マニフェストでの公約
■これは民主党の2009年版マニフェストです。
このように、民主党はマニフェストで「中学卒業まで、1人当たり年31万2000円の「子ども手当」を支給します」と謳っています。
■また、新聞やテレビなどの報道機関も、同じように報道しています。
子ども手当法の条文
■一方、子ども手当法の、条文にはこう書いてあります。
第三条 この法律において「子ども」とは、十五歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある者をいう。
このように、法律上は、支給要件となる対象者は生年月日によって規定されています。これは「15歳の4月1日の前日まで」と言い換えることができます。法律の条文の書き方は特殊で、「達する日」とは誕生日の前日の事を指します。「以後」とは当日も含んでいます。
■この法律には、中学校を卒業しているかどうかを、支給の要件とする条文は存在しません。
優先されるのは法律
■このように、マニフェストと子ども手当法の内容が矛盾していますよね。一体、どちらが正しいのでしょうか?
■実は、マニフェストの方は完全な嘘なのです。実際に施行される制度は、法律の通りです。民主党はマニフェストでは「中学卒業まで」と謳いながら、裏では「15歳まで」とする子ども手当法案を提出し、可決させていたわけです。子ども手当制度は、子ども手当法によって施行されますから、民主党の公約に関わらず、法律の方が優先されるのです。また民主党も、電話インタビューに対して、「マニフェストを守るつもりはなく、法律の方が正しい」と回答しています。
実例
■学校に在籍していない人でも、15歳の4月1日の前日までは、支給要件を満たします。インターナショナルスクールなどに在籍していても同じです。
■中学校に12歳で入学して16歳で卒業した人でも、15歳の4月1日の時点で支給要件を満たさなくなります。卒業まではもらえません。
■このように、明らかに中学校の卒業とは一切関係なく、完全に年齢で決められているのです。民主党は、マニフェストの公約と異なる制度を成立させたことについて、公式には謝罪も弁明もせず、むしろ堂々としています。私の指摘に対しても全く動じる気配がありません。
正しい書き方
■では、マニフェストにはどう書くべきなのでしょうか。
この制度の支給要件になる人を表す場合、「15歳の4月1日の前日まで」と書けば、知識の少ない人でも簡単に理解できます。これでは長いというのでしたら、「学齢期の終わりまで」と書くことですっきりと表現できます。
■また、「義務教育終了まで」と書くこともできますが、日本国籍のない人は義務教育の対象ではないので、これは日本人オンリーの書き方となってしまいます。子ども手当は外国人登録者でも対象ですので、少し混乱を呼んでしまいます。
なお、実際にマニフェストに「義務教育終了まで」と書かれていた時期もありました。しかし2007年版マニフェスト(下記画像) では、同じページに「義務教育終了まで」と「中学校卒業まで」の両方が書かれており、自己矛盾していました。
学齢期 6歳の4月1日から15歳の4月1日の前日までの9年間。
義務教育 学齢期の在日日本人を対象とした、学校教育確保制度。
望ましい制度
■では、マニフェストで謳っている、中学卒業まで支給するという制度は、良い制度なのでしょうか?
いいえ、違います。こういった制度を導入すると、大きな弊害が起こります。年31万2千円という金額は十分に大きいので、意図的に留年する人が現れるでしょう。もし子ども本人が卒業したくても、親の命令で留年させられることも起きるでしょう。
学校を卒業するかどうかは、第一に、課程の履修や修得をしたかどうかで決めるべきであり、学費や奨学金などの金銭的な都合は本来、二の次です。教育現場にお金の問題を持ち込んで卒業か留年かの選択に影響を与えることは、健全な学校教育を阻害するものです。そのため、年齢を基準とする方式の方が、学歴を基準とする方式よりも、はるかに適切でしょう。
■なお、ドイツの児童手当制度では、学生であるかどうかが支給要件になっています。この制度は、通常18歳までに対し、第1子は月184ユーロ、第4子は月215ユーロを支給する制度ですが、失業中などの場合は21歳まで、学生または職業研修生の場合は25歳までが対象です。ドイツの制度についてはよく分かりませんが、この制度では特定学校種の卒業を支給終了の要件にしていないため、意図的な留年を誘発する問題は発生しにくいと思います。
望ましい対応
■では、民主党は、どうやってこの問題を処理すべきだったのでしょうか。
■一つの方法は、公約が誤りだったことを素直に認めて、謝罪することです。そして、実際に実行する制度は、年齢制限のみの制度にすることです。こうすれば、有権者は公約違反と感じるでしょうが、逆に潔さを評価することもあるでしょう。
■もし、公約の誤りを認めるのが不可能ならば、最初の1年だけ公約を守り、中学卒業までの子供(20歳くらいまで)に対し、子ども手当を支給することです。ある意味ごまかしですが、やむを得ないことです。教育現場への悪影響も1年限りなら抑えられますし、民主党の体面も守れます。そして翌年からは、15歳までの年齢制限の制度に切り替えることです。
■しかし、民主党はどちらの方法も取りませんでした。2010年版マニフェストでも年齢の注記なく「中学生以下」と書いており、平然と実際の制度と異なる内容を謳い続けているのです。社会がこれを許しているのは、ジャーナリズムが全くこの問題を取り上げていないからです。
政府などによる同様の行為
■政府も、中学卒業までという書き方をして偽装しています。
例えば厚生労働省の公式サイトでは、支給要件の対象者は、年齢で表記されておらず、学歴で表記されています。2010年の1月時点で、厚生労働省政策会議で高級官僚の誰かから「子ども手当について、中学校卒業までとあるが、留年していた場合などにおいてはどのように取り扱われるのか。様々なケースが想定されるのでQ&Aを作ってほしい」との意見が出ているのに、その後全く対応していません。
■多くのマスメディアも同様な表記を続けており、偽装に加担しています。「ダメなマスコミ」のページもご覧ください。
■このように、「一億総年齢主義」とでもいうべき事態になっています。