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「妖物のお医者さんR 第10話(GS&動物のお医者さん)」

闇色の騎士 (2005-04-10 08:34)
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〜第10話〜


式神使い講座にて。


鬼道教授は(意外に)几帳面である。

とみんなが思っていた。

これからもそうだと思われていたのだが…

ただ一人の人物によって、その神話(?)が崩れ去ろうとしていた。

「あ〜〜〜君らあかんやないか?こんなに散らかしてからに!」
食べた物や空き缶なんぞでごったがえしている講座のテーブルを見るなり、鬼道は叫んだ。

「ひ〜ん〜今片付けるから〜怒らないで〜」
冥子が半泣きで答える。

他の学生もそそくさと片付けを始めた。

「全く…今、今って…今何時やと思ってんねん…」
イライラしながらその様子を見ている鬼道。

カルシウム不足か?

「バル」から取れる人造牛乳でも飲んどけ。

「あるんかい…」

存在する。

いわゆる付属価値というやつだが…ただしまだ実験段階。

「読めたで、僕を実験台にするつもりやな?そうはいかんで!」

ちっ…バレたか。


しばらくして片付けが終わり……

「じゃ〜〜晩御飯の〜買い出しに〜行きましょう〜〜」
「お〜(テキトーな返事)」
講座の面々が外に出かけようとした時、鬼道が声をかけた。

「待ちぃな、紹介する人がおるんや」

そう言って彼が連れてきた人物は……

なんと小学生(辛うじて高学年)にしか見えない少女だった!

「4年生の胡蝶揚羽さんや、美神教授の講座からウチに移る事になったんで宜しく頼むで」


「胡蝶揚羽!10歳!面倒だけど宜しくしてやるでちゅ!!」


愛らしい容姿とは裏腹な…ナマイキそうな言葉で彼女は挨拶した

そう、彼女が三姉妹最後の子。

これで一応全員が出揃った事になる。

………が

「ええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
冥子以外の講座の面々は、流石に驚きの合唱叫び声を上げた。

「かわいい〜〜」
彼女だけはきっぱり外見だけで判断している様だが…

「だだだだって教授、どー考えても小学生じゃないですかぁ!」
名も無き学生が半泣きで鬼道に詰めよる。

「まあまあ、最後まで話を聞いてくれへんか?彼女はその高い霊能力と特殊能力の為急遽六道大学に編入されたんや…ここには付属小学校なんてあらへんからな」
「はあ…あ○まん○大王のち○ちゃんみたいなもんですね…」
釈然としないながらもしぶしぶ納得する学生達。

除霊学部には確認されているだけでも7つの講座がある。

未確認の講座もあるという噂もあったりして。

どの講座に所属するかは4年になる時に決めるのだが…

この揚羽の様に途中で講座を変わる例もたまにあるのだ。

「かわいい〜じゃない〜」
何も知らない冥子はノーテンキにのたまう。

「きっと美神教授のあこぎさに耐えられなくなったんだ」
「適性ミスとかもありうるぞ…小学生だし」
ひそひそと学生達が話し合っている。

「やっぱり〜〜直接戦うより〜式神と〜お友達になるほうが〜〜いいもの〜〜」
「さあ…それはどうだか……」
この突っ込みは、講座の人ではないが今回何故か入り浸っている横島&ピート+シロであった。


しかし。

……揚羽ちゃんは可愛いのだがマジメな訳は無く、まるっきり気も付かない女の子だった。

「きゃはははは〜〜ポチ〜〜走るでちゅ〜!!」
「きゃ〜〜〜インダラちゃん〜〜〜(泣)」
インダラをあっさり奪って騎乗した挙げ句走り回る揚羽と、必死でそれを追う冥子………

教室の中は大混乱と破壊のまっただ中にあった。


「………なんつー光景だよこれは」
横島は意識が遠のきそうになるのを何とか堪えている。

「でも斬新な光景ですよ…冥子さんが困らされている……」
ピートが妙な所で感心していた。

というか驚きを突き抜けて…といった感があるが。

「つかいらねぇ斬新さだな」
「そりゃまそーですね」
うんうんと頷く二人。

だが一番哀れなのは…

「…………………………(意識不明)」
立ったまま気絶している鬼道教授だった。


「……こんな酷いとは知らなかったんや…」
しっちゃかめっちゃかになった室内を片付けながら、鬼道教授が呟く。

「噂では聞いていたんスけど…間近で見ると噂以上っスね」
それを手伝いながら横島が応じる。

「どーするんです教授?破壊兵器を二つも抱え込んで…」
ピートもやれやれといった仕草をしつつ片付けていた。

「破壊兵器…洒落にならねぇ喩えだな」
「でも的確だとは思いますけど?」
何となくノーテンキな会話をしている二人。

その破壊兵器はアバレ疲れてソファで仲良くご就寝中である。

「どうするもこーするも…どーしたらええんや〜〜!」
絶叫する鬼道教授。

「……もしかして鬼道教授…美神教授にダマされたんじゃ?」
横島が一番近いかも知れない予想を上げた。

「ありえますね……」
ピートも頷く。


「鬼道クンが参ってるって?あのコはとんでもないじゃじゃ馬よ…フフン、うまくいったみたいね〜」
美神教授は上機嫌である。

「美神教授〜……」
横島達のとっても冷やかな視線に……

「あ〜、べ…別にそこまで考えてやった訳じゃないわよ!あまりに散らかすから度々叱ってたら勝手にいなくなっただけなんだからね!」
なんとなくばつが悪そうに言い訳する美神教授。

「散らかすのは美神教授も一緒でしょうに……」
「あう!痛い所つかないでよ……でも流石にあれほどの破壊力は無いと思うけど…」
横島の突っ込みに美神教授は不満げに言う。

「まあそれは確かに…」
ピートがうんうんと同意した。


「何にしても美神教授はあの揚羽ちゃんに勝った訳だ」
さすがだと思わないでもないが…

それがなんの慰めにもならない事実に、横島達は茫然とするしかないのだった。


「お呼びですか?理事長…」
理事長室に入ってきたのは長身の美女である。

何処となく美神教授に似てなくもないのだが……

「ご苦労様〜美智恵ちゃん〜〜」
理事長ののほほんとした声が飛んでくる。

そう、彼女は”あの”美神教授の母…美神美智恵であった。

現在はオカルトGメンの隊長をしている彼女が、ここに何の用なのであろうか?

「あのコの捜索〜どうなったの〜?」
「それが……未だに…」
沈痛な表情で首を振る美智恵。

「あれから10年も経つのに…」

10年前、日本最強最後の魔討一族と言われた「騎士王」。

その本拠地の屋敷が反デタント派の魔族に急襲され、壊滅したのはオカルト界に激震となって伝わった。

一番早くそこに駆けつけたのは、デタント派魔族の精鋭を率いる「戦乙女」ワルキューレだった。

彼女がそこで見たものは…一面の血の海…

横たわる多数の死体。

…皆殺しかと思われたのだが………

何故か、一人息子の姿だけが無かったのである。

以来、10年……

その消息はようとして知れなかった。


想像を絶する様な戦闘能力を誇った「騎士王」の一族…

それが一夜にして壊滅した後…

名門六道家は、その対応と今後の対策に追われまくった。

元はといえば、この六道大学の設立もそれに絡むものだったのだ。

つまり、もっと門戸を開いて才能ある若者達を発掘し、結果的に世界の霊的治安度を上げる…

そういう事である。

「取り敢えず〜〜捜索は続けて頂戴〜〜」
「はい……」
「そういえば〜〜アシュタロス戦役で活躍した二人の行方は〜どうなの〜〜?」
「そちらの方も残念ながら………」
うなだれる美智恵、その二人はともかく…

10年前に行方不明になった少年の捜索など、雲を掴む様な話だった。

それでも捜さなければならない理由が理事長と美智恵にはあった…

それが何なのかは現在の所不明だが。

なんにせよオカGや警察の手をもすり抜けて、くだんの人物達は何処でどうしているのであろうか……


美神教授は銭湯セットを片手に席から立ち上がった。

「教授…風呂っスか?」
「まあね、どーも今日は泊まり込みになりそうだから…今のうちに入っておこうと思ったんだけど…」
横島の問いに美神教授は答えつつも、段々腹が立ってきたらしい。

「大体なんで私が銭湯なんかに行かなきゃならないのよ〜〜!」
最後は絶叫だった。

「それはともかく何で泊まり込みなんです?」
今度はピートが聞く。

「ちょっとね…色々新しい研究に付き合わされてて、私もそれなりの成果を提出しないといけなくなったのよ…」
そう言って美神教授は部屋を出て行く。

「大変っスね…」
横島達は去っていく美神教授を見送った。


「きゃははははは〜〜〜〜こっちのポチも面白いでちゅ!」
「いゃ〜〜〜ショウトラちゃん〜〜!」
相変わらずの式神使い講座。

「同じ名前じゃ芸が無いでちゅ、コイツはベスに決定!!」


くしゅん!


神界の某場所で覗き見…じゃない仕事をしていた女性が大きなくしゃみをした。

「うーん、おかしいのね〜?風邪のシーズンじゃなかった筈だけど?」

しきりに首を捻る百の感覚器官を持つ女。


それはさておき。

「ああああああああああああ…」
頭を抱えながらも後始末に追われる鬼道教授。

「この講座にはぎょうさん人が居てるのに!何で僕が揚羽はんの攻撃の矢面に立たなあかんのや?」
泣き顔で鬼道が愚痴る。

「それはやはり……教授が講座の責任者だからじゃないスか?」
やっぱり様子を見に来ていた横島が答えた。

その後ろではピートが、食べてたお菓子をシロにねだられていたりして…

「そやかて…こういう雑務(?)は助教授の阿部はんの管轄やったんやで?ああ…阿部はん…なんで警察なんかに出向になってもうたんや…」
鬼道は天を仰いで嘆息する。

ちなみに阿部助教授とは…

一説にはかの超有名陰陽師の血を引くと言われている式神使いなのだが、外見は頼りない兄ちゃんそのものである。

現在新宿署捜査一課の警部補待遇で、新宿で起きる怪奇事件を担当しているらしい。

「という訳でそろそろ教授が壊れそうなんで、なんとかサポートしてやって欲しいんス」
こっそり横島が講座の人達に頼み込んでいたり。

「じゃ、後始末は自分でね」
ピートは空にされたお菓子の袋をシロに渡した。

「わぅ…(仕方ないでござるな…)」
袋を口にくわえて、素直に捨てに行くシロ。


「……それにしても酷すぎるな」
横島がしかめっ面で呟く。

「ええ…これはなんというか…暴走よりタチが悪いんじゃ?」
ピートも部屋の惨状に顔を強ばらせる。

「横島くん〜〜〜なんとかして〜〜〜(泣)」
冥子までが横島に泣きついてきた。

「む〜……少し荒療治するしかないのかもな」
そういうと横島はつかつかと揚羽の所まで歩いていき、ひょいっとつまんでショウトラから降ろす。

「こら〜〜〜〜何するんでちゅか〜!」
「冥子さん、今のウチに式神しまって!」
ジタバタ騒ぐ揚羽を無視して横島が叫ぶ。

「は、はい〜〜」
しゅるるんとショウトラが冥子の影の中に消えた。

「あ〜〜〜〜〜ベス〜〜〜」
「何でも犬系の名前ですか(汗)」
ピートの突っ込みに……

「ピート、お前だって何でも「シロ」だろーが」
横島が突っ込み返す。

「………根に持ってたんですね………」
ピートはひきつった笑いを浮かべる。

「おうよ、千年くらいは根に持ち続けちゃる」
「ひぃ!?」
ムンク状態のピートは放っておいて、横島は揚羽に向き直った。

「何で私の邪魔するでちゅか〜〜〜!?」
「…いささかやりすぎだよ、人の迷惑になる様な事はするなって親御さんに教えられなかったのかい?」
抗議する揚羽に横島が諭す様に言う。

「うるさいでちゅ!私の本当の親なんてどこにもいないでちゅ!最近は涼女ちゃんも構ってくれないし!みんな私の事なんてどーでもいいんでちゅ!!!」
意味深な叫びを上げながら揚羽は、体を回転させて横島の手から脱出した。

「……どうでもいいなんて事はないはずだぜ、その涼女ちゃんとやらとも良く話したのかい?」
「お前には関係ないでちゅ!!」
激高した揚羽が横島に向けて手を突き出す!

そこから白色の霊波砲が放たれた!

きゅぼぼぼぅッ!!

「な…横島さん!?」
ピートの叫びが走る。

「な…なんて強力な霊波砲や!あんなの喰ろうたら……」
鬼道教授も真っ青になった。

「管理問題追求されて僕はおしまいや〜〜〜〜〜!(泣)」
「そっちの心配ですかぁぁ!」
思わず突っ込むピート。

「……少しお仕置きが必要かもな」
横島は霊波砲を、片手で軽く弾いていなした。


どっか〜〜〜〜〜ん!


「うわ〜〜〜〜〜タッ君〜〜ッ!?」
「け…啓太郎!?」

何だか着弾点で被害が出た様だ。

「ちいっ!こっちだ!!」
横島は窓から体を踊らせると、人気の無い林の方向へ走り出した!

「待つでちゅ〜!」
慌てて後を追う揚羽。

「大丈夫かしら〜〜横島クン〜〜」
心配そうに冥子が窓の外を見る。

「大丈夫、横島さんですから…きっとなんとかしてくれますよ」
ピートは信頼しきった目で答えた。

他力本願とも言われかねないが、それだけピートは横島を信頼しているのである。

「ちょこまかとすばしこい奴でちゅね…」
攻撃をひょいひょい避ける横島に苛立ちながら揚羽が呟く…

この大学で、攻撃を避ける技術において現在横島の右に出るものは恐らくいないだろう。

「でもヨコシマって…確か運動会で「アーク」の悪霊を全滅させたっていうあのヨコシマでちゅか…?」
そう言いながら放つ攻撃もあっさり捌かれてしまう。

「……なら相手にとって不足は無いでちゅ!アイツを倒して私のペットにしてやる!!」
なんて事考えてるんだ10歳。

「……そろそろ来るな」
横島はキキッと停止すると、揚羽に向き直った。


「これで決めてやる!奥義ッ!胡蝶大乱舞でちゅ〜〜!!!」


揚羽は大量の白い紙を、大判振る舞いでバラ巻き始める!

それが次々と無数の「蝶」になり、横島目掛けて襲いかかった!

「こいつは……新手の式神か…!?」

今や完全に横島の周囲は白い蝶で埋め尽くされている。

「うふふふ…コイツにやられたら痺れて動けなくなるよ!」
勝利を確信した笑みを浮かべる揚羽。

「冗談じゃないぜ!」
横島は「栄光の手」を展開したが…

(こんなちみっちゃい奴に…これじゃ不利か!)

そう、振り回す剣を擦り抜けて蝶は横島にアタックしてくるのだ。

「うわわ!?こりゃやばい!!」
堪らずサイキックシールドを展開して防御に徹する。

「ふん!何処まで保つでちゅかね?」
揚羽は余裕綽々で言う。

蝶共を両手のシールドで防ぎながら、横島は考えていた。

(このままじゃいつかやられる、でも奥の手その1は揚羽ちゃんを傷付ける恐れがある)

奥の手その1、通称ファントムシリーズが破壊力が大き過ぎるが故にこういうときには使い辛い。

「く…」
サイキックシールドがそろそろ限界を迎えようとしている。

それだけ式神の連続攻撃が強力と言う事だ。

(やべぇな、麻痺っちまったら何されるか解らんぞ?)

「ちいっ!」

その時、またあの文字が横島の両手の甲に浮かび上がる。

右手の甲に蒼い「天」の文字が。

左手の甲に紅い「地」の文字が。

(そうだ…奥の手その2のあの技なら…彼女にダメージを与えず式神だけを倒せる!)

横島は方針を素早く定め、シールドを解除した。

「ふふ、諦めたでちゅか?手加減はしないけど♪」
揚羽は得意満面で言う。

「師匠…今こそ使わせて貰うぜ!俺にくれた最強の牙を!!」

ドン!

超絶ともいう霊気が横島の体から噴き出す!

「ひ!?」
その凄まじさに揚羽が驚く。


目映い程輝く甲の文字!


「天空丸!!」


ジシュィィィン!!

横島が差し上げた右手に…完全収束した、柄が蒼い霊刀が稲妻を纏って出現した!

いや…それに秘められたパワーは霊刀レベルでは無い。

聖剣を飛び越えて、神剣クラスの力さえありそうである。

究極の存在であり、まだ誰も目にした事が無い最強にして伝説の「神聖剣」には流石に及びはしないが…


「天地丸!!!」


ジシュィィィン!!

差し出した左腕に、今度は柄が紅く少し短い霊刀…いや超聖剣「天地丸」が出現する!


「むんっ!!」

二刀を交差させる横島。


バシュゥゥゥゥン!


凄まじい霊気がイカズチと化して迸った!


「相変わらず凄ぇパワーだぜ、しかしそう長時間使えるモンでも無ぇしとっとと決める!」
とんでもない霊力使用量に顔を顰めつつ横島が呟く。

二刀からは絶えず蒼と紅のオーラが立ち上っている。


「ああああああ…ななな何でちゅか…あううう…」
半泣きで、殆ど腰を抜かしかけの揚羽。

当然だろう。

今横島は上級魔族を凌駕する程の霊力を発揮しているのだから。


「あれは…一体!?」
「何や!?」
霊気に驚いて出てきたピートと鬼道が茫然と立ち尽くしている。

「何が起こってるんですか!?」
近くにいたらしいおキヌが走り寄って来た。

「あれが横島さんの二つ目の戦闘スキルなのか…」
「何て霊気や!洒落にならへんで!?」
「でも…あんな霊気を放出し続けたら…横島さんが危ない!」
おキヌが走り出そうとするのをピートが止める。

「待って下さい!横島さんを信じて今は待つんです!!」
「だって!運動会の時にあんな凄い技を使って倒れてしまったんですよ?更に強い霊気を必要とする技なんて!!」
「横島さんが何も考えずにあんな霊気を放出してるとは思えません!それを僕らが台無しにしてしまっては…!」
「う……わ、解りました…」
ピートの必死の説得に、冷静さを取り戻すおキヌ。


ザッ!


丁度両腕を大きく水平に延ばした様な格好で、両目を閉じ「霊気」を溜め始める横島。


「はぁぁぁぁぁぁぁ…!」


「こいつ…まだパワーが上がるの!?」
怯えながらも警戒する揚羽だが………

「か…構うもんか!今のアイツは隙だらけ!一気にやってしまうでちゅ!!」
横島への”恐怖”が勝ったのか、容赦無く式神に攻撃を命じた。

かっ!

横島が勢い良く目を見開く!

瞬間!


「唸れ!我が牙よォォ!!真!二天一流!竜・巻・剣ッ!!!」


横島の体が凄まじい勢いで回転を始めた!!


ひゅごごごごごごごごぉぉぉぅっ!!!


「キャア!?な……何でちゅか!?」
驚く揚羽。

彼を中心にして、霊気の竜巻が発生した!

それがみるみるうちに大きくなり…


今や横島は、激しく荒れ狂う巨大竜巻と化している!

「まずい!戻るでちゅ!!」

慌てて指示を飛ばす揚羽だったが、間に合わない!

バシバシバシバシ……………

襲いかかる式神どもが次々と竜巻に引き裂かれ、成す術も無く白い紙に戻っていく…

「ああ…………私のしもべたちが……」
揚羽は呆然とその光景を見つめていた。

ばらばらと舞い落ちる式神ケント紙。

ずしゃぁぁぁぁっ!

全ての式神を巻き込み、叩き落とすと横島は回転を止める。

同時に二刀も消滅した。

「ふう………(後少しアレを出してたら…やばかったな)」
霊力消費の疲れからか…溜息を一つ吐くと、横島は揚羽の様子を伺う。

「う……ひっくひっく……」
じわじわと揚羽の目に涙が溢れて来る。

「やれやれ…」
横島は苦笑すると、彼女に近付き頭にポンと手を乗せた。

「誰もお前さんをどうでもいいなんて思っちゃいないさ、例えば…俺のさっきの技だって取って置きだったんだぜ?」
そう言って、ぽろぽろ涙を零す揚羽に微笑む横島。

「……ヨコシマ…」
涙で濡れた瞳で横島を見上げる揚羽。

「どうでもいい奴にそんな技を使う程俺はサービス精神旺盛じゃないよ、本気でお前さんを止めたかったからさ」

「………う……ああ…あ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
感情が一気に爆発したか、揚羽は横島にすがりついて泣きはじめた…

「私…私ぃ……」
「構わないさ、泣いて…泣ける時に思いきり泣いてしまうのが一番だぜ…俺にはもう、無理だけど…」
「ヨコシマぁ……」
揚羽は今までその「力」故、本気で止められた事も叱られた経験も少ない…

元はといえば義理の親もそれを持て余し、この大学に彼女を預けたのだ。

美神教授は彼女を叱ったが、彼女の子供嫌いが災いしてかイマイチ効き目が薄かったらしい。

「………ヨコシマは泣けないの?」
数分後、落ち着いた揚羽が言った。

「ああ、以前…もう枯れ果てる程泣いたしな」
屈託の無い笑顔で答える横島。

その裏に隠された深い悲しみを、揚羽は何となく感じ取っていた。

「それにその…涼女さん?だっけ、その人だって何か事情があるはずさ…好きなんだろう?」
「うん…今はたった一人のお姉ちゃんでちゅ…」
揚羽は、最愛の姉にも当たり散らした事を思い出し後悔していた。

「なら…またじっくり話をしてみな、きっと解り合えるさ」
「本当?」
「ああ、さて…そろそろ戻ってみんなにごめんなさいしようぜ」

「……うん!」

横島は素直に頷く揚羽を連れて、来た道をゆっくりと戻って行った。

「横島さん!大丈夫ですか!!」
ばたばたとおキヌが走ってくる。

「あれ?どうしたんだい?」
なんだか良く解ってない横島。

「あれ?じゃないです!あんなムチャして…兎に角ヒーリングしますから動かないで!」
「あ、うん…」
おキヌの凄い剣幕に彼は粛々と従う。

「ありがとう…」
「どういたしまして…でも、もうあまりムチャしないで下さいね…」
「…前向きに善処します」
心配そうに見上げるおキヌに、苦笑する横島だった。

「何だか凄く横島さんが遠く見えます…」
ヒーリングを受ける横島を見ながら、ピートがぽつりとこぼす。

「ま、彼は規格外だと思っておこうやないか…僕らには僕らの歩く速さがあるしな」
「そうですね…」
ぽんと肩を叩く鬼道に、ピートは頷いた。


あれから、揚羽はそれなりに大人しくなっていき…

少しずつだが講座に馴染んできたその矢先に……

事件は起こった。


「………………」
式神使い講座の簡易炊事場。

何故かこの講座にはこんな場所もあったりするのだが…

その炊事場(まあ台所なんデスが)が荒らされていたのだ。

いろんなモノ(何かのスープやら調味料やら)があちらこちらに飛び散っており、使われた食材の包装などが散乱している。

……何故かカップメンなんぞの容器も残ってたり。

「今朝〜〜私が来たら〜〜こうなっていたの〜〜」
時々朝が早い冥子が第一発見者だった。

講座の人間の視線が揚羽に集まる。

「…私を疑ってるんでちゅか?こんな事…誰がするもんか!!」
流石に顔を真っ赤にして怒る揚羽。

「……証拠も無いのにヘタな先入観で犯人決めんのは止めろ」
不愛想っぽい茶髪の学生が意外にも助け舟を出す。

「そうだよ!みんな酷いよ!タッ君の言う通りだよ!」
なんか頼りなさげな学生もそれに同調する。

前回流れ弾にやられた事は、一応恨んでいないらしい。

「……正論だな」
何時の間にか来ていた横島が頷く。

「ヨコシマ〜〜(泣)」
揚羽が涙を浮かべながら横島に抱きついた。

「よしよし、もう泣くな」
優しくあやす横島、まるで長年一緒にいた兄妹みたいである。

「……所で乾さん」
「何だ?」
「乾さんって確か…霊的格闘講座だったんじゃ?」
「ああ、そうだ」

「………何でここにいるんスか?」

横島の問いに乾は面倒臭そうに答えた。

「啓太郎の付き合いだ、コイツが何処にでも顔を突っ込みたがるんでな」

「いいじゃないかタッ君…俺人の役に立ちたいんだから」
反論する啓太郎くんだが……

「お前のはただのお節介だろ?」
とあっさり返された。

「え〜〜〜酷いよタッ君!」

なにやら言い合いを始めた二人は放っておいて、横島は現場検証を開始する。

「……昨日最後に講座を出たのは誰っスか?」
全員をざっと見渡しながら横島が言う。

「それは僕やけど……まさか僕を疑ってるんやないやろな!?」
鬼道は顔を引きつらせて抗議した。

「(聞いていない)講座を出たのは何時っスかね?」
「9時頃やけど…僕はやってへん!!」

「鍵の在処を〜知っている人は〜講座の外にもいるんじゃ〜?」
冥子が横槍を入れる。

「そうですよ、それに鬼道教授は犯人じゃないと思いますよ、10時頃僕が通りかかったら物音がしてましたから」
「それは俺も聞きました、氷川さんは嘘を言ってないですよ」
やはり何故かこの場にいる氷川と津上が答えた。

「なるほど…アリバイ有りと」
横島が何処からか取り出した手帳に何かを書き込む。

「なにはともあれおおきにな!僕の疑いが晴れたんやから!」
何だか晴れ晴れとした表情で鬼道が礼を述べた。

「すると、何者かが講座の炊事場に入り込んだのかも知れないな……」
横島が顎に指を当てて考え込む。

「そういえば〜昨日も〜〜少し散らかってたわ〜〜もしかして〜一昨日もそうだったかも〜〜」
冥子がぽろっと重大な一言を漏らした。

「すると、犯人は今日も現れる可能性が高いな…」
「ヨコシマ!張り込むでちゅ!絶対捕まえてやる〜!!」
揚羽が無闇に燃えている。

…まあ犯人扱いされたのだから当然と言えるが。


そして夜。

「やっぱり夜は冷えますね……」
ピートが震えながら言う。

「バンパイアハーフでも〜冷えるの〜〜?」
「その辺に関しては人間とそう変わりませんよ」
冥子の突っ込みに丁寧に答えるピート。

「お前、変な所だけ人間っぽいな」
「変な所だけって…」
横島の容赦ない追求(?)に凹むピート。

横島達が隠れているのは講座の隣の準備室である。

「………誰か来たぞ」
一番最初にそれを察知したのは横島だった。

「え?」
皆が聞き返した時…

カツ…カツ…カツ…カツ…

足音がゆっくりと近付いて来るのが皆の耳にも届く。

「本当でちゅ…流石ヨコシマでちゅね」
「おだてても何も出ないぜ」

かちゃ……バタン!

「部屋に入ったで!」
鬼道の言葉に全員の表情が引き締まる。

じゃー………ごぉ〜〜〜

「……水を使ってますね」
とピート。

「その後は…コンロか?」
これは横島だ。

「どっちでもええわ!行くで!」
鬼道を先頭に全員が、準備室を出て講座のドアの前に来た。

「……何か嫌な予感がするんやけどな〜」
「俺もなんスけど…一応ハッキリさせとかないと」
何故か行きたくなさそうな鬼道教授に、横島がハッパを掛ける。

バン!

鬼道は意を決してドアを開け放った!

次の瞬間、全員が予想外の光景に硬直する!

「え”!?」(×全員分)

それは何故かと申しますと………


そこには……


ずるずる…するずる…


妙に所帯じみた雰囲気で、カップラーメンをすする美神教授の姿があったからである。

ちなみに銘柄は、ある雷魔法使いの魔族の女性(故人)が好きだったのと同じ定番有名商品だ。

「で、何でこんな所でこんなモン喰ってるんスか?」
一番最初に硬直が解けた横島が聞いた。

「私だってこんな味気ないモン食べたかないわよ、でもここ連日の仕事で泊まり込み3日目…初めはさ、外食してたけどそのウチ面倒になってここで作ってたんだけど?」
美神教授はケロっとした顔で答えた。

「じゃ……ここを散らかしてたのは……」
ピートの指摘に…

「う〜ん…昨日は急いでたから片付け忘れたかな?」
あはははは〜〜と無責任に笑う美神教授…

アンタ子供かい。

「昨日はって〜〜令子ちゃん〜一昨日も散らかってたけど〜?」
冥子がサクッと痛い突っ込みを入れる。

「う”……」
流石に冥子に突っ込まれたのが余程イタかったらしく、美神教授が一撃で沈黙した。

「使たらちゃんと片付けてくれへんかもう……」
鬼道も頭を抱えながらうめく様に言う。

まあ被害者その2だから幾ら言ってもいいであろうが。

(無理なんじゃないかなぁ、美神教授だし)
横島達は思ったのだが、口には出さなかった。

賢明である。

「ねえ揚羽ちゃん、鬼道クン神経質で付き合い辛くない?何ならウチに戻ってもいいわよ」
美神教授はしれっと恐ろしい事をのたまう。


「だ〜れ〜が〜!戻るもんでちゅか〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

揚羽の絶叫が事件を締めくくる事となった……

やれやれ。

その後揚羽は我侭爆発を5回に一回程度に抑えている。

鬼道教授の講座の方が美神教授の講座よりず〜〜〜〜〜〜っとマシである事を、改めて思い知らされたからであろう。

「……えっとぉ…ポチに…乗っても…いいでちゅか…?」
「いいわよ〜〜インダラちゃん〜〜」
「わぁい〜ありがと〜〜〜〜でちゅ!」

という訳で一応講座に平和が戻って来た。


〜第11話(多分)に続く〜


はい、ようやく二つ目の戦闘スキル公開です。

書き直し前とは微妙に位置づけが変わっております。


それでは前回のレス返しです。


片やマン様>
確かに馬鹿強ですね、だからどちらかと言えば敵は作戦で来るみたいな感じの戦いになると思います。
ただ普段からアシュ級のマイトを有している訳ではなく、やはりその瞬間瞬間に高めているんですよ。


ATK51様>
”平衡の守護者”その強大な力には二重の封印がかかっているのです。
一つは精神的リミッター、もう1つは封印の布による直接封印。

暴走したら宇宙自体が消滅しかねませんし(汗)

ミュウは、回想シーンでの出番を増やす事を検討しております。

勿体無いという貧乏性からなんですが。

別ルートのアレは、反デタント派の最後の意地ということでw


柳野雫様>
そうなんです、いくら止むに止まれぬ理由があっても…罪を犯して良いのか?という疑問もこの話の根底にあります。

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