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吹雪の島 − 旧・小説投稿所A

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吹雪の島
− chapter5.5 −
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腕で顔を覆うようにして雪を遮って歩いているマニューラ

寒さには元から慣れているものの絶えず体を打ち付ける雪と強い風に体力を奪われていく マニューラでもこのままでは歩くのもままならなくなってしまうだろう 歩みを進める足の先に段々滲むような痛みを感じるようになってきた

あれからずっと歩いているのに何も見えてこない、野生のポケモンすら出てこず彼は何か嫌な違和感を覚えた

しかしこのまま歩き続けても体力が無くなってしまうだけだと、彼は背中のトレジャーバッグに手探りで触ってみる、何か固い感触を覚えると彼は安堵したようにバッグから手を離す

-とりあえず横穴でも掘って暖をとらなきゃ マッチもまだ余ってるはず これ以上ひどくなるようなら流石に諦めるしか…ベイリーフには悪いことしちゃったかな…いや、別にまぁいっか-

彼は心の中で呟いた

その後に喧嘩をした彼女のことを思い返す、ベイリーフの性格なら無理をしてでも付いてくるに違いない、草タイプと言うレッテルを張って差別するように見放した自分を責める

彼女にそろそろ声をかけても良いか、そう考えた時には既にマニューラとベイリーフは離ればなれになってしまっていた…

そんな事を考えながら未だ弱くなる様子の無い吹雪の轟音の中にヒュン・・・と風を切る様な音がしたのにマニューラは耳を傾けた

小さい頃から耳はよかったから気になってついつい立ち止まり探り始める

その音はまた聞こえることもなく今はただ吹雪の轟音が周りでびゅうびゅうと音を立てているだけだった

考えてみたらこんな吹雪の轟音の中でそんな音が聞こえるのも変だろうか それを三時間は聞きっぱなしだったのだ 耳がおかしくなってしまったのかもしれない

うーん…と視線を正面に戻したのと風を切るような音が再び聞こえたのは同時だった


「・・・? っぐ・・・!」

マニューラの腹を何かが直撃する めりっと腹に深く食い込むそれに息が詰まるような感覚を覚え腹を抱えるようにしてその場にひざを突いてうつぶせに倒れる

膝と額の三点で突っ伏し、直に当たる雪の冷たさが痛みと変わって襲ってきたがこみ上げてくる吐き気に比べたら大したことはなかった


「……マニューラ…?」

そのはるか後ろでベイリーフが呟くような声で言った

彼のうめき声が聞こえなかったのだろう 不安そうに呼んでみるが彼には聞こえるはずがなかった

彼女にはただマニューラがその場に立ち尽くしているような幻影が見えていた

「どこ行くの…マニューラぁ………?」

歩き出したその影をベイリーフはふらふらとした足取りで追った








「………どこから…?」

うつ伏せのままずっと倒れていたマニューラだったがひざをついたまま体を起こしキョロキョロと首だけを動かして警戒する

はぁはぁと苦しそうに吐き出す白い煙は激しい吹雪にさらわれる

何かの塊はどうやら氷のようだった と、なると氷タイプのポケモンがマニューラを狙って撃ってきたのには間違いがない

最初のヒュン…と言う音が激しい吹雪の中「こおりのつぶて」という技の風切り音だと言うことに気づいた彼はその時突っ立っていた自分を思い浮かべ心の中で叱った

後悔しながらも目を凝らし正面をよく見ると何かが地面に浮いているのがかすかに見えたような気がした

「……? ぅぐぅ…!」

不意打ちはマニューラに大きなダメージを与えていた

痛み自体はマシになって来ているようだが腹を思いっきり殴られた後のような気持ちの悪い感覚がマニューラを苦しめていた

しばらくするとマニューラの体に変化が起きた

体を絶え間なく打ち続けていた感覚がない 奥に進み始めてからそれは急に降ってきた 二匹を苦しめてきた吹雪が止んだのである

しかしすぐに霧のようなものがたちこめ、周りの景色は一切判らないままだ

吹雪が止み 穏やかになった雪だけが彼を誘うように地面に降っている

「なんなのさ・・・一体」

腹を押さえたままフラフラと立ち上がった所でまた音が聞こえてきた

ビシュウウゥゥゥ!

「!?」

白い霧の中でそれよりも青白い一筋の光が立ち尽くしたマニューラの横を通り抜ける それが放つ凄まじい冷気は体毛に少しチリチリしたような痛みを与えたが、狙いが外れたということにマニューラは助かった…とため息をもらした











「うわああああ!」

次は叫び声が聞こえた いつもの聞き慣れた声 吹雪がやんで嫌と言うほど鮮明に聞こえる

「ベイリーフっ!?」

自然と体が動き出す 痛みは引いたが今は彼女が大丈夫かという不安がマニューラの頭の中を支配していた

もしあれにベイリーフが当たってたら? 音にびっくりして大声あげただけなのかもしれない でももし交わせなかったとしたら? ベイリーフは草タイプだ 最悪凍り付いて倒れてしまっていたら?

考えるより先に足は中々動かなかった

仲間を失う恐怖と不安に駆られながらマニューラは後ろにひた走った

この時実際彼と彼女の距離は100mの間隔を空けていた

深い霧の中彼女を捜しながらふらふらと歩くマニューラ

しばらく走り続けると地面に彼女が倒れているのを目にする

慌ててマニューラが近づきその安否を問う

「マニュ……ら」

「ベイリーフ!だっ…大丈夫!?」



「ニュ……早く………」

「え?」

「早く…逃げて……」

「なに言ってんのさ…ベイリーフ……一緒に帰ろうよ…?」

そう言うと彼女は首を横に弱々しく振った

「わたしもうダメ……わかるでしょ… だから……」

「わかる訳ないよ! どうしちゃったのさ…ら、らしくないよ……」

驚くほどに声を荒げて言う 彼は今のようなピンチにぶつかることをわかっていたのかもしれない しかし一番の親友が居なくなることは考えたくも信じたくもなかった いつも二匹で数多のピンチを越えてきたのだ

彼が言葉をかけても彼女はなにも答えなかった

「ベイリーフぅ………」

「…はやく……にげ………」

ピシ……ググ………

「あっ…」

足から凍り付いた氷がベイリーフを包み込もうと浸食していく

そう言うとベイリーフの生気を失った目のまぶたが落ちた

「ベイリーフ!ダメだってばっ!」

返事はなかった

「ダメだってば!……そんな、ヤダよ!ベイリーフ!」

自然と涙があふれベイリーフの体を揺する が、浸食していく氷がそれで止まるわけではない 既に氷はベイリーフの腰の辺りまで包み込んでいた

「ベイリーフ! ベイリーフぅ!…あぁっ……」


彼女は遠のく意識の中彼の声だけが聞こえていた

彼女は心の中で彼に謝った

-ごめんね…マニューラ……私がさっさと諦めようとしなかったばっかりに-

マニューラならどう言ってくれるだろう とふと考えた

マニューラはあんな性格だから自分の死を受け入れてまた明るく生きていけるだろうな と思わず考えてしまう

しかし朝聞いたような言葉をふと思い出す

『自分にとっては……それ以前に一緒にいるだけでいいの……ベイリーフといると毎日が楽しくてさ…』

ーごめんマニューラ……わたしが…わたしがぁ………ー

彼にとって大切なのは自分しかいない、考えて残ったのは悔しさだけだった

意識が途絶えると同時に張り付いた氷がベイリーフの体を包み込んだ

「べいりーふ……ぁ…あぁ……」

まるで水晶に包まれたように見える氷に彼は覆い被さるようにしながらすすり泣いた


西の方角からそよぎ吹いてきた風が粉のように煌びく粉雪を運ぶ サラサラ…と砂漠に風が吹いたかのような光景が辺り一面に広がる 風が霧を運ぶように東へ流れ、遂にはかかっていた霧が止んだ


<2013/01/26 23:31 ジイア>消しゴム
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