「さずが貴鬼、もう仕上げてくれたか」
「貴鬼さま、寝る間も惜しんで頑張ったんだからね」
「感謝してるよ。舞穂ちゃんもありがとう」
「にゃ♪」
修復された聖衣を眺めつつ運んできた舞穂に礼を言う。
今、和樹とクロードはグラード財閥の病院にいる。二人ともティターン神族との戦いで重傷を負った彼らはこの病院に担ぎ込まれたのだ。
「クロード」
「なに?兄さん」
「チェックメイトだ」
「え!?」
黒いナイト、ビショップ、ポーンが白いキングを包囲していた。
「これで139戦124勝15敗だ」
「ッ!」
「にゃ、クロード君よわ〜い♪」
「舞穂、俺たちの聖衣の修復のために血を提供してくれたのだれだ?」
「和樹くんのはアテナで、クロード君のは教皇だよ」
「「!?」」
さらりと出た名前に目を見開く。
「そろそろ戻るね」
「あ、ああ。今度帰るとき何かお土産を持っていく」
「貴鬼や舞夜にもよろしくね」
「うん♪」
手を振りながら消えていく。
舞穂は異能者がゆえに魔法を使うことなくテレポートが使える。
「それにしても三日もこんなところに放り込まれていると体が鈍ってしょうがないね」
「やるか?」
「やりますか♪」
二人は脱走防止のために最上階にある病室にいるのだが、この程度の高さ二人にはなんともない。
「和樹さま!!」
「クロードさまも!!」
「「脱走はいけません!!」」
狙ったかのように千早と神代が入ってくる。
「今日はみんながお見舞いにくるって言っていました」
「そうみたいだね。ここからでも見えるよ」
「すべて話すつもりですか?」
「そうだな、もしまたみんなの前で闘うことになったときに飛び込まれたりしたかまずいしね」
―――――――――――――――――――――
「失礼します」
「和樹ぃ元気?」
「クロード、死んだ?」
「これ、お土産」
「こんにちは」
「見舞いにきたぞ」
「和樹、大丈夫か?」
上から夕菜、玖里子、和美、沙弓、凜、かおり、ディステルである。
「みんないらっしゃい」
病室に入ってきた女性たちは何か言いたげな顔をしている。だが、どう切り出していいかわからずといった感じだ。そこで和樹が助け舟を出してやる。
「答えられる範囲ならなんでも答えるよ」
……………………
………………
…………
……
…
「神話の時代からってなんつぅそうだいな」
「最下級でもマッハ1…」
「黄金だと光速…」
「沙織おばさまが神様の化身…」
(あのときの言葉(6話の回想シーン)の意味はこれか)
「何度聞いても驚かされる」
和樹たちの口から大まかな事を聞いた彼女らはただ圧倒された。
「そういえば、なんで千早さんや神代さんは学校まで休んで和樹さんのところにいるんですか?昔からの知り合いだかなんだか知りませんけど、おかしいです!面会謝罪とか言って妻である私ですら入れなかったんですよ!」
夕菜が怒鳴るように訊くと神代が胸を張って答える。
「私たちは和樹さまの従者だからよ。自称、妻とか言っている人と違ってね!」
「じゅ、従者!?」
女性たちの目が山瀬姉妹を見てそれから和樹を見て再び山瀬姉妹を見る。
「不潔です!そんなこと認めません!!」
「認めるも何も実際にそうなんだから」
千早も神代も和樹から離れるつもりは無い。二人にとって和樹は父のように温かく、兄のように優しく、愛しい人なのだ。
和樹は最初、二人を星の子学園に入れようとしたが、二人が和樹から離れようとしなくなってしまった。今はほとんど見られないが、当時は和樹の姿が少しでも見えなくなると不安でたまらなくなり泣き出してしまうほどだった。
――――――――――――――――――――――
「なぜ、我々だけで行動を起こさない?わざわざ人を使う」
「色々とあるんだよ。君たちだけで行動を起こすと人が死にすぎちゃうからね」
「それがどうした」
「あんまり騒がれるとこまるんだよ。君たちの実力を信じていないわけじゃないけど、やつらが動く前に僕の力を完全にしておきたい」
「そのためにあの少女が必要だということか」
「妻は夫のもとにいるべきなのさ」
「黄金聖闘士には借りがある。彼らと戦えることに異論は無い。特に獅子座の少年とはな」
暗い部屋にいた片方が消えた。
「ククク…アハハハハハハハ!!!いいよ!殺すがいいさ!自分たちの王を自分たちの手で!アハハハハ!!!」
――――――――――――――――――――
和樹たちの説明で見舞いにきた女性たちは帰っていった。
「それにしても凄いわね。あのディステルとかいう人やかおり先生、兄さんやクロードもあれだけの怪我がこんなに短期間で治るなんて」
「そのことで僕は訊きたい。兄さん、何をしたの?」
「霊血を飲ませた」
「霊血を!?兄さんがわけあってもらったことがあると聞いたことがあったけど、そのときのが残っていたの?」
霊血とはとてつもなく貴重な物であり、それほど多くもらえるはずが無い。仮に和樹がくすねたとしたら本来の目的のために必要な量を確保できないはずだ。
「…お前と和美、そして千早と神代にだけは彼女たちに話さなかったことを話す。封印のことを」
和樹は語る自分となった一柱の存在を…
―――――――――――――――――――――
ディステルと別れた五人は近くの喫茶店に入った。和樹たちの語った話を整理しようと思ったのだ。夕菜は従者の件を引きずっているらしくまったく話そうとしない。
「それにしても凄い内容よね。ナポレオンの挫折に元寇の敗北、さらにはローマ帝国の崩壊、全部和樹たち聖闘士がやったって言うんだから」
「まるでシャッフル同盟みたいなやつらだな」
「「「「はぁ?」」」」
「なんだお前たちシャッフル同盟を知らないのか?スパロボでとっても使えるやつらだぞ」
「「「「……」」」」
なんだゲームの話かと四人は呆れてしまった。しかし、今だ混乱していた頭に少し余裕ができた。
(あの話によれば、私と和樹が初めて知り合ったときにはもう和樹は戦うために訓練とかしてたんだ……)
玖里子の思考が過去の記憶の中に旅立とうとしたとき、沙弓がそれを止めた。
「風椿先輩、できればでいいんですけど、昔の式森くんのこと教えてもらえませんか?この中で一番式森くんのこと知っているのは先輩なんだし」
「先輩なんて他人行儀な言い方じゃなくて玖里子さんって呼んで」
そう言ってから彼女は語り出す、自分と似ていながら違う少年との思い出を。
――――――――――――――――――――――
深夜に近い頃、病室には小さな灯りが一つ灯り、和樹が仕事をこなしていた。
(ジュリアン・ソロからのメール?なんだ?)
『獅子座の黄金闘士・和樹 いや、時を司り命の終わりを作る者クロノス。君はこの世界はどうするつもりだ?
返答によっては海闘士全てが君の敵となるだろう』
(…さすがはポセイドン。クロノスの存在にいち早く反応したか、ティターンたちがなんのリアクションをしてこないところを見るとピュペリオンたちの言う“ヤツ”という存在があのとき放った小宇宙をさえぎっているのか?)
和樹は『神をも倒して進む覚悟を持つ人間の進むさきが見たくなった。そしてアテナとの契約で獅子座の星のもとに生まれたこの少年と一体化した。そちらが心配しているようなことをやるつもりはない』そう書き込み、送信した。
ジュリアン・ソロは彼の中に宿ったポセイドンとの相性が良かったらしくいつの間にか和樹のように一体化していた。ポセイドンとしての自覚を持った彼はアテナと友好的な関係を築き、現在にいたる。
双子座の黄金聖闘士・ザインは海将軍シードラゴンの顔も持ち、橋渡し役をやっている。
少しすると返信メールが返ってきた。そこにはただ『信じよう』と、かかれていた。
「ふぅ〜」
肩を叩きながら隣を見るとクロードが寝ている。その寝顔を見て思わず口元がゆるむ。まさか、弟と共に戦い、共に入院するとは思わなかった。
―――――――――――――――――――――――
聖地にある闘技場は主に聖闘士育成のために使われている。聖地に住む聖闘士たちが様子を見に着たりするのは日常的であり、その姿は訓練生たちにとって憧れであり目標だった。
千早たちを引き取って間もない頃、彼女たちの体力向上(十二宮の上り下りはかなり体力がいる)をかねた散歩ついでに案内していた和樹が闘技場に姿を現した。黄金の鎧を纏った彼に向けられる視線に憧れがこもっていたのは、当時まだ候補生として修行していたクロード(千早たちの事件のときは研修として同行した)だけだった。
候補生たちの口からは「アテナの息子ってだけで黄金聖闘士になった」とか「所詮は親の七光で危険な指令をこなした事なんて一度も無い」などの声が和樹の耳にも届いた、ようやくギリシア語がわかるようになった千早と神代がおろおろしていたが、自分が候補生をやっていた頃から言われ続けている和樹はなんの反応も示さなかった。
が、自分に崇拝に近い尊敬心を抱いていたクロードがキレた。候補生の中でも上位にいた少年を殴り飛ばしたのだ。
「兄さんをバカにするな!!兄さんは実力で黄金聖闘士になったんだ!」
そう叫んで彼はさらに拳を振るおうとした。
「もういい、クロード。ありがとう」
客席にいたはずの和樹が一瞬にしてクロードと少年の間に現れ、クロードの拳を止める。その動きを見切ることのできたものは候補生の中で一人もいなかった。
「でも兄さん!」
訓練のほかにもシャイナや魔鈴のもとへ行き、修行を行っていたことを知るクロードにはどうしても許せないのだ。
暇だからと巨蟹宮からついてきたブラッドがクロードにむけて「クロード、もっとやれ!今度は○○○にキックだ!!」だの「積尸気冥界波で自分がどれだけバカか教えてやるぜぇ!」などと叫んでいる。彼も和樹のがんばりを知る者だ。彼は日々の言動で勘違いされがちだが、仲間のことになると人一倍熱くなれる男なのだ。
「いいんだ。俺は気にしてない」
クロードの頭をなで優しく語り、ブラッドには「本当にやるなよ」と目で語る。
後で聞いた話だが、クロードが不意打ちとはいえ、候補生ナンバーワンの少年を殴ったのはあれが初めてだったそうだ。
―――――――――――――――――――
眠る弟の髪を撫でると和樹は再びパソコンに向かった。
「ん?スチール聖闘士開発部からの資料?」
ファイルを開いてみるとメカメカしい鎧をきた紅尉晴明の妹の紅尉紫乃が微笑んでいた。
「なんで被験者じゃなくて紫乃さんが着てるんだ?」
データの中にはスチール聖衣の下に着るアンダースーツ姿の画像(体のラインがはっきりと出る)まであった。その画像をチラッと見ただけで和樹は作業に戻った。
「いくらか行方不明の金があるな。明日、ドクターに幻魔拳を使って聞き出してやる」
(悪夢のおまけをつけよう。きっと喜んでくれるな)
紅尉の運命が決まった。
あとがき
アーレスです。
今回は戦いのあとの話しをやらせていただきました。
次回はあの夕菜と犬猿の仲の女性たちと黄金聖闘士を出そうと思っています。
それではまた…………君は小宇宙を感じたことがあるか!?
レス返し
>D,さん
和樹のMEGAS DOREPANONは封印時の形態です。開放された形態なら鎧になるのではないでしょうか。
>御気さん
色々なことが同時に明かされて混乱させてしまいました。
>ジェミナスさん
そこの部分は何度も書き直したのでそういっていただけるとやったかいがあります。
>西手
ありがとうございます。