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このサイトでは、お尻叩きのお仕置きが出てくるお話を置いています。
現実のお仕置きを推奨する意図はありませんが、ご理解のうえお楽しみください。

牛飼いさんのお仕事

むかしむかしあるところに。
あるところ、天の大きな川のほとりに牛飼いさんは住んでいました。
田畑を耕す牛を育てる牛飼いさん。
畑仕事のない日は河原に牛を連れてきて、草を食ませておりました。

そんなある日のことでした。
いつもよりも遠くの河原に来た牛飼いさんは、土手を歩く綺麗な姫を見かけました。
おや、誰だろう。
気になって見詰めていると、相手はこちらの方へと歩いてきます。
手を振ってみると向こうも気付いたようで一瞬足を止め、それから河原へと降りてきたのでした。

「こんにちは、お嬢さん」
近くで見ると上気した頬と人なつこい目の強さがなおさら可愛い娘さん。
牛飼いさんはひと目で彼女に心奪われてしまいました。
「こんにちは、・・・あなたは?」
ふたりはすぐに打ち解けておしゃべりが盛り上がり、ふと気がつけば、もう日が暮れるころでした。

「あら!もう帰らなきゃ。明日も会えるかしら?」
「ここで待っているよ。僕もまた君に会いたい」
名残惜しく別れた二人はそれぞれ家路を急ぎました。
牛飼いさんは牛を追いながらも夢心地です。
次の日も次の日もふたりは夢中になって日がな一日お喋りを続けたのでした。

朝。・・・今日は、どうしよう。
牛飼いさんは少し手を止めて考えました。
これで三日は畑仕事に手をつけてない。
油断すると草が伸び、水が枯れ、・・・そうなってからでは手遅れです。でも。
・・・まだ、大丈夫だよな。
牛飼いさんは自分にそう呟いて、今日も織り姫に会うために河原へと向かうのでした。

その日、姫は昨日までほど早くは姿を現しませんでした。
どうしたんだろう。具合でも悪いのでなければいいけど。
牛飼いさんは思い煩います。
それとも嫌われたのかな。お仕事、忙しいのかな。
別に明日も会おうと約束していたわけではありませんでした。牛飼いさん自身、今朝、行こうかどうか迷ったわけですからね。
それでもいろんな想像が頭の中を駆け巡り、牛飼いさんは牛のことなんかちっとも目に入らないくらいでした。

あんまり気にしていたものだから。お昼過ぎ、早足でこちらに向かう織り姫に牛飼いさんはすぐ気がつきました。
「あぁ、織り姫!よかった、会いたかったよ」
まだかなり遠かったのですけれど。
目敏く織り姫さまに気付いた牛飼いが手を振ると、織り姫さまも駆け寄りました。「私も!」ふたりはすぐに我を忘れて、話に夢中になったのでした。

織り姫とふたりで過ごすときは楽しくて嬉しくて。
牛飼いさんはこのひとときが永遠に続けばいいと願います。…でもその願いは、それが叶わぬ願いと知っていることの裏返しでした。

さっきまで気になって仕方なかった織り姫の事情。嫌われてはいないようだけど、元気なようだけど、それはつまり織り姫には朝から来られなかった理由があるってことで。
それはそう、牛飼いさんに仕事があるように織り姫にだってあるはずです。

「織り姫、お仕事はよいの?」
尋ねた牛飼いさんは答えを薄々知っていて。
「だ、大丈夫よ、あなたこそ」
嘘だ、って顔を見ればすぐに分かりました。
でも、僕と一緒に居たくて嘘をつく、そのこと自体が愛しくって。
「僕もいいよ、君の方が大事だ」
別れたくないのは牛飼いさんもまったく同じなのでした。

「ねぇ、朝会えなかったとき、さみしかった?」
「そりゃあ、もう。いま君が目の前にいて夢のようだよ」
ほろりと苦い、そして甘い。
牛飼いさんと織り姫さまは日が暮れるまで寄り添って語らうのでした。

夕日が差して、ふたりの頬は橙色に染まり、そして暗い影の色。いつまでも一緒にいたい、そう思っても既に足元がおぼつかない程の暗さです。
ふたりは名残惜しくも身を切るような思いで立ち上がり、牛飼いさんは織り姫の家近くまで送り届けたのでした。

畑、見に行こうかな。
家路をたどる牛飼いさんはふっとそう思いましたけど。辺りは闇色、結局何にもならないでしょう。
遊び…過ぎてるよな。そう思いながらも明日も織り姫に会いたいと牛飼いさんは考えて。
その望みにそっとため息を零したのでした。

暗闇のなか連れ出した牛の世話を終え、牛飼いさんが家へと戻ると誰かの気配。
首を傾げて灯りをつけた牛飼いさんを待っていたのは天帝様でした。

「天帝様・・・」
天帝様の姿をみれば、牛飼いさんはなぜ今ここに天帝様が、とは思えませんでした。
・・・そう思えればよかったのに、と自分に呟きはしましたが。
牛飼いさんを見る天帝様の目は笑っていなくて、次に言われる言葉も何となく予想はつくのでした。

一時、お互いに無言のまま視線だけが交わされて。
黙っているのって、辛い。それくらいなら叱られてしまった方がいいのに。
牛飼いさんはそんなふうにも思って、だけど自分から何かを言うことはできませんでした。

「なぜ私が来たのか、わかっているようだね」
やはり口を開いたのは、天帝様のほうで。
「けれど、改めて問おうか。牛飼い、そなたは仕事に励んでいるかい?」

お互いに、答えのわかっている問いで。
答えたくない、牛飼いさんは唇を噛みましたが。
「いいえ」
沈黙のままではなく溜め息とともに答えた理由は、それが事実だというだけでなくて。
仕事よりも織り姫が大事だと思っている、たぶんそんな気持ちがあったからでした。

「困ったね。正直な答えだが、反省はしていないようだ」
言い当てられて・・・といっても、神様の中の神様である天帝様にわからないことなんて
ただのひとつもないのですけれど。
言い当てられて鋭い目で見詰められた牛飼いさんは、でもどうしていいかはわかりませんでした。

織り姫のことが、愛おしくて。会いたくて会いたくて、仕方がなくて。
では仕事はしなくていいのかと問われれば、それも違うと言わざるを得ないけれど。
姫に会わずに仕事に励むことができるのか、その答えもたぶん「いいえ」なのでした。

「ふむ。牛飼い、そなたの望みは何だろうか?」

天帝様は静かな声でお聞きになりました。
織り姫に、会いたい。会って話したい・・・仕事をしないで?
そうではない、そうではないのだけれど。
「織り姫に、会いたいです」
「仕事をしないで?」
それが天帝様の声だったのか、牛飼いさんの内心の声だったのか、
牛飼いさんにはもうよくわかりませんでした。

当てもなく惑う牛飼いさんの心。
一呼吸置いて響いたのは、夜の湖のように深い、天帝様のお声でした。
「織り姫に会いたい、それもよいだろう。
けれど牛飼い、そなたの望みは、織り姫の望みを知っての上か?」

牛飼いさんは、虚を衝かれました。
姫の、望み。
厳しい、けれどそう思った瞬間に、牛飼いさんはそうでないことも悟っていました。
織り姫を愛しいと思うのに、姫を無視して自分の望みを押し付けていいはずがありません。

織り姫の望みは、何だろう。
振り返った牛飼いさんの脳裏に浮かんだのは、「お仕事はよいの?」と尋ねたときに
答えた姫の甘いけれど苦い顔。
「・・・・・。」
自分も、姫も、ほんとはまったく同じで。
お仕事をしなくちゃいけない、なんてことは重々わかっているのでした。

「姫の答えが嘘だと、わかっていただろう?
何が織り姫のためか、一瞬でも考えたか」

答えは、いいえ、で。けれど今度は、牛飼いさんはそれを口にはできませんでした。
それでも、会っていたい、一緒にいたい。
その望みはどうしようもなくあって、けれど織り姫のことを何も考えていない望みであったことを思い知らされて、牛飼いさんはまた唇を噛んだのでした。

姫のために・・・だったら同じく、自分のために。いまのままではやっぱりだめで。
けれど二度と会わないとか、これもまた正しいとは思えない、思いたくない。
「どうすればよい?どうしたい?」
天帝様の問い掛けは今度は牛飼いさんの胸に落ち、牛飼いさんは考えます。
そんな牛飼いさんを天帝様は見つめて頷きました。

「考えなさい。そなたたちには知恵があり、意志がある」
そう言ってそっと牛飼いさんの肩に手を添えました。
「織り姫は、少し時間がほしいと望んでいる。
会いたくて仕方がないからしばらく会わぬと。
わかるかね、そして待てるか?」

思いもよらなかったその話に、牛飼いさんは思わず天帝様の顔を見ました。
天帝様はじいっと牛飼いさんを見返します。
織り姫がそう願っている。
天帝様の言葉にごまかしがあるはずはなくって、牛飼いさんはきゅっと目を閉じました。
織り姫がそう願うから。
それは牛飼いさんにとって、受け入れるのに十二分な理由であるはずでした。

会いたい、だからしばらく会わない。
それは会う前にすべきことをしたい、という姫の願いで。
そうできるようになるまで、しばらく。会いたいけど。会いたいから。

ふうっと大きな息をついて、牛飼いさんは揺れる気持ちをみつめます。
織り姫の願いを受け入れることは。自分も、同じことを願うということ。
会うより前に、することがある。
辛い、でも姫が願うなら、そして二人がいつかそれを叶えられるなら。

「会いたい・・・です、僕も、同じように。
すべきことをして、会いたい。
織り姫も、そう望んだのですよね?」
口に出してしまうと、寂しくて、でもちょっと甘くて。
織り姫と繋がっている、そんな気もするのでした。

天帝様は「そのとおりだ」と答えます。
「そなたたちは聡い。大丈夫、手にした答えを、後は為すだけだ。できるな?」
そのお声は、牛飼いさんをとぷんと包み込むように響きました。
問いではありましたが、できる、と励ましてくださっているようで。
牛飼いさんはこくりと頷きました。
「はい。織り姫が、待っていますから」

「よかろう。牛飼い、仕事に励まれよ。今日までのようではなく」
微かに口調を改められた天帝様。 牛飼いさんは少し顔を赤らめて、「はい」と答えます。
嫌な予感、がしないわけではなかったのですが。

「そなたたちはすぐに会えよう。けれどしてしまったことは変えられぬ」
こちらに来て壁に手を付きなさい。
それがどういう意味か牛飼いさんは知っていましたから、
もう一度返事をするためには少しばかり時間が必要になったのでした。

「・・・はい」
嫌、だけど。天帝様のおっしゃることは正しくて。
言われるままに天帝様のお側に寄った牛飼いさんは、ひとつどうしても気になりました。
「・・・織り姫も?」
折りかけた身を起こして、天帝様を見上げます。
天帝様は牛飼いを腰の辺りで軽く抱え、ポンと背中をひとつ叩きました。

「さあ、どうだろうね。
織り姫の罪は織り姫のものだ。そなたの罪がそなたのものであるように。
支えられるなら支えてやれ、けれど代わってやることは出来ぬ」

・・・。織り姫も叱られたんだとわかってしまって。
いえ、ほんとはたぶん、聞く前からわかってて。
そう言われたわけではないのに、織り姫のためにできたはずのこと、できなかったことが牛飼いさんの胸に苦く迫ったのでした。

ぱあぁぁん!
天帝様の手が牛飼いさんのお尻に強く打ち付けられて。痛い、当たり前だけど。
織り姫もそう思ったのかと牛飼いさんは少し自分を慰めました。
織り姫が我慢したことを、耐えられないなんて嘘ですよね。

ぱあぁぁん!ぱあぁん!ぱあぁぁん!
痛い。それは自分のせいではあるのだけれど。織り姫が痛い思いをしたのも、それも。
ぱあぁん!ぱぁぁあん!ぱぁぁあん!
ほんとは、いろんなことが分かってた。自分のことも、織り姫のことも。
ぱぁぁん!
分かっていて目を逸らしたから。だから、叱られている。
会いたいけど、会いたいから。会い続けるためにはすることがある。
ぱぁぁぁん!

ぱぁぁん!
「私がそなたを罰するのは、あくまでそなたの分だけだ。
そもそも自分で立てていなければ、支えることもできぬ」
牛飼いさんの心を見透かす天帝様の声。
ぱぁぁぁん!
痛い、痛くて。そして恥ずかしい。確かにそれは自分のせいで。
ぱぁぁん!
でも正しいことを自分が望み、そして叶えられるのなら。
織り姫を支えられることを天帝様は否定してない。
ぱぁぁぁん!
自分のことだから、叱られてる。痛い思いをしている、わかってる。
織り姫だって、何かを牛飼いさんのせいにすることはない。
でもだからこそ、自分のためだけでなく後悔するのです。
自分がちゃんとすべきことをしていたら、織り姫とともにもそうできた、と。

ぱあぁん!ぱぁぁあん!ぱぁぁあん!
何回打たれたのでしょう。「ごめんなさい」と牛飼いさんはそっと呟きました。
それは天帝様に聞かせるためではなく、織り姫に対してでもなく、 自分に対するちいさな決意の呟きでした。
ぱあぁん!ぱぁぁあん!ぱぁぁあん!
ぱあぁん!ぱぁぁあん!ぱぁぁあん!
いくつも叩かれて、そして不意にそれは終わりました。

「さあ、もういいだろう」
天帝様は牛飼いさんを立たせて着物を整え、肩に手を置いてその目を覗きこみました。
「私は、川の右と左にそなたたちを分かつが。
すぐに会わせてやれることを、私も願う。牛飼い、大丈夫だね?」
牛飼いさんはきゅっとこぶしを握ります。
「はい」

「結構。そなたたちが二人で、本当に幸せであるように」
天帝様は微笑んで、言祝ぎとともに牛飼いさんの肩を軽く叩き、そして姿を消されました。
牛飼いさんが外を見ると、そこにはいつもと違う同じ川。
広い広い川の向こうのどこかに、織り姫はきっといるのでしょう。

「いつかまた、会えますように。できればはやく、会えますように」
牛飼いさんは呟いて、川の向こうの微かな灯りをひとときじっと眺めるのでした。



2011.7.16 up
こんな日付にたなばたさま。 去年()の対です。
M/Mって難しいです〜(笑)。/Fより恥ずかしいのです。叱られてる方も、痛いのと同じか
それ以上に恥ずかしいのが嫌、って気がします。まあ、そう書けてないけど(^^ゞ。
みなさま、七夕を楽しまれましたでしょうか?
こちらは生憎のお天気でしたが、雲の上はいつだって晴れ、 きっと二人は会っていると思います♪

素材:LITTLE HOUSE さま
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