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ヴァンデの奇跡
〔1991年〕 |
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ジャック・シレイジョル著 |
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地方主義(ヴァンデ)、旱魃、迷信、不倫 |
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〔初版〕 1991年
ガリマール社(パリ)
叢書セリ・ノワール 2260番 |
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Miracle en Vendée / Jacques Syreigeol
-Paris : Editions Gallimard.
-(Série Noire ; 2260).
-1991. |
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【あらすじ】 |
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1911年以来の水不足だった。当時、丘の上に住む人々は消防士の手を借りて水を引いてもらった、との話だった。母が昔話を始めていた。 |
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「1911年の大旱魃の時、うちの井戸以外はみんな使えなくなってしまったのよ。”悪い事を重ねてきた報い”、司祭さんがそう言ってたかな」 |
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母が何を言いたいのかは分かっていた。リュシアンヌの件だった。夫マルクが婦女暴行罪で起訴(『ヴァンデの復讐』)された後、女は三行半を突きつけて実家に戻ってきていた。村に戻ってきた悪徳。母の迷信は的外れという訳でもない。一ヶ月後、父が「リュシアンヌさんに手を貸してあげよう」と切り出してきた。女が地所として持っている畑、森を借りて農作業をしようという話だった。父親がリュシアンヌにたぶらかされていると知った母の怒りは激しかった。 |
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親戚のジェルマンヌが病気で亡くなった。葬式の準備を整えていく。死者の背丈を計って棺の大きさを決めていく。母が死化粧を手伝っていた。親戚、知人が集まった中、司祭が数珠を取り出した。祝辞、ミサが始まった。 |
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リュシアンヌはトマトを洗っていた。この水不足のご時世に野菜を洗っている…。井戸の修繕に金を出したのは父親だという噂もあったが。父とリュシアンヌの関係は遥か昔まで遡っていた。母によれば「結婚前も、結婚中も、離婚後も」、父親がずっと金を出して養っているという話だった。 |
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自宅の井戸を確かめに向かう。水位が相当下がっていた。リュシアンヌがトマトを洗っていた水はこの井戸から持っていったものだった。 |
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「水の件だが…」、父親がそう切り出してきた。リュシアンヌのために井戸からパイプで直接水を引いてあげようという話だった。「嫌だ」の返事。驚いた顔の父親、断られるとは思っていなかったようだった。「嫌だ」と繰り返して立ち上がる。腕を掴んできた母親を振り払う。リュシアンヌの家まで駆けていく。
「お前水が欲しいってか?」
「待っ…」
「喋るな。お前の言葉は汚れている。話を聞くんだ」
「ちょっと待っ…」
「親父をたぶらかしても無駄だ。水は手に入るものか。罪をつぐなうんだ」
そう叫んでリュシアンヌに掴みかかっていく… |
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【講評】 |
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シレイジョルによる「ヴァンデ黒の三部作」で最も土着色の強い一作。回想と現在進行形の物語が交差、旧作の要素を絡め、途上で幻想めいた光景も現れてやや難解になっています。いきなりこの3部目から読み始めると話が掴めないです(経験有り)。 |
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田舎風の葬式、水不足に悲鳴を上げている牛たち、迷信深い人々…今読み返してみると、3部作で一番色褪せていないのは本作だと思います。ヴァンデ地方というローカリティーが仏西部ゴシック・ノワールとでも呼べそうな特殊な高みまで辿りついた一篇。この澄みきった黒さは一体何でしょう。 |
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【最終更新】 2009-06-17 |
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