お仕置きの理由 2(前)

なんか、いらいらする。

昨日お兄ちゃんと、ちょっとケンカした。
まず夕ご飯の後のテレビ。ミュージックランキング、あたしが毎週見てるのに、昨日はお兄ちゃんに邪魔されるとこだった。あたしは毎週楽しみにしてるんだし、明日は友達とその話で盛り上がるんだから譲れない。まあ結局見られたんだけど、感じ悪いよね。その後も、あたしが聞いてたCDに、うるさいって文句つけてくるし。テレビのことでちょっと悪かったかなって思ってたから一応消したけど、それにありがとうの一言もない。今朝もブルーベリーのヨーグルト、あたしにくれなかった。お兄ちゃんも結局食べなかったけどさ。二人とも食べないんじゃ、意味なくない?
そのせいで学校でもなんかいらいらして、一日いいことなかった。

そんなんで夕ご飯がおいしい訳ない。それは、なんとなく分かってたんだけど。
大好きなビーフシチュー、酸っぱかった。

あたし、つい、母さんがわざとあたしに意地悪してるみたいに思ったんだ、たぶん。
そんなことある訳ないって分かってる。そりゃ今考えればそう思えるけど。
でもおいしくなかったんだもん。むかっときた。
あたしは結構はっきりと顔をしかめた。スプーンを置いてしまう。
「・・・おいしくない」

そのとき、お兄ちゃんと目が合った。
なんかお兄ちゃんあたしのこと笑っているみたいに思えて、余計に腹が立った。

「・・・おいしくない。いらない。ごちそうさま」
「雪菜!」

あ、やばい、って思うんだけど、止まらない。
食べたくなかったのは本当。でも、怒られることだっていうのは分かってた。
でもだめ。
何よ、父さんなんかまだビーフシチュー食べてないんだから、そこであたしを怒るの変じゃない?
おいしくないのは、嘘じゃない。

「祐樹も」

え?

怒られたくはなかった。父さんがあたしを怒るのにも、腹が立ってた。
でも父さんがお兄ちゃんのことを怒るなんて、ぜんぜんわかんなかった。
ほっとした?そんなことないよ。・・たぶんね。
順番が後になったって、あたしが怒られないわけなかったし。
あたしは怒られるようなことをしたって分かってる。
それよりなんで?なんでお兄ちゃんが?

いい気味だって思わなかったっていうと、それは少しだけ嘘かもしれないけど、それ以上に落ち着かない気持ちがずっとずっと強かった。
あたしの代わりにお兄ちゃんが怒られる、っていうのもそれも腹が立つけど、そうじゃないよね?
でもほんとにお兄ちゃんが怒られるっていうのは、訳がわかんない。やな感じ。
別にお兄ちゃん、悪くないのに。

「え、僕?僕何にも言ってないじゃんか!」
お兄ちゃんの反論に父さんは答えないで、ただお兄ちゃんの方をじっと見た。相当怒ってる顔。 父さんは席を立って「雪菜のお仕置きは後でだ。祐樹、おいで」とリビングへ向かったけど、お兄ちゃんは抵抗する。そりゃあ、そうだ。あたしだってするよ、絶対。
「やだよっ!僕怒られるようなこと何もしてない!」

リビングとダイニングの間の分厚いカーテンが閉められて、お兄ちゃんの姿は見えなくなったけど。
ぱしぃんっ!
お尻叩きの音はそれくらいじゃ遮られない。
「痛いってば!」
お兄ちゃんの声ももちろん聞こえる。

「・・・なんで?どうして?」
あたしは呆然と呟いた。隣に座っている母さんを見上げる。
そのときもう、あたしの目には涙がいっぱい溜まってしまってた。
まだ零れてはいなかったけど。
まだ怒られてもいないのに、なんで泣けるのかわかんなかったけど。

怒るか、泣くかしかない。でもほんとは、どっちも嫌だった。
まだ叱られてもないのに泣くなんておかしいし、叱られるのも当然だったから怒る理由もない。

「なんでお兄ちゃんが?」
泣かないように気をつけて言ったら、すごく怒ってるみたいに響いた。
でも母さんは、あたしが怒ってるんじゃないって分かってくれたみたいだ。
母さんは困ったように微笑んで、言った。
「・・・どうしてかしらね。」
声はすごく優しくて、泣いてもいいって言われてるみたいな気がした。
「だってお兄ちゃんが悪いんじゃないのに」
あ、やば、言葉と一緒に泣けてくる。
あたしの、せいなのに。

「あとでお父さんに、伺ってご覧なさい」
言われなくたって聞くよ。納得いかないのは、やだ。
・・・・・・・・。
だって悪いのは、あたしなのに。

「さあ、先にご飯食べちゃいなさい」
母さんのいつもの声。
母さんってば、あたしが食べたくないって言ったの忘れてるのかな?
それでもあたしはスプーンを取った。そして、ひと匙。
おいしくないのは変わらないけど、今なら食べられる。
母さんはあたしに意地悪してるわけじゃない。

あたしが口をつけるのを見て安心したんだろう、母さんも自分の分を食べ始めた。
口にして、そして困った顔で笑い出した。
「ああ、これじゃ無理ないわねぇ。ごめん、雪菜。ちょっと待ってなさい、すぐ作り直してあげるから」
あたしも苦笑する。
「もう、いいよ。このまま食べるから」
あたしはそのまま食べ続け、母さんは後ろでコンロに向かって何かやってた。
香ばしい匂いが漂ってくる。ほっとする匂い。
あたしは母さんに背を向けたまま小さな声で言った。
「・・・・母さん、ごめんなさい」

「ほら、作り直したソースかけてあげるから、混ぜて食べてちょうだい」
母さんはあたしの顔を見て優しく笑う。
もうそのときあたしには、味はほとんどわかんなかったっていうかもはや問題じゃなかったんだけど、それは温かいだけでもう十二分においしかった。

「ごめんね」
今度は母さんの顔を見て言える。
母さんは、優しい。

ごちそうさまをして、母さんの入れてくれた温かい紅茶を飲んで。
お兄ちゃんと父さんは、何か話してるみたいだった。もうお兄ちゃんの声もお尻叩きの音も聞こえない。
お兄ちゃんも優しいし、父さんも優しい、はず。
少なくともあたしが叱られるのはあたしのせいだし。
お兄ちゃんが叱られるのも、たぶん、たぶん半分はあたしのせいだ。
たぶん、きっと。

昨日からあたしはいらいらしてた。
たぶんお兄ちゃんもそうなんだ。

でもお兄ちゃんはあたしと違って、それをちゃんと抑えてたのに。
ねぇ、父さん?

あたしはお茶を飲んでしまった。ただ待ってるだけの時間って、怖くていやだ。いやだけど。
お兄ちゃんがあんまりひどく叱られてないといい。
あたしのせいで、お兄ちゃんが叱られるのはやだ、やっぱり。

ざっと音を立てて分厚いカーテンが開いた。お兄ちゃんが照れたような笑い顔で出てくる。
「お兄ちゃん、大丈夫?・・・ごめんなさい」
お兄ちゃんが笑っててあたしはちょっとほっとしたんだけど、言ったらまた泣きそうになる。

「僕は大丈夫だよ。こっちこそ、昨日からごめんな」
お兄ちゃんはそう言って、髪を撫でてくれた。
お兄ちゃんも優しい、し、父さんも優しい、はず。

あたしが叱られるのはしょうがない。怖いけど。やだけど。
あたしは息を詰めて父さんの前に立った。
2006.11.22 up
すみませんまだ続きます・・・(^^ゞ。
いえおそらく期待してここまで読んでいただいたのに、ここで切っていてごめんなさい、かな。
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