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                      | 『ジム・トンプソン評伝 :悪魔と寝た男』
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                      | 執筆時期・:2004年頃?Tag: 論考、英米ハードボイルド、ジム・トンプソン
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      |  |  1991年に発表されたトンプソンの評伝。仏訳は93年に発表されている。 |  | 
    
      |  |  トンプソン著作が仏ノワールに与えた影響には計り知れないものがある。この作家はミステリー形式には拘泥しておらず、端整に構築したスリラーがあるかと思えば場末のチンピラがあたふたして終わってしまうだけの作品も含まれている。
      犯罪小説の面白みはパズル的な謎解きではなく、犯罪と犯罪者たちが醸し出す独特の雰囲気にあるのだ。ある意味トンプソンは犯罪小説の概念を勝手に拡大解釈してしまっている。でも面白い。筋がなかろうが関係なく面白い。 |  | 
    
      |  |  フランスでのトンプソン紹介は60年代に活性化している。 |  | 
    
      |  |  ロマン・ノワールの原点、レオ・マレのビュルマ物に始まって今日に至るまで、微かな伝統は存在している。91年、ポラール誌の第2号では『探偵回帰する』の特集が組まれ、ミシェル・ルブランが当時活躍中だった私立探偵を12人も紹介している。『探偵回帰する』はいわば80年代(厳密には74年以降)の紹介だった訳で、その続編として90年代以降を振り返ってみるのも一興かと思う。 |  | 
    
      |  |  とは言えハメットやケイン、ウィルフォードやブロックに比べ作家トンプソンは全貌が見えにくい。本当は何をしたかったんだろう?ヒントになってくれそうなのがこの評伝である。 |  | 
    
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      |  |  読みやすい本ではない。精密な伝記を書こうとしていて、いつどんな仕事で生計を立てていたのか、原稿料が幾らだったのか、煩瑣な事実まで事細かに連ねられている。作家の私生活がリアルに再現されているかというとそうでもなく、途中には膨大な引用と分析が挟まれている。『内なる殺人者』の要約が延々続いた時にはさすがにページを飛ばしてしまった。伝記と評論、異なった方法論の間でどっちつかずになってしまった感が強い。 |  | 
    
      |  |  それでも『悪魔と寝た男』は大事な仕事を完成させている。トンプソン著作の一つ一つを時系列に並べ、それぞれがどんな環境で書かれたのか、どんな意味を持っているのか、ある程度視界をクリアにしてくれる。  |  | 
    
      |  | 「急いで書きすぎた凡庸な一作」 |  | 
    
      |  | (『クロッパーズ・キャビン』、1953年) |  | 
    
      |  | 「ストレスのたまる一作。物語にしても物語を支える心理構築にしてもそれほどの魅力はない」 |  | 
    
      |  | (『深夜のベルボーイ』、1954年) |  | 
    
      |  | 「時々天才のひらめきがある。中心に置かれた女性たちに普段以上の説得力がある。ただしソフォクレスとフロイトを混ぜ合わせた作品は傑作には程遠い」 |  | 
    
      |  | (『グリフターズ』、1963年) |  | 
    
      |  | 「深刻だったり滑稽だったりと作品全体の調子がトンプソン著作特有の心理描写に上手く馴染んでいない」 |  | 
    
      |  | (『テキサスを尻尾から』、1965年 |  | 
    
      |  |  『悪魔と寝た男』には辛口のコメントが多く見られる。無類のトンプソン好きだからこそ何がお勧めで何が違うかはっきりした意見を持っている。現場感覚としてこれはかなり信頼が置ける。結局はいつも「何を読めばいいの?」で悩んでいるわけで(全て網羅するつもりなら話は別だろうが・・・)、その意味で痒いところに手が届いている。 |  | 
    
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      |  | 『悪魔と寝た男』がお勧めしているトンプソン作品はなにか。 |  | 
    
      |  | 「最も詩情に溢れ、創意に溢れた一作」 |  | 
    
      |  | (『残酷な夜』、1953年) |  | 
    
      |  | 「トンプソンの最良の犯罪小説は、全てが運命によって決められているという信仰に基づいた社会で人間がどのように罪の意識を持ち、引き受けていくかの考察になっている」 |  | 
    
      |  | (『内なる殺人者』、1952年) |  | 
    
      |  | 「キューブリック&ハリスの脚本家としての経験が生きていて、まるで画面を見据えながら書いたような印象がある。(・・・)旧作に比べて目を奪うアクションのシーンが増えている」 |  | 
    
      |  | (『ゲッタウェイ』、1959年) |  | 
    
      |  | 「この作品でようやくトンプソンの主人公の長かった旅に終わりが来る。自分が何のためにいるのか、その理由を見つけ出すのである」 |  | 
    
      |  | (『ポップ1280』、1964年) |  | 
    
      |  |  『残酷な夜』、『内なる殺人者』、『ゲッタウェイ』、『ポップ1280』。邦訳も完了し、フランスでも定番の扱いを受けているこの4作の評価は高い。 |  | 
    
      |  |  傑作とは少し違う、傍系ながらも面白い、そんな評価になっている作品もある。 |  | 
    
      |  | 「最も軽い内容ではあるが複雑な筋立てをキビキビと進めていく。手に汗握る作品」 |  | 
    
      |  | (『リコイル』、1953年) |  | 
    
      |  | 「ひとつの小さな社会、集団の罪悪感を微細に描きあげていく」 |  | 
    
      |  | (『キル・オフ』、1955年) |  | 
    
      |  | 「結婚、母性、教育、労働・・・アメリカで聖とされているほとんど全てを手厳しく、正面から攻撃している」 |  | 
    
      |  | (『怒りの子』、1970年) |  | 
    
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      |  |  『悪魔と寝た男』でしばしば出てくるのが「価値観の転倒」。 |  | 
    
      |  |  「ジム・トンプソンの世界には上も下もない。現実味は嘘からほとばしってくる。憎しみから愛が生まれてくる。善は悪から生まれてくる」(『アフター・ダーク』へのコメントより) |  | 
    
      |  |  「救われるか救われないかは信仰と宗教の問題にすぎず、善悪は見方によって変わってくる。"雑草とは居場所のない草のことだ"。まさにトンプソンの世界である」 (『内なる殺人者』へのコメントより) |  | 
    
      |  |  もう一つが「罪悪感」。 |  | 
    
      |  |  「どんな罪も(・・・)必ず何か跡を残していく。トンプソンにおける罪悪感の概念である」
      (1946年『ヒード・ザ・サンダー』へのコメントより) |  | 
    
      |  |  「この作品のエンディングは、把握不可能で定義も不能な罪悪感を強調するだけでは終わっていない。最も歪んだ殺人者だけが抱くことを許された豊かな贖罪、無垢が押し出されている」(『ナッシング・マン』、1954年のコメントより) |  | 
    
      |  |  「価値観の転倒」、「罪悪感」、さらに「強迫観念」、「根を失った」・・・頻繁に現れてくる言葉は確かにトンプソン著作のキーワードになっている。全てが一つのつながった問題なのだ、20世紀のアメリカが提起している重要な問題なのだ、それがこの「現在」と決して無縁ではないのだ、そこまで説明されていれば申し分なかったが…議論はそこまでは踏みこんでいない。20世紀というのは結局トンプソンの足元にも及ばなかったという話である。 |  | 
    
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      |  |  一時期の過小評価が嘘のように再評価が進んでいる。逆に妙に大作家扱いされている印象もある。褒めれば良いという訳でもあるまい。確かに実像と虚像の境界が見分けにくい作家ではある。ナヴィゲーション用に『悪魔と寝た男』を一冊、枕元に置いておきたい。 |  | 
    
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      |  | 【書誌】 |  | 
    
      |  | ・『ジム・トンプソン評伝 :悪魔と寝た男』 マイケル・マコーリー著 Jim Thompson- Coucher avec le diable / Michael McCauley
 -Paris: Editions Payot & Rivages. -(Ecrits noirs). -1993.
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      | ] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010 | 
    
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