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早く出たなら帰りは遅く
〔2001年〕 |
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フレッド・ヴァルガス著 |
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疫病学、ペスト、集団パニック |
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〔初版〕 2001年
ヴィヴィアヌ・アミィ社 (パリ)
叢書「薄暗い小道」 |
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Pars vite et reviens tard / Fred Vargas
-Paris: Editions Viviane Hamy.
-(Chemines nocturnes).
-300p. -20 × 13cm. 2001. |
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【あらすじ (ネタバレ有)】 |
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木の枝に壺が提げてあった。5フラン硬貨を添えた伝言を入れておくと叫び屋さん(クリウール、伝言士)が一日に3度そのメッセージを読み上げてくれる。ル・ゲルン青年の仕事はこの叫び屋さんだった。 |
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「大地に広がった汚れを防ぐため」、「鼠たち、地下世界の獣たちは大地へと逃れていき」…この数日、ル・ゲルンの手元に奇妙な伝言、「叫び」が届けられていた。古いフランス語にラテン語まで混ざっている。「災厄の到来」。誰かがペスト再来を告げようとしている、そう気付くまでに時間はかからなかった。 |
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同時期、13区に配属されたアダムスベルグは住民の訴えに耳を傾けていた。数字の「4」を反転させた奇妙な落書き、そして「CLT」の三文字が家々の扉に残されていた。悪戯だろうか?それにしては悪意が強すぎた。アダムスベルグは鑑識に頼んで写真を撮ってもらう。歴史家マルクに連絡を入れた。反転した「4」は中世、疫病除けの護符として用いられていた。そして「CLT」の略号はペストから身を守る三つの箴言「早く、できるだけ長く(逃げて)、遅く(戻りなさい)」を縮訳した記号。ペストなのか。手遅れだった。伝染病患者を模した真っ黒の遺体が発見される。誰かが歴史と戯れていた… |
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【講評】 |
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携帯メール時代にあえて街の「叫び屋さん」を主人公にしてしまうこの素敵な感性。アヴィケンナの一節、世紀初頭のパリ疫病記録まで踏破する想像力。初期作と比べ内容が相当複雑化していますが、丁寧に描きこんであるので読み手を迷子にはさせません。 |
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これまで独立して展開してきたニ系統(アダムスベルグ物/歴史学者3人組シリーズ)が本作で初めて接点を持ちました。ミステリー感覚、歴史家視線が折合いを見せた、ということになるでしょうか。また個々の心の動きを追っていく手続きに、集団心理学にも似た鋭い分析(疫病を前にパニック化する市民たち)が重ねられています。本国書評では9月11日のテロ事件反応とも関連付けて語られていて、なるほどと頷いた覚えがあります。 |
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【最終更新】 2009-06-17 |
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