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事故車の周りに人だかりが出来始めている。曲がり角、大破した一台のシトロエン。ドンドンと扉を叩く音。一瞬でざわめきが静まった。助手席から助けを求める音。野次馬の一人がベルトに下げた袋を開くとハンマーを取り出した。フロントウィンドウを割って救出を試みる。中にいたのは二人の修道女だった。運転席の一人は即死、もう一人は一命を取りとめる。 |
田舎町では聖灰水曜の催し物が始まっていた。事故現場の曲がり角にも灰が撒かれている。「分かった。ブレーキと間違ってアクセルを踏んだんですよ」。野次馬の一人が警察に説明していた。鑑識の結果、ブレーキオイルタンクに細工が施されていた事実が判明する。シスターの命を狙ったのは誰か? |
事故死した修道女が所属するクリスチャン系の高校。表面上は何事も無かったかのように日常が続いていく。「最近あのシスターの様子おかしかったよね」。同僚や生徒達は小さな声で噂話をしていた。事故当日、学校からの帰宅途中にステラは現場を目撃。事件の解明に乗り出していく。ステラに手を貸したのは新任教師の司教ヌゴンドンド、そしてもう一人、普段は木の枝に宿っている天使のギヨームだった… |
タイトルですでに傑作臭の漂っている珍しい一作。元々ロマン・ノワールとして書かれた作品ではなく、ガリマール社の純文学叢書「ブランシュ」で出版を断られた原稿がセリ・ノワールに回ってきたもの。趣向の目新しさ、文章の巧みさ、意想外の展開。結果として90年代前半のセリ・ノワール作品では異例の大ヒットとなり、作者サンタンドレは晴れて純文学畑に凱旋していくことになります。 |
1970年代、ロワール川ほとりの小さな田舎町。カトリック系寄宿寮を舞台とし、含みたっぷりの味わい深い筆致で謎解きとシスターたちの日常生活を描き上げています。基本的には右派系の内容で、68年以降に左傾化したセリ・ノワールでは異色作ですが「小説として面白ければイデオロギーは関係ないよね」を軽々実演してしまう余裕が実に素晴らしいのです。 |
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