「おはよう。もう起きなよ、祥ちゃん」
「う〜ん、やだ・・・もうちょっと、寝かせてよぉ」
「そんなこと言ってると、遅刻しちゃうよ?ほら、」
「ん・・・もう少し・・・朝ご飯いらないからぁ」
「もう、祥ちゃん。何言ってるの」
あたしはとにかく、朝が苦手。春とはいってもまだまだ寒いし、春眠暁を覚えずだよねぇ。
10分早起きするよりは、朝ご飯なんていらないから寝てたい。
それはどうしようもなく本音なんだけど、それでそのままお布団に潜り込もうとしたんだけれど。
「祥ちゃん、起きなさい。朝ご飯食べなくていいなんてわけ、ないでしょ」
修ちゃんの声が怖ぁくなってたの、聞こえてたはずなんだけどやっぱり眠くて。それでお布団の中で耳を塞いじゃっていたのだった。
「う〜ん・・・いいからぁ。寝るんだもん」
「祥ちゃん?」
こういう名前の呼ばれ方って、つまり最後通告だってのは何度も体験してるのにね。だけどつい我儘言っちゃう。
「やだぁ・・・。おやすみ〜〜」
「祥ちゃん」
さっきは疑問形で呼ばれた名前が、今度は断定。
ここでごめんなさいが言えたら、まだ間に合うのかもしれないけど。
・・・って、そんなこと冷静に考えられるのは後からだけで、あたしはだってほんとに、眠かったの。
「・・・・・」
返事をしなかったあたしの様子に、修ちゃんも態度を決めちゃったわけ。
「祥ちゃん、起きなさい」
「きゃあ、やだ、寒い!」
布団をひゅっと剥ぎ取られちゃって、あたしは震える。
そしたらふわっと上着を投げかけられて。
うん、それはありがたいけど、でも、やだよぉ。
あったかいお布団が恋しいんだってばって、わ、えっと、だから!
いつの間にかあたしは修ちゃんのお膝の上に乗せられていて、で、パジャマを下げられちゃったらほんとに、いくら春だって寒くないわけがなかった。
「一人で起きれないならしょうがないよね、起こしてあげる。
朝ご飯もいらないんでしょ?だったらたっぷりお仕置きの時間はあるよね」
「え、何それ、嘘!!」
ぺちぃぃん!
「やだぁ、痛い!それに、寒いってばぁ!」
「大丈夫、すぐに寒くなんてなくなるよ。ほら、お尻あっためてあげるから」
ぺちぃぃん!!
「痛いよ!こんなふうにあっためてくれなくても、いいって!」
ぺちぃぃん!
た、確かにね、寒さなんてどこかへ吹っ飛んで行っちゃう。痛いから、こっちは必死で暴れちゃうんだし。ぺしぃぃん!ぺしぃぃん!きつぅい平手が次から次へとお尻に降ってきて、もちろん眼は覚めちゃった。こんなお膝の上よりは朝ご飯の方がいいに決まってる。ぺちぃぃん!
「やだぁ、痛いってば!ちゃんと起きて朝ご飯食べるから!ごめんなさい!」
ぺちぃぃん!
「もう遅いよ。祥ちゃん、朝ご飯いらないって言ったよね?
朝ご飯の時間分は、きっちりお仕置きしてあげるから」
ぺちぃぃん!
ぺちぃん!ぺちん!
「やだぁ!もういいよぉ、ごめんなさい!あたしが悪かったからぁ」
「だぁめ。いつもぎりぎりまで寝てて朝ご飯いい加減になってるでしょ。
一食くらい抜いても死なないから、ちょっと今日は反省しなさい?」
ぺちぃん!
「そんなぁ・・・ね、修ちゃん、朝ご飯抜いたら体に悪いって」
ぺちぃぃん!ぺしん!
「あ、あたし倒れちゃうかもしれないし。
職場でそんなことになったらみんなに心配かけるし」
ぺしぃん!ぺしぃぃん!ぺちぃぃん!
「それに、だってお腹空いたし!お昼まで持たないよ!ごめんなさぃ!」
・・・・・。
いくつ叩かれたのかいつ手が止まったのかよく解んなかったんだけど、ふと気がついたら修ちゃんは、大笑いしてた。
ひ、ひどいって!
痛かったのに、って抗議したら涙眼を拭きながら「それは祥ちゃんが悪いよ」なんて平然と言うから、ついむくれちゃうんだけど。
「まあ、いいや、それだけ分かってるなら、急いで朝ご飯食べちゃおう。
まだそれくらいの時間はあるよ」
その言葉に急いでお膝を逃げだしたあたしの耳に、僕も甘いよなあ、なんて呟きが聞こえた。
そんなことないって、きびしいよ!
お皿の上のほうれん草の卵とじをチンして、ホットミルクとトーストと修ちゃんと一緒に朝ご飯。
うん、起きちゃえば朝ご飯はおいしいの。実は一食抜けばてきめんにふらふらする体質だから、必要だってのも十分分かっちゃいるんだけど、けどけど、だけどね。
・・・やっぱりあたしには、朝ご飯を作ってくれる甘くて厳しい修ちゃんが、必要なみたいだった。
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