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俺が賢龍と呼ばれる訳 − 旧・小説投稿所A

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俺が賢龍と呼ばれる訳

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「いいか、もう一度簡潔に、明瞭に、端的に説明してやるから、しっかりと聞け」
森の中、焚き火の近く。雲ひとつ無い空に、満月が一個浮かんで、少し開けたキャンプを、月明かりが照らす中、巨大な手で地面に抑えつけられた人間。その視界に映っているのは、黒い一匹のドラゴンだった。
そのドラゴンの赤い双眸がその人間を見据え、喋る度に少し開く口から、白い牙が時折覗いている。
男はゴクリと喉を鳴らす。そのドラゴンは、少しの間を置いてから、再び口を開いた。
「命を粗末にするな」


――話は、数時間前に遡る......


「……それで、お前は俺に一体何を学ぼうとしに、ここに来た?」
「蘇生術についてだ。それ以外に何がある?」
俺はまたか、と思ってため息をつく。自分を訪ねる人は稀だが、訪ねてきた者は誰しも同じ事を言うからだ。
俺はいつもその答えに、人がそのような術を覚えて何になるという疑問を持っていた。死んだ人は二度と生き返らないし、生き返らせたとしても、生前と同じ人物になるかどうかは誰にも分からない。途切れた会話の中で、俺はそれを使う事が正しいのか、間違っているのかなんてのは分からない。分かるはずがないと頭の中で考えた。
失われた命が戻る事はない。自然の摂理なのだ。命はいつか尽きる。早いか遅いか、自然か事故か。そして土に還り、他の生命の糧となる。それを乱すのは、自然が許さないと俺は考える。
「……話すことは何もない。帰れ」
だからこそ、俺は取り合わない。それだけを言うと、背を向け歩き出した。そうすると、どの人間も後を追いかけてきて、俺を責め立てる。何故教えないのか。恋人を救いたいのだ。家族を救いたいのだ。人を救いたいのだ。などと並べても、俺が無反応なのを見る度に、言葉に棘が生えてくる。
人でなし。鬼め、そこまでして地位を守りたいか。実は使えぬのだろう。隠すのは、何か後ろめたい事があるのだな。と、決め付けて責め立てる。もう聞きなれた言葉で、眉ひとつ動かすことはない。
だが、そういった言葉を投げかけられると、いつだって一人の男の顔と、一人の竜の顔が、頭に浮かぶ。
木を薙ぎ倒さないように注意をしながら、住処の洞窟へと向かう。背後から聞こえるニンゲンの声は、もはや遠く、意識の外にあった。




――話は、更に何十年も前に遡る......

 「ね、クロってば……」
若い男の、少しだけ低い声。ふと視線を向けると、黒髪に黒い瞳、白い肌の青年が立っていた。
彼の名は遠山 翔(とおやま しょう)。日本という国からやってきて、俺が住処にしている洞窟の奥に作ってやった寝床で同居しているニンゲンだ。
クロ、というのは俺の名前。全身真っ黒で、夜になると闇に溶け込むような姿になることから、クロという愛称を付け、それを名前として呼ぶように成ったのだ。最初は何事かと思ったが、彼の説明を聞いてから少しは納得し、まあいいだろうという半ばなし崩し的に、その愛称を受け入れたのだ。今では、そう呼ばれるのがとても嬉しいのだが。
「なんだ、ショウ。吹雪はまだ止まないだろう」
「お願いが、あるんだ」
空元気から作った笑顔は、とても弱々しく映る。焚き火の隣に座る彼は、いつもは見せることのない真剣な表情で、俺に向かう。


 そんな彼との出会いは、空に大きな入道雲が浮かび、太陽が長く、強く照らす日の河原だった。夏になれば動物たちも活発になるせいか、ちらほら姿を見かける。俺はその動物を捕食し、生きている。その狩りの帰りに、水を飲もうと水辺へと向かい、着いた時に彼を見つけたのだ。
腹が膨れていなければ、迷わず食べていた彼。ニンゲンという種族はこの世界のどこにでも居るが、彼のような黒い髪に白い肌をした民族は見たことがなく、物珍しさもあってか、気絶しているのをいいことに住処へと連れ帰った。
起きたら何を聞くか。怯えて話しにならないか、という心配もあったが、住処に寝床を用意してやっている最中、彼の呻き声が聞こえたものだから、思わずそちらを向いてしまう。
寝ぼけ眼ではあるが、髪と同じで黒い色をした瞳。身にまとうのは毛皮ではなく、植物の繊維であろう質の高い衣服。
更には見たこともない鉱石で作られたような箱、読めない文字が書かれた本など、彼には秘密が沢山詰まっているような気がしたのだ。
「ここ、は……それに、ドラゴン?」
言葉は聞き取れる。先ずはほっと胸をなでおろした。言語が通じなければ意思の疎通は不可能に等しいからだ。もし言葉がお互いに通じなかったら、ご多分に漏れず彼の事を食い殺していただろう。
彼は驚愕と、歓喜と、畏怖がごちゃまぜになったような表情をしている。見ていて面白いが、此方が動くのを待っているようにも思えたので、俺は口を開いた。
「よく、寝ていたな」
気の利いた言葉が思い浮かばず、ただそれだけを言い終えると、俺は口を閉じる。下手な説得や脅しをすれば警戒され、話にならなくなるのは、教えてもらったからだ。
「あ、ああ。うん。喋れるんだね」
聞き取れたとしても、俺の言葉が通じるとは限らない。だが、彼の返答がその不安を拭い去ってくれて、俺に少しの余裕ができた。
「無論だ。それで、喉は乾いていないか?」
「大丈夫。まだ、ぺっとぼとるに水が残ってたはずだし」
簡単な受け答え。内心では多分、驚きで満ち溢れているだろうが、そのニンゲンが努めて冷静な振りをしているのは、誰にでも分かるだろう。目が泳いで、手が落ち着かなくて、足が震えているからだ。
「怖かったら、怖いと言ってくれ」
ただ、簡潔に。長くならないように。俺はそう言った後、彼の反応をじっと待つ。踏み込んだ質問をするのは、しっかりとした信頼を結んでからだと決めていた。
だからこそ、彼のアクションを待っていた。そんな彼の返事は、思いもよらぬ回答となって帰ってきたので、逆に俺が驚く羽目になった。
「ドラゴン、だよね。かっこよくて、ステキだと思うよ」

 ……それから、俺達の同棲は始まった。数日に一回の狩りで手に入れた肉を食べる以外に、彼は森で木の実を探し、採集してきて、自分で食べる。
数日は何も食べずとも平気なようだが、ほぼ毎日のように川に行って水を飲みに行くのには驚いた。
そんな彼が数日を共にした後、はにかみながら発した言葉は、「俺を誘拐して、食べるのかと思ってたよ」という一言。
勿論そんな気がないわけではないが、それよりもニンゲンの生態をもっと知りたいという事もあってか、彼が出掛ける時には同行し、様々な話を聞いた。彼も快く質問に答えてくれて、逆に質問してくる事だってあった。
例えば、
「名前は?」
「……好きに呼べ」
「性別は?」
「雄だ」
「出身は?」
「ここから遠い、とある山の中腹だ」
「好きな食べ物は?」
「なんでもいい」
「この辺に詳しいの?」
「もう住んで何十年となる」
等々、そっけない俺の返答にめげることなく、興味深そうにふんふんと頷き、次の質問に移るといった具合だ。
 長い雨の日は住処から出ることもなく、顔を合わせて話したり、彼がお腹にもたれかかってきたり、背を向け合いながら、ぽつりぽつりと語り合ったり。
そんな時、彼が俺の愛称を提案してきた。……黒いから、クロだそうだ。思わず笑ってしまったが、なるほどそういうのもあるのか、と感心もした。
お互いが知らない部分を知っていく。ニンゲンという種族だけではなく、ショウ個人のことについても。
もっと彼について知りたい。もっと彼に近付きたい。そんな気持ちで、雨の日を過ごす。
晴れた日はお互い、別行動をすることが多い。俺は狩りに出るし、彼は採集に向かう。顔を合わせるのは、朝起きた時と、帰ってきた後くらいで、クタクタになって食事をしたらそのままお休み、なんてことが多い。
だから雨の日が来る度に、俺は不思議な気持ちで彼と会話をする。ぽつりぽつりと、途切れるのも当たり前なその会話と呼べるかどうか分からない行為だが、不思議と気持ちは穏やかなままだ。

 その中で、こういう話が出た。
「丸呑みにされたい」
思わず冗談かと思ったが、彼の目は情欲に染まっていた。本気とも、嘘とも取れるようなその言葉は、ずっと俺の頭の中に残り続けた。
勿論俺だって性的欲求が貯まれば、そういった捌け口を探したりもする。だが彼の場合は、その場面を想像してみると、昂りが落ち着いてくるそうだ。
不思議なヤツも居たものだと思う。食われれば、後は消化されるだけという原理は理解していたが、普通は生き延びる為に捕食者から逃げるのが、普通の生物であるはず。
だが、それも彼の生い立ちや生活を聞くにつれ分かってくる。彼はどうやらこの世界ではない、別の世界から来た……というより、迷い込んだ事がわかる。
衣服も、持ち物もその当時のもので、中には規則正しい線が引かれた紙のようなものと、様々な筆が入っている箱。更に見たことのない通貨と、薄いが硬い紙……カードと言うらしいそれは、俺の興味を惹きつけた。
日本という国で使われている通貨だということだが、そんな国の名は聞いたこともない。だがこの世界のどの地域よりも豊かで、揃わないモノは殆ど無いという夢のような国というのは、彼の話を聞いて分かってきた。
貧しさが目立つ地域では、その日をどうやって生き抜くかが優先順位の一番上にやってくる。だからこそ他のことに頭が回らず、農作業や仕事をこなし、その日が終われば今日もまた生き延びた、明日はどうしようという一種のループに陥っている。
逆に豊かな地域では、食べ物もあれば寝る場所にも困らない。衣服もしっかりとしたものを着て、衣食住の全てを満たす事が出来れば、他のことが優先順位の上位に上がってくるのは間違いないことだ。
だからこそ、絶対的強者の糧として、自己の意志を尊重しつつも一体化したいという願望が出てきたのだろう。と竜は推測した。

 人間とは不思議なものだと思う。彼の仲間も空想している、蘇生術とやらが存在すると心の何処かで信じ、いつか使えるようになりたいと言い出すのだ。人間が想像できる事に不可能はない、という名言があるらしいが、なんとも信じがたい。
この空を飛ぶには、翼があればいい。翼のないものは地を歩き、翼あるものは空を往くというこの世界の常識を覆すのは、飛行機という巨大な機械だというから驚きだ。更に、この星から出る事も不可能ではないといった。スペースシャトル、宇宙ステーションという聞きなれない単語が出てきた時は、思わず鼻で笑ったものだ。
だが、それも説明を受ければ理解が深まる。重力・引力という法則の存在。太陽が昇り、沈むのはこの大地が回っているからだ、という話。空の星は、それぞれ何十万年、何百万年という先で光を発していて、その光が届いているから見えるんだよ、という途方もない話まで。

 また、時間の概念も教えてもらった。どうやらこの世界は、彼が居た世界と同じような時間で動いているらしく、昼夜の時間調節も必要ない、と笑っていた。
森に元々あった大きく開けた場所に、日時計というものを作った。太陽の傾きで時間が分かる、というものらしい。
彼も原理はあまり理解しておらず、12個の印を作って、棒を立てただけの、簡素なものだ。
俺が穴を掘り、彼が見つけてきた長い棒をしっかりと立てて埋める作業。
初めての共同作業に、俺達は泥だらけになりつつも、笑い合って楽しんだ。
ずっと一人だった俺に、娯楽を提供してくれる彼がとても好きだった。衣食住を共にし、狩りをして帰れば苦労を労ってくれる。
また、天気の良い日にはちょっと遠出をしたりもした。そこで温泉を見つけ、二人で入ったりもした。
裸の付き合い、というらしいが彼が衣服を全て脱ぐのはその時だけで。タオルなんてものがないから、焚き火にあたって乾かすのが普通であった。
彼の話は尽きることを知らないようで、毎日何かにつけては自分の知識を楽しげに語ってくれる。
心を開いてくれたのが俺にとって嬉しく、また退屈だった日々に新鮮な刺激を受け、変わっていくのがとても楽しかった。


<2012/05/12 13:28 S>消しゴム
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