起源をめぐる説と民話・昔話
"彼らが山野の精霊であるに対し、地上の多数の河川には、オーケアノスとテーテュースの息子である河川の精霊あるいは神がいた(『イーリアス』21 章。『神統記』)。彼らは普通「河神(river-gods)」と呼ばれるので、精霊よりは格が高いと言える。3000人いるとされるオーケアニデスの兄弟に当たる。河神に対する崇拝もあり、彼らのための儀礼と社殿などもあった。スカマンドロス河神とアケローオス河神がよく知られる[61]。"始原の神や、または神やその子孫のなかには、異形の姿を持ち、オリュンポスの神々や人間に畏怖を与えたため、「怪物」と形容される存在がある。例えばゴルゴーン三姉妹などは、海の神ポントスの子孫で、本来神であるが、その姿の異様さから怪物として受け取られている。ゴルゴーン三姉妹はポルキュスとケートーの娘で、末娘のメドゥーサを除くと不死であったが、頭部の髪が蛇であった。姉妹の三柱のグライアイは生まれながらに老婆の姿であったが不死であった。ハルピュイアイはタウマースの娘たちで、女の頭部に鳥の体を持っていた。ガイア(大地)が原初に生んだ息子や娘のなかには異形の者たちが混じっていた。キュクロープス(一眼巨人)や、ヘカトンケイル(百腕巨人)がいる。またガイアは独力で、様々な「怪物」の父とされる、天を摩する巨大なテューポーンを生み出した。
この『巫女の予言』では、ヴァルハラの主神オーディンが、一度死んだヴォルヴァ(巫女)の魂を呼び出し、過去と未来を明らかにするよう命じる。巫女はこの命令に気が進まず、「私にそなたは何を問うのか? なぜ私を試すのか?」と述べる。彼女はすでに死んでいるため、オーディンに対する畏怖は無く、より多くを知りたいかと続けて嘲った。しかしオーディンは、神々の王としての務めを果たす男ならば、すべての叡智を持たなければならないはずであると主張する。すると巫女は過去と未来の秘密を明かし、忘却に陥ると口を閉じた。北欧神話においては、生命の始まりは火と氷で、ムスペルヘイムとニヴルヘイムの2つの世界しか存在しなかったという。ムスペルヘイムの熱い空気がニヴルヘイムの冷たい氷に触れた時、巨人ユミルと氷の雌牛アウズンブラが創り出された。ユミルの足は息子を産み、脇の下から男と女が1人ずつ現れた。こうしてユミルは彼らから産まれたヨトゥン及び巨人達の親となる。眠っていたユミルは後に目を覚まし、アウズンブラの乳に酔う。彼が酔っている間、牛のアウズンブラは塩の岩を嘗めた。この出来事の後、1日目が経って人間の髪がその岩から生え、続いて2日目に頭が、3日目に完全な人間の体が岩から現れた。彼の名はブーリといい、名の無い巨人と交わりボルを産むと、そこからオーディン、ヴィリ、ヴェーの3人の神が産まれた。"
"西欧は古代ギリシアの文芸をほとんど忘れていたが、12世紀にあってアリストテレースの著作の翻訳を得ることで、古典ギリシアへの憧憬がいや増したと言える。14世紀初頭の代表的な中世詩人であるダンテ・アリギエリは、『神曲』地獄篇のなかでリンボーなる領域を造り、そこに古代の詩人を配置した。5人の詩人のうち4人はラテン語詩人で、残りの一人はホメーロスであった。しかし不思議なことにダンテはホメーロスの作品を知らなかったし、西欧がこの大詩人を知るのはいま少し後である[123] [124]。""西欧はしかし古代のローマ詩人オウィディウスの名とその作品はよく知っていた。イタリア・ルネサンスの絵画でギリシア神話の主題を明確に表現しているものとして、サンドロ・ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』と『春』が存在する。両絵画共に制作年が確然と分からないが、1482年頃であろうと想定されている[125]。高階秀爾はこの二つの絵画を解釈して、『春』はオウィディウスの『祭暦』の描写に合致する一方、『ヴィーナスの誕生』と『春』が対を成す作品ならば、これは「天のアプロディーテー」と「大衆のアプロディーテー」の描き分けの可能性があると指摘している[126] [127] [128]。"ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』は、イタリア・ルネサンスにおけるギリシア神話の具象的表現の代表的な作品とも言える。この絵の背後にあると想定されるマルシリオ・フィチーノなどのネオプラトニズムの哲学や魔術的ルネサンスの思想は、秘教的なギリシア文化と西欧文化のあいだで通底する美的神話的原理であるとも言える。それでは、西欧においてルネサンス以前のギリシアのイメージは本来どのようなものであったのか。
"最近ではヨーロッパとアメリカ合衆国の2つの地域において、「ゲルマン・ネオペイガニズム」(ゲルマン復興異教主義)として古きゲルマン宗教を復興しようとする試みが行われている。これらはアサトル、オーディニズム、ヴォータニズム、フォーン・セド(Forn Sed)またはヒーゼンリィという名の元に存在している。アイスランドでは、アサトルが1973年に国家公認による宗教として認められ、結婚や子供の名づけ方、その他の儀式においてこの宗教の介入が合法化された。アサトルはかなり新しい宗教ではあるものの、北欧諸国で公認または合法の宗教として認知されている。"北欧神話はリヒャルト・ワーグナーの作品『ニーベルングの指環』を構成する4つのオペラの題名に使用され、同じく北欧神話をモチーフにした他の作品への基盤となった。その後に製作された、J・R・R・トールキンの『指輪物語』も、キリスト教化以前の北方ヨーロッパにおける固有の信仰に、非常に影響を受けた作品と言える。この作品が人気を呼ぶにつれ、そのファンタジー要素は人々の感性や他のファンタジーのジャンルを、絶えず揺り動かしている。近代的なファンタジー小説にはエルフやドワーフ、氷の巨人など、北欧の怪物達が多く登場する。のちの時代になって北欧神話は、大衆文化や文学・フィクションにおいて、多くの影響を残しているのである。