「ただいまぁ」と帰ってきたとき、お姉ちゃんはリビングで洗濯物を畳んでた。
「お帰りなさい、洗濯物入れといたから」
「うん、ありがと」
私かお姉ちゃんの早く帰ってきた方が畳んでおくことになっている。
洗濯物の山はまだ半分くらい残ってたけど、
お姉ちゃんが手伝ってと言わなかったのをいいことに私は台所へ向かった。
「外、もう結構寒かったよ。カフェオレ作るけどお姉ちゃんも飲む?」
「あー、ありがと。でもこれ片づけてからにするわ、あとちょっとだし」
インスタントコーヒーを少しのお湯で溶き、ミルクを入れて電子レンジに。
すぐにチィンとレンジが答えて、私はお姉ちゃんとおしゃべりするためリビングに戻った。
「お姉ちゃん、今日はどこか出かけた?」
「え?ああ、本屋に行ってあといくつか買い物してきたの、
・・・と、ちょっと、夏紀ちゃん」
マグカップを持ったまま、お姉ちゃんの隣に座ろうと歩いてた私は
その呼び声にふっと体を動かして、そしたらカフェオレがぴしゃんと跳ねた。
真っ白な洗いたてのお姉ちゃんのブラウスに、ぽとりと珈琲色の染み。
「「あ。」」
「あーあ、遅かったわ」
ふたりの声がそろった後に、ため息をついたお姉ちゃん。
「え?」
何のことかわからなくて聞き返した私を、軽く睨んで言った。
「リビングで仕事中に、飲み物持って来ないでって言うつもりだったのよ。
ちょっと話はあと、洗ってくるから待っててちょうだい」
「あ、えっと、ええと。ごめん」
そういえば、お姉ちゃんからもお母さんからも、たまに言われる。
テーブルにカップを置きつつ、そこで待っていられる気分でもなかったから、
お姉ちゃんの後について洗面所へ。お姉ちゃんは手早くブラウスを手洗いしたけれど、
それはまだなんとなくくすんでいた。
「落ちない?」
「うーん。ちょっと漂白剤につけておけば大丈夫かしら」
ま、なるようにしかならないわよ。
お姉ちゃんは軽く言って、私はちょっとほっとしたんだけど。
でもリビングに戻ったお姉ちゃんは、ふうっと息をつきながら。
ソファーで隣に座った私の手首を掴んだ。
「夏紀ちゃん、何度か注意されてるわよね?」
「う、うん・・・」
「いらっしゃいな、お仕置きよ」
うぇ・・・。
お姉ちゃんは、たまに私のお尻を叩く。
それはまあ、私が悪いときばっかりなんだけど、だけど、でも。
「えっ、やだぁ・・・ごめんなさいってば」
ふふっとお姉ちゃんはわらった。
「だぁめ、夏紀ちゃんがいけないのよ?怒ってるんですからね」
怒ってるように、聞こえない。
だけど、言ったことを変えるようなこともないんだよね、このひと。
「もうしないから、ねぇ」
それでも、とりあえず言ってみる。
「そうねぇ。実害が出る前にその言葉聞きたかったかしら」
うぅ、そう言われると弱い。お姉ちゃんのブラウス汚したの確かだし。
「あれ、もう落ちない?」
不安になって言うと、お姉ちゃんはなぜかきょとんとした。
「え、なに?・・・あぁ、あたしのブラウス?
あれは気にしなくていいわよ、たぶん落ちるんじゃない?」
軽くあしらわれて、さらにそれから。
「ああ、でも。気にしてくれた方がもうしない?
じゃあ気にしてもらおうかしら」
・・・そんなふうに、言われても。
返事に窮した私に、お姉ちゃんは「まぁ、どちらでもいいわよ」とうそぶく。
「落ちても落ちなくても、お仕置きは同じだもの。
ちゃんと、零す前に考えてよね」
そう、なのかなぁ?どっちでもいいってことじゃないような気もするけど。
うーん、でも、落ちればいいってことでもない?
「夏紀ちゃん、お返事は?」
「・・・はぁい」
首を傾げつつも、でもここは「はい」以外の返事はない。
そしたらお姉ちゃんは「じゃ、いらっしゃい」とにっこり笑った。
うぅ。
結局は逃げようがないから、私の手を引くお姉ちゃんに体を預けることになる。
お姉ちゃんはふふっとまた笑って、私のスカートを上げてしまった。
「それじゃ、ちょっと我慢なさい」
ぱしぃん!
お姉ちゃんって、そんなに力が強いわけじゃないと思うのに。
でもいっつもすごく、痛いんだよね。
ぱしん!
「せっかくお洗濯したのに、うっかり汚したら嫌よね?」
ぱぁん!
「危ないことやってると、いつかは事故が起こるのよねぇ」
ぱぁん!
「何か起こる前に、ちゃんと考えて、行動なさいね」
ぱしぃん!
お姉ちゃんは話しながらゆっくり手を振り落す。
ぱぁん!
「今度から気を付けるからぁ」
ぱぁん!
泣いてみるけど、止めてくれないんだよ。
「そうして頂戴。でもそれはそれ、お仕置きはお仕置きよ?」
ぱぁん!
「ひどぉい・・・」
「そうかしら?」
思わず言っちゃう不満にも、含み笑いで軽く返される。
ぱしぃん!
手を緩めてはくれないんだよね。
余計に痛くされないだけましなのかもしれないけど。ぱぁぁん!
ぱぁん!ぱしぃん!
「ごめんなさぁい・・・」
ぱしん!ぱぁん!ぱしぃぃん!
たっぷりお尻を熱くされてから、ようやくお姉ちゃんの手は止まった。
「これくらいでいいかしら。夏紀ちゃん、気を付けてね」
「はぁい」
イイコのお返事に、お姉ちゃんはふわりと笑う。
「それじゃあ、お茶にしましょうか」
「うん!」
冷めちゃったカフェオレを温め直し、お姉ちゃんの分も新規作成。
その間にお姉ちゃんは洗濯物を片づけて、私は二人分のマグカップをリビングに運ぶ。
「夏紀ちゃん、ありがとう」
ソファーでふたり他愛無いおしゃべりをしながら甘めのカフェオレ。
ふかふかのクッションの上でも私がときおり顔をしかめて座る位置をずらすのに、
お姉ちゃんはくすくすと笑うのだった。
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