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パリ郊外、工業地帯のゴミ捨て場で一つの死体が見つかった。私は手術用のゴム手袋をはめ、殺された女性の脇にしゃがみこむ。片方の靴下を除くと全裸。煙草の焼け跡、電気ショック、大小様々な切り傷、殴打による骨折と内出血、指と耳は切断され眼球は潰されていた… |
死体発見現場となった建物は解体が決まっており、日中は厳戒な警備が敷かれている。犯人が死体を運んできたのは発見前夜だった。現場近くで目撃されていた一台のクライスラー。業務用の車体には「デストラクションCo,」のロゴが入っていた。私は同僚と共に同名の会社を訪れる。同社責任者であるポール・ニッツオに問いただすと「記録用に工場跡地を撮影していただけ」との答えが返ってきた。私はニッツオが記録した膨大の量のフィルムに目を通していく。 |
被害者の身元が判明しないまま解剖所見の結果が回ってきた。犯人は麻酔をかけた状態で被害者の臓器一部を摘出、代わりに「データを格納したディスク」を挿入していた。電話が鳴った。司法解剖医のキャロルだった。事件についての感想を交わしていく。二人の見解が一致する。「一度殺した後、被害者を生き返らせようとした」。『未来のイヴ』に影響を受けた新たなタイプの殺人者の登場だった… |
ダンテック第4長編。ノワール小説風の文体、サイバーSF型の方法論、さらにポストモダン由来の語彙を交えた奇怪な言語構築物になっています。「要約」という作業を拒む作品ですが、一応は上にまとめたサイバーミステリー風の筋立てが冒頭部(最初の150ページ程度)のマクガフィンになっています。 |
1991年に発生した猟奇事件は未解決のまま10年の月日が経過。01年にパリ郊外の警察署を襲ったテロ事件で主人公の私=ケルネルが爆死。物語はこれで終わらず、現世を離れた主人公が「もう一つの世界」に接続され、メタレベルから事件(のみならず世界の「謎」全体)の解明が行われていきます。この段階でポール・ニッツオの存在が重要な意味を持ってくるのですが、一方で『未来のイヴ』系の伏線がすべて死んでしまう結果に。内容的に整合性が取れていないなという恨みが残ります。 |
発表時に賛否両論を巻き起こした一作。一部は「無駄を省いてかっちりした猟奇ミステリーにまとめれば良かったのに」と批判、「いや、『バビロン・ベイビーズ』で越えられなかった壁を乗り越えたのだ」と擁護する者も若干数。あまりの難解さに途中放棄した読者も多数発生。確かにアレルギーや拒否反応を誘発する要素を多々含んでいます。個人的には「志の高さに筆力が追いついていないのだけれど、ダンテック史上で最も冒険的な一作」の位置付けでしょうか。主人公が01年に爆死する展開がNYテロ事件の衝撃を伝えています。
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