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「で、言い訳があったら聞くけど?」「え?」
 「昨日から喉が痛いって言ってて、今朝はくしゃみが止まらなくて、そんなあからさまに風邪引いてるのに雨の中かさも差さずに濡れて帰ってきたことの言い訳があったら聞くって言ってんだけど?」
 一志叔父さんが凄むと、結構怖い。
 で、前に立つとどうしてもしどろもどろになっちゃう私がいる。
 さっき無理やり入れられた熱いお風呂のせいだけじゃなくて、たぶん私の顔は真っ赤だ。
 
 「そ、それは、その」
 「何?」
 「傘、学校に忘れてきちゃって」
 「で?」
 「それで、って・・・だから」
 「それで理由になるって思ってんの?」
 
 お仕置き決定な、こっちおいで、って。
 あっさり宣告されると固まっちゃう。
 「何、自分じゃこっち来れねぇの?」
 だってだってそんな、お仕置きされたい子なんているわけないのに。
 とは言ってもこのままじゃ事態は好転しない、どころかむしろ悪化してしまうのよね。
 
 「OK、反省してないって理解していいんだな?
 ま、たっぷり躾けてやるから安心しろよ」
 「や、やだ!反省してます!許して!」
 「だぁめ。
 しっかりお尻に教えてやらないと、裕子サンはまた同じ事するだろ?」
 「ご、ごめんなさい!もうしませんからっ!」
 叫んではみる。でも、効果がないことは実は知ってる。
 叔父さんと一緒に暮らし始めてまだそんなに経ってないけど、けど、容赦なくお仕置きされたのはもう一度や二度のことじゃないのよ。
 
 「ほら、こっちおいで。悪い子にはお仕置きだ」
 一志叔父さんはあたしの手を掴んで、あたしを畳の上に引き倒しちゃった。
 膝の上でぐいっと下着が下ろされちゃう。
 裸のお尻が寒くって、これまたさっき無理やり着せられた上着と温度差がひどいったら。矛盾してない?
 
 「やぁ、やだぁ!一志さん、お尻はやだぁ!」
 寒いのもだけど、一志叔父さん(叔父さん、と言うと怒るのよ、理不尽なことに。)にお尻を見られるのはほんとに恥ずかしい。
 それが嫌で駄々をこねるみたいな嫌がり方をついついしちゃう。
 無理もないと思わない?
 でもね、その結果は凶と出るのよ、わかってる、わかってるんだけどさ。
 
 「悪い子のお仕置きはお尻叩きって決まってんだ。往生際悪いぞ?」
 「や、嫌です!もう"悪い子"なんて歳じゃないのに!」
 「悪い事して叱られて素直に反省できないのは子供だろ?」
 「だって!そんなに悪い事なんてしてないっていうのに!」
 「ほら、反省してないだろ。みっちり教えてやるからさ」
 「そんなぁ!」
 
 ぱちぃぃん!
 「痛ぁいっ!」
 一志叔父さんは力も強い。ちょっとは手加減してくれて然るべきじゃないの?
 ぱちぃぃん!
 「やだぁっ!いたぁいっ!」
 暴れようとしても完全に押さえられてる。逃げることなんて到底無理で、泣く以外できることがないのよ。
 ぱちぃぃん!
 「やだぁ!ごめんなさぁい!」
 
 ぱちぃぃん!
 早々に謝っても、それだけで手が止まるほど甘くはないのよね。
 ぱちぃぃん!
 「ふぅん。何がごめんなさいなのか、分かってんのか?」
 「ぇ、や、かさ差さないで帰ってきたから、」
 だよね。でもさ、それってそんなに悪い事なわけ??
 そうは思いつつも、どうにか手を止めてほしいから言っておく。
 ところが。
 
 ぱちぃぃん!
 「で、それの何が悪いんだ?」
 「はぁ?だって一志さん、怒ったじゃない」
 ぱちぃぃん!
 「ん、怒ってるぜ?で、何が悪いんだ?」
 「えぇ?い、意味わかんない、怒ってるのはそっちなのにっ!」
 ぱちぃぃん!
 「ほら、反省してないだろ。たっぷりお仕置きだな」
 「えぇぇ?何でよぉ!」
 
 意味わかんない。一志さん、意地悪。
 でもそれを口にしちゃいけないってことは、学習したのよ。
 ぱちぃぃん!
 「痛ぁい!ごめんなさいってば!」
 たぶんもう、お尻も真っ赤。
 さっきのお風呂のおかげで、寒くはないんだけどさ。・・・あ、それ言えばいいのかな?!
 ぱちぃぃん!
 「や、ごめんなさいっ!濡れると寒いか・・・風邪引くから?!」
 ぱちぃん!
 「おいおい、風邪引くって、裕子サンもうとっくに風邪引いてただろ?
 まあいいだろ、で、風邪引くと何が悪いんだ?」
 ぱちぃぃん!
 「えぇ?」
 
 ほんとに、意地悪だと思わない?だけどそうは言えないのが辛いところ。
 ぱちぃぃん!
 「風邪引いて何が悪いって・・・えぇ?わかんないってば!」
 ぱちぃぃん!
 「そうか?じゃあまだまだ終われないな」
 ぱちぃぃん!
 「や、やだぁ!痛いってば!」
 ぱちぃぃん!
 「痛いの嫌なのか?どうして?」
 「はぁぁ?!当たり前でしょ?」
 こんな訳の分からないやり取りで、ようやく一志叔父さんはヒントをくれる。
 ぱちぃぃん!
 
 ぱちぃぃん!
 「裕子サン、別に風邪こじらせたって構わないんだろ?」
 ぱちぃぃん!
 「え??あ、やだ、そんなことないですっ!
 痛いのも苦しいのも嫌だから。風邪も嫌ですっ。ごめんなさぁい!」
 ぱちぃぃん!
 「ん、まずはそれだな。自分の身体大事にしないのは、悪い事だろ?」
 ぱちぃぃん!
 「ふぇ、ごめんなさいってば!」
 
 ぱちぃぃん!
 「で、それから?」
 ぱちぃぃん!!
 「それから?」
 ぱしぃぃん!
 それから、何かな。何かなぁ・・・。
 見つけなきゃ手を止めてくれないんだろうけど、思いつかない。
 ぱしぃぃん!
 
 ぱしぃぃん!ぱしぃぃん!ぱしぃぃん!
 「裕子サン、ほんとに、思いつかない?」
 ぱしぃぃん!
 「・・・ごめんなさい・・・わかんなぃ・・・」
 ぱしぃぃん!
 「そうかぁ?裕子サンにはちゃんと分かるって。いい子だもん」
 「ふぇぇ・・・」
 ぱしぃん!
 そういう泣かせる言い方するのも、そのくせ手を止めてくれないのも、意地悪だって。
 そうは言っても自分も悪かったって思っちゃうと、残りの何かも自分が気付かなきゃいけないってことも分かっちゃう。
 それも意地悪、だと思うんだけどさ。
 
 ぱしぃぃん!
 「裕子サンはいい子だよ?俺が怒ってるのも、いま、ちょっとは仕方ないって思ってるだろ?」
 そういうの見透かすのは、止めてほしい。
 ぱしぃぃん!
 「・・・・・。」
 「言ってみ、裕子サン。俺が裕子サンを叱るの、何でだと思う?」
 ぱしぃぃん!
 「えぇ?私が自分を大事にしないで・・風邪こじらせるようなこと・・
 ・・あ・・・心配、かけたから・・・??」
 ぱしぃぃん!ぱしぃぃん!ぱしぃぃん!
 
 「ハイ、正解。裕子サンにひどい風邪引かせたら、俺、姉さんに顔向けできないぜ?」
 ・・・母さんは、確かにすっごく心配しちゃうんだろう。
 ・・・・・言わなかったけど、一志さんも、だよね。
 
 「ごめんなさぃ・・・」
 
 ちょっと手を止めてくれたくせに実はこれでお終いじゃあなくって、結局こってり叩かれて、ごめんなさいってそれからもう絶対しないって、何度も何度も言わさせられちゃったんだけど。
 無理やり着せられた上着がずっとあったかかったことに気付いてしまったから、素直に泣くしかできなかったのだった。
 
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