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「初詣行こうよ!」って妹が騒いでちょっと遠くまで足を延ばした稲荷神社。
 さすがに近所のお宮とは人出が違う。
 俺も三が日に来るのは初めてで、進むのもままならない状況に目が点状態。
 やっと油揚げ供えて参拝して、ん、双葉はそのお供えのその後が相当気になっていたらしいけど。
 
 露店を冷やかす帰りの参道も、すごい人。
 「しっかし、よくこんなに人いるもんだよなぁ」
 ぼやいたら、
 「それがいいんじゃん!お祭りってカンジで」
 って、言い返された。お祭りって、おい、初詣だけどな。
 兄貴は横で笑っている。
 双葉はあっちを見、こっちを見、「はぐれないでよ」と釘を刺されて。
「だいじょうぶだよ〜」なんて言ってた、それがついさっきのことだと思うんだけど。
 
 「あれ、陸、双葉は?」
 「へ?あれ?」
 
 ちょっと兄貴と話しながら歩いてたら、いつの間にか横にいると思ってた双葉がいねぇ。
 二人して立ち止まって、辺りを見回して、・・・人の流れは一方通行なんだからさ、前にいるか後にいるかどっちかで、全然見当外れのところにいるってはずはねぇんだけどさ。
 
 「うーん、どっか店見てんのかな?少し待つ?」
 「そうだね、先には行ってないとは思うけど」
 待つこと数分。
 「うーん、やっぱり先に行っちゃったのかな?
 だったら双葉の方が先で待ってるかも知れないね」
 どっちだろ。双葉が携帯持ってれば話は早ぇんだけど。
 残念ながら俺も双葉もまだ持ってねぇ。
 
 「兄貴、双葉に携帯買ってやってよ、ついでに俺も」
 「そういう話じゃないでしょ?まったく、どこ行ったんだか」
 茶化した発言は兄貴の機嫌を悪化させたっぽい。
 しかしまあ、双葉、確かにどこ行ったんだ?
 
 「兄貴、ここにいてよ。俺ちょっと、探してくるからさ」
 「そうだね、お願いできる?・・・あ!」
 そんな話をしていたときに、ようやく(?)何か抱えた双葉がかけよって来た。
(まあ、人混みの中だから走れやしないんだけどさ)
 
 「双葉!どこ行ってたの!」
 「あ、うん、ちょっと。そうだ、お兄たちにもこれ」
 妹が差し出したのは、串かつ3本。
 「双葉、これ買ってたの?」
 兄貴の声が、ぴき、って音を立てそう。
 
 「うん、おいしそうだったから・・・って、あ、ごめん、すごく待たせた?」
 「待たせた?じゃないでしょ。はぐれないように、って言ったよね?
 勝手に寄り道なんかして」
 「う、だってみんなで食べたかったんだもん、
 こんなにかかるなんて思わなかったし」
 あー、双葉、言い訳は逆効果だと思うぞ、ってまあ、俺がその立場でも言うとは思うけど。
 
 「双葉。そういうことじゃないでしょ。言わなきゃいけないことは何?」
 「だっ!・・・・。」
 兄貴の口調に双葉はまた反論しようとしたようだけど・・・お、飲み込んだ。
 
 「・・・心配かけて、ごめんなさい。次からちゃんと、言ってから寄るから。ごめんなさいっ」
 
 おー、偉いじゃん。兄貴を見つめて言った双葉に、三咲兄はかすかに笑ってその頭をぽんと軽く叩いた。
 「そうだね。じゃ、あとの話は帰った後にしようか」
 
 う。
 双葉も、俺も固まっちゃう。
 確かに、兄貴は謝ったからって見逃してくれるタイプじゃないんだけどさ。
 いまもう怒ってないのもわかる。でもそれはそれ、なんだよな三咲兄って。
 しゅん、とした双葉に「帰るまで忘れてていいよ」って、そりゃ兄貴とすればそれは気遣いなんだろうけど、そんなの無理だって。
 
 「あー、兄貴?」
 「うん?」
 何か言いたいけどうまく言えねぇ俺は、ひとつ大きく息をついた。
 「双葉、」
 「え?あ、やっ!」
 
 ぱぁん!と。
 
 「陸、そんな、人前で」
 「こんな人混みで誰も見てねぇって。帰るまで引きずる方が嫌じゃん。
 これで終わりでいいだろ、兄貴」
 兄貴は、今度ははっきりと苦笑した。
 
 「で、双葉が奢ってくれたんだからさ、食おうぜ、串かつ」
 「陸、まさかそれ食べたかっただけじゃ・・・って冗談だよ、わかった。
 双葉も、もうしないね?」
 「うん、気をつけるから!ごめんなさいっ」
 
 「じゃあ、話は終わり。折角だからこれいただこうか」
 「「うん!」」
 
 ちょっと冷めちゃってたけど、無事に美味しくご馳走さま。
 双葉の小遣いで俺たちの分まで買うのって、たぶん結構奮発したってところだし。
 
 「陸兄、ありがと。・・・今年もよろしくお願いします」
 食べ終えた双葉はこそっと囁いた。
 今年もよろしくって、この文脈で、なんだよ、それ。
 
 何はともあれ、HappyNewYear。
 俺も双葉も、そこそこ無事で、いい一年になりますように。
 
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