77777Hit記念でキャラ勢揃い。
といきたかったところですが力量の問題で、双葉ちゃんと雪菜ちゃんです。
兄妹たちの昼下がり
「あ、奥山先輩、こんにちは」
「あれ、九重さん」
夏休みも終わったとある週末の昼下がり。
ゲームセンターや映画館も併設の郊外の大きなショッピングモールで、かつての先輩を見かけた双葉は声をかけた。
「久しぶりだね。今日は一人なの?」
二つ年上、すでに高2の先輩は、部にいたころも強いというよりは面倒見のいい立ち位置で。
部活だけでなく委員会も一緒だったということや、話してみると似たような本を読んでいたりとか、
それに何より友達の兄ということで、たぶん兄以外で最も親しい異性の先輩といってよかった。
何気なくの質問に、何気なく答えを返す。
「雪菜ちゃんと一緒ですよ?いまちょっと外してるけど」
「え、雪菜と?」
ところが相手の反応はあまり何気なくもない。
や、まずいこと言ったかな?
「先輩こそ、お一人ですか?」
だからそ知らぬ顔で、話をそらそうとしたのだけれど。
「ふたちゃん、お待たせ・・・って、お兄ちゃん!」
折悪しくというべきか、ちょうど戻ってきた雪菜は祐樹の姿に動きを止めた。
「雪菜、来てたんだ」
「う、うん・・・」
あからさまにそわそわとしている雪菜を見て、双葉は祐樹ににっこり笑う。
「それじゃ先輩、私たちこれで。また今度お茶でもおごってくださいね」
三十六計逃げるに如かず。先人の言葉はいつも正しい。
「九重さん?」
「双葉、ちょい待ち」
「げ、陸兄?いたんだ」
「いたんだよ。で、双葉は何でここにいんの?」
かなり性格が違うのに不思議だが、この兄達も仲がいい。
それは知ってたんだから、もう少し用心すべきだったかも・・・ともあれ後悔先に立たずであって。
「個人情報です、お答えできません」
「ふーん。まあ、俺はいいけどさ。
祐樹は妹さんと話があるみたいだから、ちょっと待ってろ?」
それが困るんだってばと思えども、さすがにそれを口にはできない。
恨めしく兄を睨むと、「いま逃げたって後で困るだろ」と軽くかわされた。
そりゃそうなんだけど。「お前は自分のこと考えとけよ」なんて言われるのは放っておいても、
自分が声をかけたせいで雪菜が困っているのは困る。
祐樹は雪菜に何を言ったというわけでもないが、確かに雪菜は困っている。
黙ってにらめっこ、という感じになったところに陸五と双葉の会話が重なり、
それを聞いた祐樹は双葉に問いかけた。
「九重さんもお家の人に言わずに来てるの?」
えーと。
答えは「はい」だし、陸五がいる以上どうせ隠せるわけじゃないから、それはそれで仕方がないのだが。
言わずにというか、事実じゃないこと・・・雪菜の家に行くと言って来ている。
でも、それを言って雪菜にどう影響するのかがちょっと怖い。
「ええ、まあ。私はそうです」
ってここで「私は」って区別したところで、意味はないよね。
雪菜が家で何と言っていたのか、それを知っているのは双葉ではなく祐樹だ。
祐樹はふうっと息をつく。
「・・・雪菜、九重さんに話合わせてって頼んだんでしょ。
九重さん家で勉強するって、朝は言ってたよね」
「え〜っと、」
双葉が慌てたのは、図星だったからだ。
「雪菜は、今日僕がここに来るって知ってたし。
映画でしょ?雪菜の目的は」
聞けば、祐樹は靴を買いに来たらしい。「俺は別に、たまたま祐樹を誘ったらここに来るってことだっただけ」と言うのが陸五の弁。
それにしても祐樹がどうしてそこまでわかるんだか、と双葉は舌を巻く。
いやまあ、雪菜ちゃんの好きな俳優、私の好きな原作本、この場所。それから慎重な雪菜ちゃんの性格、か。
予想は不可能じゃないかもしれないけれど、先輩、妹のことわかりすぎてますよと突っ込みたくなる。
とはいえ、その事実を双葉から肯定するつもりはなかった。
雪菜の様子を知りたいけれど、そちらを向いたら答えはばれる。
固まっていると雪菜のあきらめたようなため息が聞こえた。
「うん、そう。ごめんね、ふたちゃん」
双葉が今度は雪菜を見ると、彼女は小さく微笑んだ。
「別に、こいつに謝ることなんてないと思うけど」
横から陸五が口を挟む。
「雪ちゃんのせいにする気なんてあたしにもないから、黙っててよ」
二人のやり取りは置いておいて、雪菜と祐樹の会話はぎこちなく進んだ。
「雪菜、どうするの?」
「どうするって・・」
どうするのって、どうしろって?
「・・・ごめんなさい」
「僕に言われても・・。父さんに言える?」
「・・・・お兄ちゃん、言う?」
「・・・・・。」
困っているのは雪菜だけでもないようだ。
どうするの、の答えを祐樹が持っているわけでもない、と雪菜は気づく。
雪菜だけでなく、双葉も陸五も、そして祐樹自身もそれを自覚した。
・・・・・。
「どーすんの?」
「・・・陸五は、」
からかうように口にした陸五に、祐樹は尋ねようとしてやめる。
「陸五は、言わないんだね」
「言わねーよ?俺の問題じゃないから、な、双葉?」
「わかってます。奥山先輩、こんないいかげんな人、当てになりませんよ?」
「でも九重さん、自分で言うんだ?
陸五が知ってるから、かどうかは何とも言えないけど」
・・・・・。
まあ、ね。たぶんそうする。
でもどうだろう、ちゃんと決心したわけじゃない。それに、雪菜をひとり残したくない。
ちらっと雪菜を見ると、その瞬間に頭を陸五に小突かれた。
「双葉、」
あ、ちょっと本気で怖い声。
「・・・ごめん、わかってる。あたしだけのことだって」
もちろん雪菜を理由にはできないし、祐樹に否定の言葉を返したくない。
「・・・うん」
噛みしめるように返事をしたのは祐樹で。
そして彼は雪菜のための言葉を探した。
「雪菜。僕は陸五と違うから、言わないって言い切らない。言い切りたくない。
大丈夫だって、思ってる。・・・でも、ちゃんと見てる。」
陸五が「言わない」と言い切るのは、信頼ゆえか淡泊ゆえかは微妙なところだ。
陸五が言う淡泊さだけではないのは、たぶん陸五以上に祐樹や双葉の方がわかっているけど、
それでも祐樹は雪菜にそういう言葉は選べない。
雪菜にも兄の気持ちはちゃんとわかる。信頼されてないってことじゃない、祐樹は真面目で、そして優しい。
信頼ってことで言えば、自分の方がよっぽど自分に自信がないのだ。
言えると思ってくれているのは祐樹の方で。言えるまで見ててくれると、そう言ってる。
「・・・・・。どうしてもだめだったら、言ってくれる?」
「うん、でも、大丈夫だよ」
「・・・うん」
意を決して返事をした雪菜に、祐樹は微笑んだ。
「じゃ、映画見に行こっか」
「え、いいの?」「いいんですか?」
「言うと思った」と陸五も笑う。
「あ、陸五の趣味じゃないかな・・・僕は実は興味あるけど」
「そうかも・・・、って奥山先輩もお買い物があるんですよね?あたしたちだけで行ってきますよ」
「あ、や、双葉ちゃん・・・」
「九重さん、僕は邪魔かもしれないけど。校則違反だよ、中学生だけだと」
「「あ。」」
九重家の二人は声を揃えて、「雪菜は気づいてたね?」と祐樹は雪菜を軽く睨む。
「ふたちゃん気づいてなかったんだ・・・ごめんね」
「こいつ案外真面目じゃないからな」
「誰に似たんですかねぇ、いったい」
兄妹の掛け合いに、四人とも笑う。
「じゃあすみません、奥山先輩、付き合ってください、お願いします。
これ以上叱られるネタ増やしたくないし、せっかく来たので映画は見たいです」
双葉はあらためて祐樹に頼み、「じゃ、行こっか」と皆で動き出したのだが。
「お兄ちゃん、ありがとう」
はにかむように言った雪菜に笑いかける祐樹の顔に、
あたしがどんなに頼もうが、やっぱり雪菜ちゃんのためだよな・・・と密かに思った双葉だった。
2012.09.17 up
スパはどこ?というお客様には、こちらにご用意しておりますm(__)m。
★双葉ちゃん家 ☆雪菜ちゃん家
本編に入り切らず、申し訳ありません。
映画はちょっと古いものを想定してます。でも皆様のお好みで(笑)。
さて、イベントのネタをお伺いしたときにいただきました素敵なアイディア「キャラ出し切り」
すごい、イベントっぽい、ぜひやりたい♪・・・でも難しい〜。
4人だけになっちゃいましたが、お楽しみいただけますと幸いです。
そしてほりこし様、アイディアありがとうございました♪