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二台の車が同時に窓を下げた。中の連中が銃を突き出してくる。撮影用の玩具ではなかった。鉛弾の嵐が襲いかかってくる。ダッシュボードから愛用のコルトを引き抜いた女。運転席のチャーリーがアクセルを踏みつける。スピードメーターは「180」を回っていた。サンセット大通りに辿りついた時、二台の襲撃車の姿は既に消えていた。 |
ハリウッドでは「ダブルショット娘」を主人公にした映画の撮影がクランク・インしていた。当初有名女優ヴァージニア・モンローがホープ・トラヴァースを演じる話もあったが、別会社から直々に「自分自身を演じてほしい」の依頼があって受けたところだった。しかし撮影を偽装した襲撃事件が発生。プロデューサーにクレームを持ちこんでみたが状況を理解している風には見えなかった。 |
ホテルへと戻っていく。テーブルの下に小さな塊。猫の死体だった。口元がミルクで濡れている。「アコニチン系のアルカロイド?」。どうやら敵は本気で始末にかかっているようだった。妨害工作はどこから来ているのか?競合映画の制作側から?ホープ・トラヴァースは仲間と共に敵陣へ乗りこんでいく。 |
ヴァージニア・モンローを取り囲むようにスーツ姿の関係者が集まっていた。「新しいマネージャー」はビジネスマンというより麻薬ディーラーの雰囲気を漂わせていた。ハリウッド・バビロンの神話は続いていた。違法薬物だけではない。二流女優、新進女優を食い物にした非人道な振舞いも続いている。関係者一人が失踪したという情報をキャッチ、ダブル・ショット娘はセレブリティーの虚飾に隠された陰謀を暴きだしていく… |
マクスウェルによる50年代超セクシーボイルド連作の一つ。米語作品翻訳の建前を取り、『裸女と葡萄弾(Naked
Woman And Grappe-shots!)』なる架空の原題が付されています。キャラクター設定から物語展開に至るまで紋切型の嵐。主人公たちの陥る「窮地」とやらもデウス・エクス・マキナのご都合主義で次々とクリアされていく。作品途中には本筋に関係のない「セクシーショット」を多数収録。あまりの荒唐無稽さに思わず微笑みが漏れる程。
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この手のお手軽セクシー&ヴァイオレンス作品は全否定も全肯定も楽かなという気がします。一方で自己完結したサディズムが空回りの暴走を続けており、SAS系に繋がっていく「空虚さ」が蔓延。逆に「面白ければ全て良し」のラディカルなエンタメ至上主義を発動させ、『キル・ビル』や『鉄腕ガール』と同じ地平で楽しんでしまう手もありかと思います。50年代初頭、仏ノワール小説勃興期、検閲機関が十分に機能していなかった時代の特殊な空気を閉じこめている点で興味深い連作ではあります。
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