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精神暗殺者
〔1984年〕 |
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カー著 |
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現代暗黒街物、悪党譚、違法武器輸入
哲学、地方主義(ブルターニュ) |
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〔初版〕 1984年
フルーヴ・ノワール社 (パリ)
叢書スペシャル・ポリス 1911番 |
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Mental / Kââ
- Paris: Editions Fleuve Noir.
- (Spécial-Police ; 1911).
-253p. -11×18cm. - 1984. |
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【あらすじ】 |
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短くした黒髪に黒い瞳。深夜、ブルターニュの島ベリルに住んでいる男の元にやってきたドイツ系の女レナタ。「あなたの力が必要なんです」。どうやら産業スパイ絡みの仕事のようだった。「依頼者のグループは…とても影響力が強そうですね」「何が何でも連れてきますって約束してしまったので」と女。「その何が何でもに…あなたの体も含まれている訳ですか」「…当然でしょう」。翌朝、ミュンヘン・ナンバーのポルシェに同乗し、男はシュトゥットガルトへと向かっていく。運転席の女は気が付いていないようだったが、途中から灰色のBMWが後をつけてきていた。 |
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ルイ13世風の家具で飾られた一室に案内される。伯爵の称号を持った男から仕事の詳細を聞いていく。現在伯爵たちは「アメリカが輸出を禁止している武器」の密輸入プロジェクトを進めているところだった。ところが以前に「汚れ仕事」を任せた男がそれを嗅ぎつけたらしく伯爵宛に脅迫状を送りつけてきていた。封筒を見せてもらう。大きなゴシック文字で署名された「Geistig(精神的)」の文字。「注文No-09.985の内容を私はを知っている」。「精神」と名乗る暗殺家を始末しなくてはならなかった。 |
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殺戮劇は静かに始まっていた。旧友で同業者のパトリックが襲撃される。レナタは自宅の浴室で感電死。女の死に目には会えなかったが背後からコルト・ボディーガードを突きつけてきた男-「精神」-と出会えたのは幸運だった。さらには伯爵の娘が姿を消し、武器密輸入プロジェクト停止の決断が下る。暗殺契約も破棄となるはずだったが…動き始めた巨大な機械の歯車は止まらなかった。私はベリル島までやってきた「精神」と共に伯爵一団を迎え撃つことになる… |
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【引用】 |
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「私の名前は…レナタ・シュメッターリング」
「今だけの名前かな。それともずっとの名前?どちらにしても綺麗な名前だよね」
非常にエレガントで特殊な類のフェラチオをアメリカ人が「バタフライ・フリック」と呼んでいる。「蝶の羽ばたき」。ドイツ語だとシュメッターリングスフラテルンか何かになるはずだった。そこから私がどんな結論を引き出してきたか、女には伏せておいた。 |
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【講評】 |
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カー第3長編。「サンカント」という偽名を名乗るエレガントな暗殺者を主人公とした連作の一貫です。前半が「策謀篇」。パリ-ブルターニュ-ミュンヘンと舞台を大きく動かしながら物語を丁寧に編みこんでいきます。後半は「闘争篇」。ユリカモメ(「あれは残酷な肉食獣だ」)が空を舞うブルターニュの静かな島を背景とし、手のこんだ駆け引きを経て激しい銃撃戦になだれこんでいきます。 |
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デビュー作の『月に死の影が』には古手の暗黒街物の雰囲気がまだ残っていました。前作の『殺戮のお姫様』で大きく飛躍、本作ではさらにディテールに凝った美しさを導入。あまりに隙の無い主人公に飽きてきたのかこの後作家は「人としての弱さ、脆さ」を組みこんでいくようになり(『あと一時間で殺し始めます』、86年)、最終的にそれがカー文学の究極形『リトル・ラビット』に結実していきます。結果として『精神暗殺者』はその一つ前の完成形「無敵無謬の暗殺家」に相当してくるのではないかと思います。 |
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【最終更新】 2009-05-22 |
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