせる。だが、相変わらず愛想のいい笑みを浮かべたまま鼻歌を口ずさむ彼女を見、次に特別めにゅーと刻まれたかまぼこ板を見、夜雀のやらんとしていることを明確に察する。
 まさか、と土気色になった顔を上気させ、男は陸に打ち上げられた魚介類のように口をぱくぱくさせる。男ってこれだからやあねえ、と己の謀略を棚に上げ、夜雀は帽子を外した。
「でもちょっと恥ずかしいから、してあげるときは鳥目になってもらうね。……じゃ、どうする?」
 生唾を飲み込む生々しい音が聞こえ、少女を模った夜雀が一名様ごあんなーいと高らかに叫ぶ。胸の高鳴りが抑えきれない若者は、そわそわと店内を見渡している。
 夜雀は、自身の薄い胸に手を添えて、朗々と歌い出す。
「さわっちゃいなー あすーにかかるっ♪」
 軽やかに響く歌声が男の耳に届いた頃、彼の視界は既に暗闇の底に沈んでいた。夜雀はというと、特別めにゅー用に改造した抜け道を使い、調理場からお客が座っている椅子の足元に移動していた。この方法を使えば、万が一お客が鳥目にかかっていなかったとしても、出っ張った天番のせいで自分があれこれしている姿を見られることもない。見ようと思えばいくらでも見る体勢は作れるのだが、これは羞恥心を紛らわすための予防線であり、実際あれこれしていることに変わりはないからあまり意味はない。
 しゃがみ込んだ体勢を多少狭苦しく感じながらも、夜雀は生地の上から熱く滾った男のモノに触れる。ズボンが変形するくらい漲っている男性器に圧倒され、しばらくほぅと手を添えたまま呆然とする。
 男の息が次第に荒くなり、夜雀も気圧されてる場合じゃないとズボンのボタンを外しにかかり、下履きから剛直を引きずり出すまでもなくそれは彼女の目の前に現れた。
「……うっわ」
 彼女自身も雀であるが故にある程度は鳥目なものだから、その色までは把握できないのだが、びんびんに硬く勃起している肉棒の長さ、太さ、硬さ、そして独特の生臭い匂いは、少女の中に眠っていた女の部分を呼び覚ました。
 お仕事お仕事、と自身の行為を割り切り、夜雀はその小さな口をめいっぱい開き、手のひらに余る巨根の先端をはむっと頬張った。
 くあぁ、と切ない声が漏れ、夜雀も面白がって亀頭のやわらかいところを舌先でぺろぺろと舐め、気の抜けた悲鳴を男の口から引き出そうとする。
「ちゅぅ……んぅ、はむ、ぷちゅくぅ……ん、んぎゅっ」
 亀頭のくびれのあたりまでを咥内に含み、最も敏感な海綿体を生温かい口の中で刺激する。鈴口を突付き、円を描くように亀頭を舐め回し、くびれの部分を掃除するように舌で舐める。尿道口から溢れてくる先走り液も、その都度夜雀の唇が美味しそうに吸い上げるものだから、開始一分も経たないうちに男は早くも達しようとしていた。
「ずりゅ、れるれる……んふぁ、いい声で鳴いてるねえ……ちゅっ」
 一旦、口から肉棒を離し、小刻みに震えているそれの根本を握る。大きく反り返った男の逸物は、へその辺りまで膨らんでいるだろうか。一体何がそうさせたのか、鰻の魔力か夜雀の魅力か目隠しプレイの興奮か。最後だったら微妙に嫌だなあと思いながら、でも二番目だったら嬉しいかも、とご褒美をあげるつもりで、事あるごとにカウパーが溢れてくる男の鈴口に、自身のやや細く尖った爪を差し込んだ。
「えいっ」
 びくぅ! と一瞬にしてペニスが膨れあがるも、そうはさせじと夜雀はその根っこを握り潰さんばかりに手のひらで締める。射精するほんの一瞬手前にその快楽を遮られ、男の口から絶望とも安堵とも言えない吐息がこぼれる。後者の感情は、なるべくならもっと長くこの快楽に浸っていたい、という素直な気持ちによるものだろう。
「んぅ、先っぽとかぴくぴくしてぇ、もうすぐいっちゃうんじゃないのー?」
 どうなのよう、と熱く煮えたぎった肉棒を上下にしごき、座姿勢から直立になりそうなくらい腰が浮いてしまっている男を幻惑する。彼の手は軽く夜雀の頭を掴み、彼女もそれを振り払わない。
「あんまりいじわるするのも、かわいそうだから……お客さん、常連さんだから、たっくさん気持ちよくしてあげる」
 言って、弓なりに反った巨根にしゃぶりつく。
 ひときわ大きな嬌声が漏れ、夜雀は好機と見るや男の太ももに両手を添え、口だけで肉棒を犯していく。
「じゅく、ずっちゅ……じゅ、ぷちゅ、ちゅぷ、ずぽっ!」
 肉棒に唾液をまぶし、初めはその全体を喉の奥まで飲み込み、咽頭壁に亀頭が当たるのを確認して、すぼめた唇で幹をさすりながらゆっくりと吐き出す。それからはピストンの速度を徐々に速め、フェラチオなのかイマラチオなのか判然としない乱暴なおしゃぶりが続く。
 だが、男が切なげに鳴いて射精しようかという間際になると、夜雀は決まって唇の速度を緩める。そうして、はちきれんばかりに膨らんだ肉棒を舌で包み込み、射精寸前の激しい脈動を脳に伝える。
「じゅるぅ……ん、ぷふぅ、言ったでしょ? もっと、もっと気持ちよくしてあげるって……そう簡単には、いかせてあげないんだからね」
 顎の下に垂れているのは唾液かカウパーか、いずれにしても淫猥な光景には相違ない。夜雀は、即頭部を押さえている男の力が少しずつ強くなっているのを感じ、もうそろそろ許してあげようかな、と赤黒く充血している男臭いペニスにキスをする。
「んちゅ……ふぁ、ちんちん……」
 ずぬぅ、といつもどおり喉の奥深くまで飲み込んだところで、急に少女の頭を掴んでいた男の力が強まる。あ、やば、と悪戯が過ぎたことを悔やみ、その際、汗臭い陰毛の匂いに鼻腔がくすぐられ、不意にくしゃみが出そうになった。
「ぶふぅ……んご、ぶじゅぅ! ぐゃ、ぶぅぅ! んぅぅ!」
 我慢できなくなった男が、夜雀の咥内をオナホールのように扱う。一方の少女は、乱暴に喉を突かれても、頬の裏の肉に亀頭を押し付けられても、抵抗するどころか出し入れされるペニスに舌や唾を絡ませ、男が気持ちよく鳴いている様を見てしきりに悦んでいた。
 頭を抱えられ、すぼまった唇で竿全体をしごきあげられる。男もまた絶頂を迎えようとするとピストンの速度を緩め、自身の快楽が最高潮に達する瞬間を模索している。
「んぐ、はぎゅ、じゅ、ん、んっ……んぁ、んんぅ!」
 もう完全に直立した状態になり、夜雀の頭を揺り動かす男の手が急速に速まる。近いうちに絶頂が来ると感じ、夜雀もまた舌遣いを速めた。
 そうして、荒くなっていた男の呼吸が完全に停止し、夜雀の口を犯していたペニスが彼女の奥深くでびくんびくんと蠢動する。
 で、出る……! と男が呻き、夜雀も一気に肉棒を吸い上げた。
「じゅぽ、れるぅ……ちゅぱぁ、ふぁ、うんぅ、ん、んっ、じゅっ、じゅぅ、ん、んっ、んっ、んぅぅぅ……!!
 夜雀の頭を下腹部に抑えつけ、男の肉棒から、我慢した分量に足るだけの精液が迸った。少女の生温かい口の中に熱い液体が満ち溢れ、喉の奥に射精されたこともあり、生臭くて濃厚などろどろの白濁液をこくこくと飲み込んでいく。
 その間も、少女の頭を小さく動かし、腰を突き出しながら第二、第三波の精液を送り込む。咥内に溜まっていく苦いものを感じながら、尿道口に控えている残りの精液をちゅるぅと吸い取る夜雀。腰が砕けるような快感に、男の手のひらが小刻みに震えていた。
「ん、んくぅ……こきゅ、んぐ、うぅ……」
 萎え始めてきた男根をついばみながら、夜雀は口に射精された白濁液をあまりところなく全て飲み切った。ちゅぽん、とだらしなく垂れた肉棒を離し、最後に手持ちのハンカチで精液と唾液をきれいに拭き取る。その際、絹越しにまさぐられている肉棒がその感触にまた硬く天に向かって勃起し始めたが、そこまでは面倒見切れない。
 下は男自身が履き直し、夜雀がるららーと歌い始めると男の鳥目もすぐに治った。抜け道を通り、再び調理場に戻った彼女は、お疲れ様でしたーと気楽に告げる。
「あと、あんたのせーえき濃すぎ。たまには抜きなさい。いい具合に特別めにゅーが出来たんだから、ちょっとお金はかかるけど、気持ちもいいし私の懐も潤うし、てことでばんばんざーい」
 楽しそうに両手を挙げる店主を見、そのあっけらかんとした態度に乾いた笑いしか浮かべられない。
 ありがとうございましたー、という夜雀の声に見送られ、本日最後の客が八目鰻屋を後にした。赤提灯を消し、調理場のさもしい灯りの中で彼女は撤収作業を開始する。その表情に影はなく、たまに息を吐いてはイカ臭いなあと居酒屋らしいようなそうでもないようなことを漏らし、すんすんすーんと歌い出す。
 流石は歌姫、尺八など簡単に吹きこなせるということか。
 そんなこんなで、夜雀の経営する八目鰻屋の特別めにゅーはたちまち人々の口に上った。
 初めは半信半疑の客も多かったが、夜雀が訪れた客をみな口で抜いたことから、益々八目鰻屋は繁盛することになる。八目鰻もそこそこ旨く、ただでさえ店主の歌で判断力が減じているから口でされる快楽も数倍に膨れ上がり、目隠しプレイもあって、子どもから大人までは行かないまでも、店内はやりたい盛りの男でごった返すことになった。
 夜雀はそれを憂い、屋台が満席になった時点で『満員御礼』の札を掲げるのだが、それでもやはり店の外に並ぶ輩は数多く存在した。
 夜雀の懐は確かに潤ったが、開きすぎた顎は痛み、吐く息も次第にイカ臭くなっているような気がして、私のやりたかったのはこういうことじゃないはずなのになー、と自身の存在意義やら幸せの価値やらを思い悩むようになっていた。
 人間を悦ばせることで結果的に人間を骨抜きにしようとした夜雀は、逆に底無しの性欲を誇る人間たちの体のいい性具になっていた。
 そして、待ち時間の長さに業を煮やした男たちが、鳥目であることなど気にも留めずに少女の矮躯に襲いかかった頃から、彼女の転落が始まる。
 口のみならず、前と後ろの穴も同時に犯され、好き勝手に何度も何度も精を吐き出された。膣に、直腸に、咥内に射精され、それらをあますところなく飲まされ、膣から溢れた精液が地面に垂れ流されていた。全身に男の精液を浴び、全ての男たちが満足した頃には辺り一面にオスの匂いが充満しているほどだった。
 抵抗する間もなく陵辱され、放心状態にあった夜雀だったが、欲を出した男が自宅に連れ帰ろうとしてからは早かった。人間と妖怪、不意を突かれなければ夜雀は男一匹など軽く打倒できる。解放され、これからどうしようかなあ、と裸のまま立ち尽くしている彼女に、天啓のごとき声がかかった。

「おまいさん、遊郭で働く気はあるかい――?」

 

 

 

 


 太ももに魅せられた男の館から脱出したミスティー。
 波乱万丈、一羽の夜雀に訪れた妖生の転機とは!?
 怒涛の展開を見せる実録ノンフィクション「ミスティー・ローラレイの歌」!!
 次週も彼女の活躍から目が離せない!

 


 次週は作者急病のためお休みです。
 尚、この作品は事実をもとにしたノンフィクションフィクションです。

 

作:上白沢慧音
文責:射命丸文

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月十七日
(永夜抄・上白沢慧音)



『たのしいこどものつくりかた2』

 

 上白沢慧音の朝は早く、井戸から水を汲み上げて化粧っ気のない凛とした顔を洗うことで快適な一日が始まる。
 太陽が眩しく、桶の水が陽光によって美しくきらめいている。そよぐ風は慧音の長い銀髪をなびかせ、薄い肌掛けを突き破らんとするかのごとくに盛り上がっている彼女の双丘が、呼吸のたびにぷるんぷるんと振動する。
「ふう……全く、無駄に揺れていけないね。本当」
 下から掬い上げるように、その豊かな膨らみを持ち上げる。やはりサラシを巻かないとたぷんたぷん揺れて仕方がない。他人の目もあり、激しい運動をすると邪魔になってしまうから、多少息苦しい思いをしてもサラシは付けなければならない。
 嘆息する。肩を落としたときにまたおっぱいがぽよんと弾み、肌掛けの合わせ目から胸がこぼれ落ちそうになる。
 慧音が住み処としている庵の周りに人家はなく、背負うように森、見晴らしのいい草原が広がるばかりだ。緩やかな丘の上に慧音の庵はあり、視力がいい慧音は里の様子が見えるものの、里からは簡単に庵を確認できない。だから慌てて胸を隠さずとも、余程の悪条件が重ならない限り、極端な物言いをすれば全裸であっても鹿や猿に呑気そうな視線を送られる程度なのだが。
 それはそれ、慧音も半人半妖と言えどもまだ慎みを持っている。最近、長くを生き過ぎているせいか貞操観念が薄い妖怪が増えている。嘆かわしいことだ、と慧音は胸を抱えながら溜息を吐く。自身の性を売りものにすることに、人であっても妖であっても何かしらの疑問を抱かねばならない。妖怪は勝手に生まれ勝手に滅びゆく一代限りの生き物であることが多いから、子孫を残す、愛のある交わりというものに馴染みが薄いのは致し方ないとも言えるのだが、それにしてもだ。
 なまじ、慧音自身が人と妖の愛の結晶であるから――と、恥ずかしい台詞であるのは重々承知だが――、余計にそう感じられる。妖であっても、妖だからこそ自身の性に敏感であるべきだ。節操なく乳繰り合って売春にふけることなど問題外だ、たまには己の性に関心を抱き、どうしてこどもがうまれるの、という深遠な議題に取り組むようなものが現れることを慧音は期待している。
 そうして。
「……ん?」
 ひゅぅん、と何処からか冷たい風が送り込まれる。まだ身を焼くような暑さが続く夏の日のこと、朝と言えどもカンカン照りの太陽の下で冷風に襲われるのは珍しい。
「……ぉぉぉ……」
「……風、か?」
 桶の水を揺らす疾風を肌に感じながら、慧音は眉を引き締めて異変のでどころを探る。やがて、その発信源が森の向こうからだと察した頃には、既に烈風は明確な輪郭を持って慧音に襲い掛かっていた。
「……ぉぉぉー!」
 森を突きぬけ、現れたのは一匹の氷精。一筋の弾丸となって頭から突っ込んできた妖精の異様さに不意を突かれ、慧音は回避と撃墜どちらの策に打って出ることも出来ず、ただ突っ立ったまま少女と激突した。
「んぐぁ!」
 ぼよん。
「みぎゃあ!」
 ずべしゃあ、と朝露の残る地面に弾き飛ばされる氷精はチルノ。顔面から落ち、しゃちほこのような芸術的とも思える体勢のまま二秒ほど膠着していたチルノだが、やがて重力に屈しぽてくりと地面にうつ伏せた。
 一方、チルノの突撃をそのご自慢のホルスタインおっぱいで撃墜した慧音は、接触時の衝撃からいまだに胸部を押さえてうずくまっていた。
「……ち、ちぎれるかと思った……」
 半泣きになって息も絶え絶えに呟く彼女の乳房は、ベージュ色の上着越しにぽよよんと美しい丘陵を形作っていた。
 恨めしいのか有り難いのか判然としない煩悶に苛まれていると、突貫型氷精のチルノが顔面に付着した雑草を振り払いながら落ち上がり、慧音が汲んでいた井戸水でぱしゃぱしゃと洗顔してふうと息を吐いた。
 そして、今初めて気付いたかのようにチルノは慧音を指差し、
「あんた、噂の歴史を食べたり飲んだり吐いたりする妖怪!?」
「吐かないけど……ついでに言うと、半人半妖だよ。わりと混ざりっ気が多いの」
「そんなことはどうでもよろしい!」
 断じられた。
 どこか理不尽なものを感じながら、妖精だから仕方ないかと慧音は諦め気味に身を起こす。おお、背が高いわねとよく分からないところで威圧されるチルノはさておいて、慧音は勇ましい妖精に問いかける。
「で、私を知っているということは、何か用があるのかしら?」
 腕を組むと、その豊満な胸が二の腕やら肘やらに挟まれて余計に強調される。ちょうどおっぱいの位置に頭があるチルノとしては、何やら悔しそうにうぬぬと歯噛みしていたが慧音としては日常茶飯事だった。羨ましがられることも妬まれることも多い体躯であるが、慧音自身はもう少し細身であればよかったと思っているし、所詮は無いものねだりだということも知っている。慣れるか、諦めるしかないのだ。こういうものは。
 チルノは、慧音というよりそのおっぱいに向かって、
「あんた、もしかして子どもいるの!?」
「……え?」
 目が点になった。
 チルノは尚も続ける。
「隠そうとしたって無駄よ! あんたがそんなにおっぱいがでかいのは、レティもそうだったけど、子どもにおっぱいたくさんあげてる証拠なのよ!」
 びしッ! と自信満々に差した指が慧音の瑞々しい桃を突く。重力に逆らうかのごとく型崩れのしていないおっぱいは、理想的な半球を維持したままチルノの指を受け入れる。
「……うぉ、やわこい」
「あの、いたずらしたいだけなら、帰れ。な?」
 そうだ、あめをやろうと提言する慧音の誘惑にも負けず、実は若干敗北しそうなチルノだったが、何とか即物的な煩悩を振り払い、改めてもう片方の指を慧音の胸に突き刺そうと試み、逆に慧音の拳をどたまに喰らった。
 ごちん、と鈍い音がチルノの内と外に響く。
「うぎゅ」
「ひとのからだで遊ぶなよ、もう」
「いだい……だって、だって……」
 たんこぶを押さえ、涙ながらに語る氷精。その声に悲壮な決意を感じ、慧音も不意に顔を引き締める。
「あんたなら、知ってると思って……」
「何を」
「……こどもって、どうやってうまれるの……?」
 ひゅおん、と一陣の風が吹いた。
 庵の屋根に留まった雀が鳴き、森から抜け出た鹿とシマリスが、くりくりとした丸い目で彼女たちの様子を眺めていた。

 

 

 慧音は庵の中にチルノを招き入れ、嫌がらせのつもりで熱い煎茶を差し出した。あ、ありがとう、と照れながらお茶を啜るチルノが律儀に茶碗を傾ける様を見て、あまり馬鹿にするもんじゃないなと自戒する。
 でもお茶は飲ませておいた。
 ぷぎゃあ、という悲鳴が木霊する中、楚々とお茶を啜る慧音は実に穏やかな表情を浮かべていた。
「……ひ、ひたがひりひりすゆ……」
「とまぁ、成り行きでお茶をもてなしてしまったわけだが、さっき子どもがどうとか言っていたようだけど」
「うん。子どもの作りかた」
 瞳をきらきらと輝かせ、慧音なら、慧音なら何とかしてくれると期待に満ちた熱視線をくべる氷精。外見上はまだ幼く、人間に換算するなら性知識に乏しくてもおかしくはない。
 正装に身を通した慧音は、それでもやはり慧音のおっぱいここにありと言わんばかりに存在を主張する胸の大きさに辟易しながら腕組みし、もしかして他の者たちにも出産経験者だと思われてるのかしらと邪推する。考えても詮のないことなのだろうけど、性に敏感な慧音としてはある程度身の振り方も考える必要があるのだった。
 そんな彼女の苦悩など露知らず、チルノは相変わらず慧音の胸に釘付けだった。肩幅が広く、上背もあるためか常人のそれより幾分が反則気味に大きな仕上がりである。妖が見惚れるのも頷ける話だった。
「そ、そんなに見るなよ……」
「ねえ、どれくらい産んだらそんなにおっきくなるの?」
「興味津々ね……そんなことばっかり言ってると、あそこのチルノはえろ氷精って噂が立つぞ」
「はぐらかそうったってそうはいかない!」
 会話が混沌としてきた。
 議題を明確に定めようとして、思えばそれは子どもの作りかただったんだなあと脱力する慧音。人間たちに歴史の尊さを教え、農耕の技術を教えたことはあるが、色恋沙汰や性教育等々の指導にはあまり自信がなかった。
 だが、これを期に妖怪たちの貞操観念を強化できるかもしれないと踏んだ慧音は、よしと意気込んで立ち上がった。
「あれ、どっか行くの」
「しばし待て。教育読本を持って来る」
「あ、そんなのあるんだー」
「書いたのは私なんだけどね」
 言い残し、慧音は庵の外にある物置から、一冊の古びた書物を持ってきた。その数、優に十冊を越える。
 そのうちの数枚をぺらぺらめくると、チルノの目にそれはそれは生々しい隠語が飛び込んでくる。
 例。

 

 

 KはMの股を徐に開き、そのおまんこをまじまじと見つめていた。
「は、恥ずかしいよ……そんなに、見ないで……」
「いや……とってもきれいだよ、きみのここ」
「ひゃぅん!」
 Kの野太い指先がM字開脚をしたMのまんこに触れ、その中をぐちゅぐちゅとかき回す。興奮の極みに達していたのか、次々に溢れてくる愛液の酸っぱい匂いに誘われ、Kは硬く漲ったちんぽをMの秘部にあてがい――。

 

 

 以上、サンプル終わり。
 総頁数百枚程度の作品には、五頁に一枚の割合で綺麗な挿絵が描かれており、どのような体位で行為に及んでいるかが非常に分かりやすい。小説作品が七冊、性行為の意義、家族計画、四十八手に関すものがそれぞれ一冊ずつ、他にもそのものずばり「たのしいこどものつくりかた」やら「性の芽生え 〜 愛のあるsexを目指して」など、題名から興味を惹かれるものもいくつかあった。
 チルノは、その量の多さに圧倒されながらも、どうにか慧音に質問する程度の心の余裕を確保する。
「……聞くよ?」
「うん」
 慧音の表情は全く変わらない。組んだ腕にぽよぽよのぷるぷるおっぱいを載せ、誰に揉まれてこんなに育ったんだ、あぁ? と揶揄したくなるような危険域の芸術だったが、その物言いをしたものが漏れなく精神的に圧殺されたことをチルノは知らない。
 知らないが故に、チルノは言う。慧音もまた、言われることを期待していた。言われなければ始まらない、そこから全てが始まるのだと信じたい。
 とはいえ。
「あんた、むっつりすけべ?」
 ここから始まる妖怪の性教育が、どのような道程を辿るのかは――歴史を作り歴史を喰らう慧音であっても、全く想像できないことなのだけれど。

 

 

 とりあえず、むっつりであることには頷いておいた。
 こやつめー、と勢いで胸を揉まれたからチルノの胸も揉み返してやった。
 揉めるほどなかった。
 謝った。

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月十八日
(永夜抄・博麗霊夢)



fetishism

 

 魔理沙は言った。
 霊夢は思うのだが、そのときの魔理沙はきっと脳が茹だっていたのだろう。でなければ、曲がりなりにも恋符だの星符だのロマンチックな字が付いたスペルカードを振り回している魔理沙が、あんなことを口走るはずがない。
 でもまあ盛り上がった恋の行き着く果ては性欲とかそのあたりに収束するから、脳が沸騰したとしか思えないことを口走っても到仕方ないのかなあと諦めてしまいそうになる。
 ともあれ、魔理沙は言ったのだ。
「霊夢ー。この暑い中、霧雨魔理沙様がしがない巫女のために朗報を持ってきてあげたぞー。喜べー」
「わーい。うっれしー」
 夏すなわち暑いので、二人ともイントネーションに乏しくアクセントもブレスもない文章しか発せない。縁側から現れた魔理沙は、即座に卓袱台に突っ伏していた。涼しいー、と言いながら天板に頬擦りしているあたり、魔法の森及び霧雨邸はさぞや凄惨な有様なのだろう。霊夢は同情した。
 霊夢は魔法使いの手に握られた書簡を抜き取り、団扇片手にその朗報とやらに目を通す。風鈴の音色は確かに清涼な雰囲気を演出するが、餅の絵を見たところで腹が膨れないように、灼熱の太陽を凍らせない限り吹き出る汗が引っ込むことはない。
 なになに、とそれなりに興味深く読んでいた霊夢だが、数行ほど流し読みして、ちょうど卓袱台に突っ伏している魔理沙の後頭部にその紙を叩き付けた。ぶめぎゃ、と天板に接吻してしまった魔理沙が、唇を押さえながらゆっくりと起き上がる。
「魔理沙」
「いいだろー。そうすりゃ、参拝客も増えるぜー」
 ひゃはー、と軽快に笑う魔理沙の表情は涼しげだ。それに反比例するかのごとく、霊夢の顔は徐々に曇っていく。雷雲で。
「あの、これ、どう解釈しても『売春』て二文字しか出てこないんだけど……」
「春は涼しかったよなー」
「まあ、今よりは……」
「だから、霊夢もそういうことしないと客を取れないぞー。いまや生き馬の目を抜く業界だからなー」
 あちー、と気だるげに呟く魔理沙に反省の色がないと感じた霊夢は、小さく溜息を吐いて静かに激昂した。
「……まあ、とりあえず夢想封印ね」
 魔理沙は飛んだ。
 その際、勢いのままに突き破っていた障子の弁償は魔理沙に委ね、魔理沙が霖之助に依頼し、結局は霖之助が修繕する羽目になった。
 よくあることである。

 

 

 帰って来た魔理沙はいささか擦り切れていたが、わりと平気そうなところを見ると寂とか瞬とか付けた方がよかったかもしれないと霊夢は悔やんだ。
 再び博麗神社の社務所に屯すこととなった両名は、卓袱台の中央に『博麗神社の民事再生法適用に関する最終議定書』と書かれた、基本的に民事再生法とはあまり関係のない卑猥な文章について語り合っていた。
「魔理沙はいっぺん地獄に堕ちた方がいいと思う」
「そんなひどいこと言うなよぅ。これでもちゃんと霊夢のためを思ってだなー」
「ちゃんと私のことを思ってる奴が『口で』とか『腋で』とか書くわけないでしょうが!」
 憤慨する霊夢を嘲笑うように、魔理沙は紙面を指でなぞる。ふむ、と顎を擦りながらしきりに頷き、眉をひそめている霊夢に問いかける。
「なあ、霊夢よ」
「……何よ」
「賽銭は、入っていた方がよかろう?」
「いや、別に身体売ってまで欲しかないけど……」
「売ると考えるからいかんのだ。あくまでお礼と考えろ」
「お礼、て……」
 抜くのがお礼なのかと考えて、霊夢は赤面する。可愛いなあとせせら笑う魔理沙の態度がまた腹立たしく、卓袱台の下から脛に蹴りを喰らわせる。ぐぎゃぁ、という悲鳴は無視して、霊夢は改めて紙面に目を落とす。
 曰く、膣を犯されなければ勝ち。曰く、先端だけなら可。曰く、こうなったら腋とか髪の毛とかも使っちゃえ。
 霊夢は絶望した。
 もう霧雨魔理沙とか葬った方がいいんじゃなかろうか。陰陽玉とかで。
 だが、霊夢が英断に至る前に魔理沙は骨の痛みから脱し、呻きながらも霊夢の説得を続ける。
「いづづ……と、ともかく、だ。そんなに重く捉えることはなかろうよ。巫女には、昔からそういう役割もあったそうじゃないか。自分から動かないと何も始まらないぜ? 折角こんな山奥に来てもらうんだ、また来てくださいね、何のお持て成しもできませんが、せめてものお礼に……とか言って、ちょっと抜くくらいいいじゃないかよぅ!」
「なんでそんなに興奮してんの」
「いや、想像してみたら霊夢えろいなあと思って」
「想像するなよ」
 とは言いながら、霊夢も不意に自分がそのような行為に及んでいる光景を幻視する。

 ぽわんぽわんぽわん ぽわわわーん(効果音)

 

 

 サラシが解かれ、露になった霊夢の白い肌にびちゃびちゃと白濁液が振り掛けられる。まだ未発達な少女のまぐわいに魅せられて、出番を待っていた者が我慢し切れずに憤死したのだ。
「あぁ、もう……」
 残念そうに声を漏らす少女の腋には、グロテスクな肉の槍が挟まれている。霊夢の後ろに膝を付いた男は、休む間もなく腰を動かし、きつく締められたすぺすぺの腋に自身の性器を擦り付ける。
 何度も何度も、腋と二の腕の狭間を往復する赤黒い塊を感じ、霊夢は己の身体を玩具にされていることの怒りと、えもいわれぬ背徳の情欲がほぼ同時に沸き起こっていた。
「ふぇぁ、あっ、熱い……」
「くぅ、巫女さんの腋まんこ、やわらけぇ……う、うぅ、出ちまう……!」
 びゅるびゅる、と凄まじい勢いで吐き出された精子が、少女の下腹部に次々と降り注ぐ。腋から噴き出てくる精液のシャワーとその匂いに、霊夢の意識はくらくらと揺さぶられる。
 だが、甘い余韻に浸る間もなく、霊夢の口に猛り狂った肉棒が突き出される。男は霊夢の傍らに立ち、びくんびくんと蠢動している剛直を見せ付けるように構えている。
「ほら、おれのも咥えてくれよ……もう待ちきれねえよ……」
「ふぁ……ま、ちょっと待っ――んぐぅぅ!」
 冷静にあるよう努めようとして、ついには強引に頭を抱えられて男の逸物を無理やり咥えさせられてしまう。風呂に入っていないのか、つんとした酸っぱい匂いが口の中に広がる。
「あぁぁ……いい、きもちいいぜぇ、巫女さんよぉ……おら、もっと舌を使うんだよ。慣れてんだろ」
「ふぐぅ……うぎゅ、ぶぢゅぅ……じゅっ、ぷちゅ、くちゅ……」
 乱暴に喉を突かれながら、男の欲望のままに激しく出し入れされる肉棒を舐める。すぼまった唇を貫き、じゅぽじゅぽと唇を犯されるうら若き巫女の卑猥な姿を見、順番待ちに留まっていた男たちが一斉に霊夢に襲い掛かる。
「ぷぐぅ! ぷぁ、いやあ、ちょっと、そんなにはぁ……あぅ、ぐぎゅ! ぶぷぅ、じゅぐぅ、ぷちゅく、じゅずっ!」
「こら、離すんじゃねえ……!」
 身体中をまさぐられる不快感に負け、ペニスから口を離して必死に懇願するも、またすぐに男の手が霊夢の頭を抱え込み、今度はより深く霊夢の喉を貫いた。
「んぐぅ、んぅ、ん、んんぅ……!」
「くぉ、くうぅ……いいぜ、そろそろ射精するからなぁ……ちゃんと、全部呑み込めよ……!」
「くぷぁ、んぁ、ぶぢゅっ、ぢゅっ、じゅっ、んっ、んんっ、ん……!」
 呼吸さえもままならず、鼻で息をすれば陰毛の臭い匂いに脳がくすぐられる。
 腕を持ち上げられたかと思えば、腋のくぼみに誰とも知らない男の亀頭が擦り付けられる。先程射精された精液の残滓がぬちゅぬちゅと淫靡な音を立て、その音に感化されてか、小さく呻きながら腋を犯していた男が絶頂に達する。腋を満たす熱い滾りを受け、肋骨を下っていく熱いものに言い知れぬ背徳感を覚える。
「はぁ、はぁ……へへ、巫女さんの腋まんこ、すげえよかったよ……」
「んぐぅ、ふぐぅ……」
 泣きながら舌を動かせば、咥内にある肉棒が徐々にその硬度を増しているのを感じる。男の息も途端に荒くなる。
「ほら、そろそろいくからなぁ……! くぁ、ふぉ……」
「ぶふぅ! ふぐ、ん、んっ、んん、んごぉ、ぶじゅっ、ん、ん……んんッ……!」
 男が短く痙攣し、ずびゅるるっ、と肉棒の先端から大量の精液を射精する。舌に振りかかる熱くて苦い液体は、瞬く間に霊夢の咥内に満ち溢れ、吐き出そうと決意してもなお吐き出される白濁液に、霊夢は仕方なくそれらの濃厚なミルクをこくこくと飲み下した。
「うぅ、ぢゅぅ……んく、ん、んぅ……きゅ、こく、んぷ……」
「そうだ、もっと吸って……あぁ、やればできるじゃないか……」
「くちゅ、んんぅ……」
 一度精液を放出してもなお硬さを失わない肉棒に疑問を抱くも、一人の男が霊夢のドロワーズに手を掛け、抵抗する暇も与えずに下着を引き千切ったことに注意が行ってしまった。
「んごぉ、ふぁ、ほほぁ……!」
「いいじゃねえか、減るもんじゃなし……そうだな、巫女さんの口の中に、もう一回出してやるよ」
「ぐぎゅぅ!? ぷぎゅ、んん、んぁ、ぷじゅぅ……!」
 激しいピストンが再開され、上の陵辱に気を取られていた霊夢は、今まさに自身の股が開かれ、待ちに待った男の性器に犯されようとしていることに気付けなかった。
 亀頭が、ありあまる接触によってぐちゃぐちゃに濡れた膣に吸い込まれ、そこで初めて霊夢は下半身の違和感に気付いたのだが――。
「そぉ、らっ!」
「ぐ、ぎぃぃ――……!」
 肉棒は霊夢の膣を貫き、少女の処女膜をいとも簡単に突き破る。
 激痛に悶え、苦しむ間もあればこそ、凄まじい締め付けに耐え切れなくなった男が即座に霊夢の膣で果てる。肉棒の硬さと、白濁液に満ちていく己の膣を感じ、霊夢は絶望した。
「くぅあぁ……! くそ、きもちよすぎる……最高だぁ……」
 一度きりでは満足できないのか、達した後も繰り返し繰り返し腰を振る。ぷちゅぷちゅと、膣から溢れ出た精液が泡立ち、破瓜の血と共に真っ白な布団の上にまだらとなって零れ落ちる。
「くぅ、ふぁ……んぐ、うぅ……」
「泣いてる暇はないからな……よし、今度も飲めよ……!」
「ぶぷぅぅッ!」
 敏感になっていた亀頭から、二度目とは思えない量の精液が放たれる。頭を抱えられているせいで唇を離すこともできず、今度もまた霊夢は口の中に溜め込まれた苦い塊を飲み下さねばならなかった。
 脳が、焼き切れる。
 霊夢は、白濁にまみれた身体を見下ろそうとして、また別の男の手が霊夢の頭を抱えてしまったから、堕落した己を俯瞰することさえままならなかった――。

 

 

「ッて、やられてるじゃない!」
「そ、そうなのか……いや、お前がそうしたいんなら、うん、私は応援するだけだが……」
「違うわよばかー!」
 絵の具で塗り潰したように顔を朱に染め、何だかよく分からない羞恥心を紛らわすために魔理沙の頭をぽかぽかと叩く霊夢。大した痛みもない魔理沙は、抵抗することもなくその暴力を受け入れている。
「あーもうやだー! なんでよ、なんで私がこんな恥ずかしい思いしなくちゃいけないのよー! それに、わ、わき、わきって……!」
「今更恥ずかしがることかー?」
「くあーその物言い腹が立つ! そうよ、そうなのよ! 私は魔理沙と違ってそういうのに耐性ないの! 私は魔理沙みたいに毎朝毎朝霖之助さんと乳繰り合ったりからだ洗いっこしたりしてないの! 清純なの、清純なのよー! ほんとよー!」
「な、ぁ……!?」
 霊夢の逆上も上手く聞き流していた魔理沙だったが、彼女の発言にはどうしても看過できないところがあった。そこに敏感に反応してしまうところが魔理沙の弱点だが、今更恥ずかしがることでもないのはお互い様だった。
「ちち、ち、ちちちちちちがう! 私と霖之助はあーそういう仲じゃない! あくまで! あくまでも!」
「そう動揺するのが怪しいってのよー! なによ! ごはんとか作ったり服とか繕ったりしてるんでしょ! ああもう魔理沙ってば卑猥! 卑猥魔理沙!」
「それとこれとは関係ないだろー!」
「あるわよー! どうせ炒飯の中に新開発の媚薬とか興奮剤とかガラナチョコとか仕込んでるんでしょ!? 誤魔化そうたってそうは問屋が卸さないわ!」
「ない! 媚薬はない!」
「……媚薬『は』?」
 はッ、と魔理沙が口を押さえた。
 風鈴の音がいやに涼しく、燃え盛った少女たちの精神を束の間に凍りつかせた。だが、瞬間的に凝固した物体は外部からの反応に脆く、おそらく、魔理沙もその例外ではないだろうと霊夢は思った。
「……魔理沙」
「ち、ちがう! ちがうんだって! ほんとだって、その、信じろよ! な!? 私と霊夢の仲じゃないか!」
「おーい香霖ー、今日の昼飯は魔理沙特製炒飯だぜー」
「ちーがーうー! そんなこと言ってないんだってばー!」
 攻守逆転、今度は魔理沙が霊夢の腕をぽかぽかと叩く。そして、ほほほほと笑い出した霊夢に怒りが爆発した魔理沙は、
「れぇ、れいむのばかー!」
 議定書を霊夢の顔に叩き付けて、そこいらに掛けていた箒に跨って息付く間もなくブレイジングスター風味に社務所を後にした。
「……あー、よくからかった」
 恥ずかしかったけど、とまだ火照り気味の頬を撫でる。
 きらきらと零れ落ちるコンペイトウのような星屑を眺め、卓袱台にぽろぽろ落っこちていた星を拾い上げる。霊夢は何の躊躇いもなくそれを頬張り、
「……あ、おいしい」
 微糖のコンペイトウの甘い香りが口の中に広がって、不意に頬を綻ばせた。
 やっぱり、舐めるならこっちの方がいい。
 そう思い、やたら紅潮した顔を手のひらで拭ってみた。

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月十九日
(永夜抄・霧雨魔理沙)



『白黒綺想曲』

 

「おーい香霖ー、今日の昼飯は魔理沙特製炒飯だぜー」
 ん、と小説に落としていた視線を声の出所に移し、霖之助は感謝の意を込めて片手を挙げた。けれどもエプロンドレスの上から割烹着を纏っている二度手間な魔理沙は、こちらに背を向けたまま読書を再開する霖之助の態度に怒り心頭の様子だった。
「おいおい、折角この私が忙しい合間を縫って作りに来てやってるんだから、少しくらいはありがとうだの世話になるねの一言をだなあ」
「ありがとう、世話になるね」
 お玉で自身の肩を叩いていた魔理沙は、霖之助の味気ない台詞に嘆息する。俗物であることと朴念仁であることの相関関係について一考してみたくなったほどだ。
「……あー、もういい。とにかく、もうちょいで出来上がるから居間で待っとけ。次もそんな態度だったら承知しないからな、今度は学習しろよ」
 分かったよ、と閉じた小説を持ち上げて返答する。彼のにべもない態度はいつもの通りで、魔理沙にとっては詰まらなくもあり楽しくもある。何故なら、それが普通だからだ。
 台所に戻った魔理沙は、最後の仕上げに入る。
 香霖堂の蔵に埋まっていた中華鍋を振り回し、中華の帝王とは私のことだぁー! などとのたまいながら炒飯を天高く舞い上げる。米が宙を舞っている隙にくるっと一回転し、はッと差し出した鍋の上にぱらぱらと降り注ぐ炒飯の焦げ付き具合に改心の笑みを浮かべる。上出来だ。
 仕上げは、霧雨邸から持ってきた特製調味料である。
 全く怪しくない。
「よーし出来上がりーと……おーい! 今すぐ持って行くから覚悟しろ!」
 魔理沙が宣言すると、遠く店内から溜息の音が聞こえたような気がした。人の話を聞いていないのかわざと無視しているのか、居間に待機していない霖之助にまたひとつ青筋が立つ。
 どたどたと床を踏み鳴らしながら居間に踏み入る魔理沙を、店側から現れた霖之助が丁重に出迎える。
「お疲れ様。準備はどうだい?」
「だから最初からここに居ろって言ってたのになあー」
 がちゃん、と乱暴に皿を置き、憤慨の程度を明らかにする。しかし魔理沙の扱いにも慣れた霖之助は、ありがとうと素直に炒飯が盛られた皿を手前に引き寄せる。
 のらりくらりとかわされ、攻め気を失った魔理沙は小さく舌を打ってどっかと胡坐を掻く。行儀が悪いなと忠告されても聞き入れず、箸を取り出してがつがつと炒飯を掻き込む。霖之助は肩を竦め、自身も卓袱台の前に座し、丁寧に手のひらを合わせてから焦げ目が多めな炒飯に箸を付ける。
「……ん」
「んぁ、なんか文句あるか」
 半眼で尋ねるも、霖之助は静かに首を振るばかり。
「いや、いつもより気合が入ってると思ってね」
「そうかぁ? そりゃ、私の汗とか髪の毛とか入ってるせいじゃないのか」
 霖之助の手が止まり、豪快に皿を持ち上げている魔理沙の目を見る。見つめられた魔理沙もそれに応える。
「……入ってるのかい?」
「入ってるわけないだろ」
 吐き捨てて、魔理沙はハムスターのごとく頬を膨らませながら米を頬張る。まだあどけなさの残るほっぺたに幾つもの米粒を付けた魔理沙の顔が面白おかしく、霖之助はつい仏頂面を綻ばせる。
 と、ささやかな異変はそこで起こった。
「……う、ん?」
「どうした香霖、眠いのか」
 霖之助を異常を的確に察し、魔理沙は抱えていた皿を卓袱台に下ろす。天板に肘を突き、辛そうに額を押さえる彼の様子を見れば、どこか身体の調子が悪いというのは一目瞭然である。
「……おかしいな、昨日も同じ時間に寝たはずなのに……ねむ……」
「あー、そういうことってよくあるよなー」
「そ、そう、か……?」
 そうそう、とこくこく頷く魔理沙。霖之助は握っていた箸も卓袱台に落とし、みずからの腕を枕にしてぐったりと突っ伏してしまった。
 最後の力を振り絞り、対面に腰掛けている魔理沙に伝言を残す。
「……すま、ない……ちょっと、ねむ……る……」
「おー」
 力尽きた霖之助は、遺言を残してから数秒、すぐさま寝息を立てて健やかなる夢の世界に誘われた。ごゆっくり、と魔理沙は口の端を歪ませる。三角巾を外し、残った炒飯は夕飯にしようと台所に下げた。
「よっこら、せ……とー」
 卓袱台にしがみつく霖之助を畳みに転がすのは腕力が要ったけれど、仰向けに寝かせることが出来れば目的の五割は達成できたようなものだ。
 閉めた障子には魔法で鍵を掛け、その台所方面の扉にも卓袱台の防壁を押し当てる。他にも防ぎようがない隙間やら天狗やらの目もあるが、今日に限っては別の入用があることを魔理沙は知っている。もし絶大なる勘を頼りに霊夢が香霖堂に訪れたとて、魔理沙と霖之助がいないと知れば無理に開かずの間をこじ開けることはないだろう。きっと。
 霊夢に関しては何ら具体的な対抗策を講じることができない自分に嫌気が差すものの――睡眠薬入りの肉じゃがは食べず、弾幕をしても無駄に元気で、埋めても蘇る――、そのために研究を中断することは魔法使いとしての矜持が許さない。
 ふんッ、と弛みかけた精神に活を入れ、割烹着の内ポケットにしまっていた白い絹手袋と防水性のマスクを装着する。
「アリスから手袋を拝借しておいて助かったぜ……」
 アリスが聞いたら目をひん剥いて怒り狂いそうな台詞を吐き、魔理沙はつと霖之助が嵌めている眼鏡に目をやった。じぃ、とレンズの奥に潜むまぶたを凝視してから、
「やっぱり、目も保護しといた方がいいよな……」
 すまん香霖、と心の中で手を合わせ、彼からその眼鏡を剥ぎ取る。魔理沙の三倍は生きているという彼の顔にはシミもクスミもなく、女性が羨むほどの滑らかな肌付きをしていた。
 魔理沙はすぐに霖之助の眼鏡を掛け、うすらぼんやりとした視界に浮遊感と不快感を覚えて、遊んでる場合じゃないなと咳払いをする。
「……では」
 ぱん、と柏手を打ち、魔理沙は霖之助の着物を脱がしにかかる。上半身には手を付けず、狙うは下半身の一点のみである。
 腰の帯を解くのは面倒なので、ある程度緩めたら肋骨の辺りまで裾と一緒にぐいぐいと押し上げる。一方のズボンは膝の辺りまで引き下げ、下着に手を掛けるときは流石に躊躇したが、研究研究と自己暗示を繰り返してようやくトランクスをずり下げることに成功した。
 そして、めでたくご開帳となった訳だが。
「……えー……と……」
 咳払いを二度、目を泳がせ、首を巡らせ、やけに暑いなと思ったら顔が火照っているせいだと悟る。
 霖之助が実は女でしたという結末もなかなか面白い落としどころだとは思ったが、やはり森近霖之助は当たり前のように男であり、雄である以上はオシベに当たる男性器が立派に生えているのであって。
「……あー、うー……」
 覚悟はしていたものの、やはり本物を目にすると困惑の色は隠せない。しかしそれでも研究者として譲れないところがある魔理沙は、意を決して彼の性器におそるおそる指を掛けた。
 魔理沙の目的は、『人あらざるものの精液』である。それを媒体とした悪魔の召喚が最終目標なのだが、手持ちの魔導書にはそれ以外を媒体にした召喚術が掲載されていないため、やむなく精液採取に勤しんでいるのである。
 けれども魔理沙とてうら若き女の子であるから、何の縁もない男のそれを採取する気にはなれなかった。そこで仕方なく霖之助を利用する形となり、まあ、こいつも気持ちよくなれるからお相子だろう、と自分に言い聞かせる魔理沙だった。
 熱の変化に強い容器を傍らに置き、スポイトも準備し終えた。いい加減、刺激を加えなければ出るものも出ない。安らかに眠っている霖之助の呑気が腹立たしくもあり、もし意識があったら今以上に居た堪れないだろうなと魔理沙は思う。
「う、うわ……」
 萎えた状態の棒を手袋越しに掴み、かすかな体温を感じ取る。ゆっくりと手を上に動かし、皮を巻き込みながら先端の辺りまで移動させる。ほんのわずかに肉棒から感じ取れる脈動が霖之助の呼吸とほぼ同期していることに気付き、やっぱりこれもいわゆるひとつの分身なんだなと納得する。
 と、感慨深げに単純な上下運動を繰り返していると、次第に彼の逸物もそれなりの硬さを帯びてくる。熱ッ、と体温以上の熱を感じて不意に手を離してしまった魔理沙は、初めは太ももの間にちょこんと鎮座していた肉棒が、硬度を増し巨大化しながら独りでにむくむくと起き上がり、ついには彼の下っ腹に接するくらい弓なりに反った一部始終を目の当たりにし、マスク越しにぽかんと口を開けてしまっていた。
 ぴくぴくと蠢動するペニスの動きを眺め、魔理沙は急に自我を取り戻す。いけない、呑み込まれてはいけないと再度活を入れる。
「……お、落ち着け……うん、予習はした、予習はしたな……問題ない、問題ない」
 息を吐き、眼鏡越しに目を凝らし、熱く滾っている準備万端といった風情の肉棒を掴む。
「……ぅ、ぅ……」
 途中、霖之助が気持ちよさそうに顔を顰め、そのたびに握り締めていいやら手離した方がいいやら途方に暮れる魔理沙だったが、徐々に、ペニスを擦る速度を上げていく。間に手袋を介しているという余裕もあり――それでも雁首のくびれや浮き出た血管の太さ、どれだけ強く握り締めても限りなく反発する弾力と硬度を兼ね備えたハイブリッドを体感せざるを得ないのだが――、魔理沙はこの行為が魔法研究の一環としての精液採取と割り切れるようになっていた。このさい、頬を染めている体内の熱は無視する。
「くぅ、ふぅ……もしかして、夢の中でも、気持ちいいことしてるのか……?」
 割り切れれば、それなりに軽口も叩けるようになる。ぎゅっきゅっとシルクの肌触りが小気味良い音を立て、彼の鈴口から相当な量のカウパー線液を誘発する。既にこの液体に関する知識を得ていた魔理沙は、動じることなく先走り液すら潤滑油に利用し、更に勢いよく彼の肉棒を追い詰める。亀頭はピンクから赤に染まり、全体をして赤黒く腫れ上がったペニスは、射精を間近に控えているようにも見えた。
 が、手袋をぬちゃぬちゃと濡らしながら男根を擦り上げても、どれだけスピードを上げても射精に至る気配はない。時折漏れる快感混じりの吐息は彼の興奮が絶頂に達せようとしていることを示しているのだろうが、しかし射精に至る表情の変化は感じ取れなかった。
「おいおい……香霖、おまえ、枯れてるとか言わないよな……?」
 一抹の不安が脳裏を掠める。弱気になってはいけない、と慌てて手コキを継続するも、射精を思わせる勢いで吐き出されるカウパーは手袋どころか魔理沙の腕にまで侵食してくる。魔理沙は右手を諦め、今度は左手で彼のペニスに触れる。力の入れ具合が異なるから、次は上手く行くかなと玄人じみたことを考える。
「……ぅ、ぁ……、ッ!」
 悲鳴のような嬌声が、彼に新たな快感を与えていることを教えてくれる。それでも、慣れない手付きで息も荒げながら男の性器を健気に擦り続けても、何が悪いのかやはり霖之助は性機能傷害なのか不感症なのか年なのか、いくら扱いても射精しない。
 魔理沙は一度間を置き、前進か撤退かを思考する。手袋は左右ともぐちょぐちょに濡れ、絹の内側まで男の汁で犯されているように感じられる。困った。ぐずぐずしていると霖之助が目覚めてしまう。念のため一刻はある程度の刺激を与えても覚醒しない深い眠りに堕ちているはずなのだが、性欲が及ぼす快感がどの程度の領域に達するのかは未知数だ。ましてや性別の差もあるのだから余計に混乱する。
 魔理沙は唸った。
 頭を抱えて悩んだ末に、どこかの猥本で見た、ある行為を思い起こす。
「……く、くち、で?」
 マスクを押さえ、指で摘まんでいる猛り狂った肉棒を口に含む、その行為を想像する。人はそれをフェラチオと言い、オーラルセックスとも言うそうだが、唇ではみ口の中でペニスを刺激することには変わりない。手コキで達する者も多いが、やはり口の方が体温や形状の面で手淫を超えているところが多い。
 だから口。
 より確実なのは、魔理沙がその柔らかい唇で霖之助の肉棒を咥え、そして速やかに射精に導くことなのだ。
 そのためにはマスクは邪魔である。魔理沙はマスクのゴムを耳から外そうとし、ごく自然にそのような行為に及ぼうとした己の理性を疑う。
「……だ、だだだ、だめ、これはだめ、だろ……えー、うん、そう! なんていうか、その……お、おお……」
 おしっことか出てくるし……、と生理的な現象を語ることに厭らしさを覚えてしまうのは、ペニスを擦っている間に自身の情欲が取り返しのつかないところにまで高められてしまったからだと知った。
 だからと言って、おめおめと引き下がるのは性に合わない。何のことはない、研究のため魔法のため、精液のため精子のため、と言い聞かせる呪文は堕落しそうだから却下した。摘まんだ性器は萎えることを知らず、亀頭を摘まんでいるせいか小刻みにぴくぴくと脈動を続けている。
「くぅ……おまえよぉ、私のためを思って、早いとこ出してくれよな……わたし、くち、くちとか……」
 頭がくらくらする。視界が歪んでいるのは度の強い眼鏡を掛けているせいか。息苦しいからという理由で外したマスクは、爆発せんと猛り狂っている性欲の蓋だったのではないかと愚考する。魔理沙は図らずも――あるいは意図して――それを外してしまった。
 生唾を飲み込む。こくりと喉を伝っていく生温かい塊が、ごく近い未来に飲み下さんとする精液の塊を模しているように思えてならなかった。
「……よ、よぉし……ナスだ、ナスと思え……キュウリでもいい……」
 暗示になっているかどうかさえ曖昧な独り言を吐きながら、魔理沙はペニスの根本をぎゅっと掴みながら照準を定め、あーんと棒状のものを受け入れる形に唇を開けてから、おそるおそる彼の肉棒に肉薄していく。
 震える吐息は内も外も無性に熱く、少女の吐いた甘い息が敏感になりすぎている亀頭に幾度も触れ、そのたびにいまだかつてないほど激しくびくんびくんと振動する。
「……ぁ、あぁー……」
 目を瞑ったまま、唇をゆっくりと下ろしていく。いつになったら接続するのか、その位置を確かめるべく瞳を開けるとそれは眼前に聳え立っていて、驚きのあまり口を閉じかけてしまう。
 はむ、と薄いながらも潤いのある魔理沙の唇が、ちょうど彼の亀頭を咥え込む。
「んむぅぅ!?」
 心構えのないままに咥えてしまった動揺から、魔理沙は咄嗟にぴくぴくと震える亀頭を吸い込んでしまう。
 そして、肉棒が大きく跳ねた。
「んぷぁぅ! ぷはぅ、くぁ、はぁぁぅ……!」
 さんざん焦らされて溜め込んでいた精液が、重力に逆らって高々と打ち上げられる。びゅるッ、ずびゅぅ、と噴水のように外界に飛び出た白濁液は、ちょうど亀頭を食んでいた魔理沙の口の中に一部入り込み、慌てて顔を逸らした彼女の顔面にも容赦なくぴちゃぴちゃと降りかかった。
 咥内に広がる苦味は、魔理沙が十余年の人生で味わったことのない類の苦さだった。ねばっこく、熱く濁った液体を即座に吐き出そうとし、折角だからとガラスケースの中に垂らす。
「ぅ、ぷぅ……ぉ、ぇう……、……こ、こいつ……」
 いまだ鳴り止むことのない鼓動は、魔理沙の手の中で終わることなく続いていた。顔を汚された怒りやら侮辱やら、言葉に出来ない感情の猛りを、ぱんぱんに腫れた肉棒を擦り上げることで晴らそうとする。けれども、その結果は霖之助が気持ちよさそうに喘ぐ声と、尿道に溜まった残りの精液が鈴口から名残惜しそうに吐き出されただけだった。
 べとべとに汚れた顔を拭おうとして、手袋もまたびしょびしょに濡れていることを思い出す。髪の毛の先から精液が垂れ、頬についた精液が顎を伝って魔理沙の膝に落ちる。
「うぅ……これ、髪の毛にもかかってるよなぁ……あと、眼鏡にも……」
 つん、と鼻元を伝う精子の温もりが鼻腔を貫く。男の中にあったものが、年端も行かない少女の顔を汚している。手袋で金の髪を梳き、ぬちょぬちょしたものをケースに移す作業の後は、眼鏡の処理である。
 確かに目は保護できたからよしとしよう。
 回収。
 口の中に残る苦みは無視して、顔に付着した精液を手袋でひたすらに拭い取る。かぴかぴになったら手遅れだと本にも書いてあった。それでなくても、顔射の類は処置が面倒だから気持ちよくても男が望んでも時と場合を選ぶ必要があるそうだ。全くだ、と魔理沙は事ここにおいて実感する。
「――こんなもんかあ……」
 ある程度の処置を完了し、霖之助の股間も丁寧に拭い、精液も適量を確保した。肌に染み込んだ精液が乾き、若干表情を作りにくくなっているものの、全速力で家に帰れば問題はない。
 霖之助の下半身を元のあるべき姿に戻し、うぷ、と思い出したかのように沸き起こる精液の苦さに胃から沸き起こるものを感じる。
「くそぅ、今に見てろよ! とかいうとなんか本番を楽しみにしてるみたいじゃないかよ……!」
 ちくしょー! と唇を押さえながら香霖堂を後にする魔理沙の目に光るものがあったりなかったりしたが、それの真意は当の本人にも理解し得ないことなのであった。
 ちゃんちゃん。

 

 

 霖之助の目が覚めた頃は既に日もそこそこに傾いており、一日の大半を睡眠に費やしてしまったことを十分ほど彼は悔いていた。
 起き上がってみれば魔理沙の姿はなく、紫色に等しい薄暮の中に男が一人取り残されているだけだ。気が付けば、掛けていたはずの眼鏡もない。帯の位置もややずれているし、股間には違和感がある。寝かせてくれたのは魔理沙だとして、ふむ、と霖之助は腕を組む。
「あぁ、そうだ」
 炒飯をたべている途中だった。卓袱台にあったはずのそれらは影も形もなく、探してみれば台所に置き手紙と共に鎮座していた。
『食え』
 たった二文字の中に彼女らしさを垣間見、ふと顔が綻ぶ。
 一皿にまとめられた炒飯は冷め切っていたが、霖之助は綺麗にそれを平らげた。
「……うん、おいしい」
 願わくば、この場に彼女の姿があって欲しかったものだが。
 叶わぬ夢は暮れゆく逢魔ヶ刻に溶け、定刻を外れた夕食が霖之助の「ご馳走様」に締めくくられた。

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月二十一日
(永夜抄・因幡てゐ)



shapes of shavers

 

 橙色に染まった竹林を歩いていると、子どもの泣き声を耳にすることがある。
 あれは妖怪が人の子どもに化けた姿であり、情にほだされて、泣きじゃくっている幼子に手を差し伸べたが最後、心優しき救い手は人外の顎に噛み砕かれる。血を啜られる。肉を啄ばまれる――というのが、里に伝わる一種の伝承だった。
 事実、それをして人間を捕食していた妖もいたのだろうが、竹林に火の鳥や白兎が徘徊するようになって以降、巻き添えを怖れて次々と他の土地に移ってしまった。
 それでも時折、竹林には子どもの嗚咽が響き渡る。
「飽きないねー」
 愚痴るように跳ね、因幡てゐは耳と尻尾を揺らしながら目的地に向かう。健康のためにと日課の散歩を行っている途中、何者かの泣き声を耳にした。無視すべきかどうか三秒ほど悩んだが、人間なら恩を売ればよし、妖怪なら打ちのめせばよい。歩くだけでは身体がなまる。てゐは足を速めた。
 夕闇に翳りゆく竹を擦り抜け、声の中心に近付くたびに泣き声は大きくなる。声変わりする前なのか、男か女は判然としない。邪魔な竹の枝を圧し折りながら突き進み、乱立する竹の隙間にしゃがみ込んでいる女の子を見付けた頃には、ありとあらゆる色彩が黒を基調とした色に塗り潰されるくらいには夜が降り切っていた。
 人間の浅はかさか妖怪の浅ましさかは分からないが、何にせよ手を伸ばさねば始まらない。てゐは、手のひらで顔を覆っている少女に問いかける。
「ねぇねぇ、あんたどこから来たの?」
 相手の警戒心を殺ぐ気楽な口調に、女の子の顔も自然と上がる。泣き腫らした目は赤く腫れているのだろうが、この暗闇では涙が頬を伝っていることしか分からない。
「……ひぐぅ、うぅ……だ、だれ……?」
 闇に溶ける黒髪を、水晶のように澄んだ珠でくくって左右に垂らしている。座高と容姿からすると、十を幾つか過ぎたあたりに思える。綺麗な蝶に見惚れて、いつの間にやら竹林に迷い込んでしまったという手合いか。自分が蜘蛛の巣に引っ掛けられた蝶とも知らず、来るはずのない救いを求めている。
 てゐからすればこの上なく甘っちょろい話なのだが、迷子がいればそれだけ暇が潰せるのだから人の子の習性を厭う必要もない。からかうのは楽しいし、時には懐かれ拒まれ撫でられ引っかかれもするが、それらをひっくるめてガキと付き合うのは面白い。
 ひいては、己が子どものような性格をしているからだとも言えようが、だとしてもてゐは怯まない。
「見て分からない? 何の変哲もない兎よ、兎」
 ふにゃっとした耳を摘まみ、てゐは邪気も打算もなく笑う。少女は目をぱちくりさせていたが、敵意はないと判断したのか、警戒しながらもゆっくりと腰を上げた。
 並んでみれば背丈は大差なく、波打った黒髪も相まって仲のいい姉妹に見えないこともない。少女もてゐが妖怪だと分かっているだろう。が、てゐは必ずしもそうとは言えない。当たり障りのない人間を装った妖怪、あるいは外見は人間そっくりの妖怪も少なくないのだ。
 警戒しているのはお互い様、隙を見せるなどもってのほかだ。
「実は私、竹林の道案内ということになってまして」
「え……」
「助けてあげよっか?」
 屈託ない笑顔も、裏があるように解釈することもできる。けれども切羽詰っている人間は、彼女に化かされていることにも気付かない。彼女が与えてくれる幸福は竹林から迷子を救い出す以上の質を持っているのだが、彼女は道案内をすることで人間に最小の幸福しか与えない。それでも人間は助かったと思い、てゐは馬鹿めと思っているから万々歳だ。
 どちらも幸福になる嘘とは、そういうことである。
「……お願い、助けて……」
 藁にもすがる思いで絞り出した言葉は、しゃくりあげて酷使し続けていた喉のせいで酷く掠れていた。
「よしきた。この因幡てゐ、責任をもって送り届けてあげましょー」
 自信満々に胸を叩き、特にぽよんともたゆんとも鳴ることなく、ただ筋肉を叩くどすんと言った鈍い音がこもるのみだった。

 

 

 てゐは、この少女が人間だと踏んだ。
 時折、至近距離から自身の妖気を叩き付けてみたが、それに干渉されて本性を現したり急に咆哮したりすることもなかった。ただ呆然と、人ならざるものの妖気を浴びた人間のように、震えることも逃げることも出来ずに立ち尽くすのみだった。
「ごめんごめん、たまにこうしないと妖怪が寄ってくるからさー」
「よ、妖怪……?」
 びくん、と身を震わせて肩を抱く女の子は、跳ね回るてゐの後をおっかなびっくり付いてきている。闇に目が慣れているのは二人とも同じことだが、少女に限れば時折竹に引っかかって転びそうになったり叫び出しそうになったりしていた。
「私も妖怪だよ?」
「うぇ……わ、わかってるけど……」
 胸に両手を当てながら、先導するてゐの耳と尻尾を注視する。くるりとてゐが振り返り、夜空に君臨する月にも似た紅い瞳で少女を見据える。
 驚いたが、その妖艶な美しさに惹かれて目が離せない。
「ところで、どうしてここに来たの?」
 気になっていたところを聞いてみる。少女は、まごつきながらも途切れ途切れに答える。
「どうして、て言われても……その、お遣いの途中だったから、急ごうと思って……」
「ふむふむ。でも、籠も鞄も持ってないよね」
「それは、向こうに着いてからだから……」
 戸惑いながら回答する女の子には、不審なところはあれど決定的な証拠は見付からない。口からでまかせを言っている様子もないが、予め言い訳する準備を整えていたなら話は別だ。動悸の速さは警戒心と極度の興奮ゆえかも知れず、ただの人間であってもやましいものを抱えている場合も多いから、これ以上は考えても詮無きことだとてゐは諦めた。
「まあいいや。人それぞれ事情はあるだろうしねー、別に詮索はしないよ。でも、道中暇だからいろいろと話しましょうか。それとも、妖怪と気楽に話すのはご勘弁願いたい体質?」
「あ……う、うぅん。そんなことは……ない、けど」
 言葉を探しながら訥々と語る姿は純朴な少女そのもので、てゐはその中に自分が失ってしまった清純さや無垢さを垣間見たり見なかったりなどした。
「そんじゃまあ、楽しい道中に致しましょー。たらったらったらったうさぎのだんすーっと」
「だ、だんすー……」
 てゐの勢いに引きずられて、テンポの悪い輪唱などしてみながら女の子は妖怪兎の後に続いた。
 他愛のない会話は、てゐが根城としている永遠亭や最近発見した鈴蘭畑の猥談など多岐に及び、少女もどこぞの歴史喰いが怪しげな教室を開いたとか竹林に棲む人ならざる者のラブストーリーなど、てゐが思った以上に幅広い話題を聞くことができた。
 中でも性的な方面に話が及ぶと、少女は途端に頬を朱に染め、肩をばしばしと叩き隙あらば胸やら下の方やらに手を伸ばしている半発情兎に悪戦苦闘していた。
「――とまあ、冗談はこれくらいに致しまして」
「ふぁ、じょ、冗談には思えなかったけど……」
 息も絶え絶えに反論する女の子がいやに可愛らしく、垂れた髪の毛を引っ張ってやりたかったてゐだが、楽しい道中は残りわずかに迫っていた。一見すると同じ景色が続いているのだが、里に流れる川の匂いが近くなっている。
「そろそろ着くからね。長旅お疲れさまー」
「あ……うん、お疲れ、さま」
 しぼんだ肺から吐き出された声は、てゐの耳に届くか届かないかの境界で夜風の金切り声に遮られた。
 てゐは傾いた竹をえいやと蹴り裂き、名残惜しそうに息を付く。
「うーん、あんたとはもうちょっと話したかったんだけどな」
「え……ど、どうして?」
「いやまあ、楽しかったってのも勿論あるんだけどー」
 歯切れが悪いてゐの横顔を、傍らに寄ってきた女の子が覗き込む。半刻も経っていないのにだいぶ懐かれたものだ。
 だが、この期に及んでも全くボロを出さない少女は、本当にただのとんちんかんな迷子だったのではないかとてゐは思い始めていた。
 何かを信じるためにはその何かを疑えという信条で生きているてゐのこと、最後の最後までこの少女を信用してはならないと長年の経験と直感がそう告げているのだが。
「……で、でも」
「んー?」
 握り締めた拳を腰の辺りに添え、女の子は絞り出すように言う。てゐは歩みを止めない。遠く、人里の灯りが見えたような。
「また……その気になれば、また、会えるから」
「……んー」
 どこかこそばゆいものを感じ、情熱的な視線を背中に浴びながらもてゐは無視して出口を切り開く。
 ばき、と乱暴に竹を圧し折り、ようやっと人の目にも里の明かりが窺える辺りにまで到着する。竹の密度も相当に薄まり、女の子も躓いたり転んだりすることなく家に帰れるだろう。
 腰に手を当てて背中を逸らす。あいたたた、と爺むさい呻きを上げるてゐに、女の子は別れの意味も込めて腰を擦る。
「すまないねー、こんな老いぼれごときに気を遣ってー」
「そんな……まだ、若いと思うし……」
「まあ、事実そうでもないんだけどね。外見だけが全てじゃなし、かといって中身が全てでもないと来た」
 怖いねえ、と冗談めかすように呟いて、てゐはワンピースを翻しながら竹林の出口を指し示した。
「さぁて、楽しい時間もあっと言う間に通り過ぎました。また会えるかどうかはさておき、さっさと帰って寝た方が健康にはいいよ」
 ほれほれ早く帰れ、と手を払うてゐに煽られ、少女も躊躇いながら民家の見える方向に足を踏み出す。ちらりとてゐを盗み見て、てゐが慈愛に満ちた笑みを浮かべて送り出そうとしてもまだ足りなかったのか、少女は意を決して親切な妖怪に話しかけた。
「あの、兎さん……」
「なにさ」
「もしかしたら、私のことを妖怪か何かだと勘違いしてるかもしれないけど……私、ちゃんとした人間だから。これだけは、言っておかなきゃいけないと思って……」
「いや、そうでもないんじゃない?」
 後頭部に手を組み、やや開けた竹林の空き地を見渡す。妖怪の気配はなく、罠が仕掛けられている様子もない。元よりてゐも散歩道として何度も通っているから、棲みついた妖怪がいればおのずと分かる。何かしらの手出しをしてくるのは新参者の妖怪か、幸福を与える兎を捕らえようとする人間くらいだ。
 やはり、この少女は迷子の迷子の女の子だったらしい。
 てゐが、やれやれと胸を撫で下ろす。
「だって」
 少女は尚も続けていた。
 嘘を言わずとも人を欺くことはできる。てゐは見落としていた。少女は嘘を吐いているのではなく、ただ重要な事実を話さなかっただけだということを。
「――ん?」
「だって、妖怪は他にいるんですもの」
 くすり、と厭らしい笑みを浮かべる。
 初めて見せた誇らしげな笑みに、てゐはようやく納得した。天高く突き出した竹林の更に上空から、翼を持った狼が降ってくる。気付かなかった。少女が囮という可能性も考えた。が、てゐの中にあった全ての予測が裏切られたのは、ひとえに少女の演技が素晴らしかったということだろう。
 人間でなければ、人間であることを盾に取ることはできない。出来た話だ。てゐは墜落するように肉薄する巨大な獣の妖気に顔をしかめ、抵抗すべく伸ばした腕もまた獣の脚に押さえつけられた。十二分に体重の乗った脚がてゐの手首に圧し掛かり、みしみしと鈍い音を立てる。
「うぎぎぃ……」
 うつ伏せに組み伏せられたてゐの両腕は、獣の脚に捉えられている。毛むくじゃらの黒い狼は、絶えず羽ばたかせていた羽を畳み、低く唸りながらくだんの少女に語りかける。
『礼は件の室に』
「はい、ありがとう」
 短いやり取りの中に、少女と獣の打算を見る。てゐは、這いつくばったまま無理やり顔を上げ、少女の見え透いた同情を唾棄する。
「ここも、物騒なのよ。だから、狼さんに食べ物を恵んでもらってるの。これは、狼さんへのお礼。分かる?」
 噛んで含めるような物言いが癪に障る。だが目下のところ勝者は何をしてもいいことになっているから、てゐはただ口を噤んでいた。
 さながら兎の耳のように、左右に垂れた黒髪を翻し、少女は今度こそてゐに背を向けた。
「ごめんね。でも、食べられるわけじゃないから。ただ、しばらく相手をしなくちゃいけないかもしれないけど――」
 最後にまた少女らしからぬ淫靡な笑みをこぼし、詐欺師は舞台を後にした。
 残されたのは二匹の妖怪、しかし兎に覆い被さっている狼の身の丈はてゐの倍を大きく超える。尖った口先から食み出た犬歯が、地面に押さえつけられたてゐの喉元を食い千切らんと揺れているようにも見えた。
「ぎぎ……あんた、見ない顔だねえ……」
『私は知っている。なればこそ捕まえている』
「あ、そう……前々から、目を付けられてたってわけね……」
 年を感じさせない美貌も罪作りなもんだ、とてゐはほくそえむ。だが、先程からおしりに感じる硬くて熱い棒のようなものが、てゐに底知れぬ絶望を与えんと滾っていることをてゐは知っていた。
「くそ、異種交配かよ……形が違いすぎるっての……」
『孕む必要はない。味わうだけだ』
「無茶言うな、ばかやろう……」
 狼の体長を考えれば、性器の大きさも相応なものとなる。てゐの腕を押さえている脚ほどではないにしろ、てゐが楽に受け入れられるサイズではないはずだ。
「だからぁ、ものには限度ってのが、あっ」
 歯を食いしばりながら恥辱に耐えていたてゐも、狼に後足でおしりを持ち上げられ、いよいよもってワンピースの上から狼の性器が擦り付けられる。我慢の限界なのかぐしょぐしょに抜けた亀頭を股間に押し付けるせいで、薄手のワンピースもドロワーズも透けてしまうくらい濡れそぼっていた。
 後一押しあれば貫かれるという危機にあって、てゐは自分の顔に狼の涎が降りかかっている現実に歯噛みした。
「ちくしょう、ちくしょう……て、どっちも同じじゃな――う、あぁぁうぅぅぅ……!!」
 まだ大して濡れてもいないてゐの花弁を切り裂くように、狼の黒い肉棒が激しく突き出された。一瞬、股を裂かれるような苦痛に呼吸が止まり、それが数秒ほど続いた頃、ようやく現実に帰ることが許された。
「あ、ぁぁ……う、うそぉ……なんで、なんでこんなにはいってんのよ……」
 布を裂き、膣いっぱいに押し込まれた狼のペニスは、てゐの中で激しく脈打っていた。もしてゐが狼の分身を受け入れている様子を見ることができたら、その現実離れした様相に笑みがこぼれていたかもしれない。
 子どもの腕ほどもある黒々とした肉棒が、まだ幼さの残る体躯を渾身の力で貫いているのだ。男根の形にぽっこり膨らんでいるのは、てゐも何とはなしに理解してしまっていたが。
「く、ぅあぁぁぅ……い、いた……あぁ、あんまり、動かさない……で……」
『無理だ』
 獣の腰が動くたび、膣もまた動く。
「ぐぅぁ、いやぁぁぁ!」
 甘美な悲鳴が鳴り響き、グロテスクな肉棒が一段と深くてゐの襞を貫く。ぎちぎちに締まった膣を掻き分けるのはよほど困難なのか、時折腰を震わせながら、それでもより深くてゐの奥に亀頭を至らせる。
 不思議と、挿入から一分も経たないのにてゐの中は愛液に溢れていて、受け入れるものがあまり大きすぎるのはやむを得ないにしても、襞が千切れたり割れ目が裂けたりすることなく滑らかな出入が繰り返されていた。
「ふぁぁ、やぅ、ぐぅぅぅ……くるし、くるしい、てばぁ……」
 目頭から零れ落ちる幾粒の涙も、欲望のままに腰を振り始めた狼には見えやしない。その代わり、右の前脚をてゐの腕ではなく彼女の頭に乗せ、口答えも許さぬといった風情で顔を土に押し付けた。
 地面に口付けながら、ぐちゃぐちゃと泡立っている自身の股間を感じる。激痛やら恥辱やら絶望やらはなく、ただ茫洋とした快感らしきものの波がてゐを包み込んでいる。
「ひぁ、うぎゅぅ……」
 抽送の速度が速まり、狼の口から漏れる息も徐々に荒くなる。てゐの吐息にも甘い香りが濃くなり、子宮の中まで犯されていても何故か脳が痺れるような快感を覚えてしまうようになっていた。
『いくぞ、射精する!』
「いゃ、うぁ、あぐぅぅ……もう、いやぁ……ひゃぁ、うぁぁん!」
 呑まれまいと必死に草を噛むも、獣の突き出しは人間のそれと比較にならないほど乱雑で、より確実に子宮へ己の種子を流し込むことしか考えていない。亀頭を花弁まで引き戻すことはせず、子宮口で亀頭のくびれを擦るように小さい範囲で自身を追い詰めていく。
 それでもずちょずちょと淫猥な音色は竹林に響き渡り、それぞれが声にならない喘ぎ声を放ち始めて数分が経った頃、突然、てゐの膣に収まっていたペニスの先端が急激に膨らんだ。
「ぅえっ!? ぐぁぅ、ちょ、ぅあぁ、だ、だめぇ、なか、なかはだめぇぇぇ! ぇ、ぁぁ、うぁぅぅぅッ!」
 視界が明滅し、意識が飛躍する。
 限界まで膨らんだ亀頭から、並々ならぬ量の精液がぶちまけられ、それと同時にてゐは意識を失った。その間も絶え間なく射精される白濁液にてゐの子宮は満たされ、ペニスが抜かれる前に股間の接合部から早くも黄ばんだ精液が逆流し始めていた。水っぽい精液はてゐの太ももを伝って地面に落ち、瞬く間に白い沼地を作った。
 意識を取り戻したてゐは、自身の内側でびくびくと跳ねる肉棒の熱と、胎内を泳いでいる精液の勢いに頭が茹だり、冷静に物事を考えられなくなっていた。
「ふぁ……あふ、ひぁ……ぁぁ、うぃぃ……」
 ようやく長い射精が終わり、引き抜かれた黒い巨根からも何度か精液が跳ね、てゐのおしりや背中にぴちゃぴちゃと吐きかけられる。全身を覆い尽くす獣臭い精子に頭がくらくらして、狼が口の端を歪め、萎えることを知らない性器を、精液が溢れ出ているてゐの秘部に再び突き入れようとしていることにも気付かなかった。
 そして、狼はにやりと笑いながら腰を突き出し。
「ねえ、二兎を追うものは一兎も得ずって知ってる?」
 知らないか、とあっさり見切りを付け、てゐは自分の足を狼の剛直に叩きつけた。
 一蹴。
 四つんばいの体勢から放たれた後ろ蹴りは、軌道こそ短いものの類稀なる瞬発力をもって狼の性器を蹴り抜いた。なまじぎりぎりまで硬く勃起していたものだから、敏感なところも相まって凄まじい衝撃が狼の体内を揺るがす。勢い余って、ペニスの中に詰まっていた精液の残りが吐き出され、てゐの太ももに再度ぴちゃぴちゃと振りかけられる。
 狼の力が緩んだのを見計らい、すかさず押さえつけられていた手首と頭を外す。逃がさぬとばかりに前脚を振りかざすも、てゐの跳躍に全くタイミングが合わない。
 十分な距離を取ってから、てゐはびりびりに引き裂かれ欲望をぶちまけられたワンピースを摘まむ。
「うぷぁ、けっこうかけられちゃったなあ……」
 下半身は丸見え、膣からはこぽこぽと白濁液を垂らし、背中には精液のシャワー。救いようがない。てゐは嘆息し、唸りを上げて威嚇する狼と対峙する。
『気が変わった。必ず、我が子を孕ませてやる』
「やなこったー。大体さぁ、種族が違うんだからそのへんどうにもならないでしょ。まあ、廃人になるくらい犯して溜飲下がるなら話は別だけど」
『ならば貴様の死肉を喰らってやろう!』
 大袈裟だねえ、と空に飛び上がる獣を見て呟く。あれに子があるのかは分からないが、好きもののようだから数撃ちゃ当たる戦法なのだろう。てゐは納得した。
 竹林を突き抜け、月に届かんばかりに舞い上がった狼の姿は声にも目にも見えず、妖気すら感じられぬほど遠くにある。だが彼にはてゐの位置が見え、おそらくは確実にてゐを仕留める。その後は陵辱の続きか他の狼の慰み者か、とにかくロクな未来は待っていまい。
「……やれやれ。さっきの諺、聞いてなかったのかね」
 肩を竦めて、開けた空き地から空を仰ぐ。闇色の月夜はさめざめと輝いていて、何人をも拒み続ける冷たさに満ちている。その一点をこじ開けるように、黒い獣が咆哮と共に突撃してくる。一直線に、揺らぐことなくてゐを目指して。
 ぉぉぉん、と空気が揺らぎ、衝突まで一秒に満たぬほど肉薄しても、てゐは乾いた笑みを崩さなかった。ただ、身体の火照りを収めるのにいい手段はないものかな、と思いを巡らせるだけだった。
 やがて、獣の鼻がてゐの頭上に差し掛かり。

赤眼催眠(マインドシェイカー)

 狼が、てゐの真横に墜落した。

 

 

 お疲れさま、と労を労うてゐだったが、やはりというか、駆けつけた鈴仙は口をぽかんと開けていた。
「いや、まあ……ご苦労さまというか、お楽しみだったというか……」
「んー、いちおう運動の一環ではあったんだけどぉ、いてて……」
 股間を押さえながら釈明するてゐにブレザーを掛け、鈴仙は地面に顔が埋まってしまった獣を傍観する。
 呼吸は出来ているようだから問題はないと思うが、むしろ復讐が恐ろしい。てゐだけの問題ならまだしも、永遠亭に被害が及ぶとまた面倒なことになる。
「これ、どうするの?」
「ほっとけばー」
 てゐが気にしていないので自分が気にするのもどうか、と鈴仙は早々と獣から注意を解いた。
 じゃあさっさと帰りましょう、と先導する鈴仙だったが、あーと何か気付いたように走り出す。てゐも跳ねながらその後を追うと、鈴仙は竹の側に転がっているツインテールの女の子を指差していた。
「何だか、そのへんうろちょろしてたからしょっぴいてきたけど……知り合い?」
 てゐは、こくりと頷いた。
 てゐの太ももから陵辱の残滓がくぷりと零れ落ち、白い兎の足に白濁の川を作り上げていた。

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月二十二日
(永夜抄 鈴仙・優曇華院・イナバ)



『勇敢な愛のうた』

 

 鈴仙が師匠と仰いでいる永琳が遠出をすることになり、待機を命ぜられた鈴仙はさて敬愛すべき師匠に何が出来るかを考えた。
 考えながら掃除しているとバケツを引っ繰り返したりガラスと間違っててゐの顔を拭いたりしてしまうから、鈴仙はてゐに説教されるついでに相談を持ちかけた。
「――この耳が悪いんかー! なんだこのボタンみたいなの! 押すぞ、押すからな! 飛ぶのか、飛んじゃうのか、宇宙とか未来とか明日とかそのへんにか! このモラトリアム月兎め、って語呂悪いわ!」
「いや、なんか計り知れない理由で激情してるところ恐縮なんだけど……」
 休憩所に座っている鈴仙の耳に説教しているてゐが、本当は長く生きすぎてボケが始まっているんじゃないかと鈴仙は思う。てゐは相変わらずへにょっている鈴仙の耳を引っ張り、
「んあ、何よ鈴仙。私はこの耳に用があるの」
 ついでに両方ともぐいぐい引っ張る。ぴんと突っ張った耳は根元の辺りがみちみち音を立て、「付け耳か! 付け耳なんか!」とてゐが異常に興奮していた。目が怖い。あと耳が痛い。
「痛い痛い痛い! そこの兎、私と耳の相関関係を考えずにむやみやたらと引っ張らない! だから痛、痛いって!」
「実は鈴仙の本体はこの耳だった! という仮説」
「んなわけねぇー!」
 何故か残念がるてゐはさておき、解放された鈴仙は話を本題に戻す。仕事の再開はいつになるのか、どちらもあまり熱心ではないから言及はしない。
「師匠、遠出するんだって」
「言ってたねえ、そういえば」
「だから、私に何か出来ないかと思って……」
 なるほど分かった! とてゐは笑顔で中指を立てる。
「好きなひとを手離したくないのなら、もう確実にブチ殺すしかないね!」
「真面目に考えろぉー!」
 論外だった。
「あ、でもすぐに蘇るから意味ないかー」
 舌打ちする。
 とりあえずてゐが真剣に捉えてくれていないことは分かったので、鈴仙は力なく肩を落とした。へにょった耳もいつもより余計にへにょっているから全体的にへにょり風味の鈴仙・優曇華院・イナバがよほど不憫に思えたのか、てゐは同僚のよしみで提案するだけしてみた。
「んー、じゃあね」
「うんうん」
 ようやく実入りのある意見が聞けると思い、鈴仙はてゐの言葉を傾聴する。
「永琳が鈴仙のことで思い悩むことがないよう、いっそのこと鈴仙が消滅してみるとか」
「なにその待ち合わせの時間に間に合わないから時計を叩き潰しちゃったみたいな逆転の発想」
「歴史喰いは優しく食べてくれるからむしろ気持ちいいと思う。鴨南蛮とかで」
「鴨じゃねえし……」
「うどん?」
「そのネタはもういいよ……」
 てゐに耳を結ばれても何の報復も行えないほど衰弱した鈴仙は、もう本当に三日間くらい意識を失ってりゃ師匠のことを思い煩わなくていいかなあと半ば本気で考えていた。
 だが、てゐも冗談ばかり言っているわけではなく。
「まあ、鈴仙がワーハクタクに食べられるというのも非常に面白いのですが」
「言ったね? いま面白いって言ったね?」
「あー、間違った。食べられる、というのも非常に笑えるのですがププ」
「傷口が広がったよ」
「そんな鈴仙にてゐちゃんから朗報!」
 きゅぴーん、と謎めな効果音と共にウィンクしたり舌をちょろと出して人差し指を立てたりする因幡てゐ年齢不詳だがわりと年増。
 今更如何なる朗報がもたらされたとしてもマイナス分を補填できるほどの内容など到底期待できなかったが、縋る藁もないのでとりあえず耳を傾けようと思ったら蝶々結びされていて泣きたくなった。
「んじゃ、ちょっと耳を貸し……うっわ面倒くさいな鈴仙の耳! ほどけよ!」
「お前がやったんだろがー!」
 何故か激怒するてゐと紅い目をひん剥いて迎撃する鈴仙は、傍目から見れば仲良しというよりか只の喧嘩仲間に見えて仕方ないのだった。天敵やら犬猿の仲と言った表現も可能だが、後者の場合は兎なのか犬なのか猿なのか混乱するからめんどい、といったてゐの鶴の一声から表現されることが少ない。
 鈴仙の耳が解かれ、いつになくへにょり度が増した耳にてゐが息を吹きかけたり舐めたりして双方共に多産な衝動に至りかけながら、どうにかてゐの提案を聞き出すことに成功した鈴仙だった。が。
 当時の鈴仙の表情を、現場に居合わせた因幡てゐ(年齢不詳)はこう語る。
「てめぇらそんなに制服がええのか!」
 何やら得体の知れない激情に駆られていたことは、想像に難くない。

 

 

 朝。曙も過ぎ鶏が目覚めるひとつ手前。
 永遠亭の地下から湧き出る温泉が天然かミニ八卦炉の劣化コピーによるものかの議論は、数多くの兎や当主たる蓬莱山輝夜にとっては誠にどうでもいいことであるらしい。
 鈴仙などは疑り深い性格が災いして素直に温泉を楽しめないのだが、最近は細かいことを気にするだけ損かなあと思うようになっていた。てゐの言葉を借りる訳ではないが、誰も損をしない嘘、みんなが得をする嘘ならばある程度は許されるのではないか。
「でもなあ……」
 露天風呂は治安の問題もあり一時期閉鎖していたものの、輝夜が「契約を結んだから」という深く追求したくない類の文言によりめでたく解禁となった。鈴仙は今、石造りの兎の口からごぽごぽと吐き出される温泉を眺めながら、露天風呂の縁に腰掛けている。
 でも水着だけど。
 というオチは果たして全ての期待を裏切る暴挙なのかとたまに考えることもあるが、やはり温泉では裸になるべきであり、水着は湖や川で泳ぐときに着るべきなのである。
 というわけで鈴仙は全裸です。
「私は本当に正しいことをしているのだろうか……」
 鈴仙の傍らには、ピンセットとガラス容器、加えてカミソリやらクリームやらが置かれている。
 鈴仙は月の兎だが、へにょった耳と尻尾がある以外はほぼ完全な人間の形をしており、紫に近い髪の毛を背中に垂らし、外見相応の乳房は大きいと言えば大きいし小さいと言えば小さい。お尻にしてもそれは同様であるが、穴を隠すように生えている兎の白いまんまる尻尾がそんなことはどうでもいいじゃないかと言っているようにも見えるが多分それは幻覚。
 鈴仙は、制服を脱いでも凄かった。
 流石は月の兎。
「毛……か」
 鈴仙も性別上は女性であるから、それなりの年を重ねれば第二次性徴との兼ね合いもあってあそこの毛も生えてくる。無論、鈴仙のあそこの周りにもそれなりの密度でスミレ色のちんちろげが生え揃っている。蕾を覆い隠す程度ではなく、もじゃもじゃでもなく、そこはかとない色気を醸し出しているような生え具合である。
 それ故に長さも控えめなもので、指で摘まめはするものの引っ張って抜いたりハサミで切ったりするような蛮勇は行えない。だからこそのカミソリでありクリームである。
 何故、鈴仙が剃毛プレイに及ぼうとしているのかというと、それは敵か味方か因幡てゐの手引きだった。
『あそこの毛をお守りの中に入れると幸運を呼び込むんだって! 信じろ!』
 強制するところがいまいち信用に欠けるが、鈴仙もあそこの毛にまつわる伝説は耳にしていたので、これを期に試してみるのもいいかなと多少疲れていたためかそう思ってしまった。
 カミソリ等の準備をしたのはてゐ、彼女は今も浴場の入口に見張りとして立っている。岩風呂に注がれるお湯の音を聞き流しながら、鈴仙は頬を張って覚悟を決めた。
「というより、全部剃る意味がないような……」
 量産するわけじゃあるまいし、と鈴仙は岩風呂に浸していた足を抜き、ひさしのある壁まで移動した。鬱蒼と茂る竹林に囲まれていても、光のある中でそりそりするのは如何なものかと鈴仙は思う。ならば室内で勤しめよという話もあるが、証拠が残りそうで嫌だった。浴場も大差はなさそうだが、ここでならある程度のことは許される気がした。それが錯覚だろうと気の迷いだろうと、鈴仙は師匠のためならえんやこらさだった。
 石畳にぺたんと座り込み、溢れてくる温泉の熱に安堵の年を抱きながら、鈴仙はまずクリームに指を伸ばす。基本的には普通の使用法と変わらないだろうと毛の上からちょちょいと塗りたくる。
 と。鈴仙の顔色が変わる。
「ひゃあ!」
 すーすーする。
 前屈みになってあそこを押さえる鈴仙は、これ以上クリームを塗ることを断念しそうになった。が、もし大事なところが傷付いたら如何する。一生もんだぞ? と心の中のてゐが盛んに警鐘を鳴らしていた。
「……一生もんだぞ……」
「本人かよ! 入ってくんなよ!」
「こんな面白い画を見逃したら一生後悔するわ!」
 と、その手には天狗から拝借してきたのかご立派なカメラがある。
 叩き割った。
「あぁ! 精気すら吸い取る魔性のカメラが!」
「いらんわそんなもん!」
 ひしゃげたカメラを回収し、そこいらに埋めるてゐもやはり温泉に見合った裸であり、鈴仙よりも未熟な体躯はしかし、幼いながらも妖艶な魅力をに溢れている。
 毛はあんまりない。
「さて、困ったときに登場するのがみんなのアイドルてゐちゃんなのですが」
「去れ」
「剃ってあげようか?」
「鴨南蛮にしてやろうか」
「鴨じゃねえよ」
 鈴仙の怒れる瞳など気にも留めず、てゐは鈴仙の蕾に生え揃った陰毛にクリームを塗りたくる。あっと言う間も早業に、鈴仙も止める術を持たなかった。
「ひぃぁ!」
「きもちいいー?」
「ば、ばかに……ひゃ、ひぃぃん!」
 てゐの指が花弁を掠め、鈴仙の口から悲鳴にも似た喘ぎが漏れる。調子にのって襞を掻き分けようとしたら鈴仙の爪がてゐの額に食い込んできたのでやむなく開拓を断念した。
「ていうか、鈴仙って処女なの?」
「……」
「エンシェントデューパー!」
「うぁぅぅ! ひぁ、やめ、そこはやめてぇ! おぅ、お願いだからー!」
 エンシェントデューパーという名の開拓作業がしばらく続けられた後、鈴仙はぼそぼそと真実を口にした。てゐはほうほうと頷き、カミソリをその手に握り締める。
「それじゃあ、まだ男の味を知らない鈴仙のあそこの毛を剃りますねー」
「改めて言うなぁー!」
 温泉の熱気とは関係ないところで顔を真っ赤に染めている鈴仙だったが、刃物を花弁の近くに当てられていることもあり、あまり大袈裟な抵抗はできなかった。まじまじと股間を見詰められている恥ずかしさが、鈴仙の鼓動を余計に速めていく。
 開かれた股を覗き込んでいるてゐは、丁寧にカミソリの刃を下ろす。粘膜の部分を傷付けないように、クリームが塗られている部分だけをしょりしょりと剃っていく。
「ん……ふぁ、はぁぅ……」
「鈴仙のあそこ、きれいになってるよー」
「ぃ、いわないでよ……」
 鈴仙の陰毛は右半分の処理が終わり、つるつるになった生まれたままのあそこがご開帳となっている。不意に露になった自身の股間を垣間見、鈴仙はまた顔から火を出した。
「きもちよかった?」
「……そんなわけないもん」
 ふうん、とにやにや笑いながら、てゐは左側の陰毛を剃り始める。しゃりしゃり、とカキ氷を食べるような玉砂利の上を擦り歩くような情緒があると言えなくもない現実は剃毛プレイの際に発する音を耳にし、身体の中で最も敏感な部分に与えられる曖昧かつ危険な刺激に全身から発火しそうにな鈴仙。もどかしい。感じるには弱すぎるけれど、無視するには強すぎる。
「ふぁ、あぅぅ……」
「はいはい、もうすぐ終わりまちゅからねー」
「やぁ、らめぇ……」
 微妙な刺激の渦に揉まれながら自我を保っていた鈴仙も、てゐの巧みな剃毛テクニックにより腰砕けになっていた。身体の芯から震えが来るような性感帯の刺激は、それを味わったものでなければ実践することはできないのだ。
 因幡てゐ、伊達に年齢不詳ではない。
 しゃり、と最後のラインを攻め終えて、てゐは達成感に満ちた清々しい表情で汗を拭う。一方の鈴仙は改めてつるつるに仕上がったきれいなあそこを見下ろし、自分が成した事の大きさに戸惑ったり撫でてみてひゃんと言ったりしていた。
「鈴仙、これカミソリと毛ね」
 カミソリが置かれたケースを差し出し、自分はそそくさと温泉に飛び込む元気な白兎。大きく波打ったお湯が鈴仙の脚に浸り、火照りきった彼女の身体により深く浸透した。
 ほう、としばらく放心状態に陥っていた鈴仙も、やがて淡い喪失感を訴えるあそこを押さえながら、
「……き」
 きもちよくないもん……と、せいいっぱい口を尖らせた。

 

 

 かくて鈴仙・優曇華院・イナバの初剃毛プレイは見事に完遂され、てゐも鈴仙の名誉を考慮してか自身の名誉もまた傷付けられることを怖れてか、プレイに関して口外することもなかった。
 ただ。
「し、師匠!」
「あら、どうしたの」
 出立の準備に取り掛かっている八意永琳に、鈴仙は意を決してくだんのお守りを手渡す。かばんに洋服を詰めまくっていた手をとめ、永琳も快くそれを受け取る。
「安産祈願って書いてあるのが当てつけみたいで少しカチンと来るけど、そのあたりもウドンゲらしくて私は好きよ」
「私も褒められてるのか貶されてるのか分かりませんが、喜んで頂けてとても嬉しいです!」
 感極まって、というか剃毛のことを思い出して涙ぐみそうになる鈴仙に、お守りを胸の谷間にしまいながら永琳は言った。
「でも、あそこの毛をお守りに入れるのは、合格祈願の方だと思うわよ」
 にっこりと笑いながら、永琳はとどめの一撃を喰らわせた。
 後日、永琳が永遠亭から旅立った後に、鈴仙とてゐの血で血を洗う死闘が始まったのであるが、その血に破瓜の血が含まれていたかどうかについては定かではない。

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月二十三日
(永夜抄・八意永琳)



『八意に告ぐ』

 

 白熱灯の薄らぼんやりとした光に包まれ、銀の髪をたたえた女性二人が清潔なベッドの上で絡み合っている。雫が跳ねる淫猥な音も彼女らの行為を助長する一因に過ぎない。
 双方ともが権威のある者だけれど、夜はもっぱら淫らな繋がりに耽る。唇を貪り合いながら、お互いの愛を確かめる。言葉では足りず、女同士では子を宿すことも出来ず、ならば常に肌を重ね合わせるしかない。
 そう信じていた。
 女は口腔に滑り込んできた舌を吸い込み、撫で回すように唾を絡ませる。覆い被さった女の指は、下になった女の花弁を掻き分けている。ぐちゅぐちゅと湿った音がした。愛液でシーツが濡れる。繋がった唇の隙間から唾液が垂れ、女の頬を伝ってふっくらとした枕に染み込んでいく。
 責める言葉も受ける嬌声もなく、突き出される指を受け入れ絡み合う唾を捏ね繰り回している。時折、中の襞が見えるくらい掻き回された花弁と花弁を重ね合わせ、雄のように腰を振って女を犯したつもりになる。だが二人とも内側にすぼまった性器を持った生物だから、犯しているのか犯されているのか、言葉を発しない二人は明確な役割を持たない。
 だからこれは、愛し合っているだけだ。
 かすれた吐息がやみ、胸を潰し合うように抱き合った二人も身体を剥がす。隣に倒れ込み、手を繋ぐような淡い恋慕の情はない。柄ではないし、年でもない。
 うつ伏せに倒れた女が、仰向けに天井を眺めている女に言う。
「決まったから」
「そう」
 深くは聞かず、熱の残る息を吐き出す。視線も合わさず、女は続ける。
「嬉しくないの?」
「そんな気はしていたから。きっと、そんな運命じゃないか、て」
 天井に手を伸ばし、白熱電球の灯りから逃れようとする。その滑稽な仕草を見て、女は乾いた笑みを浮かべた。
「そう……。でも、私は嬉しくないわ」
 どうして、とは言わなかった。
 日々、共に愛を確かめ合っていればこそ、その仲を割り入ってくる者の存在は忌むべきものだ。
 だが、彼女の望みは叶えてやりたかった。
「……寝るわ」
「ええ。お休みなさい」
 お休み、と彼女の頬に接吻する。唇にはできなかった。興奮して、今度は全てを奪ってしまうかもしれない。それは避けたかった。
 女が目を背けるように眠りに就いて、ずっと白い天井を見上げていた銀髪の女性も、このまま眠ってしまおうと瞳を閉じた。
 彼女らの関係は内部に露見している。隠す意味もない。隠すために労力を裂くのも煩わしかった。
 電球の眩さに目が眩み、鬱陶しいから疲れた身体を起き上がらせて電源を切る。厚く閉めたカーテンの隙間から、星の光が零れ落ちている。彼女は汚れたベッドの上から青い星を見つめ、泣くべきか、笑うべきかを逡巡した。

 


 

「――墓参り?」
 ええ、と畏まる永琳の表情が真剣そのものだったから、輝夜も出し抜けに否定の言葉を吐き付けることは出来なかった。永琳もまた頭ごなしに拒否されると考えていたらしく、口ごもる輝夜が珍しいのか微笑ましいのか頬を緩めていた。
「それは、幻想郷の外かしら」
 ええ、と同じように首肯する。縁側に腰掛け、足を投げ出している輝夜の傍らに永琳は立っている。
 満月だった。
「いつ帰ってくるの?」
「長くはなりません。場所は特定できましたから」
 あらそう、と呟く。月明かりに輝く黒と銀の髪が夜風になびき、清楚であるはずの佇まいに一握の淫猥さが染み渡る。
「私の分も、お祈りしておいて頂戴な」
 かしこまりました、とお辞儀をする。
 足音も立てずに廊下を辞す永琳の背中に、悲壮な覚悟も陰鬱な影も見当たらない。ぴんと伸びた背筋が軍人のそれを思わせ、唯一その姿勢だけが彼女の運命を匂わせているようにも思えた。
 昔の話だ。
 月は遠く、手を伸ばしても届かない。ただ、眩しすぎる月光だけは遮ることに成功した。

 


 

 蓬莱山輝夜の刑罰執行期間が終了する。
 地上に落とされ、その刑を全うした輝夜を連れ戻す降下部隊が編成されることになり、八意永琳は以前から親しかった士官の女性に近付いた。
 美しく透き通った銀糸の髪がとてもよく似ていて、二人が並ぶと双子の姉妹なのではないかと囃された。常にべったりしているわけではなく、付かず離れず、大人の付き合いを心得た理想的な友人だった。
 だが、永琳が自分を部隊専属の医師として編入させてくれと懇願してから、二人の関係は大きく転変した。
 八意永琳。
 蓬莱山輝夜に『蓬莱の薬』を所望することが出来た人物。みずからもくだんの薬品を投与している可能性あり。要警戒。士官学校で叩き込まれた人物の名を、彼女は忘れていなかった。
 それでも、名を明かされても永琳から離れられなかったのは、自身の位より友情に重きを置いたからだ。初めて声を掛けられた日のことを覚えている。確か、派遣先の土地で迷子になったとき、親切に支部への道を教えてくれたのが永琳だった。
 それもまた、昔の話だ。
 窓からは星が見える。丸く、青い星もそのひとつに過ぎない。それらの群れを傍観しながら、白いカップを傾けた。薄く口紅が付着する。
「ごきげんよう」
 振り返れば、清潔な白衣に身を包んだ八意永琳の姿がある。ここが女官の部屋ということを考えれば、彼女がここに訪れた理由もおのずと理解できた。
 扉は閉めても、鍵は掛けない。そのようなプレイなのか、と腐った冗句を吐く気になれないのは、おそらく二人とも同じだっただろう。女官は後ろに流した髪を撫で、薬師は胸に下ろした髪を梳く。
「もうすぐね」
「そうね」
 永琳も同調する。共に見下ろすのは姫がいる大地だが、求めているものは二人ともに異なっている。
 女官は、扉の前に佇んでいる永琳に手を差し伸べる。珈琲は冷めてしまった。角砂糖の量も間違えた。苦いばかりの水の残り香を、温かくて甘ったるい唇で溶かしてほしい。そう思って手を伸ばしても、永琳がそれに応えることはなかった。白く澄んだ指先が空を切り、目を強く引き絞った後に握り拳のまま呼び戻された。
 しぼんだ湯気が、冷たい空気の中を泳ぎ回る。
「あれが、最後?」
 突き放すように言う。永琳は頷いた。
 そう、と呟いておいて、やはり永琳の胸を借りて泣きたくなった。けれども、それは見苦しいと思った。
 自身が蓬莱山輝夜の代替品に過ぎないと、心の底で思っていた。こんな日が来ることも覚悟していた。その上で、最後は自分を選んでくれるなんて子どもじみた希望を抱いていた。
「……とんだ道化ね、私は」
「いえ、それは違う」
 凛とした口調で、相変わらず見るものを射抜くような芯の鋭い眼差しをもって、永琳は女官を見つめる。
 女官は、この期に及んで彼女の口から救いの言葉が放たれることを期待している己を激しく責めた。それでもなお彼女から目を背けることができないのは、やはり、女官が道化であり傀儡である証明なのかもしれなかった。
 永琳は言う。
「あなたは、私にとっての希望だった」

 

 

 あまりに長い時が流れすぎたせいで、かつて人家があったとは思えぬほど雑草が繁茂した山麓に永琳は立っている。辛うじて切り株ほどの礎が残されている程度の広場は、地に落とされた輝夜が幼少から成人するまでの時を重ねていた場所であり、永琳が選択を迫られた場所でもある。
 彼女は月を見上げ、墓石も燈籠も地蔵も卒塔婆もない草原に呆然と立ち尽くしている。風が涼しい。雑草が揺れて擦れる音も心地よい。目を瞑れば、あの選択の日が思い出されるようで心が締め付けられた。それでも涙が溢れてこないのは、やはりあまりに長い時が流れてしまったせいかもしれなかった。
 永琳は、口の端を歪めて笑ってみた。
「何が汚れているのだか……どれもまあ、似たようなものね」
 空に差し出した手のひらは白く、血の色も肉の色も見られない。
 墓を作ろう。
 遠い月から見えるほど、立派な墓を建てるのだ。

 

 

 月が紅く染まっていたから、これは人生最高の日か人生最悪の日かと心を躍らせたり虐めたりしていた。
 八意永琳が蓬莱山輝夜と話し込んでいるのを止める者はいなかったし、何を話しているのか聞き耳を立てる者もいなかった。それは嫌悪からか禁忌からかは分からないが、女官は純粋な嫉妬心から彼女らの言葉を耳にすることを拒んだ。
 全てはそれが仇となり、かつて月を治めんとしていた蓬莱山輝夜の回収は失敗に終わる。
 八意永琳は蓬莱山輝夜の引渡しを拒否、同胞たる月の使者を殺害し、月からの完全な決別を言い渡した。輝夜も永琳の言葉に同調したため、降下部隊は八意永琳の強制的な排除を断行した。
 だが、結果から見れば、部隊が編成された時点でこの結末は決定されていた。月は極秘裏に降下部隊を編成すべきだった。八意永琳を地上に降ろすべきではなかったし、彼女と縁のある女性を隊に迎えるべきではなかった。
 過ちだらけだ。
 回避できた未来なのに、回避することはできなかった。
「……ばか、ね……」
 女官は、腹から血を垂れ流しながら考える。痛みはないから、考え事を邪魔される心配もなかった。手加減してくれたのかもしれない。安堵する。
 永琳に見下ろされながら、跪き、崩れ落ちた。背中に彼女の手のひらが当てられている。温かい。でもそれは出血のせいかもしれない。感覚が混濁している。
「わたし、は……」
 明滅する視界に彼女の笑みが映る。よかった、笑っていて。泣いていたら殺してやろうと思っていた。ようやく本懐が遂げられたのだから、この瞬間こそは笑っていてほしい。
 やはり女官は自身が代替品であり傀儡であることを最期まで疑わなかった。灰の髪が頬にかかる。永琳がその髪を背中に流し、彼女自身が空けた背中の穴を塞ぐ。
 分かっていたのだ。殺されることは。
 永琳の性格ならば事を起こすなら万全を期す。降下部隊は帰らない。永琳も輝夜も戻らない。無名の女官も帰れない。慣れない土地に置き去りにされ、腐り果てては土くれに還る。
「……あい、して……」
 できれば最後にキスしてほしかったけれど、彼女の手のひらはもう離れてしまった。目も見えない。遠ざかる足音だけが聞こえてくる。それも、今は遠い。
 昔話を思い出す。
 どこかの寂れた公園で、好きな人がいるとかいないとか、他愛もない話をしていた。何がおかしいのか女官は笑っていて、何が悲しいのか、永琳は遠くを見つめていた。
 断絶する意識の狭間に女官が思ったのは、自分は最期まで利用されていたのだけど、彼女を愛して、彼女に愛されていたことは、唯一確かな答えだろうということのみだった。

 


 

 出来上がった墓石は、永琳の腰ほどの大きさしかなかった。それでも表面を丁寧に磨き、持参したミノでそれぞれの名前を全て彫り抜いた。一週間ほどかかったが、月の天才も納得の出来だった。
「汚れちゃったわ。お互いさま、なのかもしれないけど」
 笑う。
 空はひどく青く澄み渡っていて、真上から降り注ぐ太陽がいやに清々しい。笑われているような錯覚を抱くけれど、汗まみれの身体はそう虚仮にされるのが相応しい。
 彼女も大いに笑い、蝉の嬌声がそれに呼応した。

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月二十四日
(永夜抄・蓬莱山輝夜)



『真説・輝夜姫』

 

〜 あらすじ 〜

 

 『蓬莱の薬』に手を出した罪により地上に落とされた月のお姫様(都合により幼女)輝夜は、竹林にてとある翁と出会う。
 みずからを幼女好きと誇るアクティヴな変態ジジイのテンションに巻き込まれそうになりながら、輝夜はこの地上で逞しく生きていくことを誓う。
 ロリコンジジイと淫乱熟女のラヴゲームに一喜一憂、言い寄る男は数知れず、輝夜は今や村の現人神! というかなんでこんなに幼女偏愛狂が多いのこの村。
 流石は罪人が突き落とされるような場所だけあってパンチが効いてるぜファック! と影で口走りながら精神はわりかし成熟している輝夜。
 罪と罰に満ち溢れた業の深いこの地から抜け出せる日は、まだまだ先のことになりそうです――。

 

参考文献:『だからその手を離して』

 

 

〜 ここまで 〜

 

 

 輝夜ちゃんは今日も元気に散歩します。
 すれ違う人たちにおはようおはようと上から物を言い、それでも男は特にそう言われることを悦んでいるようなのでどうしようもありません。女性は主に微笑ましい表情を浮かべていましたが、中には本気の殺意を抱えている輩もいました。きっと、輝夜に傾倒した男の恋人か嫁さんに違いありません。勝ち誇ったように笑ってみました。
 輝夜の自由時間は非常に長く、知識もあり機知にも富んでいたので勉強する必要もなかったものですから、本当に散歩するくらいしかすることがありませんでした。
「あーあーひまねーひまー」
 ぶつぶつ言いながら青々とした畦道を歩いていると、わりと健全な精神を持った爺さん婆さんに挨拶されます。輝夜も偉そうに挨拶し、たまにお握りやら梅干やらを頂きます。
 わーい、と素直に喜ぶあたり、子どもであることに慣れて来た様子です。
 朝食も済ませ、輝夜は扶養主にあたるジジイを探すために森の中に入っていきました。翁と婆は相互不干渉条約を結んでいるフシがあるため、どちらかが帰ってこなくても何も言いやしません。輝夜はおなかをくーくー鳴らします。けれども待っているだけの女じゃない輝夜は、家を漁ったり隣近所に寄付してもらったりして飢えをしのぎます。
 たまに添い寝やらほっぺにキスやらを要求されますが、そのうち殺します。
「……あー、ッたくあのクソジジイどこほっつき歩いてんだか……」
 ぶちぶち不平不満を垂れながら、それでもちまっこい身体を動かし、背中全体に掛かった黒髪をなびかせて歩く姿は実に優雅でありました。何故か木の枝を持っているところも好印象です。飴を舐めていれば最上級ですが、そのような嗜好品は田舎の村まで伝わって来てはありませんので片手落ちです。
 急勾配の斜面を、土に手を掛け幹に足を掛け軽業師のように登って行きます。そのわりかし短い着物の裾の中身を覗こうと少女を追跡する数人の男衆もわらわらと続きます。働けよ。
 探せど探せど、翁の姿は見付かりません。熊か蛇に喰われたかな、じゃあいいや、と諦めそうになった輝夜でしたが、ちょうど休めるところもない山奥だったので、山の中腹にあるはずの小屋に行って休憩を取ることにしました。
 傾斜も緩やかになってきたため、根っこや葉っぱで躓きやすい地形ながらもばばばばっと快足を飛ばして山中を駆け抜けます。見えたぞ! と閧を上げる男どもも彼女を追跡しますが、どいつもこいつも前屈みであることに関して我々は語る言葉を持ちません。だから持ってないんだって。聞くなよ。
 土地勘のある輝夜は即座に山小屋を見つけ出し、鍵もない扉を蹴り開けてごろごろーと勢いのままに飛び込みます。特に意味はありません。暇だからいろんなことをしてみたいのです。そういう年頃なのです。
「……うわ、擦り切れた……」
 案の定、薄手の着物はあちこちがほつれて破れてしまいました。これだから庶民はだめね、と誰もいないのをいいことに上着をはだけますが、実はさっきから輝夜の様子を窺っている三人の男がいたのです。壁をくりぬいただけの小窓から、木蓋を開けて輝夜の身体をまじまじと見つめています。
 つと、輝夜が窓を見据えます。
「……あんたらぁ……」
 ばれてました。
 凄みを利かせてもただ可愛いだけというのが、十にも満たない女の子の限界です。そうとは知らずにむーっと上目遣いで覗き魔を見詰めているうちに、相手方が辛抱たまらんと言った調子で掘っ立て小屋に突入してきました。
「輝夜ちゃん! 輝夜ちゃん!」
「輝夜! 輝夜!」
「ッ! ッ!」
 最後の方は興奮しすぎて何を言っているのか全く分かりませんが、成人男子三名に囲まれればそれなりの危機です。無茶苦茶に犯される可能性も考慮しなければならない事態です。
 しかし、輝夜には考えがありました。
 こいつらにお預けを喰らわすことは不可能だから、最小限の被害で済ますのです。なぁに、ちょっとくらい汚れても女の化粧てなもんよ、と中年女性も言っていました。輝夜も流石にあそこの領域にまで達する気はないので、自衛手段としての技術を見に付けるに留めたわけです。
「ねえ」
 はい! と三人揃って畏まる様子から見ると、別に輝夜が思っているような処理をしなくても、「帰れ」と命令したり、それなりの強さで踏み付けたり汚らしい言葉で罵ったりすれば事が収まりそうな気配でしたが、逆上して襲い掛かってこないとも限りません。輝夜は磐石の態勢で挑みます。
「えっと……その、ね? 私はまだちっちゃいから、分かるでしょ?」
 男らが絶望に肩を落とします。まずいこいつら死ぬ、と予想だにしなかった結末に怯え、輝夜は救いになるのかどうなのかよくわからない言葉を吐き出します。
「だから……あんたら、今回だけだからね」
 言って、正面に立った男の作務衣を下ろします。無論、下半身の方です。緩めていたのか何なのか、勢いよくずるんと 下ろされた衣の中から、それはそれは立派な逸物が跳ね上がります。幼女相手によほど興奮していたと見えて、硬くたぎった股間はぴくぴくと小刻みに脈動しています。
 ややその匂いに気圧されながらも、輝夜は徐に男のモノに指を掛けます。あぅ、という喘ぎ声がやたら高いのはちょっと可愛いような気もしました。
 他の二人も、その場の勢いで即座に下を脱ぎます。準備だけはいいらしく、三人が三人ともはちきれんばかりに勃起しています。
 輝夜は、深々と溜息を吐きました。
「ちっちゃい子が好きだなんて、度し難い変態よね。全く……でも、いいわ。その恥ずかしい性癖に免じて、私が口でしてあげる」
 小さなおくちをめいっぱい開けて、赤桃色をした男のおちんぽをゆっくりと飲み込んでいきます。指先で幹を擦りながら肉の棒を刺激する仕草は、年端もいかない女の子のそれとは思えぬくらい熟練されたものでした。
「ふぐぐぅ、ぬぎぅ……」
 輝夜は、空いた手のひらを別の男の股間に差し伸べます。そして肉棒を擦っていた手も離し、改めて最後に残された男のペニスを迎え入れます。
「ぬちゅる、ぬぶぅ……」
 幹の半分あたりまで含んでいた唇を、今度は亀頭のあたりまで戻します。絶え間なく脈動するおちんぽの熱を感じながら、左右に突き出されている竿を擦り上げます。しゅっしゅっと乾いた音を奏でていた手のひらも、ものの十秒経たないうちにぬちゅぬちゅと卑猥な音を立て始めました。興奮しすぎです。
 頭を前後に動かしながら、両手も休むことなく動かします。限界まで勃起したものを根本まで頬張るのは難しかったものですから、基本的に先っぽの柔らかいところを甘噛みしたり舌で上下に素早く舐めたりしました。
「れるれるれる……んぅ、じゅるぅぅ……ん、んっ」
 きもちいい、と男らの口からこぼれる喘ぎ声に耳を傾けながら、大量の先走り液を吐き出してびくびくと痙攣するおちんぽをしごきます。女の子のちっちゃい手ですから、力も弱く竿の胴回りを全て補いきれないのですが、彼らの迸りのせいでべちょべちょに濡れてしまった女の子の白くてやわらかい手に包まれている男たちは、それはそれは気持ちよさそうな表情を浮かべておりました。恍惚の笑みです。
「ずちゅっ、ずず……ぷちゃ、ちゅるるぅ……」
 そんな恍惚に浸る暇もなく、ただただ懸命な奉仕を続けていた輝夜は、突如として口の中の肉棒が膨らんでいくのを感じました。
 くぅん? と不思議そうに男の顔を見上げます。男は、見目麗しい女の子の唇が化け物のような赤黒いおちんぽをしゃぶっている様を見下ろし、先程のように辛抱たまらんといった風情で輝夜の頭を抱え込みました。そして少女の頭を自身の腰にぐいっと引き寄せて、無理やりに己の猛りを飲み込ませます。
「ふぐぅぅ!」
「いく、いくよ……!」
 自分のペースを崩され、呼吸するのも難しくなった輝夜はどうにか男のおちんぽを口から離そうとします。が、亀頭のくびれにちょうどよく歯があたり、それがまた男の逸物を硬く漲らせます。
「く、うぅぅ……!」
「むぐぅっ! ぐむぅ、んぐんぅぅ……!」
 びゅるる! と、輝夜のおくちにたくさんの精液が注ぎ込まれ、むせかえるような臭さに輝夜は小さく開いた唇の隙間からとぽとぽとお汁をこぼしました。が、長らく溜め込んでいたのか射精の勢いは留まるところを知らず、気持ちよさそうに喘ぐ男の声と一緒にどぷどぷと吐き出されます。
 右手と左手でしごいていた他のおちんぽを、少しばかり強く握ってしまい、痛みとも喘ぎとも言えない声が漏れるのもご愛敬です。
「んく、かぁ……くへぅ、ぷぁ……」
 男に頭を捕まれたまま、輝夜はおくちの中に注ぎ込まれた白濁液を一部は飲み込んで大半は外に吐き出しました。苦いです。べとべとしています。まだ口の中に苦くて濃くて臭いお汁が残っているのですが、それを舌で舐め取るとまた頭が痺れるのでしばらくそのままにしておきます。
 それに。
 ちゅぽん、と男が腰を引き、ようやくでかいおちんぽが輝夜のちっちゃいおくちから離れました。
「ぷぁ……いっぱい、いっぱい射精したね……ねぇ、きもち、よかったでしょ?」
 白いものが唇を伝い、顎に溜まって床にぽとりと落ち、その淫猥な光景に魅せられてか、はたまたとっくに我慢の限界に達していたのか、彼女の手コキを受けていた男らが一斉に絶頂を迎えてしまいました。
「うぅ、出るっ!」
「お、おれも!」
「ぅえ!? きゃうぅぅ!」
 両側面から急に射精されたせいで、対処もできずにそのまま精液を浴び続ける輝夜ちゃん。びゅるッ、どぷぷ、と間断なく吐き出されるちんぽ汁はとても濃く、髪の毛に、顔に、肩におなかに次々と浴びせかけられました。特に顔は大変な有様でした。美しい黒髪はたくさんの白濁液に染まり、その表面を滑っていくお汁が輝夜のおでこを伝い、鼻筋を通り、おくちの中にも落ちてきます。
 輝夜の手の中にも、おちんぽから下ってきた精液が溜まり、温かくてぬるぬるしたお汁がペニスと手のひらの間でぐちょぐちょと湿った音を立てています。不意に手を離し、顔の前にかざしてうぅーと顔をしかめます。
「うぷぁ、ぐちょぐちょー……もう、こんなに濃いの、たくさん射精しすぎよ。あなたたち……」
 ちゅるぅ、と指先に付いた精液を丹念に舐め取る輝夜を見、もう何度目が分からないくらい辛抱たまらなくなった男たちが、復活したおちんぽを輝夜の顔に押し付けます。おれだ! 今度はおれだ! とどいつもこいつも譲りません。鼻先に突き付けられたおちんぽの先からはまだ精液がこぼれていて、輝夜は間近でその匂いを思い切り吸い込んでしまいました。頬に食い込むおちんぽの硬さとも相まって、どこか不謹慎な恍惚に至ってしまいそうになります。
「もう、みんなおっきいんだから……」
 呟き、誰が誰だか分からない男のおちんぽが、再び輝夜のおくちに捻じ込まれようとしたまさにその瞬間であります。
 蹴破られた扉を更に蹴り飛ばすという一見無意味とも取れる暴虐も、相手の目を留めるという点においては効果を発揮したようです。幼女におくちにぶっといちんぽを挿し込もうとしていた男も、突如として鳴り響いた轟音と唐突な登場人物に目を奪われてしまいました。
 その白髪の男は肩に斧のようなものを担いでおり、斜面を転げ落ちたのかあちこち擦過傷だらけでした。それでも輝夜と男たちを睨み付ける瞳はぎんぎらぎんに熱く煮えたぎっており、今にも振り下ろさんとその手は小刻みに震えています。
 言わずもがな、ロリコン変態ジジイですね。
「残念だったな」
 ジジイはほくそ笑みました。
「次はこの俺だぁぁッ!!」
 斧を振り回し、手始めに男どもを血祭りに上げようと我武者羅に襲い掛かります。男たちも見迷ったジジイを相手にはできぬとてんやわんやに逃げ惑いますが、そこは機敏な田舎の爺さんなので即座に男たちを角に追い詰めます。
 ひぃぃ、と下半身まるだしで怯える男らに、爺さんは斧を担ぎながら憤怒の表情を崩さずに喋ります。やっぱり、血は繋がっておらずとも、可愛い娘さんにねちょいことされたのがよほど腹に据えかねたのでしょうか。
「お前ら、俺が初めに味わうつもりだったものをぉ……」
 若干方向性は違いますが、とりあえず怒ってはいるようです。ぶぉん、と勢いよく斧を振り上げ、竹を叩き切る要領で男たちを脳天唐竹割せんと目を輝かせます。
「死をもって償えぃ! 喰らえ必殺――!」
「目を覚まさんかこのあほんだらぁぁ――!」
 輝夜が宙を舞い、ジジイの側頭部に物の見事なドロップキックをぶちかまします。ぐべぁぁと理想的な悪役ぽい悲鳴を上げて壁に叩きつけられるジジイを睥睨し、まだべとべとする髪の毛を指先で梳いていきます。
「うぅぅ……これ、きれいになるのかしら……」
 都市伝説ですねきっと。
 何はともあれ、昨夜から行方不明だったジジイも見付かったことですし、男衆も気持ちよくなったということで素直に帰宅し、一同は万事めでたく一日を終えることに成功しました。
 輝夜も、男の臭いお汁を振りかけられたまま村の中をうろちょろしていたわけではなく、小屋の隣にあった井戸でちゃんと身体を清めました。そのさい、背後からロリコンジジイの襲撃を受けたり井戸に沈めたりしましたが、おおむね何の問題もなく家路につきました。
 昨日と同じく、爺さんは家に帰ってきませんでしたが、今日は場所が分かっているので特に心配はしません。明日になったら勝手に帰ってくるでしょう。
 そのときのために、猟銃に弾でも詰めておこうかしらと蔵を漁ってみる、今日はちょっと大人ぶってみた輝夜ちゃんでありました。
 めでたしめでたし。

 

 

 どぉん。

 

 

 

著・上白沢慧音
編・藤原妹紅
協力・蓬莱山輝夜
販促・射命丸文
 
  美鈴書房
二版・某年四月一日

 

 


上へ

表に戻る




 

一日エロ東方

八月二十七日
(永夜抄・藤原妹紅)



『きみのむねにだかれたい』

 

 藤原妹紅が上白沢慧音を見てたびたび思うのは、彼女の胸は何故あれほどまでに大きいのだろうという単純な疑問だった。食の違いが骨格の差か、いずれにしても規格外だ。あまり胸ばかり注視すると「そ、そんなに見るなよ……」と普段の凛々しさからは到底及びもつかない弱気な態度で胸部を隠してしまうのだが、その仕草こそ男どもを興奮させる一因だと彼女は全く気付いていない。この調子では、豊かな上白沢を守る会といったよく分からない団体が出来上がるのも無理はない。
 ともあれ、妹紅も女性であるからそれなりに乳房は膨らんでいるものの、流石に慧音や永琳、幽々子や藍に紫あるいは小町といったグランドスラム連中とは比較にならない。歩くたびに揺れる? そんな馬鹿な! サラシは一体何をやっているのだ!
 そんな感じである。
「ねえ」
「何だ。ようやく歴史を学ぶ気になったか」
「どうしたらそんなにおっぱいでかくなんの?」
 慧音は煎茶を噴いた。
 『明鏡止水』と書かれた掛け軸が瞬く間に水気を帯び、慧音が荒々しく咳を繰り返す頃には何が書いてあったのか読み取れなくなっていた。
「ねーねー」
「黙れ! 口を噤め!」
 裾を引く妹紅に構っている暇はないのか、顔を背けながら咽る慧音。難儀な性格をしているものである。
 気管に入ったらしい水滴をあらかた排除し、落ち着きを取り戻した慧音は胡坐を掻いて座っている妹紅を睨み付ける。
「お前な……」
「いいじゃん減るもんじゃなし」
 もい、と慧音の胸を鷲掴みにする妹紅の腕はあまりにも速く、慧音も己のおっぱいを保護することは出来ず三回ほどはただ揉まれるがままに従っていた。
 だが、硬く締められたサラシの上からでは本来の弾力を堪能することが出来ないと悟った妹紅は、ただ本能のままに慧音の服を脱がしにかかった。
「ちょ、おまー!」
「別にいいじゃん同性なんだから気にすんなー!」
「するわー!」
 リボンを緩め、上着を押し上げようとしたところで慧音の肘鉄が妹紅の鎖骨に食い込む。うぐぁ、と呻きながら畳に崩れ落ちる妹紅を見下ろし、鼻を鳴らしながら上着を手に取ると、死にかけの妹紅の手がその上着を硬く握り締めていた。
「こいつ……本気か!」
 慧音は戦慄した。
 そんなに私のおっぱいが拝みたいのか、そして触りたいのか揉みたいのかと慧音は恐れ戦いた。妹紅がうつ伏せたままおもむろに顔を上げ、這うようにして慧音の身体に擦り寄ってくる。
「慧音は……なんでそんなに見られるの嫌なの?」
「いや、それは……」
「おっぱいでかいの気にしてるの?」
「そういうわけじゃないが……」
 口ごもる慧音の態度を見、好機と判断した妹紅はすかさず己のサスペンダーに手を掛ける。なぁ!? 慧音の顔色が変わった。おそらく、百合っぽい展開になると判断したのかもしれない。
 だが、妹紅にそんな気はさらさらなかった。
 ただ、慧音のおっぱいを揉みたいだけなのだ。
「じゃあ、こうしよ」
「……ちょっと、お前さっきから自分が何してるのか――あ」
 慧音の制止も聞かず、妹紅はサスペンダーを外してシャツもぺろんとめくり上げる。そして白い肌に巻かれたサラシを何の躊躇いもなくするすると解き、シャツの上に落として自身の乳房をあからさまに見せつけた。
「はい、これでおあいこ」
「お相子って、お前なあ……」
 半裸になった妹紅を前に、慧音は深々と溜息を吐く。額に手のひらを当て、どうしてこんなことになったのだろうと考えても妹紅がおっぱいおっぱい言い出したのが原因としか思えなかった。
 鬱。
 けれども眼前におっぱいをぷるぷるさせている妹紅がいるのは確かな訳であり、こうも堂々と胸をさらしていると慧音も脱いだ方がいいんじゃないかと思えてくるから不思議である。
「ほら、慧音も」
「……いいや、私は騙されない」
 いかんいかんと首を振るたびに慧音の胸もまたサラシに負けじとぷるぷる揺れるのだが、当の慧音は慣れているのか胸の振動にも心を乱す様子はない。
「……ち。流石は慧音、出産経験があるだけのことはあるね」
「ないよ! 誰が言ったんだよそんなこと!」
「だったらなんでそんなにおっぱい」
「知るか!」
 胸を抑えながら喚き散らす慧音に、妹紅は「えー」と苦言を呈した。腰に手を当て、堂々と胸を張っているものだからそれなりに妹紅の胸は強調され、外見年齢が幼い幻想郷の方々と比べればなかなか大きい部類に属するおっぱいが慧音の視界に飛び込んでくる。
 慧音は怯んだ。
 大きさこそ、慧音が属するグランドスラムグラマラスには引けを取るが、その形――半球というには少し楕円に近く、それでいて見苦しく垂れているのでもない――、その張り、色、乳頭の上向き加減、そのどれもが特一級に値する高品質なおっぱいであった。乳幼児でなくても触りたくなり、吸いたくもない芸術品と言えよう。
 自信を無くしかけている慧音のおっぱいも一級に属しているのだが、慧音はその大きさ故にやや下部に垂れてしまっている。乳首の向きも正面に近く、相対する相手を圧倒すること甚だしい。また、抱擁する場合には大きすぎるおっぱいは呼吸の妨げにもなりかねない。
 天は二物を与えず、とはよく言ったものである。量を取るか実を取るか、おっぱいに立ち向かうものはその選択を迫られる。
 妹紅は、ちぇっと舌を打ち、自身の胸を下から持ち上げる。ゆん、と聞こえもしない擬音が鳴り、寄せられた妹紅おっぱいの谷間に銀の髪がしなだれかかる。
「じゃあ、こうしよ」
「先刻も聞いたな、その台詞は……」
「慧音が私のおっぱいを揉めば、慧音のおっぱいは私に揉まれざるを得ない」
 なんだその論理は、と言い切る前に、慧音は妹紅に手首を掴まれていた。そして妹紅のおっぱいに誘われている己が身に気付き、激しく狼狽しながらも抵抗を試みる。
「あぁぅぁ! だ、だから駄目だって! こっ、こういうのは同性だからとかそういう問題じゃなく――!」
「そい、っと」
 ぷいにゅ、という分かりやすい擬音が鳴ることはなかったものの、揉めばやわらかく、適度な反発が手のひらに帰ってくるおっぱいだった。
 妹紅のおっぱい。
 妹紅のおっぱい。
 妹紅のおっぱい。
 と、三度脳内を駆け巡った単語が、慧音の顔面を真っ赤に染め上げる。なまじ既知の間柄であるから、同性と言えどもこのような性的な接触を行うことは近親相姦に近い禁忌のように感じられてしまうのだ。
 火照り上がる慧音を見、妹紅は触られていることも厭わずにくすくすと笑う。
「慧音、なんでそんなに照れてるの?」
「なぁっ……! な、なんでもない……」
 吐き出そうとした怒声が逃れようもない負け惜しみに感じられて、慧音は不甲斐ない己を呪いながら沈黙する。妹紅の笑い声が耳に優しく、それが救いと言えば救いだった。
 手のひらに感じる胸の鼓動は、妹紅の心臓が奏でている脈拍と同じものだ。慧音は思うところがあって、もう一方の手のひらも妹紅の乳房に当てる。揉みはしない。乳首も抓らない。
「んぅ……」
 それでも親指が彼女のきれいな乳首を押してしまい、いやらしい嬌声が妹紅の唇からまろび出る。
「ぅあ、申し訳ない……」
「んや、謝らなくても……いいけどさ。別に」
 妹紅の頬も朱に染まる。そういう空気にはならないように声を押し殺していたはずが、不意に漏れてしまった喘ぎ声に妹紅自身が驚いてしまった。不覚だった。
 慧音も、おっぱいに手を当てたはいいがこれからどうしていいものか攻めあぐねていた。まさか感じるまで揉み倒す訳にも行くまいし、かと言ってこのまま退けば己が揉み倒される立場になることは重々承知のことであるし、全くもってどんづまりの袋小路なのであった。
 妹紅のおっぱいは温かく、触れているだけでとくんとくんと命の鼓動が身体に染み渡ってくる。
「……も、妹紅」
「……な、なに」
 控えめな応答が交差し、慧音は名残惜しげに妹紅の胸から手のひらを外す。繋がりが失せ、妹紅の表情からもかすかな失望が窺えた。妹紅自身も捉えることができない感情は、推測するなら、ただ肌が触れ合っていることの喜びなのだろう。妹紅はそう思った。
 同時に。
「妹紅」
「うん?」
 慧音は、意を決したように肌着を脱ぐ。加えて、ぎゅうぎゅうに巻かれたサラシをも剥ぎ取っていく慧音の決意が、自決か新婚初夜のそれと酷似しているような気がした。
 はらり、と慧音の傍らに長いサラシが落ち、ついに上白沢慧音のおっぱいが露になった。ホルスタインかよ! と突っ込みが入らないのが不自然に思えるほどだった。それくらいに大きく、母性と淫性が物の見事に共存している稀有な器官であった。
 生唾を飲み込む妹紅に、慧音ははにかみながら言う。
「約束だ。私の……その、お、お……ぱい、を……もんで、ほしい」
 みずから胸を寄せる慧音のいじましさが、最後に妹紅の背中を押した。
 初めに見せた俊敏な掌握に匹敵する速度で、妹紅は慧音のおっぱいに肉薄した。呼吸するだけで上下に揺れる規格外のおっぱいを鷲掴みにし、妹紅は上に下に右に左に斜めに中前後ろ、円運動なども加えながら巧みに慧音のおっぱいを捏ね繰り回す。
「うわ……慧音のおっぱい、とってもやわらかい……ふわふわしてる……」
「く、ぅぅ……そ、そんな、熱心に揉まなくても……ふぁぁ……」
 浮き上がるような快感に呑まれまいと苦心する慧音を嘲笑うように、妹紅はより激しく慧音の胸を攻める。熱く、とくんとくんと手の中に響いて来る心臓の鼓動は、慧音が興奮している証拠だった。
「慧音……きもち、いいんだ?」
「……う、うるさい……」
 肯定も否定もせず、好き勝手に嬲られる自身のおっぱいを見下ろすしかない慧音だが、次第に茹だってくる頭はどうにかして冷却しなければならないと感じていた。だが、次々と打ち上げられる乳首の感覚やら妹紅の手の温かさやらが、慧音に冷静な判断を許さなかった。
 あたかも乳牛の乳を搾るかのような手のひらの動きに、慧音は羞恥のあまり口をぱくぱくと開けていた。普段の毅然とした態度からは考えられない慧音の狼狽が面白く、妹紅はまた両の手のひらで彼女のおっぱいを下から掬い上げ、その先端をくりくりと丁寧に刺激する。
 慧音は啼いた。
「くぁ、ぁふぅぅ……も、妹紅……! そ、そのへんにしないと、わ、わたし……」
「ふふ……慧音も、私のおっぱい、さわりたくなった……?」
 妹紅の淫靡な微笑がどこで身に付けられたものかは分からずとも、その効果が絶大なるものであることを慧音は身をもって理解した。
 尤も、自身がどのような台詞を吐いているのかさえ、慧音にはよく分かっていなかったのだが。
「……ば、ばか……」
 搾り出すように呟き、慧音は、目の前でふるふると揺れている妹紅のおっぱいにゆっくりと手を伸ばし。

「ちはー! 文々。新聞社ですけどー! 連載作品の締め切りが間もなくなんでー、そろそろ初稿を上げてもらえたらー、これ幸い、だった、んです、が……」

 軽く扉を叩き、返事も確かめずに引き戸を開け、おっぱいを揉み合っている半裸の女性陣を発見し、文々。新聞社と名乗った天狗らしき少女はおもむろに懐からカメラのようなものを取り出し、寒天のようにぷるぷると固まっているお二人さんに焦点を合わせ。
「はい、カメラ目線はおかしいですよー。向かい合って、はい、口もちょっと開いているといいですねー。そうそう! いい表情ですよ慧音さーん」
 では、とシャッターを押し。
 一秒後に逃走し。
 二秒後に妹紅が爆炎と共に追走し。
 三秒後に、あいつおっぱいさらしたまま突っ込んで行ったな、と慧音がいそいそと服を着込んでいた。
「……あーくそ、ばかばかばか……」
 慧音にとっては、文々。新聞の報道によって自身の名誉が汚される可能性を排除するよりも、先程の痴態を徹底的に恥じて落ち込んで胸に手を当てて嘆息する方が先であった。
 いざとなれば、射命丸ごと歴史の闇に葬り去ってしまえばよい。分不相応に昂揚した頭でろくでもないことを考え、慧音はヤケクソ気味に寝転がった。後は野となれ山となれ、連載もしばらく休載だ。
 火照ったままの頬を撫でながら、慧音はぶち破られた扉の彼方に思いを馳せる。
「……妹紅め……」
 慧音は誓った。
 いつか、妹紅のおっぱいを徹底的に嬲り倒してやろう、と。

 

 


上へ

表に戻る 紅魔郷へ 妖々夢へ 萃夢想etcへ 花映塚etcへ





楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル