|
1951年、パリ。モンマルトルに程近い一軒のプールバー。夜9時になると雰囲気の違った連中がやってくる。最初はわざと負けてみせる。獲物が食いついてくると初めて本気を出し、有り金を巻き上げていく。12番テーブル、今晩カモられているのは二人組のジプシー連中だった。 |
「ボス」ことブロツキーから直々の指名。マルクスは階段を上っていく。ソファーでウトウトしていた男が目を上げた。「クラブ・オリエンタルのオーナーがね、貸した金を返そうとしないのだよ」。仕事に向かおうとしたマルクスの背後で「家具には手を出すなよ」の声が響いた。大丈夫、左手の指関節を折ってあげるだけで十分だった。 |
次の取立て先は大負けしたジプシー男だった。名前は「ジャンゴ」。ジャズクラブ、サン・ジェルマンで働いている男だそうである。ウェイターにも料理人にもそれらしき男はいなかった。ギターの音に目を上げる。ステージ上に男がいた。指3本で驚くべきフレーズを繰り出してくる。初めて耳にしたジプシージャズ、マルクスは仕事を忘れ耳を傾けていた。 |
葉巻をくわえたボス、苦虫を噛み潰す。「やられたな。見せしめに殺ってしまえ」の指示。マルクスはジャンゴの車を追っていく。病院前で降りた男。「カミさんの下腹に石が溜まって」。話してみると気の良い男だった。マルクスのために一曲弾いてくれた。無理だった。男を痛めつけるのは無理だった。一方でボスから「何をしているんだ」の催促が始まっていた… |
ジャンゴ・ラインハルト登場。往時のパリ・ジャズシーンを舞台とし、場末のチンピラ取立屋とジプシー・ギタリストの邂逅、その顛末を描きあげていきます。ジャンゴを殺さないといけない、不可能なミッションを引き受けた主人公の葛藤に最後までドキドキ物。使用している凶器が「ピアノ線」だったりする辺りも気が効いています。 |
|