「ただいまぁ」と慌てて帰ってきたけど、修ちゃんの方が早かったみたい。
「おかえり」って声がいつもは嬉しいんだけど、今日ばかりはそうじゃない。
「あ、あの、えっと、ただいま」
「おかえり」
修ちゃんの声は怒ってはないようだけど、どうだろう。
聞くべきか、聞いたら藪蛇か、どうしよう。
ちらり、と問題のモノに目を遣ると回ってる。
あーもう、どっちだったのかな。
ちらり、と今度は修ちゃんを見ると、目が合っちゃう。
うう、さっきからのあたしの不審な態度、修ちゃん全部見てるってことだよね。
だめだ、どうにも隠しようがない。
・・・隠せないから話すって、正直でも何でもないんだけどね。
「えーっと、あの。それ、ついてた?」
修ちゃんはあたしに届くか届かないかくらいの声で、よくできましたと呟いた。
もちろん、はっきりした答えは別に返る。
「ついてたよ、残念ながらね」
あーあ。
「なんとも・・・なかった?」
「今日のところはね。幸いに」
まあ、だからいま回っているのよね。
今朝家をでたのは、あたしの方が遅かった。
あたしは、いつも家を出るぎりぎりまで扇風機を回してて。
今朝は家を出てからそれを止めたかどうかわかんなくなっちゃったんだ。
それで残業もそこそこに、慌てて帰ってきたってわけ。
修ちゃんより早ければばれないって思ったことは・・・否定できない。
「・・・ごめんなさい」
そうだね、って修ちゃんは厳しめの声。
「ちゃんと気をつけられるようにしとこうか」
ふぇ。
ぱぁん!
「家を出るときはちゃんと確認しなさいって、いつも言ってるよね?」
ぱぁん!
「ごめんなさぁい・・・」
ぱぁん!
「付けっぱなしじゃ、モーターに負担かかるでしょ。何より、電力の無駄だし」
ぱぁん!
「うん、わかってる」
ぱぁん!
「ほんとに?」
ぱぁん!
「ほんとにほんとに!明日からちゃんと気をつけるから!」
ぱぁん!ぱぁん!
あ、でも。「明日から」って今日気をつけなかったわけじゃないんだよ?
それを言った方がいいのか言わない方がいいのか、あたしが悩んでる間に。
ぱぁん!
先に言ったのは修ちゃんだった。
「まあ、気をつけてたから慌てて帰ってきたんだよね」
・・・・。どうかな。
修ちゃんがそう言ってくれるのも、なんか困っちゃうんだよね。
「修ちゃんに、見つかりたくなかっただけかも・・・」
ぱぁん!
「そう?祥ちゃんは正直だよ?
明日からも気をつけようね」
ぱぁん!
・・・・・痛かったでしょ。
いつの間にか修ちゃんの手はあたしのお尻を撫でていて。
「だ、だいじょうぶ・・・ごめんなさい」
それはもちろん痛いんだけど、撫でてくれるのが修ちゃんだからさ。
あたしの方が帰るの遅くてよかったかなぁ、なんて思って。
あたしの方が先だったら、言ったかな言わなかったかな、どうしたかな。
あたしが正直だなんて、あたしは思えない気がするんだけど。
そんなこと、修ちゃんには言えないよね。
そんなことで悩むよりは、家出る前にちゃんと確認する方が絶対簡単。
ちゃんと気を付けようって、不純な動機で思ったんだ。
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