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こんな天気の日にはさ

03 街をゆらす陽炎

その日、円花は朝からいろんなことがうまくいかないって顔をしていた。
体調が悪いのかと思ったぐらいだ。
「そんなことないです、元気です」 そんな答えが返ってきて、笑いはするんだけど微妙だぞ。
まあでも、思うようにいかないことって誰にでもある。
逆に気を遣わせるのも嫌だから、それ以上触れないようにしてたんだけど。

のどかな日差しの昼下がり。
俺の下宿でまったりしていた円花の携帯が不意に鳴った。

「取りなよ、俺は外に出てようか?」
「ありがと、でも大丈夫。ちょっとごめんなさい」
一瞬ためらったようにも見えた気がする、後から思えば。
しばらく円花は声を抑えて話していたが、そのうち俺にも聞こえてしまった。

「もういい、放っといてよ。電話切るから!」
おいおい。
電話の相手は母親らしい。
電話を切った円花は、しばらくこっちを向かなかった。

しまった、って思ってるんだよな。・・・それとも、怒って落ち着けないでいるんだろうか。
「円花、」
声をかけたら、向こうを向いたまま膝を抱えてしまった。

俺の目の前にいるのは、固く縮こまっているまど。
だけどほんとうは、それだけじゃないよな。
俺の目に二重写しで、はかなく頼りなげなまどの姿が揺らめく。

深呼吸をした。
怖がらせたいわけじゃない、放っておけないだけだ。
ときどき足を踏み外す彼女は、だけどとても素直だ。
付き合い始める前もその後も、窘めたことは何度もある。

「まど、」
「やだ、かけなおさない、謝らない。向こうが悪いんだもの」
まだ何も言ってない。でも、言いたいことは円花がわかってるとおりだな。
「お母さんなんだろ?何があったって、言っていいような口調じゃなかっただろ」
「いやっ、ゆうちゃんなんて何も知らないじゃない」
言うと同時に円花が息を呑んだのが分かった。

少し、待つ。円花も迷っているのが伝わる。
そして。
「・・・やだ・・・」
俺に聞こえるように呟いて、彼女はいっそう小さく硬く丸まった。

こんなに頑なになるのは、はじめてだ。
こんなに放っておけないと思うのも。

迷って閉じこもってそれが辛そうで。
頑なに閉じた扉の向こうに、素直な円花が確かにいるのに。
それはまど自身にさえ捕まえられない、まるでかげろうのように。

「まど、こっち向いて」
どうしたら扉が開くのか。
近づいて肩に触れたら余計に下を向かせて、だから俺はちょっと手荒な方法を決心した。



素材:Little Eden さま
お題:午前零時の鐘 さま

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