〜第9話〜
除霊学部のロビーにて。
「せっかく三年生全員でお揃いの簡易霊的防護服を作ったのに、霊しか見てくれないのでは…作った意味があるんだろーか?」
横島が首をしきりに捻っている。
先日某所に発注した簡単な作りのツナギだが、結構しっかりした防御力を持っていた。
背中には……
「六道大学 除霊学部」と書かれた旗をくわえたディフォルメシロが描かれており、可愛いと好評である。
「わう…(照れるでござるな…)」
本人も照れつつ満足げだ。
某九尾の子狐がそれに激怒して大暴れしそうになった為、慌てて彼女の絵も胸に入れる事になり更に費用がかさんだというのは余談である。
「意味は無くても請求書は来てますけど…」
ひらひらと請求書をかざすおキヌ。
「氷川にツケとけ」
葦原涼が何気にヒドい提案をする。
「わぁ、氷川さんが払ってくれるんですね!」
大げさに喜んで見せる津上翔一。
「え?え?え?……そんな…酷いですよ〜」
氷川誠が半泣きで抗議した。
「大体前に立て替えた焼肉の代金だって貰ってませんよ!」
やはりイジメられてるのか?
「ピート…一緒に払ってやれ」
ぽんっとピートの肩に手を置き、横島が呟く。
「え〜〜〜〜!?」
まあそれはさておき……
結局誰が払ったのだろう?
年に一度の六道祭である。
壁にベタベタ貼ってあるポスターを見ると……
「お札投げ…一回二百円」
「心霊喫茶”貴方の知らない世界”」
「ドクターカオス独占講演会」
「銘菓 怨霊焼き」
「悪霊キャッチャー好評稼動中」
「魔鈴めぐみと来栖川芹香の黒魔術占い(召喚ショー有り)」
などなど…いかがわしさ爆発のモノばかりであった。
「…見ただけで行きたく無くなるよーな企画だらけだな」
「特にカオス教授の講演会は…」
頭痛を抑え切れない横島とピート。
向こうではアギト組がまだわいわいやっている。
「大体氷川さんは…」
「でもあれは!」
「あの時もう一発殴っておけば良かったか?」
何だか違う方向に話が行ってるらしい。
変身バトルだけはやめとけよ?
「でも心霊喫茶も酷いぜ?ウエイトレスがみんなそこらをうろついてた浮遊霊らしいし」
「うえぇ…そりゃ知りたくも無い世界ですね…」
横島達の頭痛は酷くなるばかり。
「つか何だよ、悪霊キャッチャーって?」
「UFOキャッチャーモドキの機械で悪霊をゲットするんですかね?」
「んなのいらねーぞ?」
どんなんだ?悪霊キャッチャー?
「そういえば、さっき向こうで大騒ぎしてましたけどあれは?」
「ああ、魔女学の教授の召喚ショーでとんでもないモノが出たらしいぞ」
「は?」
あんぐりと口を空けるピート。
「何でも…どでかいハサミをぶん回すロンゲの殺人鬼らしい」
「うげ…有名なバイオレン…じゃない切り裂きジャックですかね?で、どうなったんです?」
「さあ?送還されたんじゃねーか?何か最後は魚雷になって、草加がまたやられたとかなんとか聞いたけど」
「は??」
かくかくんっとピートの顎が落ちた。
一体何を呼び出した?魔鈴よ?
「買って来ましたけど?」
とてとてと小鳩が走ってくる。
「おお、ありがとー!どれどれ…早速…」
小鳩が差し出した、ほくほくと湯気を立てている紙袋の中身を覗き込む魔理。
が。
「うげ!?」
その顔が露骨に引き攣った。
「どうしました?」
おキヌが聞く。
「いや〜…銘菓「怨霊焼き」っての、興味あったんだけど小鳩ちゃんが用事のついでに買ってきてくれたんだよ」
「はぁ」
「なんつーかこう…ま、兎に角説明するより見てくれた方が早いや」
紙袋の口をおキヌに向ける魔理。
「!?」
中を見た彼女もかきーんと凍り付く。
「何だ何だ?」
「どうしたんですか?」
横島とピートも様子が変なのに気付いてやってくる。
で、紙袋からそれを取り出してみた。
「…悪趣味」
「つーか、どうやって作ったんでしょうね…」
横島がつまんだそれを見てしみじみと呟くピート。
銘菓「怨霊焼き」
普通の人形焼っぽい食い物であるが、なんだか怨霊の顔のよーな造形をしてあるのだ。
それだけなら驚きはすまい(GSの卵だし)
問題はその顔がニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべているのだ。
今にも「ゲッゲッゲッ」と笑い声が聞こえそうなくらい、リアルに顔を動かして笑うのである。
何処が銘菓なのだ?
「多分、魔女学講座の製作なんだろーなぁ」
「ですね」
はぁっと溜息を吐く横島とピート。
「絶対売れねーと思うんだけど…味は?」
ブチブチ言いながらあろうことかそれをぽいっと口に入れる魔理(!)
もぐもぐ…
「あああ!!」
「駄目ですよぅ!」
おキヌと小鳩の悲鳴が上がった。
「あれを食った!?」
「勇気というより蛮勇ですよ!」
横島とピートも唖然とする。
「う……」
驚きの表情のまま動きを止める魔理。
シーン。
誰も言葉を発しない。
「…うまい!」
べしゃっ!
その一言に全員が脱力して地に伏す。
「うんうん、餡子もさることながらこの皮がなかなか…」
一人喰い続けている魔理と、声を出す気力も無い横島達。
銘菓「怨霊焼き」
形は兎も角、味は確かであった。
魔女学講座恐るべし。
いや、一文字魔理も(ある意味)恐るべしだが。
「どーでもいーけど、ウチの企画はどーなってんだ?」
「えっとですね…」
なんとか復活した横島の呟きに、おキヌが説明を始めた。
除霊学部にも色々(二、三個だが)企画がある。
式神大集合!「式神ワールド2005」
……何処かの仮面ヒーローのイベントみたいなタイトルだが。
ぶっちゃけただの式神展示であった。
式神使い講座全面協力なのは当然だが。
スタミナ料理「パワーオブドリーム」
霊的格闘講座協力の料理店である、特に変わった物ではない。
材料に目をつぶれば…
というか、何処かの車のメーカーのキャッチフレーズか?
「という訳で、これが横島さんとピートさんの持ち場らしいです」
おキヌが差し出した紙には…
「一日GSさん」
と書かれていた。
で、二人はその会場の受付に居たりするのだ。
来訪者は殆ど無く閑古鳥状態。
ちなみにおキヌ達は揃って料理店の方にかり出されている。
「う〜ん…どうしてお客さんが来ないんでしょうね、無料で除霊体験が出来るのに…」
ピートが唸り声をあげた。
「確かに…こんなチャンスは滅多に無いんだろうけど…」
横島は何となく疑問形で言う。
ちなみに一日GSさんとは…
ちょこっと細工したお札をへろへろに弱らせてある低級霊にぶつけて、客が除霊した気分になれるというのがメインの企画である。
「…ピート、お前が一般の客だったらそれをやってみたいと思うか?」
横島が問う。
「…何が楽しくてお仕事でも無いのに、そんな危険かも知れない事しなきゃならないんですか?」
ピートがどきっぱりと断言した。
「それが答えだ」
「あ……でもその他にお客さんが出来る事と言うと…」
低級霊の観察。
浮遊霊の観察。
地縛霊の観察。
背後霊との会話。
「……全然ダメダメだろ」
横島が、ピートの全ての提案を却下した。
「わぉん(誰か来たでござるよ)」
シロの声に、横島は不毛な会話を打ち切る。
「ちょっと聞きたいんだけど」
やってきたのは…黒い長髪に、均等の取れたナイスバディの美女だった。
「はいっス」
横島が営業スマイルで応対する。
(何処かで見たよーな顔だが…はて?)
「六道大学って…何処?」
ぎゃふんっ。
「ありがと、助かったわ(あれが横島忠夫…姉さんが魅かれるだけあってただ者じゃないわね…)」
美女が礼を言って立ち去った後……
「横島さん…何故ここも六道大学だって主張しないんです?」
ピートが溜息混じりにツッコむ。
「説明が面倒だし…ここのつまんねぇ企画の説明も嫌だからだ」
やる気ナッシング状態の横島が投げやりに答えた。
「あう…」
除霊学部は無闇に広大な六道大学の敷地の北の辺境に位置し、普段から人通りの少ない場所であった。
従って……
「一日GSさん」は、例年そんなに盛り上がる事は無いと聞いている。
「場所が悪いんでしょうか?」
後からやってきたおキヌが言う。
「それ以前の問題だよ…こりゃあ」
魔理が天を仰いだ。
どうやら別の人に交代して貰っての休憩時間らしい。
「他の企画を考えるか?」
葦原涼が提案する。
「例えば…?」
氷川が聞く。
「……仮面ライダーショー」
ボソッとピートがこぼす。
ぽん!
アギト組三人が同時に手を打つ。
「駄目だって、準備不足だしおまけに…安っぽくなるだろお前らの存在が」
横島があっさり駄目出しした。
「…そうですね」
翔一が頷く。
「横島さんの意見は?」
小鳩が横島を見上げる。
「…店をたたんで魔鈴教授の模擬料理店で飯」
「それ採用」×全員
即答かよ。
わ〜い!と盛り上がる一同。
だが……
「そんなの〜駄目〜」
どこからか聞こえる間延びしたお声……
「私たちだって〜遊びに行けないのに〜…」
何時の間にか、入り口に素敵暴走プリンセス冥子が立っていた。
なんだかやつれてるよーにも見えないでも無いが…?
院生及び上級生達は、普段通り研究などをしている。
特に式神使い講座では、夏休みに式神製作に必要なアイテムが壊れてしまい…
借金で新しいのを買ったもののお盆休みに突入。
業者も当然休んでいる為調整して貰えず、徒に指紋を付けるだけの日々が続いた。
おかげで…
アイテム使用可能になった現在、突貫工事で作業が進められている訳である。
「日曜日〜お休み欲しい〜って言ったら〜マーくんに怒られちゃった〜(涙)」
だう〜っと涙を流しながら切々と語る冥子。
(デートを断られた恨みじゃないですかね?)
(ありうる…入院もしたしな)
ぼそぼそと話している横島とピート。
そーいう訳で…
冥子は今他人の休みに対して、とっても僻みっぽくなっているのであった。
「遊びに行っちゃ〜駄目〜」
がっしとピートの靴を掴んで離さない冥子。
「そうは言ってもこのままじゃ誰も来ませんよ…」
ピートは困り果てている。
その時……
「あの…一日GSさんって…ここですか?」
一人の少女がネズミの様な生き物を抱いてやってきた。
「わ、客だ」
魔理が信じられないという顔をする。
「珍しい…」
津上翔一が何故か難しい表情を浮かべた。
「もう受付終わり…(ごめすっ!)」
ナニか言いかけた氷川を、涼が生身ヒールクロウで黙らせる。
「コイツの言う事は気にするな」
「そうそう、氷川さん冗談と焼肉が好きだから」
アギト組二人が愛想笑いで答えた。
「はぁ…」
状況が飲み込めていない少女。
ずーるずーると引き摺られて消えて行く氷川。
「そうだけど…どうしたんだい?」
ユカイな仲間達を見ないよーにして横島が対応した。
「ムラマサが…怪我しちゃって…」
差し出されたネズミもどきは…背中に軽い怪我をしている。
どうやら商品として、企業とかに色々作り出された人造妖物の一体らしい。
「このくらいなら…シロ!」
「わぅ!(はいでござるよ!)」
シロが勢い良く駆け寄って来た。
「ヒーリング頼む」
「わぉん(了解でござるよ)」
ぺろぺろぺろぺろ…(ヒーリング中)
「うわわっ…くすぐったいぞ〜」
「ムラマサ、我慢して!」
暴れようとするネズミもどきを少女がたしなめる。
「どうもありがとう!」
「世話んなったな」
元気になったネズミもどきを連れて、少女が嬉しそうに帰って行く。
「……あれ客ですかね?」
ピートが言った。
「ま、いいんじゃないですか?」
おキヌがにっこりと笑う。
「じゃ、メシ食いに行こうか」
そそくさと出発しようとする魔理。
だが……
世の中そう甘くは無かった。
「一日GSさんって…ここ?」
そう!
次々と客(?)が出現し始めたのだ!
「あの〜ウチのグレムリン元気無いんです」
時計を噛っている妖物を抱いた女性が言う。
最近はペットとして大人気の様だ。
「事情があって化けウサギ飼えなくなってしまって…くちばしが付いていてピンクで妙に醒めてるんですけど…貰い手あるかな?」
真面目そうな青年である。
「あのさぁ〜こ〜んなメイドロボ欲しいんだけどぉ…貰って来てくれないかなぁ〜…?」
…デブで紙袋を下げて美少女キャラモノTシャツを着た…
典型的お○くスタイルの男がにへにへしながらのたもーた。
差し出された写真には、某大企業製ドジ標準装備メイドロボの姿が。
これには全員が凍り付いた。
(そ…そんな事言われても…)
ピートなんぞは完全に腰が引けている。
一番最初に動いたのは…
横島だった!
「えっと…エーテル浴させてみたらどうッスか?化けウサギは…何処かの駅前英語教室に寄付するのがお勧めッス」
「「は…はい」」
「そして……」
ギロッとお○く男を睨みつける横島……
「ひぃっ!?」
「…てめーは…来栖川の研究所にでもぉぉ行って来いぃぃぃぃ!!」
どげしっ!!
「うぎぇぇぇぇ!?」
横島は情け容赦微塵も無く男を叩き出した。
「ピート!塩撒いとけ塩!」
「了解!変態は外〜!」
清めの音…じゃない塩を景気良くばら撒くピート。
「節分じゃないんだから…」
汗ジトで魔理が呟く。
「鬼よりタチ悪いです」
溜息混じりに小鳩。
とまあそんなこんなで横島がビシバシとお相手して、なんとか逃げたが……
お客様はだ〜れも…除霊体験などして行かなかった。
「お客は来てくれたが…何だか変じゃないか?」
横島の疑問はもっともである。
「ま、メシでも食いながら考えようよ」
お気楽に言う魔理。
だが…
「あ、こっちだこっちだ!」
またもお客が現れたのだ!
「これが人狼?」
「これ…スクープ…かなぁ?」
「そ…そうっスけど…」
ぞろぞろやってきた若い男女の軍団に、圧倒されつつも答える横島。
「うわ〜まっしろ〜」
「フカフカ〜」
「私も触る〜ちゃうちゃう?」
「ちゃうちゃうちゃうんちゃう?」
「わぅ!?(なななんでござるかぁ!?)」
突然四方八方からおさわりを喰らったシロはびっくりして…
戸棚の下に逃亡した。
「出ておいで〜」
「わう…(恐いでござるぅ…)」
(何なんだ今度は?)
その疑問について考える暇も無く……
「すみません〜除霊してください〜」
ぬっと背中に血塗れ武士の怨霊を背負ったおばちゃんが現れる。
「うわ…」
流石に驚く横島。
「いきなりとりつかれちゃって…」
心底困った様子ではあるが……
「こ…ここで除霊はしてないんスけど…」
横島は驚きながらもきっぱりと言う。
「つーかどうやったらそんな壮絶なのに取り憑かれるんだろう?」
「何処に行ってきたんでしょうね?」
魔理と小鳩が首を傾げている。
だが…
「先生、そんなこと言わないで…今日だけタダなんでしょ?」
おばはんが爆弾発言をした。
「せんせい?」
魔理がいぶかしげな表情を作る。
「除霊が…タダ?」
唖然とするおキヌ。
(おかしい……)
横島の心の中で、この出し物に対する疑問が膨れ上がって行った。
「一日GSさんとは…客がGSの気分になり除霊の真似事をする事だと思ってたが…」
「本当は…学生が一日だけGSになって、無料奉仕する企画だった…」
横島の呟きを、小鳩が続け……
「僕らは全員…勘違いしてた…?」
ピートが締めた。
「そんな馬鹿な…」
すかさず魔理がツッコむ。
「しかし、客は完全にそのつもりだぞ」
お手上げと行った仕草をする涼。
「でも一日GSと式神展示は三年生に任されているんですよ、除霊学部に来てまだ一年にしかならないのに…」
ピートが泣きそうな顔で訴える。
「国家試験だって受けてねーしな」
ぼそっと横島が言う。
「大体私たちが除霊なんかしたら、GS法違反にならないんでしょうか?」
不安そうにおキヌ。
「お金を取らなきゃ…大丈夫…じゃないかな?」
翔一が楽天的な意見を述べた。
「……(まずいわ〜)」
そろりそろりと立ち去ろうとするヘタレモード冥子。
「そうだ…冥子さんは国家試験に受かっている!」
横島の手が電光石火の早技で、しっかと冥子の白衣の衿を掴んで離さない。
「そんな〜!受かったと〜言っても〜私院生なのよ〜」
「だったら習ったっスね?」
泣き言を言う冥子に、容赦なく喰らいつく横島。
「習ったけど〜忘れたの〜」
とんでもない事をのたまう冥子。
背後では…
「早くしてよ〜」
「悪霊からのお守り売ってますの?」
「背後霊ってどうしたら取れるんですか?」
と客が騒ぎ始めている。
「さ、冥子さんはココに座って」
横島は冥子の戯言を全く聞いて無い。
「ひ〜ん〜講座に戻らないと式神が腐っちゃう〜」
訳の解らない事を口走る冥子。
ナマモノか?
「おキヌちゃんは式神の会場に行って応援頼んで来て!どうせ暇な筈だし…ピート!待っている人に余興を見せてあげるんだ」
横島はそれもスルーしつつ指示を飛ばす。
「はい!」
「よ…余興ですか…はぁ…」
元気良く返事して駆け出すおキヌと困惑するピート……
その頃の式神ワールド2005…
「暇ね…」
受付の風谷真魚が暇そうに携帯をイジっている。
アギト組唯一の女性、霊視能力者。
それが彼女だ。
何だか凄く流行ってないっぽい。
「こんなに人が来んとはなぁ」
鬼道もがっかりした様子である。
あの横島対ピートの映像でも流したら子供とかに受けたのだろうが…
残念ながら閑古鳥状態だ。
「翔一くん達…どうしてるかな…」
場面戻って……
ピートの余興。
「さ…さあ、皆さん…霧になりますよ〜……」
しゅおぅっ!!
「おお〜〜〜!!」
…結構受けているみたいである。
その頃。
東京郊外の某走り屋さん達が集まる峠では…
ヴォン!
赤い大型のスポーツバイクが、凄い速度で峠を駆け抜けて行く。
カスタムペイントされたそれは、どことなく新幹線をバイクにした様なイメージを受ける。
カウル前面と側面に、スズメバチのエンブレムが貼り付けられていた。
それは…走り屋達に、「疾風の紅蜂」と恐れられる人物の愛機の証でもある。
瞬く間に麓まで辿り付いてしまうバイク、機種名はスズキの「GSX1300Rハヤブサ」
国内最速の評判も高いメガスポーツバイクである。
道路脇のちょっとしたスペースにバイクが停車し、ライダーが優美な肢体をひらりと翻らせて降りた。
「ふう…」
同じく赤い色に蜂のマーク入りのヘルメットが外されると、綺麗な金色の長髪がさらさらとこぼれ落ちる。
彼女は紛れも無く日本人だが、生まれつき髪が金髪だったらしい。
(注)本当はペシャンコになってしまいます。
「まだまだだねぇ…こんなんじゃ、噂の「黒騎士」に勝てゃしない」
ぼやきの主は…紛れもない美女だった。
しつこいほど赤いツナギに隠れていても、そのナイスバディは存在を激しくアピールしている。
彼女の名は「蜂神涼女」
この峠では伝説となりつつある凄腕の走り屋なのだが…
「蛍」の口からこの名前が出た事を、皆さんは覚えておいでだろうか?
彼女はバイク屋の若夫婦に引き取られ、立派な走り屋&バイク好きに成長していたのだ。
まだ蛍の様な「ちから」は発現していない様である。
その彼女が躍起になって走り込みをしているのには訳があった。
最近、黒いオフロードタイプのバイク…
目撃者曰く、カワサキの「KLE400」というバイクに酷似しているらしいが…
その、どうみても最速追求に向かないであろうマシンで…凄まじいスピードを叩き出す恐るべきヤツが現れたのだ。
幸いと言うか、残念と言うか…彼女はまだその「黒騎士」に遭遇していない。
だから、遭遇するチャンスを増やしつつ…練習(タイムアタック)にも余念が無いのである。
「必ず…ブッちぎってやるよ…」
涼女はニヤリと雌豹の笑みを浮かべた。
ところが………
バイクの速度計の横にある時計の数字を見た時、彼女の表情が一変する。
「ああ!まずい!揚羽の学園祭に間に合わない!?」
大慌てで彼女はヘルメットを被り、バイクに跨った。
ヴォン!ヴォン!
「行っけぇぇぇ!つーか急げぇぇぇ!!」
たちまち猛スピードで走り去って行くハヤブサ。
場面は戻って六道大学。
「急がないと…」
”式神ワールド2005”の会場に向かっているおキヌ。
こっちもかなり急いでいる。
「あら…?」
おキヌはある事に気付いて足を止めた。
彼女の足を止めたもの…それは…
床に落ちていた数枚のチラシだった。
「これは…」
横島達の展示ブース。
「ウチの隣の四人兄弟がどーも人間じゃないらしくて…」
「はぁ〜…」
とんでもない相談を気の無い返事で受けている冥子。
「横島さん!」
慌てておキヌが駆け戻って来た。
「どうしたんだ?」
「こんなチラシが…」
「げ…?」
おキヌが差し出したチラシ…そこに書かれていた事は…
「一日GSさん」
”無料”
あなたの妖物の健康診断、豪華除霊実演あり!
人狼(血統書ナシ?)に触れます!
とにかく行ってみよう!
「……そうか…謎は全て解けた…」
横島が疲れた顔をして呟いた。
「みんな…このチラシを見てやって来たんですね…」
おキヌもため息をつく。
「このチラシのお蔭で…立場が逆転して、我々にGSという損な役割が当たってしまったんですね…」
うんざりした表情の翔一。
「このチラシ何処で貰った?」
涼が近くにいた記者ふうの青年を捕まえて聞いた。
「え…なんかさぁ…もの凄く色っぽい格好の女の人が配ってたよ」
青年は愛想良く答える。
その時…
「おい城戸!何を遊んでいる!さっさと行くぞ!」
入り口から黒いコートにツンツン頭の男が叫んだ。
「あ、連れが呼んでるんでそれじゃ失礼…おい!待てよ蓮!!」
ずんずか歩いていく黒コートー秋山蓮を追って、青年ー城戸真司もばたばたと走り去って行く。
「…今の黒コート…昔の葦原さんみたいですね〜」
「言うな…」
翔一のツッコミに頭痛を覚えなくも無い涼。
だが…秘かに既視感を覚えたのは葦原涼だけのヒミツである。
「色っぽいオンナノヒト…」
魔理の言葉が凍り付いていた。
「もーオチが見えた気がします…」
小鳩が心底疲れた顔で言う。
「…今回はどんだけのお金に釣られたんだろーな…」
空を仰いで嘆息する横島。
「…考えたくないですね」
「同感」
アギト組二人もうんざり気味である。
「横島さん…なんでしょうか…この影は…」
おキヌが震え声で床を指さす。
「………」
そこには…
怪しげな人影が伸びていた。
「あ、知ってますよこれ…確か…ザ・カゲ○ターの…」
ごめすっ!!
「ベル○タァァァ!?」
いきなりオタッキーな事をのたまうピートを、横島のブリザードクラッシュ謎突っ込みが沈黙させた。
その背後に緑の仮面超人が浮かび上がったのは、多分気のせいである。
「まったく…」
呆れ顔の横島。
ぺじょっ!
訳の解らない物体に成り果てたピート(以下略)
「うふふふふふ…」
不気味な(?)笑い声が入り口から響いて来る……
そこには!
逆光で立つ女性のシルエットが!!
…何故か耳が尖っているんだが。
「みんな!しっかり働いてるぅ?」
ばば〜んと現れたその人物ー美神教授は、どでかい胸を張って叫んだ。
それもおかしなコスプレをしていたり。
肌も露なレザー製の部分と、網タイツっぽい部分を掛け合わせた…
体のラインがモロ出まくりの姿であった!
エルフのよーな耳をつけているのがチャームポイントか?
「教授……」
全員(退場した氷川除く)が絶望的な響きの声を漏らす。
「…何ちゅう格好しとるんですか…」
頭を抱えて横島が言う。
「あ…これは…その…理事長が…」
横島に突っ込まれると、途端に恥ずかしそうに答える美神教授。
「………(やっぱりアノ人の入れ知恵か…)」
なんとなく事情が飲み込めてきた横島。
「とにかく!今宣伝をうっておけば…学祭が終わった後も、除霊所が繁盛するかと思って…」
「…除霊所が繁盛しても…公務員扱いの美神教授の給料には関係ないじゃんか…」
魔理もさり気なくツッコむ。
「…臨時ボーナス」
ぼそっと言う横島。
「はぅっ!」
ぴきーんと凍り付く美神教授。
間違いなく裏であの女傑が暗躍していた様だ。
「い…いいのよ私は薄給でも除霊所が良くなれば…」
汗ジトで視線を逸らせながら美神教授がのたもーた。
「あのヒトは教授…?」
「どーみてもイメクラ嬢よね…」
ひそひそと客の声が聞こえてくる。
「…とにかく…客を捌いてしまうか」
現実逃避気味に呟くと、横島は「栄光の手」を伸ばす。
「はっ!!」
ザンッ!!
さっきのおばはんの後ろにいる亡霊武者をあっさり撃砕した!
このとっても疲れる企画が、除霊所の繁盛に繋がったかどーかは解らない。
ともあれ、「一日GSさん」は…教授のお蔭で例年に無い客入りを記録した。
「わぅ?(もう出ても大丈夫でござるか?)」
戸棚の下からシロの声がした…
そして…口封じ代わりか、太っ腹な美神教授のおごりで全員が…
「ああ待って下さいよ〜〜」
霧状態のピートが慌てて叫んだ。
「……ああ…まだやってたのか」
すっかり彼の存在を忘れていた横島達。
「ひ…酷い…」
全員が…やっと魔鈴教授の料理にありついたのだった。
閉門時刻後……
「あっちゃ〜…間に合わなかったよ…アイツ怒ると手が付けられなくなるからねぇ」
大学前で…涼女は妹への謝罪の言葉を脳内検索し始めていたり。
その時……
ヴォン!!
涼女の背後を一台のバイクが駆け抜けて行く。
漆黒のライダーを乗せた黒いオフロードバイクが……
「く…黒騎士!?」
涼女は学祭など瞬時に忘れ、バイクに飛び乗った。
「勝負して貰うよ!黒騎士さん!!」
「ハヤブサ」が唸りを上げて疾走を開始する!
だが…
「ちぃぃっ!嘘だろ?なんてスピードだい!?」
涼女はメットの中で舌打ちした。
夕闇迫る道路をブッ飛ばす彼女のバイク…
だが、お目当ての黒いオフロードバイクには一向に追い付く気配を感じられないでいる。
「むちゃくちゃだねぇ…あんなレアな逆車に乗ってるってだけでも凄いのにテクは神技かい…」
いい加減馬鹿馬鹿しくなってきている涼女だった。
ちなみに逆車とは逆輸入車の略で…
カワサキのKLE500は、アメリカ向けに輸出されていた物を逆輸入した代物である。
元々は青と黒の塗装であり、それを現在のオーナーが漆黒に塗り替えたに違いない。
……ついでに言うと、作者も以前はそれの250cc版に搭乗していたりする。
仮○ライ○ーに憧れる人なら一度は乗ってみたいと思わせるそのスタイルは、ベストデザインと言っても過言ではない(作者的に)
たかだか500。
しかもオフロードツアラーという、どっちつかずの汎用バイクに彼女のバイクが負けるなんて…
フツーのバイクマニアは頭を抱えただろう。
何故なら…
涼女の駆るバイク「ハヤブサ」はスズキが誇る最速マシンにして、市販バイクの中でも「最速に最も近い」一台だからである。
まあ馬力だけならカワサキのZX−12Rというマシンの方が高いが。
しかもかなりイジっているので、そのポテンシャルは計り知れない。
峠近くまで来て目的のマシンを見失った涼女は、諦めてバイクを止めた。
「あ〜あ……勝負にもなりゃしない」
暗くなりかけの空を仰いで彼女は溜息を吐く。
そして…怒ると恐い妹へのフォローを考え始めるのだった。
〜次回に続く〜
今回はマイナーチェンジに留まっております。
涼女の髪の色は原作準拠で金髪に…。
赤毛も好きだったのデスガ(涙)
次回は大幅加筆&超リニューアルの「彼」の話になります。
「妖物のお医者さん〜黒き戦士の章〜」
というタイトルで行く予定であります。
では前回のレス返しです〜
法師陰陽師様>
おキヌちゃん出番増量キャンペーン中ですので(笑)他のGSキャラも増やしたいですね。
ガパソン様>
奇遇ですね、私も最初はOGKのジェットヘルでしたよ。
十六夜様>
そこで話が終わりそうですね(大笑)つか美神凍結しそう…
D,様>
修正が入っておりますので是非ご確認を、それと今回R版のピートにはある秘密が…。
柳野雫様>
出会いは全然書けてないので、今回は補強してみました。ヒュウガは…涼女様が邪魔をしなければ格好良く死ぬ最後まで孤高を貫けるんですが…
ATK51様>
いや、多分ピート立ち入り禁止でしょう、染まりそうだし(ぼそ)
前回はさらりと既に出会い済みで伏線すらありませんでしたので…今回は書いてみました。
「黒き戦士の章」は殆ど別物になる予定です(GSベースであの人とバトルか?)
それでは日曜予定の「黒き戦士の章」でお逢いしましょ〜でわでわ〜〜