■ 日記のふりをした日記でないもの ■


声を包む
2012.05.27
かちゃん。
オペレーターさんと話し終えて受話器を置いた音は、 やばいと思ったほどは大きくなかったはず。 そう思いつつ振り向いたら、修ちゃんが廊下に出てきてた。
「聞いてた・・・?」
思わず尋ねちゃったけど、答えてもらうまでもない。
かなりトゲトゲの応対してたあたしの声、聞いて、心配してくれたんだ。
そして困った顔してる。ううう、そりゃまあ、そうだよね。
あたしはこてっと修ちゃんの胸に頭を預けた。

「大丈夫?」
「うん」
修ちゃんはちょっと微笑む。
「ん、途中から気づいて直してたもんね」
そうなんだけど。それって結局、言い過ぎたって思う口調になっちゃったから。
あとで丁寧に言い直したからって、言わなかったことにはならなくて。
「ごめんなさい」
つぶやくとキュッと抱かれて。

「おいで?」
声にはいろんなものが載る。
褒めてくれるみたいに穏やかな、でも怖い修ちゃんの声に、あたしはこくんと頷いた。

声を荒げた、っていうわけじゃない。
悪い言葉を使ったわけでもない。
ただ、ちょっと。
ちょっといらいらして、それで。
例えば紙に書いたら全く問題ない言葉、丁寧だって言ってもいい言葉だとしても、嫌な口調だったのはあたしがよおく知っていて。
あたしが知ってるだけじゃない、電話の向こうにも、そして修ちゃんにも
それは確実に伝わっている。

「自分のしたこと、考えなさい?」
それだけ言われて、ぱちぃん!
ぱちぃん!
ゆっくりと振り下ろされる手は、とっても痛かった。

ぱちぃん!ぱちぃん!
修ちゃんはあまり話さない。
ぱちぃん!
痛い。・・・痛くされるようなことした。

嫌な声。あたしの中の気持ちを、そのまま表した声。
伝わっている、っていうかあたしが伝えた。
そういう声を選んだの、あたしだもんね。
・・・・。
ぱちぃん!ぱちぃん!

「電話の向こう側にいる人も、がんばって働いてるよね。
ふだん祥ちゃんがそうしてるみたいに」
ぱちぃん!
手を動かしてる合間に、修ちゃんは呟いた。

うん。
電話の向こうのひとも、イライラしたり、嫌な気持ちになったり、きっとする。
それから、明日の予定があったり。
あたしと一緒。

ぱちぃん!ぱちぃん!

ぱちぃん!
理由はあったんだよ。でも、理由があってもだめなんだよね。
ぱちぃん!

手続きをお願いして、いくつか確認されて、
どれくらいかかるのかって聞いたらはっきりした答えがなくって。
ちゃんと説明してくれない、って思ったんだ。
ぱちぃん!
思っちゃいけないのかは、わかんないけど。
どうかな。

・・・。焦ってたのかなあ、あたし。
腹を立てるようなことでもなかった、よね。
ぱちぃん!
今日、全部はっきりさせたかったのって、たぶん、明日の予定があるからで。
でも、そんなの電話の向こうにわかるわけない。
ぱちぃん!

・・・分かっても分からなくても、当たっちゃダメなんだけど。

ぱちぃん!

お尻が痛くて、痛いのも当然で、でももうやだ、ってくらい叩かれて。
ふえぇん、痛いよ。

ぱちぃん!

もう、やだぁ・・・
ちいさなちいさな声で呟いたら、地獄耳さんからはきっちりお返事が返った。
「仕方ないよね?」
ぱちぃん!
うーっ・・・そうだけどさ。
ぱちぃん!

それからいくつ叩かれたのかな、なんだかもうよくわかんないけど。
いつの間にか修ちゃんはあたしを抱いてた。ふんわり、しっかり。
修ちゃんに抱かれていると、いらいらしたのとか忘れちゃう。
お尻は痛いんだけど、それでも。

「痛かった・・」
「そう?」
修ちゃんの声はふんわりあたしを包み込む。
「もうしないよね」
しないけどさ。

あたしの声はぷうっとふくれてた。
「ん?」なんて突っ込まれて、「しないってば」ってそんな声で言い張る。
ふくれてるのは、甘えてるだけだもん。え、余計だめだって?

えへへ、と笑うのを睨む修ちゃんも笑ってる。
大丈夫、笑っていられて幸せだから。
ふんわりいらいらを包む優しい気持ちを胸の内に。
修ちゃんが包んでくれるあたしの気持ち。あたしもあたしを包めますように。


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