winter squall



13.


 小幡幸紀は全治2週間の怪我を負った。
 光達は聡一郎の失踪で学校へ聞き込みにきていた  彼らいわく「やる気のない」  警察官を無理矢理同行させ、彼の家へ赴いたらしい。
 当然、玄関のドアに鍵がかかっていた為、警官が礼状がないから踏み込めないだの言っている間に居間の窓ガラスを割って侵入し、小幡幸紀に怪我を負わせた現場をしっかり警官に目撃されたことになるのだが、聡一郎が監禁されていた場所を特定したのは光達であるし、彼が聡一郎にナイフを向けていて、それから守る為の暴行であったから、そして幸いにして怪我も軽傷で済んだ為に、取り調べも簡単に済まされた。
 聡一郎も事情聴取を受けた。彼が罪に問われるようなことは認めたくなかったが、光の暴行を正当防衛にしなければならなかったから、警官や弁護士の言う通りに頷くしかなかった。
 2人が警察署を開放されたのは、光がかかさず見ているドラマが始まった頃だった。
 待っていてくれた陽海や暁と一緒にタクシーで帰宅すると、ちょうど家の前で降りたところで、別のタクシーが停車した。
 窓を全開にした後部座席から、「聡ちゃん!」と甲高い声が飛ぶ。驚いて振り返る4人の前で、タクシーのドアを蹴破るようにして降りた女性が、聡一郎めがけて突進してきた。
「か……」
「母さん」と言おうとした顔を、むぎゅっと肩に押しつけられる。
「もうっ、心配したのよ聡ちゃん。聡ちゃんはかわいいくせに、のんびりぼんやりしてるから、知らない人には気をつけなさいっていつも言ってるでしょう? 大丈夫だったの? 怪我はない? 一体誰にさらわれたの?」
 返事をしようにも、押しつけられていて息も出来ない。眼鏡のフレームも痛い。バイオリニストである彼女の腕力は並以上なのだ。母親の腕の中でじたばたもがいていると、懐かしい声が助け船を出した。
「聡子。それじゃあ、無事な聡一郎の顔が見られないだろう。聡一郎も苦しそうだよ」
「あら」
 あっさりと解放されて、聡一郎は肩で息をした。母親の隣で、自分に似た温厚な眼鏡の顔がほっとした笑みを浮かべている。
 2人の顔をそろって見たのはいつぶりだろう。
「父さん、母さん、心配かけてごめん」
 父親が優しく眸をなごめた。
「いいんだよ。お前が無事だったんだから」
 そこへもう1台、黒塗りの車が滑らかに停車した。後部座席から優雅に現れた長身の人物を見て、鳴滝兄弟が思わず声をそろえた。
「親父!?」
「父さん!?」
「息子達が弁護士と何をこそこそやっているのかと思ってきてみれば……」
 彼らの父、鳴滝一臣は、眼鏡のずれた聡一郎と、抱きしめたままの母親を見、それから視線を聡一郎の父親に移して、ふっと微笑んだ。
「どうやら、感動の再会には間に合ったようだな」




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