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俺が賢龍と呼ばれる訳 − 旧・小説投稿所A

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俺が賢龍と呼ばれる訳

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 だが、命は繋がっている。俺の中に、彼がいると考えたその時に、あの禁忌の事を思い出した。
忘れもしない、恋人だった竜が死んだ時。……俺は、使わなくなった背の翼を大きく広げ、飛ぶまいと決めた空へと、再び飛び出していた。
教えてもらった方角で言う、南の山脈。滅びた都市に建っている、大きな城の中庭へと降り立った俺。
そこには竜、一頭分の骨格が、天を仰ぐような体勢で固定されている。俺は、その骨へと近付きながら、語りかける。
「もう、戻らないって決めたのにな。……ごめん、ユフォーレ」

 ユフォーレと呼んだ、その竜の骨。俺にとっては初めて出来た恋人で、幾千もの月日を共にした、大切な人だ。
その地面には複雑な魔方陣が、少しとして欠けることなく残されている。これが俺の過ちであり、禁忌と定めた筈の、蘇生術のための魔方陣だ。
思わず、自嘲してしまう。二度と戻らないと決めたこの場所に戻ってきた理由は、ひとつしか無い。……ショウを生き返らせるためだ。
だが、骨だけになった彼女……ユフォーレが、それを拒み、俺に諭すかのように、魔方陣の上に立っているのだ。
「彼を生き返らせても、私のようになるだけ。それだけは、絶対にしないで」
と、言っているような気すらした。勿論、頭の中では理解している。だが、俺の理性とは裏腹に、心の中は彼とまた他愛の無い話をしたい、一日を過ごしたい、という気持ちで溢れかえっている。
孤独には耐えられない。耐えたくもないし、また一人で生きるには余りにも親密になりすぎた。ショウがいない生活が耐えられなくなるほどに。
葛藤の中、魔方陣に片手を添えた瞬間、様々な記憶が蘇り、彼と出会う前……過去、この陣を完成させた時の思い出が蘇ってくる。


 全て独学で学んだ、蘇生術。里に遺っていた伝承と、古代の遺産を基に組み合わせて、作ったもの。
大量の血で染められた大理石の床に、間違える事無く古代文字と、紋章を掘ってゆく。
その時の様子は、よく覚えていない。ただ、人間と戦い死んだ彼女を、蘇らせたい一心で、何日……いや、何週間と不眠のまま、その作業に没頭していたかもしれない。
青い鱗に、赤い瞳。二足で歩き、知識も豊富な彼女と、俺が付き合うようになったキッカケなど、もう覚えていないが、これで彼女とまた暮らせる。一人じゃない。と、最後の紋章を書き終えた瞬間だった。
背後で何かが動く音がして、振り返れば彼女が動いていた。……夢のようだった。俺は飛び跳ね、近付いていこうとした。
その時に気付いたのだが、どうも様子がおかしい。彼女は口を開こうとせず、歩こうとすれば、出血が止まらない。
激痛で顔を歪ませる彼女に寄り添い、傷を舐めて痛みを和らげてあげようとするも、彼女の気迫は凄まじいもので、正気を失ったような眼光がこちらに向けられ、俺が怯み、立ちすくんだところに、容赦無く飛びかかってきた。
「なっ……ユフォーレ、俺だ!やめろ!」
だが、彼女の牙は俺の首を狙い、振り下ろされる。間一髪の所で避けると、俺は翼を使い、勢いをつけて逆に押し返す。
「ユフォーレ、わからないのか!?俺だ、ソールだよ!」
その言葉に、彼女の力が抜ける。瞳に理性が戻ってきたのを確かめて、ほっと胸をなでおろしたのも束の間、彼女は俺に向けて怒号を発した。
「……この馬鹿ッ!あんた、自分のしたことがどれだけ馬鹿なのか、分かってるの!?」
その口調は、まごう事無き彼女のもので。でも、突然の怒号は、俺を怯ませるのには十分だった。
「馬鹿って、そんな……俺は、ただ」
「ええ。私に会いたかったのでしょうね、でも約束したじゃない、泣かないで、って。私よりステキな人を見つけてね、って」
痛みを我慢して、俺を叱る彼女の姿。出血は収まらず、だけど凛とした顔つきの彼女は、間髪入れずに続ける。
「なのに貴方はまだ私に執着する気?馬鹿ね、本当の馬鹿。しでかした事が、世界のバランスを崩すのも知らずに」
「世界の……バランス?」
「長々と説明してる暇はないの。幸い、魔方陣も近くにあるようだし、私の力でどうにかしてみせるから」
そう言って、彼女は俺の書いた魔方陣の上に乗る。何を、という質問をする前に、彼女は俺に向かって淡々と続けた。
「死んだ人を蘇生したらどうなるか分かる?肉体の状態が悪ければ、内臓が腐敗していて激痛のうちにまた倒れ、死ぬでしょうね。私みたいに、傷も治らないままに放置されていた肉体に戻った時にも、激痛が走って、そのままショック死、なんてこともあり得るわ」
事実を、淡々と告げる彼女。俺は、その話をただ聞くことしか出来なかった。
「器のない人だっているでしょう。その場合、器も無しに魂を呼べば悪霊や、怨霊の糧として死ぬに死ねない、輪廻より外れてしまった存在として囚われる事になるの。命は巡るものよ。前も話したはずだけど、私が死んでも他の動物、生物達の糧として、とても大切な役割を果たすわけ」
反論の余地もなく、ただ黙って聞く俺にため息を一つ吐いた後、咳き込んでから続ける彼女。
「だから、蘇生はいけないものなの。蘇生の陣なんてものは、悪霊や怨霊の吹き溜まりになる。そうすれば、周囲は生き物の住めない土地になってしまう。貴方が作ったこの陣は、悪意がなくとも勝手に利用されてしまう、あってはならないものなのよ」
彼女と向き合っていた、そんな俺の背後から不穏な気配が発せられる。思わず振り返り、威嚇のつもりでグルルと唸った先には、死んだ人間の骨に悪霊が宿った「歩く屍」がいた。
「貴方は、私を蘇らせるだけだったのかもしれない。でも、こうやって生き物の骸を利用する奴らも集まってくる。だから、ダメなのよ」

 ここまで話し終えた彼女の足元には、多量の鮮血で水溜まりが出来ていた。立っているのがやっと、と言った感じだ。
「……でも、嬉しかった。最後にまた、貴方と会えたんだから。ごめんね、ソール。貴方を苦しめたのは、私なんだもの」
彼女はそう言い、俺に笑いかけた後だった。
「ソール、1つだけ約束して。この陣は、二度と使わないってこと」
「ああ、約束するよ。だからユフォーレ……」
「ふふ、貴方はそーやってずっと、私についてきたものね。でも、今回はダメよ。私一人で行かなきゃ、ダメなの」
「そんな、それじゃあ……」
肩を落とし、うなだれる俺。だけど、彼女は最後にこういった。
「愛してるわ、ソール。世界中の他の誰より。貴方は私よりとってもステキよ、もっと自信を持ってね!」
俺が顔を上げたその瞬間、世界中に響き渡るのではないか、と思えるくらいの咆哮が響き渡る。
一粒の涙が、彼女の頬を流れ落ちる。それを見た俺が駆け寄ろうと、走り出したのを最後に、彼女の姿は巨大な雷に包まれ――

 ――ああ、思い出してしまった。彼女が、どうしてこうなったかを。
二度と使わない、と約束したこの場所。魔法が使えなくとも、聡明な彼なら、きっと彼女と同じ事をするだろう。
出来なかったとしても、今度は俺が代わりになる。だが、残った彼はどうなる?
こんな山脈に取り残され、巨大な獣に襲われて死ぬのが目に見えるし、まず肉体は俺の身体と同化している。
……出来ない。ここで、最後まで俺に教えを残してくれた彼女のためにも、俺は二度と約束を破らない、と決めたのだ。
ショウとの日々。彼女との、長い年月。思い出せば、悲しくなる。
だが、ここで彼を戻した所で喜ぶのは俺だけだ。それも、一瞬だけの幸せ。後に残るのは後悔と、自責の念。

それから、俺は彼女と同じように天を仰ぎ、星が瞬く空へ向け、大きく、啼いた。
あの日を思い出し、ただ啼いた。二度の別れ、別れは必ずあるものと二人に言われたが、すぐに乗り越えられるものではない。
だから、啼く。啼き続ける。
今はこの世界に居ない、彼らに届くように。






――――――話は、冒頭へ

 「今すぐ、お前を殺すことも俺には出来る。だが、お前を殺せばまた、お前の身内がここにやってきて、同じ事を俺に聞くだろう」
威圧感を出しつつ、俺は昼間出会った男へと、反論を許さないまま話し続ける。
「残された者の気持ちが分かるか?……愛した者を、自らの手で殺したことはあるか?」
そこまで言い切ってから、俺は手を離して、その男を睨みつける。呼吸を整え、俺を睨み返すそいつの顔には、NOと書かれていた。
「命は、戻らない。亡くなった命は、戻してはいけないのだ。戻った命は、必ず悲劇を生む」
「……まるで、自分がそれを経験したかのように語るんだな」
その男は、皮肉を込めてそう言ったのだろう。……俺は、少しだけ視線を落としてから、答える。
「ああ……その通りだ。俺は、自らの手で恋人を殺め、自らの手で、始末を付けられないまま……こうして生きている」
そう独白する俺の姿は、その男にどう映っているのだろうか。何を聞かれても、もうこれ以上話す気はなかった。
「明日、森の外まで送ってやる。今日はもう寝ろ」
俺がいれば、森の獣は気配を察知して襲ってくることはなくなる。……もしこの男が、俺を殺そうとするなら、それもまたいいのかもしれない。
命は尊い。儚くもあるそれは、焚き火と似ている。
強い風が吹けば、消えてしまう。そうでなくとも、最初のうちは盛んに燃えていたそれも、最後は小さな火となって消えてしまう。
ショウとの生活を思い出し、ユフォーレとの悲しい別れを経験した俺は、もう起きないであろう奇跡を夢見るのはやめた。
だが、彼らが教えてくれた命の大切さは、俺が生きている限り伝え続ける。それが俺の使命だというと、きっと二人は笑って茶化すだろう。


 命に真実はない。正解もないし、間違いだってない。あるとすれば、その世界の流れに則るくらいだろうか。
最近は、翼を使って様々な場所を見に行くのが、常となっている。往く先々で竜や、ヒトと出会う。問われる事に答え、旅を続けていた俺は、いつのまにか賢龍と呼ばれるようになっていた。
賢龍ソール。黒き鱗と紅き双眸が特徴で、深い森の、巨大な樹のそばにある洞窟をねぐらとし、その内に煌く蒼色の鱗を持つ美しき竜と結ばれ、日々を平穏に暮らしているという記録が、残されていた。
そのねぐらのそばにある、2つの墓標が何を示すのかは、誰にもわからないままではあるが。


お話はこちらでお終いです。
次のページは登場人物の設定を載せておきました。自分流ではありますが、参考になればと思います。
<2012/05/12 13:29 S>
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