「突然呼び出してきて何のようだ?というか、どうやって私の居場所を知った?」
「居場所は家の力をちょっとね。用事は優しいディステルのことだから彼女のことが気になっているんじゃないかと思ってさ。これから会いに行くんだけど来ないか?」
落ち着いた感じのする喫茶店で和樹とディステルは向かい合って座っていた。はたから見れば、歳の離れたカップルに見えるかもしれない。
「私が優しい云々はどうでもいいが、何でいまさら彼女のことが出てくるのだ?」
「この間、お見舞いにきてくれたとき、何か言いたそうだったからなんとなくわかった」
運ばれてきた紅茶に少量の砂糖を入れて飲む。返事が聞けるまで話すことのなくなった和樹は自分の望む返事を得られるまでここにいるだろう。例え、違った返事が返ってこようとも、幼いことより鍛えられた話術で結局はねじ伏せられることはわかりきっている。だから、ディステルは彼のそして自分の望む返事と抵抗を混ぜて返してやる。
「確かに、気になるな。だが、私などがあの少女に会っていいのか?」
「平気だよ。向うをディステルのこと気にしてたし」
「そうか」
黄金の獅子と金髪の美女と子猫
『獅子座の黄金聖闘士・和樹は聖域を抜け出した5人の聖闘士候補の捕縛または討伐を命ず』
「なんで黄金聖闘士の任務が脱走者の討伐なんだ?しかも嫌味のように脱走者の内、二人は同期だぞ」
豪華なリムジンの中で和樹は愚痴を漏らす。
観光地としては有名なこの島で、名の知れた富豪の家に転がり込んでいることを調べ、調査をするために城戸としてその富豪の家に行くつもりなのだ。
「若さま、お一人では「大丈夫だよ。これでも黄金聖闘士のひとりだ。いざとなったらさっさと逃げる。だから、心配しなくていいよ、辰巳」 しかし、相手はマフィアを従えるトルネオです」
「銃弾ぐらい避けられる」
――――――――――――――――――――――――――
と、言うこと会話があったのがつい先ほど、現在、和樹はでっぷりと太ったトルネオという男と向かい合っていた。
「先ほど申したように、グラードが今度企画する観光施設の下見ついでに、この島で名の知れたトルネオ氏にご挨拶をと思いまして」
「ほぉ、グラードはガキにそんなことを任せているのか」
「これでも15です。母、城戸沙織がグラードの総帥となったのは私よりもさらに若かったと聞いております。と言っても私はまだまだ何も知らない若輩者ですが」
目の前にいる若造に言った嫌味を軽く受け流され、トルネオは舌打ちをして和樹を睨みつける。
「本日はご挨拶のために伺ったのでそろそろお暇させていただきます。この企画にご協力していただけると光栄です」
(邸内は魔法封じの結界と微弱な小宇宙を感じる青銅像が多数か、あと何か違和感を覚える気配が一つ…特に障害にはなりそうにないな)
和樹はすっと立ち上がるとトルネオ邸をあとにした。
――――――――――――――――――――――――――
トルネオ邸前で待っていたリムジンに乗ってホテルまで戻った和樹はまだ日が高いことからガイドマップ片手に散策に出かけた。
少し歩くと公園を見つけ、ベンチに座ってこれからのことを考える。
(確かにトルネオのところにいるみたいだったし、今夜中に討伐に出る。……ファンルーグとカウガ…か、何考えているんだ)
候補生時代の同期で和樹よりニ、三歳年上だった二人、はっきり言っていい印象をもったことは一度もない。和樹が好成績を出すたびに「さすがはアテナの息子!」だの、「教皇直々に教えを受けているだけの事はあるじゃないか!(一度もうけたことはない)」と言い、候補生内で和樹を孤立させる原因となった二人なのだ。
だが、ジンをはじめとした偏見を持たなかった同期で黄金聖闘士となった仲間たちのおかげで完全に孤立する事はなかった。
(はぁ〜、ダメだ。私怨は捨てろ。俺は聖闘士なんだ私怨だけで動いたらダメだ)
頭をふって同期の二人に対する憎怨をはらおうとする。そんな彼の眼に怒鳴りつけられている少女の姿が眼に入った。怒鳴られている少女は怒鳴り声などに全く関心を示していない。そのことにキレた男が拳を振り上げた。
和樹は素早く、少女を庇うように立ち、男の拳を受け止める。
「女の子に手を振るうなんて男として最低ですよ」
「うるせぇ!!こいつのせいで俺の一張羅が台無しになったんだよ!!」
男は自分の胸を示す。そこにはアイスクリームがべったりとついていた。どうやら少女とぶつかった拍子につけてしまったらしい。
「そこどけガキ!!それとも何か?てめぇが弁償してくれんのか!?」
「…それで、あなたの怒りが収まるならどうぞ」
手持ち札の五分の一を男の顔に投げつける。
「…これだけあれば満足でしょう?さ、行こう」
札の量に呆然とする男を残して和樹は少女の手を引いてその場を離れた。
――――――――――――――――――――――――
「君、名前は?」
「イヴ…」
黒いワンピースをきた金髪の少女は短く答えた。
「ふ〜ん、俺はLeoっていうんだ」
和樹はあえて最近決めたばかりの偽名を名乗った。
「レオ?」
「ライオンだよ。百獣の王さ」
「ライオン?」
「もしかしてライオンって知らないの?」
首をかしげるイヴにもしやと思い和樹は恐る恐る訊いてみると、イヴはコクンと頷いた。
「見てみたい?」
「うん」
ライオンに興味を持ったらしく、頷いた。
「この近くに動物園があるってガイドマップに書いてあったし、行こう!」
和樹はイヴの手を引いて歩き出した。
―――――――――――――――――――――――
動物園にやってきた和樹とイヴは真っ先に目的だったライオンのところに行った。ライオンは檻の向うでぐったりと寝ているだけで、ここにつくまでに和樹が熱弁していたような雄々しさなど全くなかった。
「これがおうさまなの?」
「ライオンって普段はああいう感じなんだよ。でも、護るべきものが危険にさらされたとき、自分の身の危険もかえりみず、敵と戦うんだ」
「レオも?」
和樹の顔をじっと見てイヴは訊いた。その視線から逃げず、和樹はニコリと笑った。
「ああ、イヴだってもう俺の護るべきものの一人だよ」
「わたしも?」
「うん、俺はいっぱいある大切なものとあの人のために戦ってるんだ」
イヴの頭を撫でてライオンの方に視線を戻す。イヴもそれにならう。
「のど渇いてないか?ジュース買ってくるよ」
そう言って和樹はイヴから離れた。
―――――――――――――――――――――――
ジュースを持って戻ってきたとき、イヴの姿はなかった。
和樹は気にした様子もなく近くのベンチに座り、隣にイヴの分として買ったジュースを置いた。
「いい加減出てきてくれないかな?」
「貴様……あの少女が何者なのか知っているのか」
スッと音もなく現れた金髪の女性ディステルは和樹の隣に座りコートの中に手を入れた。カチャッという音がした。銃を向けていると脅されているのかかかわらず、和樹は平然と指をディステルに数秒向けてから指を下ろした。
「別に、ただトルネオのところにいるってことは知ってるよ。彼女の気配はあのデブの屋敷にあった特別な気配と同じだったし。あ、俺の名前はLeoだから。
イヴから感じられる気配は普通じゃなかった、どうしてなのか知っているんだったら教えて欲しいんだけど」
まだ十代前半の少年から発せられるプレッシャーに警戒しながらディステルは口を開いた。
「私はディステルだ。彼女は体内にナノマシンを組みこんで、自在に自分の形態を変化させる能力を持った生体兵器だぞ。すでに何人も殺している」
「兵器ねぇ」
(違う。イヴはただの女の子だ)
脅してみたが、気のない返事だけが返ってきた。
「こちらのことは話したLeo、貴様は何が目的だ?」
喋ってはまずいようなことを喋ってしまった事にディステルは全く気づいていない。
「トルネオの屋敷に俺の追っている逃亡者が逃げ込んでね。討伐じゃなくて捕獲するつもりだったんだけど……やめた」
「!?」
ディステルの背に嫌な汗がつたった。隣にいるのは人ではなく野生のライオンがいるような緊張が体に走った。
「Leo、貴様がどれほど強いか知らないが「ついてきて」 おい!」
ディステルの手を引いて公園内にある林の中に入る。
少し歩いて和樹が振り向いた。
「俺たちは魔法や科学とは全く違う力を使う者、聖闘士だ」
「セイント?」
和樹が手短に聖闘士について話す。聖闘士について秘密にしろとは言われていないため、特に気にはしない。
「信じられんな。光速の拳など」
「これでどうだ?」
和樹が一本の木を指差した。ディステルの視線がその木に移った瞬間に指が光り、木にいくつのも穴が生まれた。
「……」
(魔力は全く感じなかった。では、この少年の言っていることは本当だというのか?)
「その銃の弾程度なら軽く掴めるけど試す?」
「いや、信じよう」
「そういえば、まだディステルの目的って聞いてなかったね」
「私の目的はトルネオの始末とヤツの行っている研究データを抹消する事だ」
欲しい情報が手に入った和樹はディステルにさり気なくかけた幻魔拳を解き(彼女が何でも喋ったのはこのため)、彼女と別れた。
―――――――――――――――――――――
深夜、トルネオ邸付近にパンドラボックスを背負った和樹の姿があり、その横にディステルがいた。
「俺から離れるなよ。あの屋敷の中にはリビィングスタチューがかなりの数いた」
「なんだそれは?」
「ゴーレムみたいな物、魔法はきかない。俺が破壊するから」
「わかった」
「それじゃ行くぞ」
ディステルをお姫様抱っこ(ディステルが慌てたが気にせず)して跳んだ。跳び越えることはまず無理なはずの高い塀を軽々と越え、結界を小宇宙で無力化して邸内に入る。
「さてと、俺の存在に気づいてもらおうか?レオ!」
和樹の声に反応してパンドラボックスが勝手に開き、雄々しい黄金の獅子が和樹を包む。
―――――――――――――――――――――
「…そうか、わかった」
「ん?どうかしたのか?ファンルーグ」
「邸内に聖域からの追っ手が現れました。感じるレベルからすると最下級の青銅ですね。この程度たいしたことありませんよ」
薄暗い部屋で勝手に屋敷を出たイヴをいたぶっていたトルネオの隣に立つ長身の男が報告する。
トルネオは銃弾さえかわし、自分のもとにいた腕利きの部下をいともあっさり倒して見せたファンルーグたち逃亡者を自分の屋敷に入れたのだ。
「ほお、お前たちの用意したあのゴーレムでさっさと殺してしまえ」
「ミスタ・トルネオ、ゴーレムではなくリビィングスタチューですよ。ハイロンが始末しにかかっております。しばしのお待ちを」
ファンルーグは恭しく頭を下げる。
「トルネオさま!侵入者が!!」
「わかってる」
―――――――――――――――――――――――
「ライトニングプラズマ!(超弱)」
雷光の牙がリビィングスタチューを次々と粉々に破壊する。
「…すごい」
「まだ20%も出してないんだけど」
「これでもまだ20%以下だといのか!?」
驚愕するディステルの背後から迫っていた人型のリビィングスタチューを破壊して屋敷の一角を睨みつけた。
「見つけた。あのデブとバカ5人、行こう」
「わかった」
ディステルのスピードにあわせて走り出す。屋敷内にはリビィングスタチュー以外にも銃を持った黒服の男たちがいた。
和樹がリビィングスタチューの破壊と男たちからの攻撃を防ぎ、ディステルが男たちを倒していく。
――――――――――――――――――――――――
モニター室で侵入者の姿を見た逃亡者たちは目を見開いた。
「ファンルーグ!ヤツは青銅闘士じゃない!和樹だ。あいつが俺たちの討伐にかり出されたんだ」
「どういうことだ?ハイロン、ファンルーグ、すぐに片付くんじゃなかったのか?」
(あの金色のガキ、どっかで見たことがある。どこでだ?)
焦りを見せる二人をトルネオが睨む。
イヴが小さな声で「レオ」と囁いたことを誰も気づかなかった。
「予想外の敵だったもので、ですが、我々5人にかかれば、たいしたことはないでしょう」
「ここでは狭すぎます。中庭へ」
「わかった」
ファンルーグがトルネオを背負って三階の部屋から中庭へ飛び降り、ハイロンが物を掴むようにイヴを掴み上げてファンルーグに続く。残りの3人も次々に飛び降りる。
―――――――――――――――――――――――
マシンガンの弾を防ぎ、リビィングスタチューを蹴り崩して和樹が止まった。周囲にいる男たちを倒したディステルも止まる。
「どうかしたのか、Leo?」
「連中が移動した。俺はヤツらを追う」
「そうか、ならここからは別行動だな」
中庭に面した壁をブチ破り和樹は飛び降りた。
「リビィングスタチューとやらが和樹を追っていく?脅威と感じられていたのは和樹だけということか。私を軽んじたことを後悔するなよ」
倒した男からマシンガンを奪い、ディステルは目的地を目指す。
――――――――――――――――――――――
中庭には、逃亡者であるファンルーグとハイロンをはじめとする5人と彼らの後に立つトルネオ。そして、虚ろな目で立つイヴがいた。
「…ファンルーグ、ハイロン、それからテニル、ウォエウネン、ラース、俺はお前たちの討伐を任された。覚悟はいいか?」
「ずいぶんとデカイ口叩くようになったじゃないか。和樹」
「黄金聖衣なんてエライもの持つと態度まで偉くなるのか?」
この程度の小宇宙なら倒せると思いが逃亡者たちに余裕を与えた。
「おい、お前たちを追ってきたとか言うヤツの顔をワシにも見せろ」
トルネオが逃亡者たちの間から和樹の方を見る。
「ほぉ、城戸のガキじゃないか。お前たち、殺すなよ。生け捕ればあの小娘から「黙れ、デブ」 なに!?」
自分に向けられた暴言に腹を立てたトルネオのことなど無視して和樹はイヴに微笑みかけた。
「イヴ」
「レオ」
虚ろだったイヴの目に光りが戻る。
「ん?和樹、お前これのこと知っているのか」
「これ?」
「ああ、これは人間じゃない兵器だ」
和樹の中で押さえ込まれていた小宇宙が爆発した。
「「「「「「「!?」」」」」」」
小宇宙を感じる事の無いトルネオにさえ、和樹の放つ黄金の獅子の小宇宙を感じた。
リビィングスタチューを操るハイロンが恐怖に駆られ、和樹の背後から残りのリビィングスタチューを全て襲わせた。
「ライトニングプラズマ」
振り返ることなく放たれた雷光が討ち漏らすことなく全てを破壊した。
「…兵器か……なら、俺の雷でその檻を壊してイヴを人間に戻す!!自由な一人の人間に戻す!!」
「ジユウ?」
イヴが明らかに和樹の言葉に興味を示している。
「イヴ!ヤツの話に耳を貸すな!ヤツはここで死ぬんだ!!」
イヴはトルネオの命令を無視した。
「ジユウってことの意味…よくわからないけど…それって……わたしの…すきなようにしていいの?
もう…ひとをころさなくていいのかな?」
「そうだよ。そんなことしなくていい」
和樹が優しく笑いかける。
「じゃあ…わたし…ジユウがいい」
「わかった少し待ってくれ。すぐにこいつらを片付けるから」
「なめるな!!このボンボンがぁ!!」
ファンルーグの叫びと共に5人が同時に跳びかかる。彼らも候補生だった実力か高速で迫る。だが、同じ“コウソク”でも“光速”である和樹には遅いものでしかなかった。
「ライトニングボルト!」
荒れ狂う雷光が5人の技を5人ごと飲み込み、生命の火を狩る。
「……」
強かったはずの男たちがたった一撃で倒されたことにトルネオは呆然とした。
「おいで…」
トルネオの手元にいたイヴが和樹の胸に飛び込む。和樹もそれをしっかりと抱きとめる。
「人の命をなんとも思わない貴様に悪夢のプレゼントをくれてやる 幻魔拳!」
和樹の突きつけた指に撃ち抜かれたようにトルネオは倒れた。
「殺しちゃったの?」
「いや、夢を見せているだけだ。ただその夢は悪夢だろうけどな」
イヴの頭を撫でる。気持ちがいいらしくイヴはじっとしている。一瞬、『ネコみたいだな』と思ったが自分もネコ科だと思い出して一人でふきだす。
「終わったようだな。Leo」
現れたディステルに笑顔を向ける。
「そっちは?」
「こちらはこのスイッチを押したら終わりだ」
そう言ってスイッチを押すと屋敷の一部が爆発した。
「これだけ派手な音がすれば警察も来るだろうしウチの迎えが着ているだろうからそれで退散しようか?」
――――――――――――――――――――――――
「まさか本当にお前がグラード財閥の御曹司だったとはな」
「まあ、信じてもらえているとは思ってなかったよ」
和樹とディステルの歩く先に星の子学園と書かれた孤児院となっている教会があった。
「先にみんなが行っているから結構騒がしいな」
和美と千早たちで行くつもりだったが、玖里子と凜が名乗り出たため(夕菜は過去の事があるため幻魔拳をかけた状態でどっかに転送した)、和樹はディステルを呼ぼうと思いついたのだ。
孤児院の敷地内に入ると元気な子供たちと遊んでいる仲間がいた。その方向に進もうとしたとき、金髪の少女が和樹の胸に飛び込んだ。
「レオ!」
「イヴ!今日はお前にお客さんがきたぞ」
抱きつくイヴをはがし、後ろを示す。
「あ、ディステル」
「げ、元気そうだな。イヴ」
「うん!」
あとがき
アーレスです。
なんとなくディステルとの出会いを書いてみたくなったので書いてみました。
ただ二人を出すだけでは面白くなかったのでBCをプラスしてみました。
それではまた………君は小宇宙を感じたことがあるか!?
おまけ
「イヴ、どうした?そのケモノミミとシッポは?」
「ライオンのメスを本で見たの。レオってオスだから」
「それで?」
「レオはライオンだからメスライオンになったら?コイビトになれると思って」
「……」