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ジャズ・ミー・ダウン |
エマニュエル・ユリアン著 |
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〔初版〕 2008年
アトリエ・イン8社 (セール・モルラース)
叢書「隣の扉」
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Jazz me down / Emmanuelle Urien
-Serres-Morlaàs: Editions Atelier In8
-(La Porte à côté).
-11×17cm. -2008. |
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ビリー・ホリディ、エラ・フィッツジェラルド、ダイナ・ワシントン…バーのステージで女が歌いつづけていた。スパンコールで輝いている脚から腰へ、両手へ、俺はゆっくりと視線を上げていく。マニキュアは女のラッキーカラーのトルコブル−。そして両目。ありえないほどの黒い瞳がこちらを見つめ返していた。 |
今朝、つまらない話で大喧嘩になった。「ヒステリー女」「悪女」「売女」…勢いに任せて汚い言葉を浴びせかけてしまう。女はプイと部屋を出ていった。悪いのがこっちなのは分かっていた。定収があるのは彼女の方、自分と言えば元監獄囚で無職のチンピラにすぎなかった。 |
女と出会った日を思い出す。あの時も女はステージで歌っていた。普段なら口説くのはこちらの役だったが今回ばかりは違っていた。女は俺だけを見つめ、歌詞のメッセージで危険な誘惑を始めていた。そう、あの日も女の爪はトルコブルーだった。 |
「何をしたらいいの。あなたに何が出来るというの。愛が終わってしまったのに」。女は「ハウ・インセンシティヴ」を歌い始める。止めてくれ。俺にも自尊心がある。そんな暗い瞳で見つめないでくれ。歌で絶縁状を突きつけるのは止めてくれ。公衆の面前で晒し者にしないでくれ。俺はポケットに手を差しこんだ… |
2008年、アトリエ・イン8出版社からジャズをテーマにした競作短編集『ジャズ・カルテット』が発表されました。4つの短編を化粧箱に収めたもので本作はその一つ。破竹の勢いであちこちの文学賞を獲得している作家さんですが本作でも感度の高い魅力的なフレーズで読み手を魔法にかけてくれます。 |
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