〜第11話〜
吹雪の真夜中。
横島家の廊下に電話のベルが鳴り響いた。
「はい〜……どちらさまでしょ〜かぁ?」
眠い目をこすりこすり、猫さん柄のパジャマ姿のユウリが電話を取る。
「……プツン……ツ〜ツ〜ツ〜」
「切れた……?無礼な!今何時だと思ってるんですかぁ〜(怒)」
何だか古風な怒り方をしつつ、ユウリは電話を些か乱暴に切った。
「全く……間違えたのなら一言謝るのが礼儀という物ですよね?寝入りばなを起こされて…寒い廊下まで出てって電話を取ったんですよぉ〜!」
珍しくユウリが怒っている。
余程腹が立ったらしい。
「ま、確かに怒るのはもっともだな…」
横島が苦笑しつつお茶をすすった。
「良かったですね…風邪ひかなくて」
ピートがお茶菓子を食べながら言う、3人と一匹がいるのは横島家の居間である。
「……人工幽霊って風邪ひくのか?」
横島が素朴なギモンを口にしてみた。
「う〜ん……今の私はかなりの部分が実体化してますから、あまり不用意な事をすれば…ひいてしまうかも知れませんね」
ユウリが真面目に答える。
「わう…(ピート殿〜おいしそ〜でござるな…)」
シロが物欲しそうにクンクンと匂いを嗅ぎにきた。
「欲しいんですか?」
そう言ってピートがお菓子をシロに食べさせてやる。
「もぎゅもぎゅ…(ん…なかなかいけるでござる)」
満足そうにシロはお菓子を頬張った。
「人狼は基本的に人間と同じもん食べられるからなぁ…そこはあまり気を使わなくていいのが楽っちゃ楽かもな」
横島がお気楽な事をのたもーている。
「話を戻しますけど…ただでさえ真夜中の電話ってドキっとしませんか?」
「…ウチには死ぬような人いないだろ」
「う〜ん……そうですけどぅ…」
なんだか不満そうなユウリ。
(そうだった…横島さんの所はご両親がいないんだった…)
思わずしんみりとするピートであった。
「百合子様…お元気でしょうか…なんだか思い出してしまいました、忠夫様…久しぶりに一曲お聴かせ願えませんか?」
「う〜ん……まあいいけど」
ユウリのおねだりに、苦笑しつつ横島が立ち上がる。
(百合子様?横島さんのお母さんだろうか?)
ピートは何かを取りに行く横島を見送りながら思った。
「………トランペット?」
横島が引っ張り出してきたモノを見てピートが呻く。
「百合子様は忠夫様のトランペットがお気に入りでした」
ユウリがうっとりとしながら言う。
「横島さんって…そんなの吹けたんですね…」
意外だという表情を隠さずピートが呟く。
「わう?(変な道具でござるな?)」
「にゃあ(あれは楽器といって、音楽を鳴らすための道具ですよ)」
シロに説明してやる美衣。
「……別にいいだろ?間違っても銃になったりはしないからな絶対」
横島は少々不機嫌そうだ。
「???」
さっぱり意味が解らない二人と二匹。
「いいんだ、深く考えるなよ……」
そう言いつつトランペットの調子を見る横島。
何故か吹く所が折りたたみ式のそれは、円盤の様なパーツが分割されており…それを装着して初めて完成する様だ。
どんなトランペットだ?
「さて、やるぞ」
ピンポ〜ン!ピンポ〜ン!ピ〜ンポ〜ン!
何度も横島のチャイムを鳴らしているスーツ姿の男二人。
「留守だろうか?」
スーツに白いコートを纏った端正な顔立ちの青年が言うと…
「いえ、一条さん…奥の方から何か鬼石打ち込まれた妖怪にぶち込むトランペット曲のよーなモノが聞こえてくるんですけど…」
頼りなさそうな青年が答える。
「……良く知ってるな……」
「同じ原作者ですしね」
「数年ぶりにしては…まともに演奏出来たな」
横島はトランペットを口から離して一息付く。
「わ〜〜凄いです〜〜」
ユウリは大喜びなのだが……
「一体何の曲なんだかさっぱり解らなかったんですが…?」
混乱するピート。
「わぉう(多芸でござるな、先生は)」
「にゃ…(ですね、まだ隠し技とか持ってるかも…)」
妖物二匹が顔を見合わせた。
「まあ細かい事は気にするな…それよりユウリ、チャイム鳴ってるぞ?」
「え〜〜〜!?」
ユウリは慌ててぱたぱたと玄関に走って行く。
「すみません、警察の者ですが」
ハンサムなほうの青年が警察手帳を見せる。
「あなたの家の犬……昨晩吠えませんでしたか?」
「おい…電話を入れなくて大丈夫なのか?」
「ふふん、日本は今ごろ夜中よ!」
「……ここも日本なんだがな」
二人の中年男女が立っているのは空港であった。
二人とも若い頃は、かなりの美男美女だった事が伺える。
今でもその魅力があまり落ちてないのが凄いのだが……
「…………」
どうやら女の方は時差ボケらしい。
「東京なんて今ごろ冬よ!電柱に雪が積もって電話線なんてぶっちぎりよ!!」
「………そんな北海道じゃあるまいし」
妙にハイテンションな相方にため息をつく男。
だが次の瞬間…
その目つきが変わった!
目の前を美人のスチュワーデス(敢えて旧職業名)が通り過ぎて行ったからである。
「あ〜〜〜・な〜〜〜・た〜〜〜〜〜?」
物々しいオーラを感じた男がぎぎぃっと振り返ると…
女が魔神も裸足で逃げ出すくらい恐ろしい顔で睨んでいた!
「あ……ちょっと待て…これはその……」
即座に顔面蒼白になり何とか落ち着かせようと焦る男。
しかし運命とは時に非情なモノである。
「問答無用!生存無用!飲食無用!ついでに言い訳無用!!!」
「ちょっ、待て!そ…それは洒落になってな……ってうぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
空港に哀れな男の悲鳴が響き渡った。
自業自得。
所は戻って横島家。
「大変です忠夫様〜〜」
ユウリが玄関からすっとんできた。
「何なんだ?」
相変わらずお茶をすすっている横島。
「近所で殺人事件があったそうなんですよ〜〜!」
「「え〜〜〜〜〜!?」」
これには横島達も驚いた。
「わう……(拙者は犬ではござらんのに……)」
さっきから落ち込みムードのシロ。
「にゃあ(まあまあ…GSなら兎も角普通の人はなかなか見分けが付かないモノだから)」
美衣がなんとなくフォローしてやっている。
「…刑事さんの話では……一家全員が…皆殺しだったって…高名な風水師の家庭だったそうなんですけど…」
ユウリは泣きそうな顔で言う。
「………そんな凶悪なのがいるとはな」
「犯人が人間とは限らないですよ?」
苦い顔の横島に、ピートが横から突っ込みを入れた。
「それならオカルトGメンの出番だろう…要請しているのかも知れないしな」
横島はユウリを安心させる為にあえて楽観論を述べる。
「はあ…でもこれで解りましたよ」
一応納得したふうなユウリだったが……ナニが解ったんだろ?
「あの無言電話は…殺人犯がターゲットの家を確認する電話だったんですよ!」
自信ありげな様子で持論を披露するユウリ。
「だから…犯人は人間じゃないかも……」
ピートのか細い意見は完全に無視された。
「取り敢えずウチはターゲットじゃなかったから、襲われなかったんですよ絶対!」
「まあそうかもな」
ユウリの言葉に適当に相づちを打ちながら横島は考えていた.
(一応警戒だけはしておこうか)
所は更に戻って成田空港。
「そろそろ行かないとラッシュに巻き込まれるぞ…」
全身容赦なくボロボロの男が言った。
良く生きてるな?
「…そうね、もう一度電話しとこうかしら」
スッキリした顔の女が懐から携帯電話を取り出して、電話帳を呼び出すとそのままかける。
「やっぱり武器かなにか用意して寝た方がいいんでしょうか?」
食事の用意をしつつユウリが聞いた、今夜はどうやら揚げ物らしい。
「大丈夫ですよ、僕も今日は泊まりますから」
食材に小麦粉を付けながらピートが答える。
「俺も泊まるから安心して眠れるぞ」
それを溶き卵に通しながら横島も言った。
「忠夫様!ここは貴方の家ですよぅ…」
ユウリは溜息を吐く。
「つか武器ったってなぁ」
「何かありましたっけ?」
顔を見合わせる横島とピート。
「カードを通すだけで凄い技が使える剣とか、鬼に変身出来る笛とかあればいいんですけどぉ」
「あるか!」
ユウリのマジボケに速攻で突っ込む横島。
「そんな便利なモノがあったら、僕が欲しいですよ」
「お前は一応人間より強い筈だろーが?安易にアイテムに頼るなよ」
ヘタレ発言ピートに横島はうんざりした顔で返す。
「頑張ってるんですけどなかなか…バンパイアハーフだけが変身出来るヴァンプギアとか開発されないかなぁ」
ほわわんと妄想に突入するヘタレ半吸血鬼。
「そんなてめぇしか使えないもの開発してどうするんだよ、開発費自費で出せ」
「僕にそんなお金があると思いますか?」
「…ねぇな」
「そうなんですよね、がっくし」
妄想から一転して現実の重さに打ちひしがれるピート。
(大学で色々開発されてるとは聞くが、流石に無理だろうなぁ)
心の中で苦笑する横島だった。
「そういえば…この家広いから電話の音が聞こえてない時があるんじゃないですか?電話しても誰も出ない時があるんですけど…」
立ち直ったピートがそこまで喋った時、シロが横島の袖を口でくわえて引っ張った。
「わう!わう!(先生!先生!)」
「何だシロ?」
「わうっ!(電話が鳴ってるでござるよ!)」
RRRRRRRR……RRRRRRRR……
「電話だ!」
シロを先頭に、横島・ピート・ユウリの順でキッチンを飛び出し各人そのまま電話の元にダッシュした!
「急げシロ!受話器を取るんだ!」
横島の叫びにシロは電話に飛びつき、受話器を外して……
「わう(いるでござるよ)」
「…………」
空港で電話をかけていた女が、汗ジトで携帯から耳を離す。
「………犬が出たわ」
「……………………」
相方は答えなかった。
何故なら懲りずに同じパターンで(また)女性に気を取られて…
即座に黄金の足で折檻され、もうもみくちゃの人間だか何なのか解らない物体と化していたからである。
「もしもし!横島ですが?」
ユウリが出るが…すでに電話は切れていた。
「切れてます………も〜〜人がパン粉まみれの手で出てあげたのにぃ〜〜!誰だか解ったらぜ〜ったい許しません!!」
電話も切れたが…ユウリも切れた。
「シロ、出てから切れたか?それとも出る前か?」
「わぅ…(良く解らなかったでござる…)」
……というか妖物電話に出すな。
気を取り直して食事タイム。
「要するに警戒してればいいんですよね」
コロッケを噛りながらピートが言う。
「大丈夫、いざとなったら俺が何とかするさ」
横島も笑ってみせつつ味噌汁をすする。
食事も終わり。
「酷い天気になりましたね……」
食事も終わり、ユウリが外を見て呟いた。
この日東京は記録的な大雪に見舞われており…明日の朝辺り子供達が大喜びだろうと思われる。
「じゃ、賑やかにいきましょう」
ピートが提案した。
「何か吹こうか?清めの音をワンスモア?」
横島が更に提案するが…
「いえネタ解りませんし」
「夜に吹くのはあまりよろしくないのでは?」
と二人が言うので諦めた。
…横島が後ろ手にギターを隠していたのは秘密である。
もしかして中に、5分しか着れない強化服とか隠していないだろうな?
その頃…外では…
「一条さん……この雪では捜査もままなりませんよぅ」
「亀山…弱音を吐いている場合か?それにしてもあんな異常な殺し方…アンノウンとも違うし…解らんな」
一条刑事が溜息混じりに言った。
車の中で張り込みを続行する二人。
頑張れ地方公務員!
「あなた、お腹が空きすぎね…目の前まで真っ暗だわ」
「…サングラス外せって」
二人は横島家の前まで来ていた。
「ま〜遅くなったけどバスが止まる前に帰って来られて良かったわね」
「……一度きりしか来てないんだけどな」
不死身のボロゾーキン男が答えつつ、チャイムを鳴らし続けているが………
ピンポ〜ンピンポ〜ンピンポンピンポンピンポン………
「聞こえないのかしら?こんなに連打してるのに」
その家の中……
「だからってこのCDをガンガンかける事無いんじゃないですか?」
ピートが突っ込む。
ユウリがかけた特撮主題歌集がイマイチ気に入らないらしい。
って何をかけているのだ人工幽霊。
「賑やかだと思ったんですけど…近所の自称へたれSS書きライダーさんから借りてきたんですが」
「誰だよそりゃ?」
「ヘタレまで自称!?」
微妙に盛り下がる居間。
「駄目ね、全然聞こえて無い感じだわ…裏に廻ってみましょ」
二人は雪を掻き分け掻き分け裏に移動する。
「何だ、居るんじゃない…忠夫!」
女が叫んだが返ってきたのは男の力強い歌声だった……
「何この歌…こんなもんガンガンかけてるから聞こえなかったんだわ!久しぶりに会いに来てみれば…(怒)」
「あわわわ……(忠夫…父さんはもう駄目かも…)」
女の、雪も溶かさんばかりの怒りのオーラに男は震えながら後ずさりする。
女は、それには構わず大きく息を吸い込むと…
「た!だ!お〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
その怒声はかの神面岩から出現した、鳥型に変形可能なスーパーロボットの最終兵器すら凌駕したと言う。
「うわわわ!?」
「きゃ〜〜〜〜アンノウンが出た〜〜!?」
「……おふくろ?」
家を揺るがす大音声に死ヌ程驚く二人と、正確に相手を見抜く一人…
成長したねぇ…横島クン。
窓を慌てて覗いたピートが見たモノは………
某カテゴリーキングすら、泣きながら逃亡を計りそうな顔で睨んでいる中年女の姿だった。
「どひ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
顔に似合わぬピートの悲鳴がこの場面を締めくくった。
「ピート、これが俺の両親だよ…」
横島は溜息混じりに、改めて両親を紹介する。
「横島百合子よ、よろしくね…ピートクン」
「よ……横島大樹だ…よろしく……」
さっきの怒りは何処へやら、ニコニコ顔の百合子と度重なるダメージでヨレヨレの大樹。
「……ご健在だったんですね…横島さんの両親…」
「殺しても死なんぞウチの両親は」
汗ジトで答える横島だった。
そして親父殿に一言。
「親父……また懲りずにやったな?」
「……五月蝿い」
最早言い返す気力すら無いらしい。
「あの〜もしかして…無言電話は……」
「ああ、私よ…だってこんな可愛い娘さんが出るなんて思ってもみなかったしね…びっくりしちゃって」
ユウリの問いにあっさり答える百合子。
横島から説明を受けて事情を納得したせいと、不安を与えた自分の失態もあってか機嫌は直っている様だ。
「そういやおふくろが来たときは、ユウリが眠ってる時だったか」
横島も思い出して呟く。
ユウリが百合子の事を知っているのは、彼女が来客時に自動的に記録している映像を見たからである。
本来はセキュリティー目的の機能なのだが、今回は親子の団欒(?)を記録していたのだ。
「あの時は驚いたわよ、いきなり「家を手に入れた」だもの」
百合子が肩を竦める。
「俺だって予想外の出来事だったし」
「ですよね」
うんうんと頷く横島とピート。
ちなみに大樹はユウリに手を出そうとして、母子ダブルパンチあ〜んどキックを受けて大地に沈んでいる。
「昔の横島さんそっくりですね」
「言うな」
横島は珍しくピートに突っ込まれて赤面する。
「息子は立派に更生したってのに、この宿六は相変わらずだよ」
やれやれと言った感じの百合子。
(でも…今はいい方にだけ変わってはいないね、自分に枷をはめてる様に見えるけど…)
流石に母親、そこはきっちり見抜いている。
(何にせよ、私が想像も付かないくらい厳しい目に遭って来たんだから…長い目で見ないと駄目ね)
「どうしたんだよ?おふくろ?」
「何でもないわよ」
百合子は、不思議そうに見ている息子に誤魔化し笑いで答えた。
(こういう所鋭いのは宿六似ね)
心の中で苦笑すると、百合子は話題を変える。
「そういや、忠夫はゴーストスィーパーになったんだって?」
「…だからなるとしても卒業後だって」
うんざり顔で返す横島。
「あら、そうだったわね…じゃ、これ大学入試のお祝いよ」
どすっ
百合子が床に突き刺したのは大型ナイフだった。
「…ナニコレ?」
「父さんから取り上げたんだけど、何でも希少金属の採掘現場を襲ってきたゲリラから巻き上げたんだって…何人も殺しているワザ物らしいわ」
「………駄目だこりゃ」
しかも3年前のお祝いだし。
深夜、みんなが寝静まった頃。
「何だよ、こんな夜中に」
眠そうに横島がぼやく。
「夜中でなきゃいかんのだ」
昼間のダメージを全く感じさせない大樹が言う。
二人が立っているのは、家の庭の隅にある横島専用の修行室である。
ユウリの好意で作られたそこでは、空間歪曲術の応用により見た目よりかなり広い。
つか外見はテント大だが、中身は学校の体育館くらいの広さがある。
しかもどんなに騒ごうが音も霊気も外部には漏れないようになっている為、使い道は様々だ。
最も、壁に直接技を叩き込んだらきっぱり壊れてしまうが。
「話には聞いてたが、お前があんな可愛い子と住んでるとは思わなかったぞ」
「あのな、可愛いと言ってもありゃ人工幽霊だぞ?」
親父のセリフに顔をしかめる横島。
「もう殆ど実体化しているだろう?人間と変わらん」
「だからそれがどうだってんだよ?」
「お前が彼女らを守って行けるか、俺が直々に試してやろうかと思ってな」
「は?」
大樹の言葉に横島の目が点になる。
「男ってのはな、女を守れる程くらいは強くなきゃいかん…今のお前にあの家を支える力があるか?」
びしっと横島を指差す大樹。
「自惚れていいなら、あるつもりだがな」
その指をはたき落としながら横島が返す。
(そういや親父、出鱈目に強いって聞いた事あるな)
あれだけ折檻されても平気ということは、不死身体質(?)の他にも理由があると言う事だ。
つまり、上手くダメージを逃がしている…!
「なら試してやる、もし父さんに勝てなかったら…お前をナルニアに連れて行くぞ!」
「なんじゃそりゃ?」
ばさっと上着を脱ぎ捨てながら、大樹が宣言した。
「シロやユウリ達はどうすんだよ?」
「心配するな、代わりに俺が面倒を見てやる」
しれっとのたまう大樹。
「あんな良い子達は、俺に負ける様な男には相応しくないからな、ふはははははは!」
調子に乗って高笑いするが…
「…ざけんなよ、親父」
ドン!!!
瞬間、横島の体から凄まじい霊気が噴出する!
「うぉ!?」
流石の豪傑大樹もそれには驚く。
(なるほど、まるで別人みたいだな…怒らせた甲斐があったと言うもんだ)
「…「幻影烈拳」ファントムブレイカー」
ぼそっと呟く横島の両拳が霊気の篭手に覆われた。
「かかって来い!忠夫!!!」
額に冷や汗を浮かべつつも、挑発する大樹。
「後悔しろよ!親父ィィィ!!!」
横島の鉄拳が手加減無しに襲い掛かる!!
だが!
ガガガガガガガガ!!
「な!?」
驚く横島。
「くぅぅ!なかなかやるじゃないか?」
彼が放つ拳撃を必死に捌きながら、大樹がニヤリと笑う。
「なんちゅう非常識な親父だ!」
拳を一旦引いて横島が唸った。
「ふん、伊達に父親はやっとらんわい」
大樹は痛む腕にも顔色一つ変えず言い放つ。
(流石に俺の親父、回避能力は神技か…)
舌打ちする横島。
「どうした忠夫!そんな攻撃じゃ俺は倒せんぞ?」
再び挑発する大樹。
しかし…
「…安心したよ、これで本気が出せる」
「え?」
その言葉に大樹が硬直する。
「俺の居場所をてめぇが奪おうってんなら…親父だろうがなんだろうが…殺す!!!!!」
ズドドドン!!
更に強大な霊気が横島から放たれた。
「げ!?」
(うげげ!?こいつ今まで手加減してやがったのか?)
息子の力量を知る為とは言え、やりすぎを後悔する大樹。
だが時はすでに遅し。
「死ねぇ!「幻影弾丸」ファントムリボルバァァァ!!!」
「どひぃぃぃぃぃぃ!?」
大樹が最後に見た光景は、息子が放った霊気のガトリングガンからの一斉砲撃であった。
さらば大樹、君の事は忘れない。
翌日。
「お早う忠夫」
「おはよー、おふくろ」
「あんた父さん見なかった?」
「ああ、庭の隅のテントの中で死んでる」
「え”」
息子のコメントに唖然とする百合子。
「あっちゃ〜…」
彼女はそのテントの中に入ってその広さに一度驚き、もみくちゃ状態の旦那に二度驚く羽目になった。
「生きてるのかしら?派手に親子喧嘩やらかしたみたいだけど」
つんつん。
その良く解らない物体を突付く百合子。
暫くしてようやく話せるまでに大樹が回復する。
「痛たたた…酷い目に遭った」
「何やってんだか」
未だ立つ事叶わぬ配偶者に、溜息を吐く妻。
「ちょいと忠夫を試しただけなんだが、まさかガトリングガンで全身打ち抜かれる体験をしょーとはなぁ」
大樹がお気楽にのたまう。
「…何でそれで生きてるのよ?」
「アイツはキレてたが、最後の最後できっちり手加減したらしい」
「自分の力量過信しすぎよ、あんたは」
「親父が息子に弱みを見せられるか!」
ボロ雑巾親父はこの期に及んで強がりを吐く。
「とは言え…あいつめ、俺を越えやがるとはな」
「至極あっさりとね」
渋く決める大樹に、フォローしない百合子。
「うぐ…お前も容赦無いな」
「しないわよ、多分あんた忠夫の逆鱗に触れたんだろうし」
「…それは否定しない」
ジロリと睨む妻に心なしか萎縮する夫。
「まあ、それでも両者すっきりしたんならいいわよ」
ここで百合子は初めて笑顔を見せた。
「まあ…な、しかし寂しくはある…子が親から完全に離れてしまうとな」
「そういうモンでしょ?アノ子も何時までも子供じゃないんだから」
大樹に膝枕してやりながら、優しい目をして百合子が答える。
「ま、今回は引き分けにしといてやるか」
「きっぱりあんたの完敗でしょーが」
ごん!
百合子の膝が引かれ、大樹の頭が落ちた。
「痛っ!?」
懲りてない旦那の短い叫びが走る
つか、なんだかんだ言ってらぶらぶな横島夫妻であった。
そして…
「元気そうで安心したわ」
そう言って…死にそうにない横島の両親は、大樹の赴任先ナルニアへ帰って行った。
「……ありがとな、おふくろ」
横島には解っていた。
母親が、「蛍」の事件以来すっかり変わってしまった息子をずぅっと心配してくれていたのを……
(そして二度と来るな親父)
大樹の意図は、普段が普段だけにまるで伝わって無いようだ。
哀れ。
「……結局、殺人犯はどうなったのでしょう?」
ユウリが思い出した様に言った。
「犯行時間に犬が吠えるとか無かったのか?」
「いえ……全然らしいです」
まだ捜査中の様である。
〜次回に続く〜
今回は横島夫妻にスポットを当てて見ました。
次回は黒き戦士の章 第2斬「魔女王覚醒編」の予定です。
それでは前回のレス返しです。
片やマン様>
色々悩んだ末に、巧と啓太郎と草加のみの出演となりました。本編と黒き戦士の章は微妙に絡み合います。
ATK51様>
今回の竜巻剣は当然ながら手加減バージョンです、位置付けの違いは…R以前はファントムシリーズとの差別化がイマイチ上手く行ってなかった為の処置なんですけど…上手く行ってますでしょうか?
ミュウは愚痴こそこぼしませんが…ちょっと考え中ですね、それとあるキャラが黒き戦士の章に参戦予定です(ヒント、本編にちょろっとだけ出てきた)←解るかw
Yu-san様>
ああ、やっぱりこのツッコミが入ったかぁ…;;
実の所、おキヌと横島との出会いは「黒き戦士の章」の横島修行編で書かれる予定のものを急遽繰り上げしたものなんです。
うーん、出来る限り気を付けますので(涙)
casa様>
燃費が悪いのは仕様です(おい)
というか、これで燃費が良かったら万能すぎて返って扱いに困るための処置です、なんぼかファントムシリーズの一部の方が燃費良いですが。
柳野雫様>
差を感じているピートですが、実は何故ここでのピートはヘタレなのか?の秘密が何時か明かされるときが来るんですよ(ニヤリ)
それでは次回「黒き戦士の章 第2斬」でお逢いしましょ〜でわでわ〜〜
追記:ぬーくりあ様ご指摘の箇所を修正いたしました;;
すっかり忘れておりました〜済みませぬ><
ご指摘感謝です〜