リクエスト&永年の懸案(^^ゞ
じっくり考えられたので、リクエストありがとうございます♪

ほろ苦い、けれど忘れたくない (1)


「そんなこと、怒るようなことなのか?」

陸兄の声が聞こえたとき、あたしは正直なところラッキーって思った。
だってもちろん、怒られたくなんてない。こんなことで、って思うのも否定できない。
だけどこの話はあたしを置いてどんどんこじれていってしまって、
あたしが叱られた方がましだなんて思わされることになっちゃったのだ。

「陸、それをいまここで言うの?」

三咲兄の声は、ちょっと苛ついていたと思う。
いまここで、っていうのはきっと、あたしの前でっていう意味だ。

「だってそうじゃん、それって怒るようなことじゃないだろ」
陸兄も譲らない。そっちは、あたしがどうこうってことじゃなくってきっと陸兄がそう信じてるから。
苛ついた声は伝染する。三咲兄だけじゃなくて、陸兄の声もそうなってきた。

三咲兄も気付いたみたいで、次の声は抑えた色。
「僕はそう思っていないよ、だから双葉と話してる」
「違うって!押し付けるなよ」
「陸、話は後でしたいんだけど?」
「だから!」

声音は整えても、三咲兄の言ってる中身は変わってない。
たぶん、だから、陸兄の方はもっと激しくなっていった。

・・・なんか、怖い。あたしが怒られてるより、よっぽど。
どうしたら、いいんだろう。
三咲兄や陸兄の気持ちはわかっても、あたしがどうすればいいかはわかんない。
うろたえていたと思うあたしの顔を三咲兄は見て、ちょっと息をのんで口を結んだ。
一拍おいて。

「陸、双葉が泣きそう」

陸兄は一瞬言い返しかけたけど、ぐっとその言葉を飲み込んだ。



双葉が泣きそう、って。
兄貴にそう言われたこと自体、俺はむかっときたんだけど。
だって俺はいま兄貴と話してる。
双葉を理由にして何かを言うなよ、ってほんとは思ったんだ。

それでも、さすがに妹の顔を見ればいまこれ以上何かは言えない。
俺が何か言い返せば、三咲兄に向けたのに双葉がきっと泣き出すだろう。
納得いかないのに黙るのって嫌だ、でも。

さっきまで、双葉のことを怒ってたのは兄貴なのにな。
「心配かけてごめんね」と三咲兄は話す。
双葉は首を振ったけど、ぜんぜんその表情はほぐれなかった。

兄貴は言葉を探し、ゆっくりと息をつく。
「今日は僕との話はやめよう、双葉。
この状態で叱られても、納得いかないでしょ」

止められるんだったら、最初からしなけりゃいいじゃねぇか。
俺にはほんとに三咲兄がわからない。
それはそうと、この兄貴の言葉に双葉は余計に泣きそうになった。
どうしてか、俺もわからなかったし、多分、兄貴もそう。

「ここで双葉が困らなくてもいいんだよ?僕と陸の話は、双葉の話とは別だからね」
言うほど、首を振る双葉。
三咲兄はそれ以上言わずに双葉の頭を撫で続けた。

「ケンカしないで・・・」
小さく、双葉がつぶやく。
「ケンカじゃないよ?まだ、ね」
三咲兄、正直過ぎ。まあ俺だって、「しない」とは約束出来ないけど。
だけど俺も兄貴も俺たちのせいで双葉を泣かせたくはないんだよな。

俺も双葉のそばに寄って、頬を突ついてみた。
いま三咲兄に近づきたくはなかったけど、仕方ない。
俺自身が上手く笑えてるかはわからないけど、双葉が安心してくれたらいいって思う。

でも双葉は俺の行動にも兄貴の言葉にも、納得はしなかった。笑わない、相変わらずいまにも泣きそう。
兄貴は少し、考えたようだった。

「お部屋に戻って、そのネックレス、片づけておいで?
大事にするんだよ?」

双葉の歳には分不相応に高い、その飾り物。それがこの事態の発端だ。
そりゃ、確かに俺も値段を聞いた時にはちょっと引いたけど。
だけど、そもそも無駄遣いって、怒るようなことなのか。何が無駄かも、三咲兄が決めることじゃねぇだろ。

双葉は、それを雑に握りしめた。
おいおい、千切れるぞ?・・・・・普段だったらそれこそ三咲兄が叱りそうなところだけれど、
さすがにいまはそうしなかった。
双葉の手をそっと包んで、ゆっくり開かせる。

「どちらにしても、物には罪はないからね。心配かけてるのは謝るけど、だめだよ、こんなふうに扱っちゃ。
大事にするって、約束して。僕らの話がどうあれ、双葉はこれを、大事にするって」

双葉は、三咲兄を見上げて、俺を見上げて、やっぱり首を横に振って、泣きそうで。
だけどじいっと三咲兄が双葉を見つめ続けたら、最後にはすこし俯いて。
「ね?」
もう一度、優しく掛けた三咲兄の声に、妹は「・・・うん」と頷いた。

俺も、三咲兄も、何ともいえずほっとする。
そしてそのことに、双葉もほっとしたのがわかった。

「ほら、行っておいで」
「・・・・・お兄たち、ケンカしない?」
「努力する。約束するよ」

双葉は、俺の返事は待たなかった。
それって、信用の差なんだろうか、適材適所ってやつだろうか、気にしすぎだろうか。
まぁ、結局同じか。努力する、けど、そこまでしか約束できない。
そうして、双葉がたぶん、後ろ髪引かれつつ聞き分けて外したこの場所で、俺と兄貴は話を続けることになったのだ。




2013.02.03 up
リクエストは「双葉ちゃんのことで陸兄と三咲兄が喧嘩したという詳しいお話」
初出はこちらの100の質問。
当時から結構ずっと考え続けて、でも、やっぱり文字にするといろいろ変わって、
文字にする機会を与えてくださって嬉しいです♪

続きます。しかしひとまず取り急ぎ、リクエストにお礼申し上げます。ありがとうございました♪

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