神はサングラスをかけているのか?

モーリス=G・ダンテック


〔初版〕 2003年
ジェ・リュ社 (パリ)
叢書リブリオ・イマジネール 613番


Dieu Porte-t-il des lunettes noires ?
et autres nouvelles
/ Maurice G. Dantec.
-Paris: Editions J'ai Lu. -(Librio Imaginaire; 613).
-92p. -21 × 13cm. -2003.


   

 9mmマグナムを装弾したルガー脇にサングラスが置かれていた。フレームは鉄と炭素繊維強化プラスチックで出来ている。端から伸びた細いコードは首筋に接続できるようになっていた。この二つをセットにして男は1890年のドイツ=オーストリア国境に向かおうとしていた。過去へと旅し、生まれたばかりのアドルフ・ヒトラーを殺すつもりだった。

 全ては正午前、シャワーを浴びて浴室から出た時に始まった。居間の物音、男が扉を開けると部屋の中央に「旅人」が浮いていた。「これはイメージ・インターフェイスです」。仰天している男を前に未来人が説明を始めた。「あなたは超量子ジャンボくじに当選しました」。賞品としてタイムトラベルがついてくる。サングラスに搭載した量子神経システムでお望みの時代まで。ただし条件が一つあった。「あなたが歴史上で最も厭わしいと思う人物を射殺してください」…

「神はサングラスをかけているのか?」:タイム・トラベル/タイム・パラドックスにノワール型の暗殺者劇を混ぜこんだ魅力的な一篇。クロ社が発行していたノワール短編専門雑誌「ヌーヴェル・ニュイ」9号(1995年)初出。

「THXベイビー」:覚醒効果のある違法バイオチップのディーラーが「ビッグバン並」と売りつけてきた新製品「THXベイビー」。主人公は知らぬ間に実験材料にされ、キリストが起こした「初めての奇蹟」、水をワインに換える行為を反復していく。サイバー世界とドラッグ、キリスト教を組み合わせた掌編。94年発表。

「電気の死が瞬く時に」:運転中に狙撃された一人の男。意識を取り戻し、血の唾を吐き、涙と小便を垂れ流しながら過去の回想を始める。元文学青年が郊外の薬物ディーラーとなり、抗争に巻きこまれていく物語。瀕死の男の元に女の幻が現れる。昔ポルノ=ファンタジー小説のヒロインとして夢見た女が助手席に結晶化、フェラチオを始める。全ては明滅する走馬灯の幻か…96年のアンソロジー短編集『パリ、黒岸』初出。

 03年フラマリオン社から発表された短編/エッセイ集『周縁』のダイジェスト版。『周縁』には他に「天使が堕ちる場所で」が収録されています。94〜96年はダンテックがまだ明快な文章で書いていた「古典期」に当たり、どの短編も一つ一つのアイデアを丁寧に展開させた読み応えのある内容。後の展開を考えると聖書とサイバー未来主義を重ね合わせた「THXベイビー」が示唆深いのではないでしょうか。巻末には作家としての経歴、各短編への思い入れを語ったインタビューが併録されています。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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