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「ボス。警視庁には他にもメンバーがいますよね。事件を早めに片付けたいんで手を貸してもらいましょうか」
「連中は忙しいんだ」
「何にですか」
「数独 、クロスワード・パズル、ゲームボーイ、エロ話…」 |
通報を受けてパリ郊外に到着したクリム警視。耳を切られ顔を潰された女が枯葉に倒れていた。全身を覆う黒い布はイスラム教のチャドル。衣類に残された砂は砂時計用の特殊なもの、現場の土とは違っている。犯行後に誰かが遺体を動かしていた。 |
警視は被害者の自宅を訪れる。チャイムの音で扉が開く。目の前にウサマ・ベン・ラディンが立っていた。ホワイトハウスの賞金は5千万ドルに達していたはず。「あんたこんな所で何してるんやん。全世界に追われてるっちゅーねん!」。「いやいや、そっくりさんコンテストに追われてるんですよ」。残念、男は被害者の父親だった。「悲しい報せですが娘さんがお亡くなりになられました」。「あいつ、父親の許可も得ず死んだのか!」 |
放蕩娘を恥じた家族の犯行?痴情のもつれ?人種差別主義者の見せしめ?容疑者にはこと欠かなかったが全員が鉄壁のアリバイを持っていた。事件解決の鍵は被害者の弟が握っていた。過去のトラウマで無声症となっていた青年の放った「お前らの顔にシッコしてやるぜ」。ボリス・ヴィアン小説のタイトルをもじった言葉がクリム警視たちを真犯人へと導いていく… |
03年の前作『アラー・スーパースター』で一回沈んだYBさんです。版元が派手に宣伝していましたが、作品の質が追いついていなかったのですね。この程度で消える小物作家ではないのであって「読み手を笑わせたかっただけ」の新作はお馬鹿さんパワー全開に仕上がっています。 |
ミステリー小説の手続き(現場捜索、聞きこみ、尋問、ミーティング、検死解剖…)全てをパロディ化。スットコドッコイのキャラが立ちまくり、破天荒な流れが小気味良く、無茶な謎解きに驚きがある。膨大なジョークと下ネタとナンセンスの狭間にほろっとさせるフレーズもチラホラと。『零に死す』が抱えこんでいた狂/凶の輝きは薄れていますがキラキラした「駄」の美しい結晶に脱帽。
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