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お祭りの日だった。早めに店じまいした娼婦のジーナが飲み屋のカウンターで酒をかっくらっている。それまで気にしたことはなかったのだけれど、季節外れの陽気に頭がクラクラするなかで無性に女とやりたくなってきた。トイレに駆けこんで一物に水を浴びせかける。焼け石に水とはまさにこのこと。フロアに戻ると女のひじを掴み、半ば拉致の形で外へ連れ出した。 |
終戦から数年が経過。文筆家として身を立てようとしていたが中々上手く回らなかった。ジゴロと呼ばれるのは気に入らなかったので自力で小銭は稼いでいたが、結局は女から女へ、汚れ仕事から汚れ仕事へたらいまわしにされていく。友人に連れられ、クラブ「緑の真珠」に足を運ぶと意外な再会があった。数年来連絡の途絶えていた姉のジルベルトだった。太っちょ男とダンスの最中。目と目があった。向こうも気が付いているようだった。「随分おかしな話ね、こんな形で出くわすなんて」。 |
以前に別れた元彼女が姉と一緒に暮らしているという話を聞いた。女同士でよろしくやっているらしい。狭い世界、故郷トゥーロンとパリを結びつける小さな共同体で生き延びていく。旧友の音沙汰もチラホラと入っていた。小人マルセルが強姦罪で有罪の告を受けたそうである。妙にこの話が気になっていた。自分が同じ罪を犯したような気分になってくる。マルセルとは一度会っておきたかった。知人に金を借りてトゥーロンへ向かう。久々に足を踏み入れた故郷の地、そこにはエリザベスもいた。一旦は忘れたはずのほろ苦い恋愛感情が蘇ってくる…
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モーリス・ラファエル/アンジュ・バスティアニの48年デビュー作。露骨な性描写を多く含み、ホモ、レズ、近親相姦願望、露出症、スカトロから強姦まで背徳趣味のオンパレード。とはいえ読み手を興奮させるために書かれている訳ではないためポルノ小説の印象は希薄です。終戦直後の一青年のヴィタ・セクスアリスをだらだら綴っているように見せかけながら、途中にきちんと伏線を張って綺麗な落とし方をしている辺りも好感度高し。
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『かくあるべし』の文体は俗語、隠語、卑猥な言葉と雅語を並置させ、クラッシュさせる発想を多分に含んでいます。短い一文、読んでいる時間としてもわずか数秒の間に粗暴と典雅が次々と交代、キラキラとした輝きを放っていく。アルチュール・ランボーからバロウズへと展開していく「詩的モンタージュ」の一亜種ですが、この輝きが「死」や「暴力」と深く結びついて翳りを帯びている点で黒系の感性に訴えかけてきます。
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モーリス・ラファエルは大戦中の悪事が露見し現在では名を出すのも憚られる作家になっています。確かに主人公の生き様、「長いものには巻かれておこう」の発想に親ファシズムの痕跡は見てとれるのですが、それを加味しても、少なくとも書き手としての潜在能力としてジュネやバタイユに匹敵する力量は備えていたようです。黙殺ではなく批評的読解が必要な作家ではなかろうか、と。
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