ZULU
カリル・フェレ

〔初版〕 2008年
ガリマール社(パリ)
叢書セリ・ノワール


ZULU / Caryl Ferey.
-Paris: Editions Gallimard.
-(Série Noire).
-393p. -23 × 16cm. -2008.

   

 「アフリカ・イリス」。南アフリカ、カーステンボッシュ国立植物園。道に植えこまれたアヤメの白と黄色。男が手前にしゃがみこむ。女性の変死体が一つ。顔を数十度殴打され、折れた歯が喉元までもぐりこんでいた。「身元は?」と立ち上がったアリ・ノイマン。「レンタルビデオ屋の会員証にはジュディス・ボタの名前が」。
 ビデオ屋のカードは友人からの借り物だった。被害者は大学で歴史学を専攻していたニコル・ワイズ。父親によれば「真面目な子」だったが…警察による調査は家族の知らないもう一つの側面を抉り出していく。ビデオ屋ではハードSMのビデオをレンタル。クラブに出入り、新種の合成薬物に手を出している。「嘘だ」と否定する父親。だが警官が自宅のデスクトップ側板を外すとマザーボード脇に押しこんだ袋が発見される。中にはバイブ、ローター、ギャグボール一式が詰めこまれていた。
 南アフリカはセキュリティ管理が徹底した国でもある。クラブ入口に設置された監視カメラの映像を分析、被害者が金回りの良さそうな黒人青年と共に入店した画像が残されていた。青年は麻薬のディーラーだった。被害者血液中に発見されたメタアンフェタミン・ベース、新種麻薬を供給していたのはこの男だろうか?
 アリは配下のダン、ブライアンと共にケープタウン近辺の麻薬ネットワークを追っていく。違法薬物売買が浜辺で行われていると知って足を運ぶが、武装した一団に捕らえられる。アリの睾丸に突きつけられたリヴォルヴァー。目の前で部下のダンがリンチされていく。「焼肉パーテイーといこうか」、一人が大ぶりな剣を叩きつけ、ダンの手首を切り落とした…
 『HAKA』(1997年)、『UTU』(2004年)に続くエキゾチックなヴァイオレント・スリラーの第3弾。上に要約したのは第1部(全体の1/3)の粗筋ですが、他にも後に本流へと合流していく幾つものサイドストーリーが織りこまれています。
 過去のトラウマに捉えられた翳りのある主人公アリ・ノイマンは『HAKA』のフィッツジェラルド警部と似ていますし、その部下で反抗的な風来坊ブライアンは『UTU』のオズボーンと重なってきます。身体を破壊された若い女性被害者、その遺品から解き明かされた性癖が第一の容疑者につながっていくのは『HAKA』と同じ展開。ミステリアスな現地人女性(ニナ)が実は反政府系の武装テロ活動に参与しているのは『UTU』(ハナ)と同型。地元のチンピラグループを仕切っているカリスマ導師の登場は『HAKA』のジンザン・ビーを思い出します。
 『ZULU』という作品は舞台をニュージーランドから南アフリカ共和国へと移し『HAKA』/『UTU』で扱った発想を使いまわしているのですが、ネタが尽きてリサイクルに走ったという話ではなく以前に到達できなかった「ある種の完成形」を目論んだ一作となっています。アリ(大人で良識派、抑鬱症)とブライアン(パンキッシュでヒッピー風な反抗青年)という二つのペルソナは明らかに作家フェレの抱えこんだ二重性であり、『HAKA』/『UTU』で別々に登場していた人格が本作ではパラレルな動きとして統合されている訳です。
 フェレは現在の仏ノワールで最も真摯な(文学的に。政治的に)作家の一人なのですが同時に激しい暴力描写を十八番としています。この両極端が矛盾していないのが魅力。第一部末尾、ナタで手首が切り落とされていく場面には頭がクラクラしました。ティリエスやシャタムなど「綺麗な書割り風の猟奇スリラー」では描けない研ぎ澄まされた高密度・硬質の暴力。その意味では馳星周作品と近いです。本物のノワール作家はやはり凄いのだなと実感します。

Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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