■ 日記のふりをした日記でないもの ■


Pay the price
2011.07.23
「双葉、これ、今月の請求書なんだけど」
三咲兄にお部屋に呼ばれて見せられたのは携帯電話の請求書。
えぇっと、えっと、・・・7,903円?
うわー、やばいとは思ってたけど、こんなに?
うろたえてお兄の顔を見たらじっと見つめ返されて、あたしは首をすくめた。

「心当たりはあるんでしょ?一体、何に使ったの」
何にって、その、明細から明らかなとおりパケ代に。
改めて見ると、サイト閲覧分だけで5,951円にもなってる。
これって、定額制サービスの方が安いくらいの使用料だよね。

「えーっと、だから、その、ネットに」
「あのね、見れば分かることを聞いているんじゃないの。
そもそも、インターネットは家のパソコンでやることにして、
携帯で使うのは必要最低限、って約束だったよね。違ったっけ?」
「ちがわない・・・」
三咲兄、わざわざそういうこと聞くの、意地悪だよ。
まったくもっておっしゃるとおりなんだけど。

「言いたくないような使い方した、ってことはわかったけどね。
何か事情があるのかとも思ったけど・・・。で、何に使ったの」
うっ。
さっきすらすらと嘘がつけたらよかったのか、なんて一瞬思っちゃう。
や、そりゃ、ダメなんだけどさ。あー、でも言いたくない。

「な、何だったかな・・・」
「双葉」
ごまかしたい気持ちの呟きには、きゅっと竦み上がるくらい厳しい口調が返ってきて。
「これだけいつもと違う使い方して、何に使ったかも思い出せないくらい
自己管理できてないんだったら、携帯なんか危なくて持たせられない。
それでもいいなら、そういうことにしておこうか」

・・・・・。
これまた一瞬、その方がいいかな、とか思っちゃう。
携帯返せば、今回のお仕置きはないってことだよね。
そう思った自分に自分で呆れる。実際、ないと不便で仕方ないんだから。
ゆきちゃん達と連絡できなくなっちゃうし、
ちょっと家にお迎えお願いすることだってできない、絶対無理!
・・・それじゃなくてもそういう子供扱い、三咲兄にされたくないよ。

「やだ、あの、・・・。ごめんなさい」
「覚えてるんだね、それはよかった。それで?
言いたくないのはよくわかったけど、自分でしたことでしょ。
ちゃんと言いなさい、こんなに、何に使ったの」
はぁ。厳しい。あたしはしぶしぶ小さい声で答えた。

「えぇっと・・・ごめんなさい。ネットゲーム、してたから・・・」
どうしても、お昼間にログインしたいこととかちょこちょこあって。
ゲームの中身までは聞かれずに済んだけど、お兄の追及は、ほんとに意地悪。
「それは必要最低限に入るわけ?」
「まさか!だから、ごめんなさいっ!」
「まったく。それに、途中で携帯会社から使用料のお知らせ来なかった?
5,000円超えたら通知されるようにしてたはずなんだけど」
「あ〜、え〜っと・・・。来たかも」
ほんとははっきり、覚えてる。
これまでそんなに使ったことなかったから、何だろこれ?って思ってたんだけど。 三咲兄のした設定だったのか・・・。はぁぁ。

「で、結果は約8,000円。通知を見ても止められなかったわけだ。どうして?」
「どうして、って・・・」
ちょっとだけ、って思ったから。
それに、三咲兄が毎月請求書をチェックしてるなんて思わなかった。

ほんとは、今までまったくゲームしたことないわけじゃないんだ。
すっごく手持ち無沙汰なときとか、
ゲームじゃなくてもサイトをいまチェックしたいとか、
「必要最低限」以外のこと、まったくしなかったわけじゃないんだけど。

それでも、ここまで使ったのははじめてだよね。
いつもは、そういうの入れてもトータル3,000円前後で収まってたわけで。
ちょっとだけならいいって思った、とか言ったら怒られるんだろうな・・・。
それとも、「これがちょっとなの?」って怒られるかな。
どっちにしても怒られることに変わりはないけどね。

「気付いても止められないんだったら、来月も止められないよね。
どうしようか?」
「え、や、そんなことない!ちゃんと気をつけるから!」
「ほんとに?できなかった子にそう言われても、信用ならないんだけど」
「ちゃんと気をつけるってば!・・・三咲兄がチェックしてるってこともわかったし」
「何だって?」

うわ、失言だった。本音だけどさ!
「や、あの、その!・・・。あーもう、だから、ごめんなさいってば!」
「何がごめんなさいなの、双葉ちゃん」
「いや、だから、その。わかってるってば、三咲兄がチェックしてるとか
そういう問題じゃなくて。約束したし。信用してほしいし!
約束破ってごめんなさい!ちょっとだけならって思ったの。ほんとにごめん。
ちゃんと守るから。ちょっとでも。チェックされてなくても!
・・・でもチェックされてるってわかってたら余計に、守りやすい、かも」

慌てて言ったいろんなごめんなさい。
ばれないんだったら約束破っていいっていうのは、違うもんね。
って、あたしが今までやってたのってそういうことだったわけで、 三咲兄がいままで多少金額が増えても何も言わなかったのは信用してくれてたからで、 そういうことに自分で言ってから気付いて、あたしはちょっとへこんだ。
「ほんとに、ごめんなさい・・・」

三咲兄は頷いて、あたしの頭をぽんと撫でた。
そしてさっきのあたしの最後の言葉に、ちょっと笑ったらしかった。
「お望みのようだから、引き続き確認させていただきますが」
茶化して言って、そして真面目な口調で続ける。
「双葉はいろいろわかってるんだから、ちゃんとしなさい。
それだけ言えば、十分だよね」
「うん、あ、はい。がんばる」
そうだね、と。それじゃ、お膝においで、と三咲兄は言った。

あーあ、嫌なのに。でももう逃げ道ないよね、ここまでの展開って。
「ごめんなさい・・・」
三咲兄のベッドの上でお膝に体を預けると、スカートをふわっとめくられる感覚にきゅっと縮こまる。 下着も下げられちゃって、三咲兄のひやりとした手がお尻に触れた。

ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!
ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!

さっきのでお説教は終わりだったみたいで、何も言わずに叩かれる。
お説教聞きたいわけじゃないんだけどさ。ちょっと寂しいかなって思ったり。
うん、でも、言うべきことってみんな言ってもらったんだよね。
あとはあたしがやるだけなんだって、三咲兄はそう言ってるわけで。
痛い、って言いたいのを飲み込んで、あたしも黙って我慢した。

ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!
ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!ぱちぃん!

ちょうど二十叩かれて、お仕置きは終わったみたい。
「ちゃんと我慢したね、偉い偉い」
子供みたいにあやすのやめてほしい。抗議したら心外だなって顔をされた。
「子供じゃないからね、だから我慢したんでしょ? すべきことが分かってて、ちゃんとそれができるなら、いくつでもそれは偉いと思うよ」
う〜ん?

混乱しているあたしに、三咲兄は追い討ち?をかけた。
「それから、双葉。子供じゃないからもう一つペナルティ。
普段との差額、5,000円。その半額だな、2,500円自分で出しなさい」
あ〜、それは、はい。
ごもっともで、抗議もできない、っていうか。
「ちゃんと5,000円全部払うよ・・・分割じゃなきゃ無理だけど」

三咲兄は笑ったけれど、首を縦には振らなかった。
「いい子だ。でも、全額払わせるつもりはないよ。半分は僕が払っとく。
お金だけの話と思われても困るからね、双葉は間違えないだろうけど」
う〜。
なんていうか、それはきっと子供扱い、なんだけど。
確かにそもそもお小遣いをもらってる身のあたしは、大人じゃなくて。
でも無駄遣い、叱られてそれでお終いっていう子供の世界とも、ちょっとだけ違って。

「むぅ・・・ありがとう。ごめんなさい」
実際問題、あたしにとって5,000円の出費は多少どころでなくお財布に痛くって、 あたしはありがたく三咲兄に従う。
「双葉のお小遣いじゃ2,500円も分割でしょ。いつでもいいから持っておいで」 「はぁい」そんな会話を交わしながら。

あたしは子供で、子供じゃなくて。
どっちにせよ、無駄遣いもだめで、約束守らないのもだめで。
すべきことが分かってて、ちゃんとそれができるなら。
確かにいくつでも、そうじゃなくっちゃいけなくって。

それでも結局あたしは、気をつけるから信用してね、でもチェックもしてね、って矛盾してるかもしれないことを思ったのだった。


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