| 
最近ずっと、夜も暑いよね。ただでさえこの暑さじゃ、昼の仕事だけで体力使い果たしそうなのにさ。で、このところ僕は祥ちゃんよりも早く就寝することが多かったわけなんだけれど。夜中に喉が乾いて目を覚ましたときも祥ちゃんが隣にいないのに気づいたときには、おや?、って思った。
 
 たぶんもう、2時か3時。祥ちゃん、もしかしてリビングで眠り込んじゃったかな?なんて考えながら、水を飲もうとキッチンへ向かう。帰りに祥ちゃんを起こしてこなきゃ、って思ったら。
 
 「え、ちょっと、祥ちゃん、まだ起きてたの?!」
 「わ、修ちゃん!えっと、起きたの?・・・・・・・・。」
 「「起きたの?」じゃないでしょ?!今何時だと思ってるの
」
 「・・・・・、えっと・・・・・」
 「何時なの?」
 
 煌々と灯りのついたリビング。それはまあ予想の範囲内だったけど、祥ちゃんが何だか熱心に、と言ってもいいのか夢中になってパソコンに向かってたのはさすがに予想外だった。
 壁時計は午前3時を指している。・・・パソコンには時計がついているんだから、祥ちゃん、もちろん時刻分かってるよね?!
 
 ついきつい声が出ちゃったな、と一瞬は思ったんだけど「起きたの?」なんてお返事には思わずもっと怖い声を返しちゃった。
 祥ちゃん、見つかったって焦る前に言うことがあるんじゃない?
 
 何時なの、って僕の質問に祥ちゃんは答えないで、おずおずと僕を上目遣いに見上げてきた。そんな風に人を見なきゃいけなくなるようなこと、するんじゃないよっていつも言ってるのにね。
 
 「祥ちゃん、口が利けなくなったの?まあいいけど、言い訳も聞かないから。
 ほら、おいで」
 答えもないしごめんなさいも出てこない祥ちゃんには、お尻に教えてあげるしかない。黙ってぎゅっと手をつかんで、ソファーまで引っ張っていった。
 
 相変わらず言葉のない祥ちゃんに、やれやれと思いながら手を離して。僕はどさっとソファーに深く沈み込む。
 そしてそのまま祥ちゃんをお膝の上に引っ張り倒して、ぱちぃぃん!ってきついお仕置きをしようと思ったんだけど、・・・・・やめた。
 
 「おいで?」
 
 祥ちゃんは固まった。どうしよう行かなきゃ、でもでもって思ってる祥ちゃんを見やってそれから僕は、目を閉じる。
 ちいさく深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出す。
 この静かな暗闇は祥ちゃんのためじゃなくって、僕に必要なものだった。
 
 祥ちゃんは大丈夫、ちゃんと分かってるから。
 叱られるようなことしたって、分かってるよね。
 ごめんなさいって気持ちも、あるよね。
 
 自分でおいで、祥ちゃん。
 僕に思わずそう言わせたのは、僕の中のちょっと意地悪な気持ちと、大丈夫って疑わない気持ちと。そしてそれから、だから大丈夫だから、落ち着け、と。
 
 僕はいま、確かに怒っているけれど。
 その感情のままに祥ちゃんを叩いていいってわけじゃない。
 落ち着かなきゃいけないのは、僕だ。
 
 呼吸を整えながら、胸の中で数を数える。
 何も言わないのは、言う必要がないから。もちろん折れる必要もね。
 二十くらい数えたところで祥ちゃんの体が僕の膝におずおずと預けられる。
 祥ちゃんが必要とした時間は、たぶん僕も必要とした時間なのだ。ちょうどぴったり、同じだけ。
 
 いい子だよね、祥ちゃん。今日はちょっと悪い子だったけどさ。
 ねぇ。ほんとはいい子でいたいって、思っているのにね。
 
 夜更かしは体に良くないことなんだから。
 二度としないでいられるように厳しく教えてあげなきゃいけないけど。
 怒ってるけど。けどね、怒ってないよ。怒ってるけど。
 
 スカートを上げて下着を下げると、まだひんやりとした滑らかなお尻。
 そっと手を置いて、それから。
 ぱしぃぃん!
 結構厳しめにしたから、最初っから祥ちゃんは大泣きだった。
 ぱしぃぃん!
 
 ぱしぃぃん!ぱぁぁぁん!ぱしぃぃん!
 「いたぁいぃ!ごめんなさぁいぃ!」
 
 痛くしてるのもあるだろうけど、祥ちゃんの口からすぐにごめんなさいが出てきたのには少しほっとした。ねぇ、分かってるんだけどね、祥ちゃんが自分が悪いって知ってること。
 もっとも、知ってただけにすぐには許してあげられないけど。
 分かっててやっちゃうなんて、良くないよ?
 
 ぱしぃぃん!ぱしぃぃん!
 「いやぁ!もう夜更かししないから!」
 ぱしぃぃん!
 「修ちゃん、ごめんなさい!!」
 ぱしぃぃん!
 
 ごめんなさいももうしませんも言えてて偉いねって思うんだけど。
 でもね、今日はもうちょっと泣いてもらうから。
 だってほんとに、二度としないでほしいんだからね?
 ぱしぃぃん!
 
 「ごめんなさいはたっぷり痛い思いをしてもらってから聞くからね」
 「やぁぁ!ごめんなさいってばぁ!」
 ぱぁぁぁん!ぱぁぁん!
 
 「だって夜更かしがいけないなんて、祥ちゃんちゃんとわかってたでしょ?!
 それも3時までなんて。僕が起きてこなきゃいつ寝るつもりだったの?」
 ぱしぃぃん!ぱぁぁん!
 「うわぁん!ごめんなさぁい!」
 ぱぁぁぁん!ぱしぃぃん!
 
 「夜更かししてるとこんな痛い目に遭うって骨身に染みるまで、
 今日は許してあげないよ」
 ぱしぃぃん!ぱちぃぃん!
 「や、やだ、いたぁい!・・・もう十分わかったからぁ!」
 ぱぁぁぁん!ぱしぃぃん!ぱぁぁん!
 
 やだやだとごめんなさいともうしませんを祥ちゃんは何度も繰り返す。
 ぱぁぁん!ぱしぃぃん!ぱぁぁぁん!ぱしぃん!
 そろそろお尻は真っ赤に染まって、まるで林檎のようないろ。
 そろそろ分かってくれたかな?
 夜更かしすると、こんなに痛い思いをするんだからね?
 
 ぱしぃぃん!ぱぁぁぁん!ぱしぃぃん!
 「ふぇぇ・・・ごめんなさいぃ・・・」
 もうしないよね?
 ぱぁぁん!
 
 「・・・・・祥ちゃん、ほんとに分かった?」
 「うん!ちゃんとわかった!もうしないからぁ!」
 「ほんとに?!」
 「ほんとだってばぁ!ごめんなさい!」
 
 かなりしつこく念を押して、僕はようやく手を止めた。
 結構強く、そしてたくさん叩いたから僕の手も、そしてそれより祥ちゃんのお尻も真っ赤になってる。そっと手を置くと、じんじん熱かった。
 
 「夜更かしして辛いのは祥子だろ?ほんとに、もう」
 心配してるんだよ。それも祥ちゃん、分かってくれてると思うけどね。
 「うぇ・・・ごめんなさい・・・」
 案の定余計に泣かせちゃって、僕はしばらく祥ちゃんのお尻を撫でていた。・・・痛かったよね。
 
 祥ちゃんも僕もゆっくりと落ち着いたころ、僕は声を上げた。
 「さ、寝ようか」
 二人とも、早く寝ないと明日が辛い(実はもう、「今日」なんだけど)。あ、でも。大事なことまだ言ってなかった。
 「明日からは1時前には寝ること。いい?」
 
 ・・・・・。お返事はない。祥ちゃん、まだ起きていたいんだ?
 もっともそんなの、認めないけどね。
 「これは言いつけだからね、祥ちゃんの意見は聞かないよ」
 先手を打っとく。だって、早く寝てもらわなきゃ困るんだから。
 
 僕だってそう毎日手が真っ赤になるのは嫌だよ?
 祥ちゃんだって、もちろん嫌だよね。
 ・・・なんて意地悪に言ってみなくても、祥ちゃん僕の言いたいことを分かってるよね。
 
 「・・・そんな、子供扱い・・・」
 ふふ、と思わず笑いが零れる。うん、よく分かってるよね。
 大人ってどういうことなのか、分かってる君は大人だよ。
 「大人だって証明してくれるの、待ってるよ?」
 
 ずるい!って祥ちゃんの顔が言ってる。うん。
 「体、大事にしてよ」
 僕はこれが祥ちゃんを黙らせちゃうずるい言い方だって知っていたけど。
 でもね、だってホントにそう思ってるんだから。
 
 祥ちゃんにそれを実現してもらうためならたぶんどんな方法でも採れちゃう狡い僕は、素直な祥ちゃんと手をつないで寝室に戻ったのだった。
 |