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Trick or Treat!

「もう、やめてよ高天!」
なんだかちょっと大きな声が聞こえたと思ったら、雪菜が泣きそうな、とまでは言わないけれど
困り果てたような怒ったような顔で僕の部屋にやってきた。

「お兄ちゃん、いったい高天に何教えたの?」
「え、僕?いったいどうしたの?」
「高天がひどいんだもの。ちょっと来てよ」
見に行った雪菜の部屋は、確かにひどいありさまだった。
雪菜の服が夏服も冬服もごちゃまぜに部屋の至る所に飛び散らかっていて、
高天がぐちゃぐちゃにして遊んだんだろうってことは聞かなくてもわかった。

でも、なんで僕?

「これは・・・確かにひどいけど。何があったの?」
「衣替えしてたら、急に高天が来て散らかしていったの。
やめてって言っても「いたずらしてもいいってお兄ちゃんが言った」って言うばっかりで・・・。
そんなはずないってわかってるけど、お兄ちゃん、高天に何言ったの?」
「えぇ?」

雪菜の話を聞きながらふと気が付くとドアのかげでこっちの様子をうかがっている小さな人影。
「高天、だめじゃないこんなことしたら。ちょっとおいで?」
声をかけると、やんちゃな声が返る。
「やだよ〜。お菓子をくれなかったらいたずらしていいって、お兄ちゃん言ったじゃん」
ああ、それ。・・・って、納得してる場合じゃないか。
いたずらっ子はそう言ってしまうとぱたぱたぱたと階段を駆け下りて行った。

雪菜はやれやれとため息を吐く。
「・・・ハロウィン、なんだ?」
「そうみたいだね。ごめん、高天に話はしとくから」
「ちゃんと言ってよ?これ片づけるの、大変なんだもん」
「だよね・・・。手伝おうか?」
それは嫌だと雪菜の部屋は追い出され、僕は高天を探しに行くことになった。


「とりっくおあとりーと?」
「そう、Trick or Treat。お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!ってこと」

まあね、そういう話はした。
最近、お店でもハロウィンの飾り付けしてるところが多いから、
「これなに?」って聞いた高天に「外国のお祭りだよ」って。
そのとき仮装行列の人形を高天は気に入ったみたいで、いろいろ聞かれたよね。
知ってる限りの話をしたんだけど・・・はぁ。まあいいや、とにかく高天を見つけてからだ。

「高天?」
今度はリビングのカーテンのかげに隠れていたらしい高天は、僕が近づくと反対側のソファーにのぼって逃げていく。
うーん、追いかけっこをしたくはないけどなぁ。
そう僕は考えたんだけど、たまたまちょうど入ってきた父さんが、高天をふわっと抱き上げた。

「おいおい、家の中で鬼ごっこはやめてくれよ?」
「あ、やだぁ!」
「父さん、そのまま捕まえてて」
「ん?どうしたんだ?」

父さんの腕の中で高天は暴れるけど、そうすればするだけ父さんは高天を捕まえておく必要があるって納得してくれたみたいで。
「高天、祐樹が話をしたいって。ちょっとおとなしくしなさい」
「やだぁ!」

うーん、これじゃ話ができないよ。どうしたらいいのかな。
「高天、逃げ出さなくてもいいんじゃない?
僕がいたずらしていいよって言ったっていうならさ」
冗談めかして声をかけると、この子はあれ?というような顔で動きを止めた。

「おいおい、高天、何したんだ?」
横から尋ねる父さんには、「大丈夫、ちょっと遊び過ぎただけ」って返しておいて。
でもこのままじゃ、父さんに聞かれちゃうね。「おいで、僕の部屋に行こう?」
父さんの腕の中の高天に手を差し出すと、素直にこっちに手を出して来たから代わって抱き上げる。
物問いたげな父さんには大丈夫だよってもう一度目配せをして、それで二人で2階に戻った。

僕の部屋のドアを閉めると、高天はえへへ、と笑い出す。
「お兄ちゃん、ありがと」
「ありがとうって思うなら、父さんに聞かれたくないようなことするなよ」
「だぁって!」

ああ、だめだ。どこまでも楽しそう、なんだよね。
いたずらが楽しいのって、それはまあ、わからなくもないんだけれど。
いや、もしかすると、ハロウィンってそういうお祭りかもとさえ、思ってしまう。

そうはいっても、困り果ててる雪菜の顔を思い浮かべると、そんなこと絶対に言えないわけだけど。
どうすれば高天に、わかってもらえるんだろうか。

「高天、僕は何をしてもいいって言ったつもりはないんだけど。
お姉ちゃんはとっても困ってたよ?」
言うと、ちょっと詰まったような顔をして。でも、それから元気に言い返してくる。
「いいんだもん、お祭りだから!
おねえちゃん、お菓子くれなかったよ?」
うーん。
じいっと高天の目をみると、いいんだもん!って本気で思ってるみたい。
ダメなのかな?って気持ちも、混じってるようではあるけどね。

だめなものはだめって、父さんなら言うだろうか。
・・・。
だめなものはだめなんだけど、そう言いたいわけじゃなくって。
それをわかってもらいたいんだ。

お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!って。
そう言ってみるの、お菓子をもらうの、いたずらしてみるの?楽しいよね。
でも、楽しむためだから、何をしてもいいんじゃなくてさ。

自分が思うことを、話すしかない。わかってくれると、いいんだけど。
「お祭りだからさ、みんなで楽しめないといけないんじゃないかな」
「?」
きょとんとしたいたずら屋さんに、言葉を探す。
「お菓子をあげるひとも一緒に楽しいから、ハロウィンは続いてきたんだと思うよ」
「つづく?」

「うん。外国にも、日本にも、毎年毎年、こうやって楽しんできた人たちがいるんだ、みんなでね。
誰かが嫌な思いして、「ハロウィンなんてきらい」って考えたら、どうなるかな?」
「う〜ん?」

考えてくれるってことに、ほっとする。それならきっと、大丈夫だからさ。
「みんなで楽しい方がいいよね?」
「うん」
こういう質問には、頷いてくれるよね。
「雪菜が困ってたら、僕は楽しめないよ。高天はどうかな?」

首を傾げる弟を、じっと眺める。
ダメなのかな?って迷ってる。まあそうだよね、わかっててもいたずらしたい気持ちだって、きっとあるしさ。
「自分だけ困っているようなお祭りっていやじゃない?」
こっくりはずかしそうに「うん、」って頷くので、頭を撫でる。
「僕も高天が困ってたら楽しめないな」って言ったら、えへへって何だか嬉しそうにしていた。

「お姉ちゃんが困るのは、どうかなあ?」
「・・・ダメ?」
「そうだね、きっとね」

どうしよう?って顔の高天に、「ごめんなさいって言っておいで」って言ってあげる。
はっきり「うん」ってかえって来て、僕は思わず笑った。

僕が笑うと、高天は安心するんだね。
「行こうか?」
そう言って手を出したけど、気付きもしないで「おねえちゃん〜」って走っていった。

「ええっと、あのね」
僕がゆっくり雪菜の部屋に着いたときには、高天は雪菜の膝に抱きついてた。
あーあ、いま畳んでた服、またくしゃくしゃだな。

「うん?」
高天が何か言うのを、ゆっくり待ってるよって雪菜の声音が伝えた。
待つのは、たぶん雪菜の方が僕よりうまい。
「ん?」
「ええっと・・・」

「おねぇちゃん、困った?」
おいおい、そこへ行くのか。僕はそう思ったけど、雪菜はまっすぐ答えてた。
「うん、とっても。もう一度片づけなおしたんだよ、だいたい終わったけど」
「・・・。おねぇちゃん、ハロウィンきらいになった?」
「さあ、どうかな。ハロウィンのせいじゃないんじゃない?」

「・・・・・。」

「悪いのはだぁれ?」って雪菜は高天にそっと囁いた。
「・・・。ごめんなさぁい」
高天がちょっと顔を赤くしてそう言うと、雪菜は「よかった」って笑って。

「片づけ終わったら、何かハロウィンのお菓子作ろうか。
かぼちゃのクッキーかプリンか・・・何がいい?」
「ケーキ!」

ぱっと顔が輝いた高天に、「いきなりハードル上げるなぁ」ってぼやく雪菜。
「それじゃ、ここの片づけもちょっと手伝ってよ?」
「うん!」
そんなやりとりを眺めて、「僕も手伝おうか?」って聞いたら「さっき断ったでしょ」って睨まれた。

「おねぇちゃん、ハロウィン好き?」
「そうだね、好きだよ?」

えへへ、って笑う高天を雪菜に任せて、部屋を出る。
妹と弟の仲の良さ、実は敵わないのかなぁってちょっと羨んでしまったのは、
かぼちゃおばけのせいにでもしておこう。

2012.10.28 up

77777hitリクひとつめ、小さな兄妹弟でハロウィンです。
兄妹弟の絡みで書くと、スパはないです(笑)・・・いいのか?
とりあえずハロウィンに間に合って何よりでした!
本文中に書ききれませんでしたが、お話はたぶんハロウィンより前の週末だと思います(笑)。
我が家の衣替えは先々週だったからです(^^ゞ。

ええと、覚書として、祐樹くん中1、雪菜ちゃんは小5、高天くんは小1です。
お誕生日の話もおんなじ年です。英語の話は祐樹君が大学2年生、高天くん中2です。
なんで覚書を書いているかというとその必要が生じたからで(申し訳ありません)、
この覚書を見ていくつか第一印象と比べてあれ?と思われた方、貴女は(貴方は)とっても
勘がいいというか読解力に優れた方でいらっしゃいますが、ともかくこういうことでお願いします。
(どれも修正はしていませんので、念のため。)

背景はAtelier B/Wさまからです。
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