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俺が賢龍と呼ばれる訳 − 旧・小説投稿所A

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俺が賢龍と呼ばれる訳

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 そんな生活の中、彼が時折つぶやく言葉は、悉く俺を悩ませるものだった。
「命って、何だろうね」
ぼそっと呟いた彼の言葉は、俺を悩ませる。ううむと唸り、グルルと喉を鳴らす。クロが考えるときの癖が出てる、と彼は茶化した。
そんな彼のつぶやきに答えなんてない。だけど竜が狩りをして、獲物を手に戻ってきた時に、必ず獲物に手をあわせてから火にかける行為は、彼にとって当たり前のことらしい。
「ここにいる、この鹿はもう死んでる。命はない。でも、生きてる時には命はある」
彼は、頭を掻きながら続ける。
「でも、この鹿を食べると、俺は命を繋ぐことが出来る。命を頂く、ってことなら……この身体にはずーっと命が宿ってるってことになるよね?」
「ああ、確かにそうだ。俺達は食わねば死ぬ。だからこそ他の生物の命を奪い、明日へ繋げているのだ」
「じゃあ、僕は今まで食べてきた全部のものから命を貰ってることになる。勿論、僕が日本に居た頃も含めて。じゃあ、命は形を変えて、僕の中に存在してるのかな?」
「おそらくはそうだろう」
「じゃあ、どこに存在してるの?僕の血の中?それとも、内臓の中?そうじゃなかったら、魂の中?」
「……すまんが、分からない。お前は竜の知恵を過信しているようだが、俺はただの黒い竜で、お前たちの言葉でいう、生物の一種というだけだ」
「そっか、そうだよね……でも、哲学って大切だと思うよ!もしかしたら、そんな答えを知ってる賢い竜さんが、何処かにいるかも知れないし」
彼はいつもこうだ。見たことも、存在するとも限らない人物の事を想像し、憧れを抱く。
更には、俺にまで考えることを勧めてくる。勿論俺だって考えたことが無いわけではないが、生きるために必要かと言われれば、NOだ。
だから、あまり考えなかった。自分の持つ力について。








 辺りは雪が降り積もり、外に出るのも億劫になる。冬眠という事をしない、彼が言う「温血動物」というジャンルに当てはまる俺は、寒さへの耐性も少しはあるから気にはならないが、それでも冷たいものは冷たいのだ。
その点彼は、足は靴という皮で出来た道具で守られた上、身体もジャケットという繊維で出来た衣服を着ていることもあり、寒くはなさそうに見える。
だが秋の間に集めた食料は既に底をついており、吹雪のために外に出ることも叶わず、俺の吐く炎で薪に火をつけ、焚き火にあたりつつ寝ることが多くなっていた。
その時に腹の虫が鳴る彼のことを思うと、俺の胸は締め付けられた。なんとかしてやりたいと思った。
だが、鹿や狐、猪などの動物も活動する時間は極端に短くなり、狩りが成功する事も少なくなってくる季節。彼が飲むための川の水も焚き火で少し温めてからでないと、飲み水としてすら使い物にならなくなると言う始末。
ひもじいという思いをしたことがないショウは、痩せ我慢をしつつも、時折腹が減ったと愚痴をこぼす。俺にはどうしようもなく、ただ彼の身体を温め、語りかけることしか出来なかった。
 竜の食は、気まぐれだ。半年は何も食べずとも生きていけたから、その気になればもっと長く生きられるのだろう。
だがニンゲンは違う。水を飲まねば死んでしまうし、食料が無ければ痩せ細り、そして死に至る。
死んでしまったモノは元には戻らない。わかっているはずだが、俺には最後の手段として残されていた力があった。
命を呼び戻す、技。一度だけ使った事があるそれは、もう二度と使うまいと思っていた、禁忌の術だった。


 「クロー。」
弱々しい呼びかけで、現実に引き戻される。俺は返事するのを忘れて、彼の方をじっと見た。
「ねえ、クロ。僕、死んじゃうのかな?」
「……わからない」
彼の問いに、正直に答える。俺の狩りが成功すれば、まだ数日は生き延びれるかもしれないが、狩りをするにも吹雪が続けば動物も出てこないし、たとえ止んだとしても見つけられる確率は、そう高くない。
「あは、クロは正直だねー。ねえ、お願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
いつもと同じような口調で、だが彼は真剣な表情で、俺に言った。
「……僕を、食べてくれない?」
「馬鹿な。出来るわけないだろう、ショウ」
即答した。過去に言われたあの言葉を、またここで聞くことになるとは思わなかった。その驚きもあったが、今まで共に生活してきた彼を、今ここで喰らえというのだ。
「できるよー。だって、クロはこんなに大きくて、僕は、こんなに小さいんだもの」
そういうと、ショウは一度口を閉じて俯いてから、俺を見て言った。
「どうせ死ぬならクロに、食べられてみたい。本当はね、もっと早くして欲しかったんだ」
ドクン。と心臓が高鳴る。
「僕の話を聞いてくれて、嬉しかった。だから、言えなかったんだけど」
鼓動が早くなる。彼の身体を見ていると、涎が溢れてきた。思わず喉を鳴らしてしまう。
「でも、なんだかいいなって思っちゃったんだ。だから……僕の命、もらってくれる?」
彼なりの求愛、プロポーズなのかもしれないその言葉を聞いた途端、俺は反射的に言葉を放っていた。
「ああ、頂こう……お前の分まで、生きてやる」
「ありがと、嬉しいよクロ。僕達ずーっと一緒になれるね」
「そうだな、ショウ。悪いが、少し痛い思いもするかもしれないけどな」
「あはは、それは覚悟の上だから」

 いつもの会話。いつもの話のように思えたそれは、お互いが口を閉じると、焚き火に照らされたショウの体がとても、美味しそうに見えた。
鼻先に抱きつく彼。森に生きる獣とは質の違う、今まで食べてきたどんな果物より芳醇な香りを放ち、俺の嗅覚を刺激する。
同居する内に愛し、愛される関係になったショウと俺。昔、恋人が居た時の事を思い出し、そっと口付けをする。体格差もあって、彼の顔に口の先を当てるだけの柔らかく、短いものだったが、彼の顔が紅潮し、抱きつく力が強くなる。
これからは、恋慕を抱く関係且つ、捕食者と被捕食者という何とも不思議な立場へと変わる為の、一種の儀式のようにも思えた。
彼は着ていた服を脱ぎ、薄手のシャツとジーンズだけ、という格好になって、俺の目の前に立つ。弱々しい彼の姿だけど、目はしっかりと覚悟を決めていて、揺るぎない意志が感じられる。
「流石に、全部脱ぐのは恥ずかしいよ」
はにかみながら、彼は言う。俺は思わず小さく笑ってしまったが、彼の手をそっと舌で掬い上げ、口先で頬張り、飴を舐めるように、しっかりと味わう。
くすぐったいよ、と彼は言った。袖が濡れるのも構わず、ただその行動を享受して、頬を擦り寄せてくる。黙っていても伝わってくる温もりが、俺の理性をゆっくりと溶かしていく。
だが、ここで彼を噛み殺してしまえば後悔しか残らないだろう。彼が構わないと言おうが、俺はそれを絶対に避けたかった。
だから、寝床へ彼を優しく倒し、仰向けにさせる。爪の先で服のボタンを飛ばし、はだけた服の隙間へと舌を伸ばし、ポタポタと唾液が口の端から垂れるのも厭わず、舌先で出来る限りやさしく、彼の身体を舐めてゆく。
恥ずかしがって顔をそらす彼の仕草が、どうしても俺を誘ってるようにしか見えない。実際にそうではない、というのは俺も分かっていたが、理性が形を崩し、本能に火が点き始める。
首筋に舌を這わせてから、小さな胸に口先をつける。鱗もなく、毛皮もない彼の身体を滑らかに動いてゆく舌が本能を刺激し、今すぐにでもこの哀れな獲物を一呑みにしろと囁く。
雑念と闘いながらも、ショウは俺の行動を拒否すること無く、ただ受け続けるだけだと思っていたが、彼は舌の洗礼が終わる前に立ち上がり、俺の前足に抱きついた。
「いじわる、しないで……」
と、紅潮した顔を見せないようにぎゅっと腕に抱きついて、そう囁いた彼。もう止められないと、自分で思った後だった。

 「なら、望み通り今すぐに食ってやろう。返事は聞かぬぞ」
などと高圧的な口調で、言葉を紡いだ後に彼の身体は俺の舌に巻かれ、彼が口を動かしたのが一瞬だけ見えたものの、それを気にも留めず一口で、彼の身体を口内に収めた。
最初に感じたのは、ほんのり感じる塩味だった。それがとても刺激的に思えて、唾液が溢れてくる。美味い。今まで食ったどの肉より、彼が調理してくれた食事より。
くちゃっ、くちゃっ、と咀嚼の真似事をしてみる。甘噛みではあるが、怪我をさせぬように加減はしているつもりだった……のが、裏目に出たらしい。次第に収まりがつかず、味わう、という行為が激しくなってゆく。
舌先で体勢をめまぐるしく変えつつ、歯の位置もその度に変えて、口内で弄ぶかのように彼を扱う。偶に舌の裏へと招待し、ぎゅっと押し潰したりもした。
兎にも角にも、彼が時折出す声がとても魅力的で、俺もかなりの興奮を覚えた時だった。ふと感じる、血の味。
俺はそれでハッとして、我に返る。大丈夫か、と声を掛けると、彼は大丈夫だよと答えてくれた。……今更吐き出して、傷を癒そうとしても、彼はそれを望まない。このまま俺に食われるのを、切に願っているのだ。
顎を動かし、軽く圧迫する快感。舌を動かし、軽い力で彼を弄ぶ、征服感。生きているからこそ、返ってくる反応が未知のものでもあり、新鮮で、今この時彼を、自分のモノにしているという支配者の悦。
本能が彼を呑み込め、と囁く。胃の中に入れてしまえば、他の誰にも盗られる事なくじっくりと、彼を感じられる。俺は、本能の赴くまま、いつもの食事を飲み下すような行動を取っていた。
唾液でぬるぬるになった彼の身体は、少し傾斜をつけただけでゆっくりと喉に向かい、滑ってゆく。
滑り落ちた、と感じたのはほんの一瞬ではあるが、そのまま彼を飲み下すのに躊躇はしなかった。ゴクン、と小さな音がして、数秒の間、喉を落ちてゆく感覚を楽しんだ。
そこを過ぎれば、彼の世界で言う臓器の一部、胃……栄養として吸収するために、彼を溶かす場所。
とうとう、やってしまったと思った。満腹感、満足感、充足感……なんでもいい、そんな感覚が快感と代わり、俺は彼を呑み込み、自らのものとした事実に打ち震える。
食物が胃の中で暴れることは一度として経験はなく、彼が動く度に不思議な感覚がした。
1つだけはっきりしているのは、彼は今、俺の中で生きているということ。それだけで十分だった。
「……苦しいか?」
などと聞いてみる。当たり前だ、と言わんばかりに動きが活発になった。
ふふ、と笑みをこぼす。いつもの彼のようで、それでも彼は俺の中に居て。……嬉しかった。いつもの彼が見れた気がしたからだ。
そんな楽しい時間も、すぐに過ぎ去ってしまう。数分が永遠に感じられたが、彼の動きが鈍くなると同じくして、俺の眠気が顕著になってきた。
「ショウ、最後に言うことがある。……俺の名は、ソールというのだ」
視界が黒色に染まってゆく中、彼の声が届く。
「ありがとう、ソール……大好きな、人」
それだけがはっきりと聞こえ、俺は穏やかな心で意識を、落とした。




 次に目が覚めたのは、春と呼ばれる季節の始まりだった。
外に出てみれば、雪解け水が川へと流れ、清流を作っている。大好きだった彼の寝床には、誰もいない。
涙をこぼした。一滴の涙が、地面に染みてゆく。夏から始まった彼との関係は、長い冬の途中に終わり、一つの季節を回ること無く、俺の糧として終えた。


<2012/05/12 13:29 S>消しゴム
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