これもまた、楽しい思い出(前)

いつの間にか、今日はもう卒業式。
早いよね、早過ぎ。
体育館の中は結構芯から冷え込んだけれど、まあ、卒業式ってそういうものかな。
仰げば尊し、蛍の光、泣いたかどうかってそれは内緒。
ついに式典から開放されて、みんなが飛び出た運動場の日差しの下は微かに暖かかった。春なんだよねぇ。

「写真取ろ〜」
友達とか、先生とか、わいわい騒ぎながらの非日常の空間。
男の子のところにさ、一緒に写ってくださいなんて可愛い後輩が意を決して訪ねて来てたりとかしてさ。
高校はみんなばらばらだから、ってそんなこと、誰でも分かってて誰も言わない。
今日は寂しくしないんだよ。晴れの日、だからね。

あたしたち、3年4組のみんなは、ひとしきりそうやってグランドで騒いだ後でもまだ物足りなかった。
誰からともなく、声が上がる。
「昼飯、食いに行こうぜ」
「そうだね」「いいな」
「じゃ、いったん帰って、来れる人は12時半に集合ね」
「私服?」
「当たり前だろ?」
「んじゃ、また後でね」
「うん、またね」

卒業式に来てくれた母さんは、向こうの方でよそのお母さん方とお話し中。
あたしもみんなと同じように、先に帰るよ、お昼もみんなで食べるからって母さんには断って、雪ちゃん達と自転車で帰った。
セーラー服が風にぱたぱた揺れている。この制服も今日限り、なんて思っちゃうけど、でも、友達と遊ぶには邪魔だよね♪
仲のいいうちのクラスでも、男の子たちと私服で会うのなんて最初で最後かもしれないんだし、あれやこれやとお洋服選んで、お財布持って、携帯持って・・・。
ん、どうしようかな。

集合場所は、駅前のマック。
お昼食べて、たぶんたくさんお喋りして、う〜ん、もしかしてお店移るかな?
何時までいるかなあ?何時までいられるかな。
うん、思ったのはね、三咲兄達に呼び戻されちゃったら嫌だなって。

持って行って、電源切っておこうかな?
それか鳴っても、無視するか。
・・・・・。これでも小心者だからさ(笑)、それができるとも思えない。
それくらいなら、最初っから携帯置いていっちゃった方が、お兄たちも連絡付かないって分かるよねぇ?

うん、それはそれで、まずいだろうってのも思うんだけど。
だけど今日くらい。ね、今日だけ。
「友達とお昼食べて、お喋りしてきます」
書き置きひとつと携帯電話をキッチンのテーブルの上に置いていく。
何時に戻るとは書けないもんねぇ。

だってみんなと、遊びたいんだもん。
電話とか気にしたり、途中で鳴って水差されるのは嫌なんだもん。
遅くなったら怒られる、だろうけどさ。
遅くなるかどうかは、わかんないけど。どうかな?
けど、とにかく、怒られるかもしれないけど、それでも。

あたしはぱたんと携帯を開いて閉じて、もう振り向かないことにして家を出た。

***

うん、すっごく楽しかったよ。
結構、クラスの3分の2は来てたはず。

とめどなく、よくそれだけ話すことあるね、っていまから振り返るとびっくりするくらい。
結局、ずうっとお喋りだけしてたもんね。
カラオケとかにも行かずにさ、ただひたすらマックでお喋り。

雪ちゃんは、5時半になったときに「そろそろ帰らなきゃ」って席を外した。
偉いなあって思いつつ、でもそのときあたしは槇本君と高校での部活について激論中。まっきーはうちの部のエースだったんだしさ、止めちゃうのはもったいないって思うわけです。
何だかんだと喋り続けて、あたしたち、最後まで残ってた組がふと気付いたときには7時前。さすがに、そろそろ、帰らなきゃ?

うちのクラスって健全だよね、っていうか2軒目に行こうって子達はたぶん先に抜けたっぽい。
残ってた子達はあたしも含めてそこまでのつもりはなかったからさ、名残惜しくも賑やかに、きれいに解散。
帰り道も数人でお喋りしつつ、家の前で「じゃあね」と手を振る。
「じゃあ、またね」って、言えないんだよねぇ。
いいんだ、楽しかった一日は終わり。

さ、て。

うん、楽しかった一日は終わり。
玄関の前で、さすがにあたしは固まっちゃった。
いま、7時8分ね。
ここまでかかるとは思ってなかったのはほんと。
いつものあたしの門限も、少しだけどオーバーしてる。

今日のはきっと、そういう問題じゃないんだけどね。
どこに行くかも何時に戻るかも、言わずに家を出たわけで。
こんな時間じゃなければさ、だからってどうってことでもないけれど。

こんな時間でさ。
でもって、それはわざとだもんね。
こんな時間になるって思ってたわけじゃないけどさ、こんな時間になっても仕方ないって思ってたよね、たぶん、あたしは。
その上連絡しなかった、どころか。
連絡受ける気がなかったのも間違いなくわざとだったから。

分かってる。家を出たときから分かってた。
そうしたかったんだもん、そういうつもりでそうしたんだから。
怒られる。そりゃあもう、間違いなしに、きっとすっごく。
わかってる。わかってるから、ドアを開けよう?

わかってるからって、ドアを開けるのが簡単だってわけじゃない。
っていうか、分かってるから開けたくない。

うん、でも、だけど。だから、ね?


2009.3.15 up
続きます。
ずいぶんむかしに質問に書いた、双葉ちゃんの卒業式。
リクエストもいただいていながら、それからもうかれこれ9か月!
そして、後半はまだほんとに書けてません(<そういうことを言うな^_^;)
だけど卒業式に間に合わなくなっちゃいますからね!
来週続きが無事にアップできますように、どうかお祈りくださいませ!


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