飾り地獄

ジョルジュ=ジャン・アルノー著


[初版]1977年
フルーヴ・ノワール社(パリ)
叢書スペシャル・ポリス 1343番


L’Enfer du décor / Georges-Jean Arnaud
-Paris : Fleuve Noir.
-(Spécial Police; 1343)
-11 × 18cm. -1977.


   

 竈(かまど)で焼きあがったばかりの円いパンが机に並べられている。台所に入ってきた夫が驚いた顔をしていた。「上手くいったね」の誉め言葉。「失敗したらどうしようかと思った」、リュシーは謙虚にそう答えた。パリでの忙しない生活に磨耗した夫婦は子供たちを連れて夫の故郷の田舎村にやってきた。手作りのワイン、自家製チーズ、庭でウサギと鶏を育て…夢に見た新しい生活、豊かな生活が始まろうとしていた。

 夢に見た楽園はゆっくりと地獄に変貌していく。

 小学生の息子が学校に行くのを嫌がっていた。理由を問いただす。他の子供達が猫に火をつけているを見てショックを受けたようである。夫に話をしたが取り合ってもらえない。村に戻ってからの夫は別人だった。15年近い夫婦生活で初耳の話が次々と聞こえてくる。山菜採りに出かけたまま失踪した義理の伯母。縁戚だという老夫婦の妻は首を吊り、夫は精神病院で果てていた。会話の端々に聞こえてくる「グレウ一家」は何を意味しているのか?なぜ墓地にグレウ家の墓石がこんなにあるのだろうか?

 深夜にバイクでやってくる走り屋が村人を激怒させていた。「銃で脅しをかけようか」、相談にやってきた一人が声を荒げる。夫が反対していた。リュシーがほっとしたのもつかの間だった。夫は村人と小声で相談を始める。数日後、深夜の爆音に目を覚ます。窓を開けると小川のほとりに十メートル近い火柱が上がっている。炎に包まれたバイク青年がのた打ち回っているのが見えた…

 アルノーが70年代に残した傑作の一つ。前半はチリチリした心理サスペンスで盛り上げていき、村ぐるみの共謀によるバイク青年の「火刑」で最初のピークを迎えます。後半は孤立したヒロイン(リュシー)が村の「謎」を一つずつ「解読」。失踪した義理の伯母が隠していた「家計簿」が秘密の鍵となり、小川でのザリガニ大量死事件からグレウ家の「呪われた血」まで全てが綺麗に一つの論理へと収斂していきます。

 アルノーは仏犯罪小説にエコロジーの視点を持ちこんだ最初の作家で本作も一応はその流れに属しています。それだけではなく、心理サスペンスや官能小説(ヒロインが夫に頼まれ野外セックスをする場面が含まれています)、地方文学、微かにまぶされた怪異色、とジャンル文学全般を総合している辺りに懐の深さが伺えます。仏大衆文学のハードコアを探していくと実はこのベテラン作家にたどり着いてしまうのが面白い所ですね。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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