ほろ苦い、けれど忘れたくない (4)


三咲兄の言葉を、俺は聞いてすぐには理解できなかった。

や、一応、話してくれた中身はわかったと、思う。
言っても伝えられないなら、言わない。
でも伝えたいことがあるから、伝わることを言う、ってことだよな。

それが自分の中にすとんと落ちてこないのは、そこにあるはずの三咲兄の気持ちが
俺にはよく理解できないってこと。
「伝えたい」と、「言いたい」、それから「こう思う」。
その間にギャップがあるなんて、そもそもピンと来ないというか、そういうふうに考えたことがないから。

だけど、三咲兄が、俺に、それこそ「伝えたい」と思って話してくれたことはわかる。
だから、考えるのは俺の番だってことも。

「・・・・・。ごめん、ちょっと考えさせてくれ」
まだ俺には答えがなくて、でも、このままにする気はないから。

言うと、兄貴はちょっと笑った。
「いいよ、このままにする気は、僕にもお前にも、ないだろ?」
「ないよ。だから、ちょっと待ってくれ」

思ったことと同じことを言われて、俺もちょっと苦笑い。
それは、三咲兄だってこれ以上は譲れない、そして言いっ放しでいいとは思ってない、俺の返事が欲しいって思ってるってことで。
俺だって、納得したところまでしか返事できない、どこまで納得できるのか、探したい。
それを探すんじゃなきゃ、何のために兄貴に答えてもらったんだかわからない。
・・・このままにする気はないだろ。
それって、このままにしてもいい程度の覚悟で話してないよな、っていう兄貴の思いでもあるんだ、きっと。



夕食の席で双葉と顔を合わせた俺たちは、双葉の窺う視線にちょっと居心地の悪い思いをする。
冷戦状態になってるわけじゃない、でも、やっぱりぎこちなさは否めなくて。
結論が読めなかったんだろう双葉は、結局は口に出して聞いた。

「お兄たち・・・お話終わったの?」
「終わってないよ、まだ、ね」
三咲兄、そこで止める?思った瞬間、兄貴はこっちに視線を向けた。

あー、はいはい。
「終わってねぇけど、ケンカもしてねぇよ。心配するな」
ありがと、って三咲兄の表情が言う。

まあ、二人して言ったからって、双葉が心配そうな表情を完全に溶かすわけじゃなかったけど。
なるべく、できるだけ。双葉の不安を少しでも減らせるならそうしたい。
そう思うのは、俺も兄貴も同じで。

気が付くと、兄貴は確かにいろんな言葉を選んでいた。
さっきのもそうだし、名前を呼んでお終いだったりじっと見られてたりってのもそういえば、そうで。
まあこの辺は、違うことを言ってるわけじゃないから、俺にだって別に異論はないけどさ。
俺に対しても、そうなのかな。そうなん、だろうな。

言う中身を変えるのも、兄貴にとっては同じことなのか。
三咲兄、さっき何を言ったっけ。
大事にしなさい、って。・・・・・。

「ねぇ、やっぱり」
「あ?何?」

考えてたら双葉が箸を置いて俺の服を引いてきた。
聞いてなかったんで聞き返したら、「やっぱり、ケンカしてない?」って質問が。
黙りこくってたからだよな。・・・あー、もう。

「や、考えごとしてただけだって。気にすんなって言ってるだろ?」

わ、ちょっと言い方きつかった?
自分の言葉にちょっと焦って。むに、って双葉のほっぺたをつまんだりして笑ってごまかす。
「やだぁ、もう」
双葉はむくれたけど笑ったからほっとしつつ、さっさと食べ終わることにして。
兄貴は、何も言わずに俺たちを見ていた。

「ごちそうさま」
「あら、陸くん、もういいの?」
「うん、旨かったよ。ちょっと俺やることあるから」

俺が退散すると三咲兄が捕まるかな?一瞬そう思ったけど、まぁ、いいよな。頼むわ、兄貴。
ちらっと眼を遣ると、やれやれ、って感じで笑われた。


何をどう言うかって、俺自身も知らない間に考えて、選んでるのかな。
そうかも、知れない。
どう言うか、・・・それって俺の場合、あんまり、伝えるため、じゃないかもしれねぇけど。

双葉を傷つけたくないと、思ったり。三咲兄とケンカするのはまずいだろって、思ったり。
そう思うと、俺がどう言うかを選んでるとしたら、それは兄貴がそーしてるからで。
棘のある口調で売り言葉に買い言葉になったことなんて、数え切れないくらいある。
兄貴が口調を選んでくれたから、こっちもそうできたってことも。
・・・俺だけがトゲトゲしてるってことも、いっぱいあるけどな。

何を言うかを変えるのも、兄貴にとっては同じことなのか。
同じ問いに戻ってくる。なんか、わかりそうなんだけど。
でも、やっぱりなんかすごく引っかかる。

俺のことだったら。
なんか、やなんだよ。嫌だ。
何が?

・・・・・さっきからの話でいけば、兄貴が、思ってることを言わないことが、なんだけど。
なんでかな。
さっきよりちょっとはわかった気がするんだ、兄貴の棘のある口調って、正論とセットなことが多くてさ。
だから、兄貴が何かを言うときに、口調だけじゃなくって中身も選ぶのは、わかる気もするんだけど。
でも、なんだかな。

兄貴には、何か正しいと思ってることがある。
だけど、それを尖った口調で言われたら、たぶん、俺はむっとする。自慢じゃないけどさ、さっきもそうで。
そういう口調じゃなくってさ、兄貴がそれを静かに言うとき、
俺はそれをちゃんと聞くかな。

自信はない。
だけど、だからって、そこで兄貴が何かを言わないんだとしたら。
すんなりありがとうとは思わない。
なんだろう、やっぱり納得できない、よな。

ちゃんと聞くって断言できないけど。
それってさ、俺のせいじゃん。なんてゆーか、兄貴が言わないのって、やっぱ違うだろ。
・・・俺に何かを言う兄貴が、本気じゃないって思ったことなんてない。
いや、その。言葉を選ぶのもそれはそれで真剣なんだってのはわかるんだけどさ、ああ、もう。

そうだ。
俺はそういう手加減を、兄貴にされたくないし、させたくない。
いくら俺のためだって、それは嫌だ。
静かに話してくれさえすれば、それで。・・・ってそれは、俺自身にも求めなきゃってことだけど。

双葉にだって、同じだ。
俺が、口を挟んでも。兄貴が兄貴の思うことを、俺が俺の思うことを、それぞれ、静かに話すならさ。
双葉は、自分で考えるだろ。

・・・・・。
そこまで思って、俺は頭を抱えた。
兄貴を責めることなんて、できるはずがない。
お世辞にも、自分が静かに話したなんて言えねぇよ。

俺だけのせい、じゃない。
だけど、俺のせいには違いない。

最初、兄貴は双葉に話そうとしてた。
意見が合わないとき、口を挟まないなんて約束はできない。する気もない。
だけど。

伝わるように話せ。

兄貴の言いたいことの根っこは、たぶん、そこにある。
口を挟まないなんて約束はしない。俺たちの意見が合わないことを、双葉に見せるのも仕方ない。
俺はやっぱりそう思うから、兄貴が望んでる答えにはなってないけど。

だけど、双葉がどう受け取るか考えろ、そこまでだったらわかる、わかったと思う。
言いたいことを感情的にぶつけても意味がない。
三咲兄にも、双葉にも、伝わるように言うしかない。
棘と一緒に言葉を投げれば、棘が返るか、怖がらせるか、どっちかだ。そんなことのために言うわけじゃない。

相当こじれた話を兄貴が打ち切ったことに、俺が文句を言う筋じゃない。
それが正しかったとは思わないけど、俺がしたことだって正しくない。
「双葉のいないところで。いまこういうふうに話すんじゃいけなかったの、この話」
さっき兄貴はそう聞いた。
前半はいいえで、後半ははい。兄貴がふたつをごっちゃにしてても、俺の答えはふたつは別だ。


2013.03.10 up
・・・(5)まで行くことにします(^^ゞ。
既に解決編なので切らない方がいいのかもしれませんが、
しかし各話の長さのバランスもあるし!ってことで同日アップ。
というか、あと数行、って思ってたところから半ページもあるんですよね(^_^;)。
何はともあれ、続きをどうぞ。

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