心を咎められて
ミシェル・カン著
〔初版〕 1984年 フルーヴ・ノワール社 (パリ) 叢書 スペシャル・ポリス 1876番
Mauvaise conscience / Michel Quint -Paris : Editions Fleuve Noir. -(Spécial-Police; 1876). -182p. -11×18cm. -1984.
団地が崩れ落ち、路上には根こそぎにされた松の大木が倒れている。瓦礫から漏れているうめき声。白みがかった灰が霧のように街を覆い尽くしていた。8月16日(土)、午前8時3分。エクサン・プロヴァンス地方でマグニチュード8の地震が発生。一部住民が生存者の避難と救助活動を始めていた。
混乱に乗じて略奪や暴行も行われていた。6人の青年が宝石店に乗りこんで貴金属類を袋に詰めこんでいく。ガラス片の割れる音。驚いて振り向くと一人の男が立っていた。元有名サッカー選手、引退後はヘロイン密売と売春の仲立ちをしているエットーレだった。「それを捌くのは大変だよ」。男は盗品専門の故買商を紹介する約束で略奪メンバーに加わった。
エットーレは若者達を自分のマンションに招待する。酒を飲ませ、油断させ、宝石類全てを独り占めする目算だった。計算通りにはいかなかった。青年団の一人シモンが暴走、エットーレの連れマルティーヌを射殺して宝石の持ち逃げを図る。残されたメンバーは追跡を開始。シモンは車を乗り換えようと自動車工場に侵入するが、そこには「心に傷を持った男」が銃を片手に待ち構えていた…
ミシェル・カンは『ピエロの赤い鼻』(2000年)以降「白の時代」に入っていくのですが、80〜90年代はフルーヴ社〜リヴァージュ社を拠点に玄人受けするノワール小説を書き続けていました。本作は84年に発表された長編第2作に当たります。
地震小国のフランスでは珍しい物語設定ながらも的確な描写でリアリティを確保。複数の物語が絡みあって離れていく美しい世界を描いています。この作家にしては筆致が軽め、世界像や人物造形も単純ですが、その分読みやすいです。後半50ページほど続いていくカーチェース場面も中々。「黒の時代」では『黒牡羊』(94年)の次に位置する面白さでした。
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